2026年08月16日 (日曜日)
米国は「AUKUS+」を通じて、アジアで「NATO 3.0」構想を実行しつつある

米国は、中国への抑止力を強化するため、日本やフィリピンなどの同盟国に、これまで以上に大きな防衛上の役割を担わせようとしている。この記事では、米国が欧州でロシアに対して構築してきた安全保障の仕組みをアジアにも応用し、AUKUSや既存の同盟関係を結びつけた「AUKUS+」とも呼べるネットワークを形成しつつあると分析する。日本で浮上している改憲の動きの背景にある事情も、行間から読み取れる。
執筆者:アンドリュー・コリブコ
米国は、ロシアに対して用いてきた地域的な封じ込めモデルを、中国に対しても再現しようとしている。
米国のエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)は8月上旬、東南アジア歴訪の最初の訪問地であるマニラで、重要な演説を行った。この演説は、米国が「NATO 3.0」という考え方をアジア地域に持ち込むことを事実上表明したものだといえる。
【黒薮注】NATO 3.0:ここではNATOの変遷を意味して、NATO 1.0は冷戦期、NATO 2.0は冷戦後、そしてNATO 3.0は、米国だけに負担を集中させず、ポーランド、日本、フィリピンなどの「前線国家」により大きな防衛負担を担わせ、米軍と一体化した地域的な抑止網をつくる段階。
第2次トランプ政権の軍事・戦略政策を設計する中心人物であるコルビーの説明によれば、米国は、現在の地域秩序を維持する責任を、同じ利益を共有する同盟国やパートナー国に、これまで以上に負担させようとしている。この場合、各国が共有する利益とは、コルビーの言葉でいう「特定の国による覇権に支配されないアジア」である。明言こそしていないものの、その狙いは中国を封じ込めることにある、と筆者は見ている。
コルビーは、第2次トランプ政権の政策を正当化する根拠として、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」、そしてピート・ヘグセス国防長官が5月下旬のシャングリラ・ダイアローグで行った演説を挙げた。その政策とは、日本からボルネオ島まで続く「第一列島線に沿って、敵の攻撃を拒否できる態勢を整え、それによって抑止力を維持する」というものだ。
フィリピンは第一列島線のほぼ中央に位置している。そのため、別のところで「AUKUS+」と呼ばれている安全保障ネットワークを構築するうえで、フィリピンは代わりの利かない重要な国となる。
【黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。
この構想では、米国の支援を受けた日本とフィリピン(そして場合によってはインドネシア)が中核を担うと考えられている。コルビーは次のように述べた。
「われわれは、『力による平和』という考え方を支え、アジアにおいて長期的に望ましい勢力均衡を維持するため、敵の攻撃を阻止・拒否できる強力な防衛体制を積極的に構築している。
われわれは前方展開態勢を組織的に強化し、拠点の防御力を高めるとともに、相応の負担を引き受ける意思のある重要な国々との軍事的な相互運用性を大幅に高めている。
これは、カメラの前で見せるための象徴的な軍事演習を行うだけの話ではない。現実に起こり得る軍事侵攻を打ち破ることのできる、実戦能力を備えた戦力を配備するということだ。」
この発言からは、米国の意図が明確に読み取れる、と筆者は見ている。つまり米国は、アジア太平洋地域で自らがすべてを直接担うのではなく、同盟国を前面に立たせて支援する「後方からの指導(Leading From Behind)」という形で中国を封じ込めようとしている、ということだ。そのための仕組みが、アジアに「NATO 3.0」型の体制を導入し、「AUKUS+」のネットワークを急速に構築することだと筆者は見ている。
ここで特に重要なのは、コルビーがフィリピンを「模範的な同盟国(model ally)」と呼んだことだ。これは、ヘグセス国防長官が2025年初頭の欧州歴訪でポーランドを訪れた際、同国について使った表現と同じである。そのため筆者は、米国がアジアにおいてフィリピンに、欧州におけるポーランドと似た役割を担わせようとしていると推測している。
したがって今後、フィリピンは米国にとってアジアにおける重要な軍事拠点となり、その地政学的な位置を利用して、中国を封じ込めるうえで中心的な役割を担うようになると考えられる。これは、ポーランドがロシアに対して担っている役割とよく似ている。ポーランドのカロル・ナヴロツキ大統領も最近、この役割を改めて確認しており、いずれの場合も米国との緊密な連携のもとで進められる。
もちろん、フィリピンだけで中国を封じ込めることはできない。それは、ポーランドだけでロシアを封じ込めることができないのと同じである。むしろ両国に期待されている主な役割は、米軍のための兵站・補給拠点となり、必要な場合には米軍が作戦を開始・展開するための足場となることなのである。
実際のところ、筆者によれば、最終的な狙いはフィリピンとポーランドに十分な軍需物資、米軍部隊、ミサイルなどを配備しておき、それによって中国やロシアの軍事行動を抑止することにある。具体的には、中国が台湾に対して軍事行動を起こすことを抑止すると同時に、現在の戦闘が最終的に終結した後、ロシアが再びウクライナに対して同様の軍事行動を取ることを防ぐ、という構想である。それでも中国やロシアが軍事行動に踏み切った場合には、それぞれフィリピンやポーランドが介入し、その後を追う形で米国も介入するという仕組みが想定されている、と筆者は見ている。
日本についても、フィリピンと同じような役割を担えるよう準備が進められている。ただし実際に戦争が起きた場合、日本は最初から直接参戦しない可能性がある。その理由として筆者が挙げているのは、紛争のエスカレーションを抑える必要があることと、もし日本が参戦して中国から直接報復を受ければ、世界経済に大きな衝撃を与える恐れがあることだ。日本経済は、ポーランドはもちろん、フィリピンと比べても世界経済にとってはるかに重要な存在である。
一方、日本、ポーランド、フィリピンの3か国はいずれも米国と相互防衛の関係にある。そのため、想定される紛争において、中国やロシアが台湾やウクライナで活動する日本・フィリピン軍、あるいはポーランド軍だけを攻撃するのではなく、日本、フィリピン、ポーランド本国を直接攻撃した場合、米国の軍事的対応を招くことになると筆者は考えている。
コルビーの演説から読み取れるのは、筆者によれば、米国がロシアに対して構築してきた地域的な「封じ込め」の仕組みを、中国に対しても再現しようとしているということである。つまり欧州では、ポーランドなどの同盟国を前線の重要拠点としてロシアを抑止・封じ込める。一方アジアでは、フィリピンや日本などを重要拠点として、中国に対して同様の体制を構築しようとしている、というのが筆者の見方である。
筆者は、こうした動きが世界の安定に極めて大きな影響を及ぼし、米中・米露の直接衝突、ひいては第三次世界大戦に発展する危険性を高めると警告している。
筆者紹介:アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』
Source:https://korybko.substack.com/p/the-us-is-implementing-the-nato-30
