1. ニカラグア、選挙中止宣言の背景に何があるのか?

ラテンアメリカに関連する記事

2026年07月25日 (土曜日)

ニカラグア、選挙中止宣言の背景に何があるのか?

7月19日のニカラグアの革命記念日の演説で、同国のダニエル・オルテガ大統領が、今後、選挙は実施しないと発言したことが波紋を広げている。たとえばコスタリカ、グアテマラ、パナマといった近隣諸国は、抗議の意思を示すために自国の大使を召還した。オルテガ大統領夫妻による独裁が始まったというのが西側メディアの報道である。

これを受けて、ニカラグア国民議会のグスタボ・ポラス議長は、

「重要なのは、この国において、クーデター犯や祖国への裏切り者が参加する選挙、あるいは外国の資金や外国の勢力、外国の組織から資金提供を受けている政党や団体が参加する選挙は容認できないことを、憲法上の規定として明確にしておくことだ」(スペインの国際通信EFE)

と弁解した。

ラテンアメリカで刻々と議会制民主主義が成熟している状況の下で、ニカラグアの方針が歓迎すべからぬものであることは言うまでもない。が、同時に筆者は、深い同情を感じる。誰がニカラグアを孤立させているのかという問題である。

言論の自由に関するニカラグアの状況を、1979年の革命の時期まで遡って検証してみよう。

◆文盲を撲滅キャンペーン

革命後、ニカラグア政府は言論の自由を全面的に認める方針を取った。独裁政権の時代にニカラグアの人々が最も手にしたかった宝のひとつであるからだ。まず、文盲を撲滅するためのキャンペーンを展開した。仕事を終えた農民や労働者が、夜間に文字の指導を受ける光景が全国に広がった。指導しているのは、大学生たちである。教師の一人がこんなふうに話していた。

「これらの人々は知力が劣っているから、文字が読めないのではありませんよ。独裁政権が教育の機会を与えなかったからに文字を習得していないのに過ぎません。被害者ですよ。学習すれば、だれでも読み書きができるようになります」

◆ユージン・ハーゼンファス事件

同時、わたしは米国にいた。米国のメディアは、ニカラグアには言論の自由がないと報じていた。あるときダニエル・オルテガ大統領が、米国を訪問して、講演した。その時、1人の青年が、ニカラグアで言論弾圧が行なわれるとして、大統領に釈明を求めた。大統領は、「そんなことはしていない」と、強く否定して、青年をニカラグアへ招待することを約束した。何の制限もしないので、自分の眼で言論弾圧が行われているかどうかを確かめてほしいと告げた。

1986年10月5日、ニカラグアの反政府ゲリラの支配する地区へ、武器を空輸していた米軍機が、地対空ミサイルで撃墜された。米国人のユージン・ハーゼンファスが捕虜となった。ハーゼンファスは裁判にかけられ、禁錮30年の判決を受けえた。しかし、3か月後、クリスマスの前に、ニカラグア政府は恩赦でハーゼンファスを釈放して、帰国された。当時の政府は、米国との和解を希望していた。その一環としての釈放だったと思われる。

ラテンアメリカの左派政権の国は、ニカラグアだけではなく、キューバも、ベネズエラも米国との良好な関係を望んでいた。それを常に否定して、「反米」のレッテルを張ってきたのは、西側である。

◆香港の雨傘運動と同じパターン、背景にNEDの影

1990年、ニカラグアの大統領選で野党連合が勝利して、オルテガ大統領は下野した。革命政府が構築した議会制民主主義のルールを重視したのである。オルテガ大統領は下野したことで、米国はコントラへの支援を中止した。その結果、ニカラグア内戦は終わったのである。逆説的にみるとニカラグアの人々は、野党連合の大統領に投票することで、平和を獲得したのである。従って、客観的にみれば公平な選挙ではなかったが、オルテガ大統領は投票結果を受け入れたのである。

その後も、ニカラグアは2代にわたり保守派の大統領が続き、2007年に再びオルテガ大統領の政権になった。その後、何の根拠もなく、ニカラグアはオルテガ大統領による独裁国家だという報道が行なわれるようになった。とりわけオルテガ大統領の妻であるロサリオ・ムリンニョが副大統領になってからは、独裁政権というレッテル張が激化した。

こうした流れと並行して、米国政府系の全米民主主義基金からニカラグアの市民団体やメディアに資金提供が行われた。オルテガ大統領を追放するためのメディア戦略が展開されるようになったのだ。そして2018年、香港の雨傘運動とまったく同じ事が起きた。「草の根ファシズム」が広がり、政府に対する暴動が起きた。世論誘導やフェイクニュースで世論を誘導し、混乱を起こし、政権の転覆を企てる試みが行われた。これに対してオルテガ大統領も強引な対抗策を取った。452人のニカラグア人を国籍を剥奪したのである。その中には、国際的に著名な作家のセルヒオ・ラミレス氏も含まれていた。

◆だれがニカラグアを孤立させてきたのか?

トランプ政権は、ラテンアメリカに対する干渉を強めた。ホンジュラスやチリの大統領戦況にトランプ政権が介入したことは、ほとんど公知の事実となっている。2007年1月には、ベネズエラに軍事介入して、ニコラス・マドゥロ大統領夫妻を拉致した。その後、キューバを標的にすることも公言した。さらにキューバの次のニカラグアという見方が定着している。

こうした状況の下で、オルテガ大統領が選挙の中止を宣言したのである。

繰り返しになるが、選挙の中止は、憂慮すべき事態だが、その背景を歴史的にさかのぼると、一方的にオルテガ大統領を非難するわけにはいかない。事態は複雑だ。だれがニカラグアを孤立させてきたのかを再検証する必用がある。

 

【参考記事】米国政府系の反共謀略組織・NEDからラテンアメリカ諸国の市民団体やメディアに63億円