1. 「受動喫煙症」という病名は国際的には認められていない、横浜副流煙裁判

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2021年02月12日 (金曜日)

「受動喫煙症」という病名は国際的には認められていない、横浜副流煙裁判

横浜副流煙裁判の「キーワード」は、「受動喫煙症」という病気である。

この裁判は、隣人が吸う煙草の副流煙が原因で「受動喫煙症」に罹患させられたとしてAさん一家が、隣人の藤井将登さんに対して4500万円の金銭請求を突きつけたものである。しかし、昨年の10月にAさん一家の敗訴が確定した。勝訴した藤井さんらは、現在、損害賠償を求める「反訴」の準備をしている。

■詳細は、ここから

この事件を考える重要なキーワードのひとつに「受動喫煙症」がある。実は、「受動喫煙症」という病名は、国際的には認められていない。病気の分類は、「ICD10」と呼ばれる分類コードにひも付けするのが規則になっているのだが、「受動喫煙症」という病名は「ICD10」コードに存在しない。「化学物質過敏症」という病名は認められているが、「受動喫煙症」は認められていない。

「受動喫煙症」という病名は、日本禁煙学会(作田学理事長)が独自に命名したものにほかならない。それに連動して作田氏らは、「受動喫煙症」の診断基準を独自に作成している。その診断基準に従って作田氏は、裁判の原告であるAさん1家を診察(ただし、3人のうち1人は直接診察していない。医師法20条違反)して、診断書に「受動禁煙症」などと病名を書き込んだのである。

こうして作成された診断書を根拠にして、Aさん一家は、藤井さんに対して4500万円を請求する裁判を起こした。提訴前には、Aさんの弁護士が当時の神奈川県警本部長・斉藤実氏に働きかけて刑事を動かしている。さらにその前には、藤井さんに内容証明を繰り返し送付した。

つまり非公式な病名を記したうでに、医師法20条にも違反した診断書を根拠として、これら「一連一体」の嫌がらせ行為に及んだのである。

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日本禁煙学会は、だれでも会員になれる。「学会」という名前を付しているが、純粋な「学会」ではなく、市民運動団体に近い。入会条件は、次のようになっている。

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入会に際しましては、学会定款などをよくお読みください。
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「受動喫煙症」という病名の何が問題なのか?この点を考えるには、まず化学物質過敏症とは何かを理解する必要がある。次の記述が参考になりそうだ。

化学物質過敏症は、何かの化学物質に大量に曝露されたり、または、微量だけれども繰り返し曝露された後に、発症するとされています。化学物質への感受性は個人差が大きいため、同じ環境にいても発症する人としない人がいます。

「今日、推計で5万種以上の化学物質が流通し、また、わが国において工業用途として届け出られるものだけでも毎年300物質程度の新たな化学物質が市場に投入されています。化学物質の開発・普及は20世紀に入って急速に進んだものであることから、人類や生態系にとって、それらの化学物質に長期間暴露されるという状況は、歴史上、初めて生じているものです」(2003年版『環境白書』より)。

その一方で、「今日、市場に出回っている化学物質のなかで、量として75%に当たるものについて、基本的な毒性テストの結果すら公開されていない」(米国NGOの環境防衛基金『ToxicIgnorance(毒性の無知)』1997)といった現状があります。

「便利な生活」のために、化学物質を開発、利用していくことが優先され、安全性の検証は後回しにされがちです。こうした背景のもと、「環境ホルモン」「化学物質過敏症」など、従来予想できなかった新たな問題が表面化してきたのです■出典

原因となるものは、化学物質を使った食品や日用品、排気ガス、ダニ、煙草の煙などがある。近年、特に欧米で問題視されているのは、イソシアネートと呼ばれる化学物質である。第2のアスベストとも言われ、欧米では厳しく規制されている。日本ではほとんど規制されていない。

【参考記事】 芳香剤や建材等の化学物質過敏症、急増で社会問題化か…日常生活に支障で退職の例も

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煙草の煙が原因で化学物質過敏症に罹患することは、紛れない事実である。しかし、化学物質過敏症の原因を煙草の煙だけに特定することは、化学物質であふれかえっている現在の状況の下では、冤罪を生む温床になりかねない。横浜副流煙事件がその典型なのである。

たまたまAさん一家が住むマンションの下階に、喫煙者の藤井さんが住んでいたために、「犯人」にでっち上げられ、高額訴訟を起こされたのである。

しかし、裁判の中でAさん一家が、大量の化学物質に被曝する生活を送っていたことが明らかになり、裁判所は、「受動喫煙症」なる病気の原因は特定できないという判断を下したのである。

「受動喫煙症」という実際には認められていない病名が市民権を得てまかり通っていたことが、深刻な冤罪事件を生んだのである。