2026年10月20日 (火曜日)
エネルギー外交の工夫で、米国はEUにロシアの凍結資産を解除させることができる

(Creative Energy Diplomacy Can Lead To The US Getting The EU To Unfreeze Russia’s Assets)
執筆者:アンドリュー・コリブコ
ロシアが凍結資産の所有権を米国に移し、米国がその資産をロシアに返還する代わりに、ロシアのエネルギー産業の権益を取得するという取引が考えられる。米国が権益を持つことで、ウクライナによるロシアのエネルギー施設への攻撃を抑止する効果も期待できる。ただし、その実現には、トランプ米大統領がまず欧州に働きかけ、米国の所有となった凍結資産を引き渡させる必要がある。
ポーランドのラデク・シコルスキ外相は、ワルシャワ安全保障フォーラムで、欧州にあるロシアの凍結資産について「われわれが死んでも返還させない」と強い口調で述べた。
一方、英紙フィナンシャル・タイムズは、米国がウクライナ和平交渉の再開に向け、ロシアの凍結資産の一部を解除する案を検討していると報じた。同紙によると、トランプ大統領の特使を務めるスティーブ・ウィトコフ氏とジャレッド・クシュナー氏は、その前週、凍結資産を米国の監督下に置く新たな特別目的の金融機関に移す案を提示したという。
欧州諸国はこうした動きに反対しているが、エネルギー分野での外交交渉を工夫すれば、実現する可能性はある。2025年4月の記事「ガスパイプラインとロシアの凍結資産を利用して、米国がEUに大きな影響力を行使する方法」でも説明したように、ロシアが欧州で凍結されている資産の全部、または一部の法的な所有権を米国に移すという方法が考えられる。
その見返りとして、ロシアが米ボーイング社の航空機を大量に購入する案がある。これは当時、実際に協議されていたと報じられた。また、米国が取得した凍結資産をロシアに返還する代わりに、ロシアのパイプラインやエネルギー企業の権益を取得するという方法もある。
こうした3つの取引案は、いずれも第2次トランプ政権にとって魅力的だ。特に後者の2つは重要な意味を持つ。
米国とロシアは長年にわたり、資源分野を中心とする戦略的な協力関係について交渉を続けてきた。両国が進めているディーゼル燃料の取引も、その一例だ。この取引が持つ意味については、別の記事で説明した。
最近では、米国が天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の権益取得を目指しているとの報道もある。将来的には「ヤマル」や「ブラザーフッド」といったパイプラインにも対象が広がる可能性がある。さらに、ウクライナ紛争の終結に向けた妥協案の一環として、米国がロシアとの大規模なエネルギー取引を計画しているとの報道も出ている。
こうした構想の中心にあるのは、ロシアから欧州へのパイプラインを通じたエネルギー輸出を再開するという考えだ。欧州経済は低迷しており、その影響で欧州市場が米国の製品やサービスを購入する力も弱まっている。ロシア産エネルギーの供給が再開されれば、欧州経済の活性化につながり、米国にとっても利益になる。
ただし、米国がこうした計画を受け入れるには、パイプライン事業の権益を取得し、戦後のロシアとEUの関係に長期的な影響力を持つことが条件となる。そのための資金として、欧州で凍結されているロシアの資産を活用できる。
ロシアが凍結資産の全部、または一部の法的所有権を米国に移し、米国がその資産をロシアに返還する。その見返りとして、米国がロシアのエネルギー産業の権益を取得するという仕組みだ。
この方法には、もう一つの利点がある。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、トランプ大統領が停止を求めているにもかかわらず、ロシアのエネルギー施設への攻撃を続けている。しかし、米国がロシアの主要エネルギー企業の権益を保有するようになれば、ウクライナにとって攻撃を続けることは難しくなる。
攻撃対象が米国の投資先にもなるからだ。米国は自国の投資利益が損なわれることを理由に、ウクライナへの武器供与や情報提供を停止する正当性を主張できるようになる。いずれにしても、こうした状況になれば、ウクライナ紛争は比較的短期間で終結する可能性が高い。
ただし、この構想を実現するには、米国がEUに圧力をかけ、ロシアから米国に所有権が移された凍結資産を引き渡させる必要がある。そのためには、米政権の強い政治的意思が欠かせない。
例えば、米国がEUに対して経済に深刻な打撃を与える高関税を課すと警告したり、欧州に駐留する米軍の相当部分を撤退させると圧力をかけたりする方法が考えられる。こうした措置をちらつかせれば、EUは法的に米国の所有となった凍結資産の引き渡しに応じざるを得なくなるだろう。
その資金は、ロシアによる米国製品の大量購入や、米国によるロシアのエネルギー産業への投資に活用できる。
EUの経済状況は厳しく、欧州の指導層はロシアに対して病的ともいえるほど強い恐怖心を抱いている。そのため、高関税と米軍撤退という2つの圧力を組み合わせれば、EUをトランプ政権の要求に従わせることは十分可能だと考えられる。
最も極端なケースでは、ゼレンスキー大統領がトランプ大統領の要求に従わず、米国が権益を持つロシアのエネルギー施設への攻撃を続けた場合、米国がウクライナへの支援を全面的に停止することも考えられる。
それと同時に、米国がEUに厳しい高関税を課し、欧州駐留米軍を大規模に撤退させる可能性もある。そのような事態になれば、ウクライナもEUも現在の状況を維持することはできない。ウクライナは急速に崩壊し、EUも異なる形で深刻な危機に陥るだろう。
結局のところ、必要なのはトランプ大統領がこうした圧力を実際に行使する政治的な決断を下すことだけだ。それが実現すれば、ウクライナ紛争はほどなく終結するだろう。
筆者紹介:アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』
Source:https://korybko.substack.com/p/creative-energy-diplomacy-can-lead
