前立腺癌患者会が大学関係者80名に事件に関する資料を送付、小線源治療をめぐる滋賀医科大事件
滋賀医科大医学部付属病院の岡本圭生医師による小線源治療が終了して11月末で1年になる。民事裁判は終了して事件は一応の決着をみたが、滋賀県大津署が2件の刑事告訴(容疑者は1件は河内明宏教授、他の1件は被疑者不詳、)を検察に書類送検したこともあって、患者会は攻勢を強めている。
患者会は9月に入って、事件に関する資料を整理してPDFにまとめ、それを滋賀医科大の幹部、診療科長、部長など約80名に送付した。資料は中日新聞・作山哲平記者のルポルタージュ、判決ダイジェスト、MEDIA KOKUSYOの記事などから構成されている。
【事件の経緯】
事件の発端は、2015年1月にさかのぼる。滋賀医科大は、医薬品メーカーの支援を得て、前立腺癌に対する小線源治療の寄付講座を開設した。講座のイニシアティブを執るのは、この分野で卓越した成績を残している岡本圭生医師(岡本メソッドの開発者)だった。泌尿器科を除籍にしたうえで、寄付講座の特任教授に就任したのである。
【参考記事】前立腺がん、手術後の非再発率99%の小線源治療、画期的な「岡本メソッド」確立
ところが岡本医師を快く思わない泌尿器科の河内医師を長とするグループが、岡本医師の寄付講座とは別の窓口を設けて、小線源治療を実施することを計画。岡本医師を頼ってきた前立腺癌患者の一部を「横取り」して、手術前の医療措置(ホルモン療法など)を開始したのである。しかし、河内医師らに小線源治療の経験はなかった。それにもかかわらず強引に手術を断行しよとして、岡本医師から厳しく諫められた。
幸いに河内医師らの計画は、学長命令で中止になったが、今度は岡本医師を大学から追放する工作が始まった。大学当局もなぜか河内医師らに加担した。実際、2019年の6月末日をもって岡本医師による小線源治療を終了すると告知したのである。岡本医師については、解雇が予定された。
この事件では次の2件の(広義の)裁判が起きた。
【1】治療妨害を禁止する仮処分申し立て
岡本医師による治療が中止になるために、岡本メソッドが受けられなくなった「待機患者」7名が、患者会を代表して起こした治療妨害を禁止する仮処分申立てである。岡本医師も申し立て人に加わった。
待機患者の申し立ては認められ、治療期間は5カ月延長された。これによって約60名の患者が岡本メソッドによる治療を受けることができた。
【2】待機患者が「モルモット」にされたことに対する損害賠償裁判(モルモット裁判)
河内医師らが囲い込んだ患者20数名のうち、4名が治療の際に義務付けられているインフォームドコンセントに際して、 治療の選択肢として岡本メソッドがあることを知らされなかったことなどが、説明義務違反に該当するとして河内医師ら2名を提訴した。
この裁判は、患者側の敗訴だった。
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モルモット裁判が起こされた後、河内医師らは、おそらくは裁判対策を目的として、岡本医師の患者らの診療録を、当事者の許可を得ることなく閲覧したりコピーするなどして、外部へ漏らす事件が起きた。また、前立腺患者に対して泌尿科が実施したアンケートの結果を改ざんした疑惑が浮上した。さらに、2015年の講座開設後に河内医師が講座の人事に介入するために、岡本医師の三文判を勝手に使ってある公文書を偽造していた疑惑が明らかになった。部下を講座へ送り込むための承諾を得るための文書である。
こうした状況の下で、民事裁判とは別に2件の刑事告訴が行われたのである。
既に述べたように、この2件は現在、検察に書類送検された状態になっている。
滋賀医科大事件は、第2ステージに入ったのである。患者会は高齢化が進んでいるが、活動はこれまで通り持続している。
※ 事件の詳細は、拙著『名医の追放』に詳しい。