化学物質過敏症は不治の病気ではない。舩越典子医師インタビュー
化学物質過敏症は不治の病気ではない。舩越典子医師インタビュ 新世代の公害として浮上している化学物質過敏症について、典子エンジェルクリニックの舩越典子医師に伺った。化学物質過敏症は一旦、罹患すると治癒しないという偏見が昔からあるが、最新の臨床医療では治癒できる病気になっている。それが常識として、定着しはじめている。(インタビュアー:黒薮哲哉)
―――化学物質過敏症の原因について教えてください。
現在のところ化学物質過敏症の原因はいくつかあると考えられます。まず、中枢性感作と呼ばれるものです。これは客観的に神経などに傷がある場合です。たとえば脳神経系の腫瘍、頚椎症、頸椎ヘルニア、腰椎症、腰椎ヘルニア、神経痛、脳脊髄液減少症などで、神経がダメージを受けている場合です。
また、病気ではなくても、交通事故や強いショックにより神経が損傷された場合です。神経が損傷すると、神経そのものが非常に敏感になり、化学物質過敏症になることがあります。従って、神経を薬剤などで修復すれば、化学物質過敏症は治癒します。ちなみに慢性上咽頭炎も、原因のひとつです。
また、栄養の面からいえば、ビタミンD、亜鉛が不足するとこの病気の原因になります。さらに類似した症状として、発達障害や統合失調症の可能性もあります。
―――治療方法を教えてください。
中枢性感作に対しては、リリカ・タリージェを処方します。特に頭痛、頭の圧迫感、集中力の低下、頭が回らない、動いているものが眼で追いにくい、眼のピントが合わないといった症状に有効です。
栄養不足が原因の場合は、内服で補給します。特にビタミンDは効果が大きいです。神経系の症状に有効です。
慢性上咽頭炎に対しては、鼻うがいや、EAT(上咽頭擦過治療で従来Bスポット治療と呼ばれていたもの)が有効です。ニオイに対して気にならなくなった、イライラが減ったという人が多いです。
さらに精神科疾患の場合は、精神科専門医による治療が必要です。精神疾患であるのに、化学物質過敏症と誤診されてしまうと、この患者さんは、延々と不快な症状を引きずることになります。
―――治療する上で、難しい点は?
かつて化学物質過敏症は治癒しないという考え方が一般的でした。
患者さんは、治らない難病だと信じ切っている。治療法がないと思い込んでいるために、徹底的に化学物質を排除しなければならないと思っている。
そのため、患者さんの中には、治療についての話に積極的に耳を傾けない人がいます。そんなことより、化学物質を排除する情報が欲しいと言われます。ひどい場合は、わたしの話を全く聞かず、他のクリニックではこうだったと、逆にわたしの方が説教されます。
薬剤に対する拒否感が強く、どんな病気になっても、薬は飲んではいけないものだと信じ切っています。
そのため、いろいろな医療機関でトラブルを起こします。あれもダメこれもダメと言う。
―――精神疾患との区別は?
これがなかなか難しい。わたしは、精神疾患の疑いがある患者さんには、まず最初に精神科の受診を勧めます。しかし、そのアドバイスがが大変屈辱的なことだと受け止められてしまいます。
少しでも精神科というワードを言うと、怒り出す。他の医師は精神科疾患ではないとはっきり認めてくれたと叱られることもあります。
わたしの方から、「あなたは元気になりたいのですか?治りたくないのですか?」と聞くと、「もちろん!元気になりたいし、治るものなら治りたいですよ」と言われます。
―――障害年金が目的で、クリニックを受診する患者も増えていると聞きますが。
もし、障害年金の診断書だけが欲しいというのであれば、それは医療とは呼べません。1例ではありますが、当院では実施した神経生理学的検査が全く正常値であった診断しているの、他のクリニックが化学物質過敏症の診断書を発行していたケースがありました。
医師の側にも、積極的に化学物質過敏症の診断書を発行して、障害年金の受給を支援している人がいますが、長い目でみると、それにより患者さんは治療の機会を奪われます。本当の親切とは言えないでしょう。