1. 戦争開始から5年近く、プーチンはなぜ今、ウクライナを屈服させようとしているのか

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2026年10月06日 (火曜日)

戦争開始から5年近く、プーチンはなぜ今、ウクライナを屈服させようとしているのか

(Why Might Putin Finally Decide To Bring Ukraine To Its Knees After Nearly Five Years?)ウクライナ侵攻から5年近くになる。ロシアがこの冬、ウクライナの電力や暖房、水道などのインフラを徹底的に破壊する計画だとの見方が浮上している。プーチン大統領がこれまで避けてきた強硬策に踏み切るとすれば、その背景には何があるのか。筆者は、戦争終結後の制裁解除と、米国との大規模な資源取引への期待が、ロシアに早期決着を促す一因になっている可能性を指摘する。

 

執筆者:アンドリュー・コリブコ

プーチンがなぜこれほど長い間、強硬策を控えてきたのかはともかく、現在の彼には、少なくとも一つの動機があると考えられる。それは、紛争が終わった後、米国との間で資源をめぐる大型取引を実現できるかもしれないという魅力的な可能性だ。その具体的な内容については、プーチンとトランプ双方の特使らが、すでに1年以上にわたって交渉を続けている。

『ニューヨーク・タイムズ』は、傍受されたとされるロシア側の通信を根拠に、ロシアがこの冬、ウクライナの電力、暖房、水道の各システムを徹底的に破壊する計画だと報じた。この主張を確認することはできない。しかし、ゼレンスキーによる攻撃作戦への対応として、プーチンが夏以降、穏やかな形ながら「事態を収束させるためにエスカレートする」という行動を取っていることとは一致する。その具体的な形が、ウクライナのインフラに対する攻撃の強化だ。もしこの報道が事実なら、ロシアの狙いはウクライナ軍の補給網を断つことだけではなく、ウクライナそのものを屈服させることにある。

プーチンはこれまで、そのようなやり方を避けてきた。おそらくその理由は、ロシア人とウクライナ人は同じ系統につながる近しい民族だと考えているためだ。一方、これまでロシアには、それを実行するだけのドローンやミサイルの能力がなかったのではないかという見方もある。

その理由としては、最近まで生産量そのものが少なかった可能性や、NATOとの直接戦争が起きる場合に備えて戦力を温存していた可能性が考えられる。いずれにしても現在のプーチンは、ロシア側の条件で戦争をできるだけ早く終わらせるためなら、それに伴う人道上の犠牲を受け入れる覚悟を固めたように見える。少なくとも、ロシア側の条件を可能な限り多く実現しようとしているようだ。

プーチンを動かしているのは、夏に米国の支援を受けて始まった、ウクライナによるロシアに対する「消耗戦」だけではないかもしれない。興味深いことに、フランスもこれを支援している。

報道によると、スコット・ベッセント米財務長官は夏、ロシア側の担当者に対し、紛争が続いている限り、いかなるビジネス上の取引も不可能だと伝えた。その後、スティーブ・ウィトコフとジャレッド・クシュナーがプーチンと会談し、ほかの問題とともに、こうした取引について話し合った。その後、キリル・ドミトリエフが米国を訪れ、この問題についてさらに協議した。

【黒薮注】スティーブ・ウィトコフ:米国の不動産投資家で、トランプ大統領の長年の友人。第2次トランプ政権で特使を務め、ロシアや中東との外交交渉を担当している。

【黒薮注】ジャレッド・クシュナー:トランプ大統領の娘婿で、実業家。第1次トランプ政権では大統領上級顧問を務め、中東外交などを担当した。

【黒薮注】キリル・ドミトリエフ:ロシア政府系ファンド「ロシア直接投資基金(RDIF)」の最高経営責任者(CEO)。プーチン政権に近く、米露間の経済・外交交渉でも重要な役割を担っている。

背景を説明すると、プーチンは2025年2月下旬、米国企業がロシアの資源産業に投資すれば「かなりの利益を上げるだろう」と誇示していた。また、トランプのベラルーシ担当特使ジョン・コールは最近、ベラルーシとの間で行われているのと同様の取引をプーチンに提案する許可を得たことを明らかにした。それは、「政治犯」の釈放と引き換えに制裁を緩和するというものだ。プーチンの盟友であるアレクサンドル・ルカシェンコは、すでにこうした取引をいくつか受け入れており、現在はカリ肥料をめぐる大規模な取引についてトランプと交渉している。

さらに先週、ルカシェンコは、ベラルーシ、ロシア、米国の3カ国による肥料工場の共同事業も提案した。ただし、これを実現するには、米国がガスプロムに対する制裁を解除する必要がある。

【黒薮注】ガスプロム(Gazprom)は、ロシア最大級のエネルギー企業で、主に天然ガスの生産・輸送・販売を手がける国営系企業。ロシア政府が株式の過半数を保有している。

プーチンをはじめとするロシア政府関係者は、西側諸国に対してロシアへの制裁を解除するよう繰り返し求めてきた。プーチンがベラルーシと同じような「見返りを伴う取引」に同意すれば、米国が一部の制裁を解除する可能性はある。しかし、大規模な制裁解除を実現するには、まずウクライナ紛争を終わらせる必要がある。その結果として、資源を中心とする米露の戦略的パートナーシップが生まれれば、世界の経済構造を大きく変える可能性がある。

ロシア経済は、西側諸国による前例のない規模の制裁攻勢をこれまで乗り切ってきた。それを可能にした大きな要因は、豊富な天然資源と独自の国内決済システムの組み合わせだ。しかし、ロシア経済発展省は、今年のGDP成長率をわずか0.6%と予測している。先月行われた下院選挙では、与党「統一ロシア」が圧勝した。ウクライナ紛争が大規模な戦闘段階に入って以来、初めての下院選挙だった。この結果によってプーチンは、戦争に勝利するために必要なことを実行し、その後、国民にさらなる豊かさをもたらすための政治的な信任を得たと言える。

したがって、これは十分にあり得る話だ。西側諸国による制裁の解除を要求してきたロシアの従来の政策とも一致している。つまりプーチンには、ロシア側の条件をできるだけ多く実現する形で紛争を早期に終わらせ、その後、米国との間で資源をめぐる大型取引を成立させたいという動機が、少なくとも部分的にはあるのかもしれない。

そうした取引が実現すれば、世界の経済構造を大きく変え、ロシア国民にさらなる豊かさをもたらす可能性がある。この点を踏まえることで、プーチンがウクライナを屈服させる計画を立てているという『ニューヨーク・タイムズ』の報道が、どのような背景の中に位置づけられるのかが見えてくる。

 

筆者紹介:アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:
https://korybko.substack.com/p/why-might-putin-finally-decide-to?utm_campaign=post&utm_medium=web