1. ポーランドの「司法クーデター」の試みが戦後の欧州秩序を左右する

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2026年11月01日 (日曜日)

ポーランドの「司法クーデター」の試みが戦後の欧州秩序を左右する

(Poland’s Attempted Judicial Coup Will Shape The Post-War European Order)

 

執筆者:アンドリュー・コリブコ

ドイツの支援を受けるポーランドのリベラル派の首相は、米国が支援する保守派の大統領の動きを阻止しようとしている。来年秋の選挙で保守派が政権に復帰すれば、大統領はEU(欧州連合)の権限を弱め、加盟国がそれぞれの判断で政策を決められる仕組みへの改革を主導しようとするだろう。これが実現すれば、EUがドイツ主導の連邦国家になるのを防ぎ、ポーランドが地域の有力国として台頭する道が開かれることになる。

【黒薮注】ポーランドでは、首相の方が大統領よりも基本的に強い政治的権限を持っている。 しかし、大統領にも法律の成立を阻止するなどの強い権限がある。首相と大統領が対立すると、政治が行き詰まることがある。

ポーランドのリベラル派、ドナルド・トゥスク首相は金曜日、司法機関を事実上乗っ取る「司法クーデター」を試みた。これに対して、保守派のカロル・ナブロツキ大統領は当時、アフリカに向かう途中だったが、事態を受けて飛行機を引き返させ、帰国して自ら抵抗の先頭に立った。

複雑な法律上の問題を簡単に説明すると、ポーランドでは10年以上にわたり、憲法裁判所をめぐってリベラル派と保守派が対立してきた。リベラル派とその支持者であるEU側は、保守派が憲法裁判所を自分たちに都合のよい裁判官で固めたと非難している。憲法裁判所は、EU法よりもポーランドの国内法を優先する傾向がある。

アンナ・コルビンピオトロフスカは、リベラル派が多数を占める下院(セイム)によって憲法裁判所の裁判官に選ばれた。しかし、ナブロツキ大統領は選出手続きに問題があるとして、彼女の宣誓を受け付けなかった。このため、彼女が正式な裁判官であるかどうかについては、法律上の争いが残っている。

そのコルビンピオトロフスカが、憲法裁判所の長官と副長官の職務停止を命じた。そして、自らその職務を引き継ぎ、警察を裁判所に派遣するよう命じた。一方、トゥスク政権の法相は、長官と副長官の免責特権を剥奪し、刑事責任を追及するよう求めた。その後、抗議する人々がすぐに集まり始めた。

ナブロツキ大統領は深夜、憲法裁判所の建物に入った。その際、周囲から体を押される場面もあった。大統領は、コルビンピオトロフスカを裁判官として認めないという立場を改めて表明した。

その後、大統領はXに声明を投稿し、「憲法秩序の侵害」と「憲法に基づく国家機関の強制的な乗っ取り」を非難した。

また、警察に裁判所から撤退するよう求めるとともに、下院との緊急協議を開くと発表した。さらに、憲法裁判所を支持したすべての人々に感謝の意を示した。

今回の問題の背景には、2027年秋に予定されている次の下院選挙がある。今回の危機を解決するため、選挙が前倒しで実施される可能性もある。今回の政治危機は、共産主義体制の崩壊以降、ポーランドで起きたものとしては、これまでで最も深刻なものだ。

信頼できる世論調査によれば、保守派が政権に復帰する可能性がある。保守派の主流勢力と、そこから分かれた新たな勢力、さらに自由主義と国家主義を掲げる二つの政党が連立を組めば、政権を獲得できるという。

そうなれば、ナブロツキ大統領は保守派寄りの憲法裁判所の支持を得て、EU改革を進めるための力を手にすることになる。

ナブロツキ大統領は昨年、自らが目指すEUの将来像について詳しく説明している。その中心となるのは、EUの加盟国がそれぞれの国の主権を維持し、独自に政策を決められるよう、EUの仕組みを変えようという考え方だ。これによって、EUがドイツ主導の連邦国家へと向かう流れを止めようとしている。

保守派の実力者で、陰の指導者ともいえるヤロスワフ・カチンスキも、最近この問題について詳しく語った。

【黒薮注】ヤロスワフ・カチンスキ(Jarosław Kaczyński、1949年生まれ)は、ポーランドの保守政党「法と正義(PiS)」の党首で、元首相。2006~2007年に首相を務めた。

しかし、トゥスク首相は、カチンスキがポーランドのEU離脱、いわゆる「ポレグジット(Polexit)」を実現しようとしていると主張し、不安をあおった。これは、票を獲得するための安易な政治戦術だった。それ以前にトゥスク首相が行った、ロシアへの恐怖をあおる戦術が失敗したためだ。

こうした背景を踏まえると、トゥスク首相の今回の行動は、リベラル派が権力を確保するための動きと理解できる。将来、保守派が率いるポーランドがEU改革を進めるのを阻止することが目的だ。

さらに、今回の行動はドイツ側の指示によるものだった可能性さえある。トゥスク首相は政治家としての経歴を通じてドイツと非常に近い関係にあり、カチンスキはかつて、トゥスク首相をドイツの「工作員」だと非難したこともある。

ハンガリーのオルバン首相が失脚した後、ナブロツキ大統領はヨーロッパの保守派を代表する存在になった。

ナブロツキ大統領は、トランプ米大統領の暗黙の支持を得ながら、戦後の新たなヨーロッパ秩序の中で、ポーランドが「インテルマリウム(海洋間地域構想)」の中心となることを思い描いている。これは、中東欧諸国の保守派が協力し、EUの連邦国家化に対抗する動きをポーランドが主導するという構想だ。

トゥスク首相による今回の「司法クーデター」が成功すれば、ポーランドはドイツに従属する国になるだろう。反対に、この試みが失敗すれば、ポーランドが地域の有力国として台頭する道が開かれることになる。

トランプ大統領とナブロツキ大統領は友人関係にあり、政治的な考え方も似ている。また、両者ともリベラル派が率いるドイツによってEUが支配されることを望んでいない。

そのため、トランプ大統領は米国の影響力を使い、共産主義体制の崩壊以来、ポーランドで最も深刻となっている今回の政治危機を、ナブロツキ大統領に有利な形で決着させようとするかもしれない。しかし、ドイツが主導するEUがこれに対抗すれば、米国とEUの間に新たな危機が生じる可能性がある。

 

筆者紹介:アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:Poland’s Attempted Judicial Coup Will Shape The Post-War European Order