2026年08月15日 (土曜日)
ロシア高官が言及した「日本がロシアにもたらす脅威」の高まり

ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官が、日本の安全保障政策に対する警戒感を強めている。米国の短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」の日本への一時配備や、ウクライナとのドローン技術協力が進めば、千島列島やサハリン、太平洋艦隊司令部のあるウラジオストクが脅威にさらされる可能性があるとの見方だ。こうした動きは、ロシアと中国、北朝鮮の軍事・安全保障協力を加速させる可能性もある。一方で、日露関係改善の余地も残されている。日本をめぐる北東アジアの新たな安全保障構図と、その行方を左右する米国の思惑について、アンドリュー・コリブコが解析する。
執筆者:アンドリュー・コリブコ
日本が米国の短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」を一時的に配備していることに加え、ウクライナの最新鋭ドローン技術に関心を示していることは、千島列島(クリル諸島)、ウラジオストクにあるロシア太平洋艦隊司令部、そしてエネルギー資源が豊富なサハリンにとって、大きな脅威になり得る。
アジア太平洋地域を担当するロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官は7月下旬、タス通信のインタビューに応じ、日本がロシアに与える脅威が高まっているとの認識を示した。
プーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフは昨年末、「日本はアジアにおける米国の政策を推進するうえで、これまで以上に大きな役割を担うようになる」との見方を示していた。また6月上旬には、「日本とフィリピンは中国を封じ込めるうえで、より大きな役割を担うことになる」との分析も示されている。その役割には、米国のミサイルを国内に配備することも含まれる。
こうした動きに関連してルデンコ氏は、米国との演習の際、日本が短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」を一時的に配備したことを非難した。こうした配備はすでに2度目だとして、
「これに対して、われわれが対抗措置を取らないということは決してない」
と警告した。
さらに、
「われわれは、アジア太平洋地域の平和維持をめぐり、中国との連携を強化している」
とも述べた。
ただし、ここではロシアと北朝鮮の緊密な軍事関係については触れられていない。両国は相互防衛を定めた条約も新たに結んでいる。
ルデンコ氏はさらに、
「日本のドローンメーカーと、ウクライナの戦闘用ドローン開発企業との協力がどのように進展しているか、われわれは注視している」
と語った。
この発言の1週間足らず前には、ジャパン・タイムズが、日本がウクライナのドローン生産能力の拡大に投資する可能性があると報じている。その見返りとして、日本がウクライナの最新ドローン技術を利用できるようになる可能性があるという。
こうした能力は、おそらく主として中国や北朝鮮を念頭に置いたものだろう。しかし、ロシアにとっても深刻な脅威になる可能性がある。
というのも、日本は第二次世界大戦後にロシアが実効支配している島々について、ロシアが「南クリル諸島」と呼ぶ一方、日本は「北方領土」と呼び、ロシアによる領有を認めていない。この領土問題は、日露両国が平和条約を締結できていない大きな理由となっている。
さらに、日本海を挟んだ対岸には、ロシア太平洋艦隊の司令部が置かれているウラジオストクがある。
したがって、日本がウクライナからドローン技術を獲得すれば、千島列島、ウラジオストク、そして豊富なエネルギー資源を持つサハリンが、その攻撃可能範囲に入る可能性がある。
記事の見方では、日本が将来、米国のタイフォン・ミサイルシステムを交代制で受け入れるようになり、さらにウクライナから取得したドローン技術を本格的に導入すれば、日本はロシアを取り囲む「防疫線(cordon sanitaire)」の北東アジア方面を担うことができる。
【黒薮注】防疫線:本来は衛生学上の用語で、ここでは軍や警察など公権力が出入りを制限する線を意味する。
筆者は、この「防疫線」を第2次トランプ政権が過去1年間にロシア周辺に構築してきたものだと捉えている。
これに対してロシアは当然、中国や北朝鮮との軍事・安全保障面での二国間関係をさらに強化する必要があると考えるだろう。地域の脅威が大幅に高まれば、ロシア・中国・北朝鮮の3か国による安全保障協力の枠組みを模索するところまで進む可能性もある。
一方でルデンコ氏は、日露関係を修復するためには、まず日本側が行動を起こすべきだというロシアの立場も改めて示した。
日本にとっても、そうする理由はあるかもしれない。前述のようなロシア・中国・北朝鮮の軍事協力強化が現実になれば、日本自身の安全保障にとっても、日本がロシアにもたらそうとしているのと同程度の脅威になり得るからだ。
この記事が6月にも指摘していたように、ウクライナ紛争が政治的な形で終結し、それに伴って対ロシア制裁が段階的に解除されることになれば、天然資源が豊富なロシア極東への投資機会が、日本や「Quad(クアッド)」諸国に開かれる可能性がある。それが日本にとって、ロシアとの関係改善を進める経済的な動機になるかもしれない。
【黒薮注】Quad(クアッド):日本、アメリカ、オーストラリア、インドで構成
ただし、日本の外交政策は米国の方針から強い影響を受けているため、米国の了承なしに日露関係が現実的に改善する可能性は低い、と筆者はみている。
そのため最終的な問題は、米国がどちらの道を選ぶのか、という点に行き着く。
米国は、日本に北東アジアで積極的にロシアを封じ込める役割を担わせるのか。その場合、ロシア・中国・北朝鮮の軍事・安全保障協力がさらに強化されるという代償を伴う可能性がある。
それとも、そのような事態を未然に防ぐため、日露関係の改善を促すのか。
米国がどちらを選択するにせよ、その影響は今後数十年にわたって続くことになるだろう。
筆者紹介:アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』
Source:https://korybko.substack.com/p/a-top-russian-diplomat-touched-upon
