1. 現実的に修正した「1956年妥協案」なら、北方領土問題を早期に解決できる可能性がある

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2026年08月18日 (火曜日)

現実的に修正した「1956年妥協案」なら、北方領土問題を早期に解決できる可能性がある

ロシアと日本の間で長年の懸案となっている北方領土問題。本稿は、1956年の日ソ共同宣言を土台に、歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しと引き換えに、国後・択捉への領有権主張を取り下げる「修正版妥協案」を提唱する。さらにロシア極東の資源開発や日露経済協力を組み合わせることで、両国の対中・対米依存をそれぞれ抑え、地域の安定と日本経済の再活性化につなげられると論じている。

 

執筆者:アンドリュー・コリブコ

この記事で提案する、1956年の妥協案を現実に即して修正した案は、ロシアと日本双方の利益にかなうものであり、おそらく米国の利益にもなる。ただし実現には、まずロシア側が非公式にこの案を持ちかけ、最初の一歩を踏み出す必要がある。

プーチン大統領が択捉島を訪れ、さらにクリル諸島(千島列島)を初めて訪問したことに対し、日本の高市早苗首相は強く非難した。日本は択捉島をはじめとする複数の島々を、現在も「北方領土」として自国領だと主張しているからだ。

ロシアが実効支配し、日本が領有権を主張している地域には、このほか国後島、色丹島、そして無人の歯舞群島がある。背景を説明すると、ヤルタ協定では千島列島をソ連に引き渡すことになっていた。しかし日本側は、その解釈について法的な問題を提起してきた。

日本の立場では、先に挙げた島々は、そもそも法的な意味で「千島列島」に含まれていなかったとされる。一方、1949年の米国務省の覚書では、水産資源の豊富な色丹島と歯舞群島についてのみ、ヤルタ協定上の法的地位に議論の余地があるとの見解が示されていた。

その後、日ソ間の国交を回復した1956年の日ソ共同宣言では、妥協案が盛り込まれた。日本とソ連が平和条約を締結した後、ソ連が色丹島と歯舞群島を日本に引き渡すという内容である。

この妥協が実現しなかった理由を詳しく論じることは本稿の範囲を超えるが、ロシア側では、米国が日本に影響を及ぼしたことが原因だったのではないかと疑う人が少なくない。結果として妥協案は頓挫し、領土問題は今日まで続いている。現在、日本は先ほどの4地域すべてについて領有権を主張している。

プーチン大統領はこれまで、1956年の妥協案を復活させるために、かなりの時間と労力を費やしてきた。その狙いは、日本からロシアへの投資を増やし、日本のエネルギー市場をロシア産資源にさらに開放するとともに、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐことにあった。

こうした結果は、客観的に見れば日本の国益にもかなう。しかし領土問題は、日本の有権者の一部にとって非常に感情的な問題である。そのため、プーチン大統領が親しい友人とみなし、この問題について何度も話し合った故・安倍晋三首相の時代でさえ、解決には至らなかった。

プーチン大統領は択捉島を訪れる直前、ロシア極東を視察した際に、日露関係が悪化していることへの不満を表明した。筆者の見方では、今回の択捉島訪問は、日露関係悪化の責任は東京側にあると考えるモスクワが、その流れに対して示した意思表示でもある。

先に紹介した別の記事では、ロシアがなぜ日本を自国の安全保障に対する脅威として以前より警戒するようになっているのか、また米国が新たな地域安全保障体制の中で日本にどのような役割を期待しているのかについて、それぞれ別の分析を紹介している。

ここでそれらに触れる目的は、日露関係がさらに悪化した場合の軍事・戦略上のリスクを強調するためである。そして、そうしたリスクを考えれば、日本にとってはロシアとの妥協を目指す方が望ましいという点に注意を向けるためでもある。

何よりも優先されるべきなのは、平和と安定である。東京がモスクワとの間で1956年の妥協案に立ち返れば、それを土台として、日本は経済面でも地政学面でも利益を得られる可能性がある。

その場合、日本が対ロシア制裁を直ちにすべて解除しなくてもよい。まずは、分野と地域を限定する形で段階的に制裁を緩和する方法が考えられる。

そのモデルになり得るのが、約10年前に提案された「北方諸島社会経済共同体(Northern Islands Socio-Economic Condominium=NISEC)」構想である。これはサハリン、千島列島、北海道を経済的に結びつけようという考え方だ。

この構想では、この3地域をより大規模な経済統合プロジェクトの中心とする。そして将来的には、天然資源の豊富なロシア極東全体へと対象を拡大し、日本がそのエネルギー資源や鉱物資源に優先的にアクセスできるようにする。

適切な投資戦略を採れば、日本は不安定な西アジア(中東)からのエネルギー輸入や、政治的なリスクを伴う中国のレアアース加工への依存を減らし、地理的に近いロシアを代替供給源として活用できるというわけだ。地政学的な面でも、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、日本にとって利益となる。

さらに、日本とインドの関係が緊密であることも重要である。インドはすでに「東方海上回廊(Eastern Maritime Corridor)」を通じてロシア極東への進出を進めている。そのため、日本とインドが共同で、ロシア極東における資源開発や資源加工に大規模な投資を行うことも可能だろう。

ロシア極東には豊富な水力発電資源があり、その結果としてエネルギーコストも安い。このことは、こうした日印共同投資をさらに魅力的なものにする。ここで提案している「修正版1956年妥協案」を改めて整理すると、次のような内容になる。

日本は色丹島と歯舞群島を受け取る。その代わりに、国後島と択捉島に対する領有権の主張を取り下げる。さらに、この交換条件を日本にとってより魅力的なものにするため、「北方諸島社会経済共同体(NISEC)」を創設するとともに、日本にロシア極東の天然資源への優先的なアクセスを認める。

この計画は、おそらく段階的に実施されることになるだろう。全面的に実現すれば、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐ一方、日本も米国への依存を減らすことができる。その結果、ロシアと日本の双方が、自国の主権と戦略的自立性を強めることになる。

さらに、日本が西アジア(中東)から輸入するエネルギーへの依存を減らせば、仮に南シナ海で紛争が起きたとしても、日本経済がその影響によって深刻な打撃を受けるリスクを小さくできる。同時に、ロシアの「北極海航路(Northern Sea Route)」を利用することで、EUとの貿易もより効率化できる可能性がある。

日本海のすぐ向こう側にあるロシアから、低価格のエネルギーや鉱物資源が大量に日本へ入ってくるようになれば、日本経済は長らく待ち望まれてきた「復興」あるいは「再生」を遂げるかもしれない。それによって、新たに形成されつつある世界経済秩序の中で、日本の競争力も高まる可能性がある。

高市首相自身は、国後島と択捉島に対する日本の領有権主張には十分な正当性があると心から考えているのかもしれない。また、一部の有権者からの国内政治上の圧力に加え、米国から表立たない形で国際的な圧力を受けている可能性もある。

それでも筆者は、高市首相は本稿で提示した妥協案を大胆に検討すべきだと考える。なぜなら、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、米国の利益にもかなうからである。したがって、トランプ大統領と新たに良好な関係を築いた高市首相が十分に説得力のある説明をすれば、トランプ大統領をこの構想に賛同させることも可能かもしれない。

高市首相の判断には、大きく3つの要因が影響していると考えられる。すなわち、北方領土問題についての高市首相自身の考え、国内からの政治的圧力、そして米国からの非公式な圧力である。こうした事情を考えれば、この提案を実現するためには、まずロシア側が最初の一歩を踏み出す必要があるかもしれない。具体的には、外交ルートや専門家同士の交流、あるいはその両方を通じて、ロシアがこの構想を非公式に日本側へ打診するという方法である。

そうすれば、まず日本政府内でこの案への認知が広がり、次に専門家の間、そして最終的には日本社会全体へと議論が広がっていく可能性がある。その結果、高市首相にかかる国内政治上の圧力が弱まるかもしれない。そうなれば、高市首相もこの構想についてトランプ大統領と話し合うことに、より積極的になれる可能性がある。

また、ロシアが外交ルートや専門家ルートを通じて非公式にこの案を日本側へ提示すれば、日本側の外交官や専門家を通じて、米国の外交官や専門家にもこの構想が伝わる可能性がある。以上を踏まえれば、ロシアが先に動くことには十分な意味がある。

そうなれば、プーチン大統領による今回の史上初の千島列島訪問についても、別の見方が可能になるかもしれない。つまり今回の訪問を、プーチン大統領が新たに用いるようになった「緊張を緩和するため、あえて先に緊張を高める(escalate to de-escalate)」という手法の3例目として捉え直すことができる、ということである。

今回の場合、日本側から見れば、プーチン大統領の訪問はまず「政治的なエスカレーション(緊張の激化)」に当たる。しかし、その後ロシアが現実的な緊張緩和案を提示するのであれば、最初に圧力を高め、その後に妥協案を提示して緊張を下げるという一連の戦略だった、と解釈することも可能になる。クレムリンは、この可能性について検討してみるべきだろう。

 

筆者紹介:アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』
Source:https://korybko.substack.com/p/a-pragmatically-amended-1956-compromise