2017年08月11日 (金曜日)

メディアについて語るとき、SNSを無視できない状況が生まれている。その影響力は想像以上に大きい。たとえば安倍晋三首相は、SNSにより実質的に再起不能なダメージを受けている。自業自得であるが。

加計学園事件に関するツイッターの投稿をまとめた次のページを見てほしい。

加計学園に関するツィート

安倍内閣やその関係者を批判した投稿が延々と出てくる。これらの投稿が「リツイート」により拡散される。「リツイート」の回数が1000回、時には1万回を超えている投稿も決して少なくない。

毎日、このようなかたちで安倍批判が繰り返されると、ボディーブローのようなダメージを受けて、立ち上がれなくなる。

◇メディアの信頼性とSNS

しかし、メディアを専門職としている人は、あまりSNSの投稿を重視していないようだ。依然として既存のメディアによる影響力こそが重要と考える傾向がある。

それはある面では真理である。たとえば加計学園の問題に国会質問の火が付いたのは、既存の大メディア(新聞・テレビ・雑誌・大手のウエブサイト)が本格的にこの問題を報道するようになったのちである。特に高齢者は、既存メディアの方が信頼性がより高いと考える傾向がある。信頼度ではSNSよりも既存メディアの方が上なのだ。

事実、SNSの投稿の中には、裏付けが不十分なものも含まれている。メディアの仕事を専門としていない人々の投稿が大半を占めるわけだから、そういう傾向になるのだ。衝動にかられて書いた短絡的な投稿もある。

逆に裏付けが取れている投稿は、既存メディアの記事で書かれた内容を紹介したものが多い。特定の記事を貼り付けて、紹介するケースもある。

このように考えると、やはり既存のメディア(大手ウエブサイトも含む)がジャーナリズムの中心を占めていることになる。専属記者が記事を書こうが、フリーライターが記事を書こうが、既存メディアに掲載された記事の内容がSNSで広がって、安倍政権に壊滅的な打撃を与えているのが実情と言えよう。

◇SNSの限界と利用方法

近年、市民ジャーナリズムの意義が強調されるようになっている。ところが困ったことに、SNSを市民ジャーナリズムと勘違いしている人が意外に多い。

ジャーナリズムというからには、調査報道が基本である。そのためには記事を公表するウエブサイトを構築しなければならない。そのうえで裏付けのある記事を書いて、SNSでそれを拡散するのが正しい方法だろう。

SNS、特にツイッターの場合、投稿の字数が140文字に限定されているので、裏付けのある正確な記述をすることはほぼ不可能だ。調査報道には適さない。これでは、SNSの投稿が拡散しても、ジャーナリズムとしての信頼は得られない。基本は、裏付けのある正確な記事なのだ。

ちなみに既存メディアは、森友学園や加計学園の事件では、質の高い報道を続けているが、報道しなければならないのに、ほとんど報道していない問題はまだまだ残っている。

たとえば、加計事件と同じ構図の国際医療福祉大学(千葉)の事件である。東京晴海の五輪選手村用地の「叩き売り」事件である。内閣府や中央省庁で、インボイスナンバーを外した請求書が数十億単位で見つかっている事件(裏金疑惑)である。「押し紙」による環境破壊の問題である。新世代の公害である電磁波問題である。

2017年08月10日 (木曜日)

『写真家 チェ・ゲバラが見た世界』と題する写真展が東京・目黒区の恵比寿ガーデンプレイスで、27日までの予定で始まった。主催は、テレビ東京とInterFM897。そしてキューバ大使館が後援している。

筆者は、写真家としてのゲバラという認識をまったく持っていなかった。そのためにどんな写真を撮影していたのか好奇心にかられ、写真展の初日にあたる昨日(9日)、会場へ足を運んだ。

結論を先に言えば、まったくの素人が撮った下手くそな写真ばかりだった。チェ・ゲバラは写真家ではない。彼は、革命家であり、文筆家であり、国際主義者である。

このような企画は、実際の中身よりも、権威で物事を評価する傾向がある日本でしか成立しえない。チェ・ゲバラという名前を伏せて、展示された写真だけを見れば、来場者たちは、「なぜこんな平凡な写真が展示されているのか?」と不思議に思うに違いない。

ただ、ゲバラの人間性に関心のある人にとっては、興味深い側面もある。

◇グアテマラの時代

写真は正直だ。写真そのものの完成度とは別に、写真を見れば、シャッターを押したカメラマンの視線が何に向けられていたかが分かる。その意味ではごまかしようがない。身のまわりにある無数の撮影対象から、何を切り取るかで、カメラマンの関心や思想が推測できる。

ゲバラの写真は、1954年の中米グアテマラから始まっている。母国・アルゼンチンで大学の医学部を卒業したゲバラは、ラテンアメリカの旅にでる。そこで興味を惹かれたのがグアテマラだった。

当時のグアテマラは改革の時代だった。グアテマラの近代史には、1944年から54年まで「グアテマラの春」と呼ばれる特殊な時代があるのだが、ゲバラが見たのはこの時代と、その崩壊期にあたる。グアテマラ政府は、社会的格差の最大の原因である土地の不公平な配分にメスを入れはじめていた。しかし、この農地改革で、米国の多国籍企業・UFC(ユナイティド・フルーツ・カンパニー)の土地に手をつけたとたんに、CIAが主導したクーデターが起こり、政府は転覆する。

それに代わって強固な軍事政権が敷かれた。

ちなみに前政権はUFCに不利益な政策に踏み出したこともあり、左派勢力だったような誤解が広がっているが、「グアテマラの春」は、リベラル右派の政権である。資本主義の枠内で、真に民主的な改革を進め、成功していたのである。

軍事政権が敷かれたことで、身の危険を感じたチェ・ゲバラは、メキシコへ「亡命」する。そこでキューバから亡命していたカストロ兄弟を含むキューバ革命の戦士たちと出会う。そして、グランマ号と呼ばれる12人乗りのヨットに82人が乗り込んで、嵐のカリブ海を渡り、キューバに潜入したのである。

◇『大いなる歌』の影響か?

1954年に撮影されたグアテマラの写真には、インディヘナ(先住民族)を撮影したものが大半だ。次に1955年からメキシコの写真になる。

メキシコでゲバラが撮影した写真には、遺跡が圧倒的に多い。マヤ文明の遺跡である。後年には、エジプトのピラミットを撮影したものもある。これらの写真も、だれにでも撮影できるレベルの写真である。

しかし、筆者は遺跡の写真に興味を持った。おそらくゲバラは、古代へのロマンに酔いしれて次々と遺跡を撮影したのではない。遺跡への関心は、チリの詩人・パブロ・ネルーダの影響だろう。

1967年にゲバラがボリビアの山中で拘束され、処刑されのち、遺品のリックの中にパブロ・ネルーダの詩集『大いなる歌』が出てきたエピソードは有名だ。『大いなる歌』は、ラテンアメリカをテーマとした詩集で、パブロ・ネルーダの代表作である。

この詩集の中に、ペルーの大遺跡・マッチュピッチュをテーマとした一連の詩がある。これらの詩の中でパブロ・ネルーダが歌ったのは、古代へのロマンではなく、巨大な遺跡を作るために、奴隷とした働かされた人々の苦しみだった。古代の人々をみずからの「兄弟」と位置付けて、詩の中で、「あの長い夜」の時代について話してくれ、と呼びかける。

メキシコの時代から遺跡の写真が増えている理由は、やはり『大いなる歌』の影響ではないか。

『写真家 チェ・ゲバラが見た世界』は、ゲバラに関心がある人々にとっては、興味深い企画だが、写真そのものの質は低い。

『写真家 チェ・ゲバラが見た世界』

8月9日~27日(11:00~20:00)

恵比寿ガーデンプレイス(目黒区三田1-13-2)

■詳細

 

【参考記事】チェ・ゲバラ没50年、プレンサラティナが写真特集

【参考記事】パブロ・ネルーダ没後42年、チリの軍事クーデターを予知していた詩人

【参考記事】グアテマラにみる民主主義の成熟、かつては殺戮の荒野、今は将軍を裁く法廷をビデオカメラで中継

2017年08月09日 (水曜日)

執筆者:吉竹幸則(ジャーナリスト、元朝日新聞記者)

日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、今年のJCJ大賞に朝日新聞の森友・加計報道を選んだ。しかし、財務省内部文書の一枚も入手出来ず、腰の引けた朝日報道のどこに「調査報道の成果」があったと言うのか。

授与すべきは、市民の立場で粘り強くデータを集めた疑惑解明の火付け役の木村真豊中市議や森友学園籠池泰典理事長(当時)から数多くの秘密文書を入手した著述家の菅野完氏ではないのだろうか。

◇森友学園の地元・関西では異なる評価

市民の目線でメディアを監視するとともに、優れたジャーナリズム活動をした個人や団体に贈られるのがJCJ賞だ。朝日の受賞理由は「調査報道の積み重ねの価値は大きく、メディアの存在感・信頼を高めた」である。

しかし、ちょっと待ってほしい。朝日報道のどこに「調査報道の積み重ね」による特ダネがあったと言うのか。

確かに森友報道は、朝日が口火を切った。でも財政危機の中、貴重な国有地がどんな経過で、ただ同然に森友に売られたのか。肝心の財務省内部文書を何一つ入手出来ず、疑惑の本丸は未解明のままだ。

森友学園の地元・関西では、疑惑解明を求める集会が数多く開かれている。関西在住の私もよく出席しているが、集会参加者から「既成メディアの劣化」は語られても、「朝日はよくやった」の声はほとんど聞いたことがない。

受賞とは正反対に一連の森友・加計報道で露呈したのは、朝日に限らず既成メディアの取材力劣化と権力に対する弱腰ではなかったのだろうか。朝日の疑惑報道までの経過を辿れば、朝日も含め既成メディアはジャーナリズム本来の「権力監視」の役割をまともに果たしていないことは自ずと明確になる。

◇疑惑を知りつつ、会見まで報道しなかった朝日

「国有地払下げのいかがわしさに私が最初に気付いたのは、昨年春でした」と語るのは、木村豊中市議だ。市の公園にする計画があった国有地をたまたま見に行くと、森友学園に借地され、系列小学校の建設用地に変わっていた。

6月には森友学園に売られたことも知ったが、売却額を近畿財務局に聞いても担当者は逃げ回るだけ。革新系無所属の木村氏は胡散臭さを感じ、市民運動の仲間や共産党市議に相談。自然発生的に野党共闘が成立し、朝日報道の8カ月も前から組織的な解明活動が始まっていたのだ。

木村氏らは9月に売却価格開示を求める情報公開請求を財務局にしている。記者なら当然この時期に取材に出向かなければならない。

しかし、どこの社の記者も来ず、財務局は非開示を決定。納得出来ない木村氏らは11月になって主だった報道機関に自ら連絡し、情報提供した。その時はさすがに朝日も含め5社ほどの地元記者が来て、取材して帰ったという。しかし、記事にした社は1社もなかった。

それでもあきらめないのが、木村氏らのすごさだ。「財務省がここまで隠すのは、背後に政権の力が働き、メディアも腰が引けているからではと思った。なら、私たちが先頭に立ち裁判を起こす以外、記事にしてもらえる道はないと覚悟を決めた」と、木村氏は訴訟に至る経過を振り返る。

木村氏らが、国相手に売却価格非開示決定取り消しを求める裁判を起こし、その日のうちに記者会見を開いたのは今年2月8日。狙い通り、朝日はやっと重い腰を上げ、それまで調べてきた情報も含め会見翌日に大きく報道にした。

この記事を皮切りに国会でも議論が沸騰。「みんなで渡れば恐くない」と他社も追随し、後は各社入り乱れてお決まりの洪水報道だ。

◇調査報道の真価は事実の解明

調査報道は「ジャーナリズムの使命は権力監視」に基づき、記者の深い取材力で疑惑を嗅ぎつけ、極秘文書など動かぬ証拠も報道機関独自で入手。メディア自らの責任で報道するものを言う。事実の解明、いち早く報じる特ダネも命だ。

取材には多くの費用と時間もかかるから、担当記者は特ダネにこだわる。会見を待って記事にしては、普通は特ダネになるはずはなく、こんな朝日の報道は「調査報道」の定義に当てはまらない。その会見記事が不思議なことに朝日の特ダネになったのは、朝日以上に他社の腰が引けていたからに過ぎない。

ある程度の取材を進めていた朝日が会見まで記事にしなかったのは、権力から圧力がかかっても、木村氏らに責任を押し付け、「記者会見の客観報道記事」として逃げる布石だったのだろう。

私は調査報道の記事を止められ上司と衝突、記者職を剥奪されるまでの20年余り、朝日で調査報道を担当して来た。「会見を待っては各社同着になる」と記事化を強く促す私たち調査報道担当記者と権力に弱腰で事なかれ主義の幹部との間で激しく火花を散らすことは日常茶飯事だった。だから、私は森友報道でも多分同様なことがあったであろうことは容易に想像出来る。

しかし、これでは邪道も邪道。他社が書かずに特ダネ風になった会見記事をもって、朝日が「伝統の調査報道の積み重ね」などと威張れるものでもなければ、JCJ賞に値もしない。

それでも森友疑惑報道がここまで盛り上がったのは、木村氏らの追及に慌てた安倍首相が、それまで蜜月だった籠池氏を「しつこい」呼ばわり。怒った籠池氏が自ら持っていた資料をすべて暴露した仲間割れの結果だ。

一役買った著述家の菅野完氏は、安倍、籠池氏らが所属する日本会議に対し腰を据えて取材して来たからだ。安倍氏らに一矢報いたい籠池氏が一番頼れる存在に映ったのは菅野氏で、腰のふらつく朝日は、相手にもされなかった。朝日の森友報道の大半は、この経過の通り、木村氏かコツコツと調べた事実と菅野氏の入手した資料の後追いである。

加計報道について、詳しく触れる紙数はないが、既成メディアの取材がなかなか核心に迫れない中、苛立った官僚や関係者が自ら保管している文書を「怪文書的」に流した結果であり、森友報道と五十歩百歩である。

ジャーナリズム、ジャーナリストの真価は問われるのは、「事実の解明」であることは論を待たない。国会で森友疑惑が追及されて以降の洪水報道では、確かに朝日だけでなく、各社それぞれ細かな特ダネがないとは言わない。しかし、木村氏や菅野氏が解明した事実の大枠を超えるものはない。

◇JCJ賞にふさわしいのは誰か

JCJ賞は、個人や市民運動団体も受賞対象にしている。なら、JCJがこの二人をさしおいて、朝日に賞を与えた理由が私には分からない。JCJがこうした森友・加計報道の質をきちんと審査しているなら、賞はこの二人に与えて当然。返す刀で遅れを取った既成メディアの責任、ふがいなさを市民の立場から指摘し、権力監視の出来るジャーナリズム本来の姿に戻ることを促すべきなのだ。

私はJCJ会員ではあるが、賞の審査経過を知る立場ではない。もし「朝日が森友報道の口火を切った」ことをもって、単純に賞を与えたとしたら論外。ジャーナリズム本来の在り方から朝日報道を詳しく検証し、「調査報道の積み重ねによる賞に値する報道」と認定したのなら、どの記事がジャーナリズム活動の手本となる報道・特ダネなのかを、今月19日の受賞式で具体的に明らかにする必要があろう。

それをせず、JCJがこの程度の報道に「ジャーナリズムの手本」とのお墨付きを与えてしまえば、既成メディアの劣化はさらに進むだけである。

◇朝日の「伝統的な調査報道」なら、どんな取材をするのか

なら、朝日が本当に「伝統的な調査報道」を出来ていたなら、どんな取材をしたか。私は20年間の調査報道記者経験からその手法は熟知している。その一端を紹介してみよう。

木村氏のように市民運動とつながりが深い議員は、権力監視する記者には情報の宝庫。私の頃は普段から接触を欠かさなかったが、今の記者もそうしていれば、昨年夏には疑惑の端緒を知り、取材に入れたはずである。

国有地払下げ疑惑なら、登記簿入手から始めるのも、取材のイロハのイ。「買戻し特約」の記載があれば、財務局が隠しても払下げ価格は買戻し価格と同額の1億3千4百万円であるのもすぐ分かる。

私も駆け出し時代はそこまでの知識はなかった。それでもその頃は分野ごとに詳しい記者がいた。相談すれば、取材手法が教えてもらえる体制が出来ていた。

ここまでは序の口。記者の力量が本当に問われるのは、実はここからだ。私は先輩記者から「調査報道が成功するか否かは、人間関係の構築がカギ」と常々教えられて来た。

権力の絡んだ疑惑なら、最初から正面切って役所幹部に取材しても、かん口令が敷かれるだけで警戒が強まり、まず失敗する。担当部署や周辺のノンキャリアの人との人間関係構築から始めるのが常道だ。

取材チームで手分けし、職員の退庁時間に合わせ尾行、自宅を割り出すことから始める。一人や二人と親しくなっても取材源は特定される。出来るだけ多くの職員と接触する必要があり、自宅リストは数十人に上ることさえある。

自宅を訪ねても、最初は取材の狙いを悟られないよう細心の注意を払う。森友の「も」の字も出さず、世間話や別の問題を追っているように見せかけ、人柄を確かめる。

権力者の絡んだ疑惑なら、真面目な職員は必ず、腹立たしい思いをしている。時間をかけて人間関係を作り、やおら取材目的を告げれば、正義感の強い人なら内情を話してくれる。中には、身の危険承知で資料を持ち出してくれる人も見つかる。

事実、私はこうして多くの極秘文書を入手し、記事にした。後輩に出来ないはずはない。一人の人物と信頼関係を結び、真相に迫ることはフリーのジャーナリストにも出来る。しかし、時間も費用もかかる組織的取材は、潤沢に人手も取材費も使える既成メディアの記者にしか出来ない仕事であり、購読料を払って戴ける読者への責務でもある。

◇JCJも再生し、既成メディア再生を主導せよ

ただ、劣化したとはいえ既成メディアの力を再認識させられたのも、森友・加計報道である。腰がふらつきつつも、木村氏や菅野氏の力を借り、最後は大きく報道したから、盤石に見えた安倍政権の本質が多くの国民の知るところとなり、ここまでぐらついた。

疑惑報道を通じ既成メディアの多くの記者と出会った菅野氏は「若い記者には優秀でやる気のある人もいる。むしろメディア幹部の劣化がひどい」と語る。

私も後輩の若い記者に出食わすたびに「何故、森友報道が未消化に終わったのか」と尋ねた。彼らは無念そうに、「慰安婦問題で叩かれて以降、朝日幹部は権力監視にますます消極的になっている。取材現場にも少なからず影を落とした」と話している。

私はわずかながら朝日の株式を持っていから今年6月末の株主総会に出て、森友集会出席者らの不満を伝え、「森友報道で自画自賛している場合か」と、渡辺雅隆社長に質問した。

しかし、社長は腰の引け具合を棚に上げ、経営陣の手柄のごとく「伝統的な調査報道の特報」と自画自賛するばかり。私の質問を何度も遮り、「『朝日はよくやった』の声が読者から届いている」と、にべもない答弁しかせず、自らの報道の至らなさを検証しようともしなかった。それに賞まで与えてしてしまうなら、朝日は今の報道姿勢に安住するだけで、覚悟をもって権力監視するジャーナリズムの原点に立ち返ろうとは、決して考えないだろう。

それはメディアの空洞化であり、調査報道の現場感覚を欠き、市民の立場から既成メディアを監視出来ないJCJの空洞化をも意味するものだろう。JCJが既成メディアの再生を主導するには、何が必要か。この機会に自ら検証し、再生してもらいたい。

【写真】本稿の執筆者、吉竹幸則氏

 

≪筆者紹介≫ 吉竹幸則(よしたけ・ゆきのり)
フリージャーナリスト。元朝日新聞記者。名古屋本社社会部で、警察、司法、調査報道などを担当。東京本社政治部で、首相番、自民党サブキャップ、遊軍、内政キャップを歴任。無駄な公共事業・長良川河口堰のウソを暴く報道を朝日から止められ、記者の職を剥奪され、名古屋本社広報室長を経て、ブラ勤に至る。記者の「報道実現権」を主張、朝日相手の不当差別訴訟は、戦前同様の報道規制に道を開く裁判所のデッチ上げ判決で敗訴に至る。その経過を描き、国民の「知る権利」の危機を訴える「報道弾圧」(東京図書出版)著者。JCJ会員。

 

2017年08月08日 (火曜日)

 

第3次安倍内閣の環境大臣に就任した中川雅治参院議が、新聞業界から頻繁に政治献金を受けてきたことをご存じだろうか。直近3年間における政治資金収支報告書によると、献金額の総計は82万円になる。

献金元は、新聞販売店の同業組合である日本新聞販売協会(厳密にいえばその政治団体にあたる日販協政治連盟)である。詳細は次の通りだ。

【2015年度分】
3月19日:8万円
7月2日:8万円
10月1日:10万円

【2014年度分】
4月4日:6万円
7月3日:6万円
9月8日:10万円
12月11日:8万円

【2013年度分】
4月18日:10万円
6月17日:6万円
11月28日:8万円

出典

前内閣の閣僚の中では、高市早苗総務大臣が日販協政治連盟から多額の献金を受けてきたが、内閣改造後は閣外へ去った。高市氏は献金の見返りとして、新聞に対する消費税軽減税率の適用に奔走した。

一方、中川氏への献金の目的は不明だ。

◇環境問題としての「押し紙」問題

新聞業界は、「押し紙」問題を抱えている。「押し紙」が搬入される新聞の5割にも7割にも達しているケースもあり、回収される新聞の量は尋常ではない。1日に少なくとも2000万部ぐらいには達していると推測される。

「押し紙」回収専門の業者があり、「押し紙」回収業が産業として成り立っている。

「押し紙」は、重大な環境問題でもある。中川大臣が環境問題の観点から、「押し紙」問題にメスを入れるのかどうかに注目したいところだが、政治献金を受けているようでは期待できない。

【写真】中川雅治環境大臣

2017年08月07日 (月曜日)

新聞労連と新聞通信合同ユニオンは、6日、東京都の文京区内で「新聞奨学生と求人詐欺~改正職安法は学生をまもれるか?」と題するシンポジウムを開いた。新聞奨学生SOSネットワークの村澤潤平代表、新聞労連の加藤健書記次長、それに法政大学の上西充子教授が報告した。

このうち村澤氏は、新聞奨学生が頻繁に直面する最大の問題を、

「求人パンフレットに書いてあることと、実際の労働実態が異なっている」

と、指摘した。

奨学生を希望する者は、パンフレットの内容、あるいは説明会の内容を確認して、奨学生に募集する。ところが実際に仕事を始めてみると、労働条件がかなり異なっているケースが少なくない。

なかには夕刊の配達時間と学校での授業の時間帯が重なって、授業が受けられないこともある。4年生大学を4年で卒業できないような実態もあるという。
奨学生を辞めようにも、授業料を前借りしているので、一括返済が出来なければ、退職できない。結局、学業を断念して、新聞販売店の仕事だけに専念して、借金を返済せざるを得ない。

求人パンフレットと労働実態が著しく異なる実例として、パンフレットでは手取りが9万円と記されていたが、実際には3万円しか払ってもらえなかったケース(2010年)などが紹介された。また、新聞拡販は任意に行うという説明を受けていながら、実際には、強制されるケースも後を絶たない。

その他、求人パンフレットには書かれていない電話番や自転車のパンク修理、庭木の剪定まで命じられたケースも報告された。

◇奨学生からの相談は絶えない

加藤氏は、奨学生問題の背景にある新聞業界の衰退について報告した。新聞協会のデータによると、新聞販売店の店舗数は、2001年の段階では、2万1864店だったが、2016年には、1万6731店に減った。新聞販売店で働く人員は、2001年は約46万人だったが、2016年は約31万人まで減少した。そして奨学生の数は、2001年の1万6333人から、2016年には4573人にまで激減した。

業界の規模は縮小している。しかし、加藤氏は、

「相談はあいかわらず寄せられています」

と、話す。

販売店の店数が減ると、販売店が統合されるので、逆に配達範囲がどんどん広がり、労働実態はより厳しくなる。新聞労連への相談が絶えない背景である。

解決の事例としては、新聞労連に加盟している発行本社の組合を通じて、対策を取った実例もあるという。たとえば奨学生を辞めて、奨学金の一括返済を迫れていた相談者と新聞奨学会・販売店の間に、発行本社の組合が入って分割返済で合意したケースなどである。

◇求人パンフの記述があいまい

上西教授は、改正職業安定法により、問題の解決に方向性が見えてきた実情を報告した。

「改正労働法を根拠に、きちんと本来の労働条件を求人パンフレットに書かせるようにすることが大事です」

上西教授によると、求人パンフレットの記述には、曖昧な部分、あるいはどうにでも解釈できる記述が多々みうけられるという。たとえば、朝日奨学生の求人パンフには、「月額平均152,240円(早朝手当を含む)と記されているが、月給なのか、時給なのか曖昧だという。「平均」と記されているわけだから、時給を明記しなければならない。日経新聞の求人パンフには、労働時間の記述すらない。

その他、「『待遇に勤務地に関する記載がなく、勤務地がどう決まるのか分からない」「労働契約は誰と結ぶのか、販売店とであるのか、はっきりしない」「育英奨学会の案内主体は職業紹介事業者なのか、はっきりしない」などの問題が指摘された。上西教授は、

「まず、奨学会が職業紹介事業者であることを理解させることが大切です」

と、話す。

ちなみに奨学会の事業が、職業紹介事業者に該当するかどうかは、現在のところ確定的な解釈は存在しない。筆者が毎日新聞の奨学制度について調べた限りでは、職業紹介事業者としての事業者登録はなかった。しかし、実態としては、明らかに職業紹介事業者である。

◇解雇し、さらに奨学金の返済を迫る

会場からも次のような報告があった。息子が新聞奨学生を途中で一方的に解雇された。その背景には、より使い勝手がいいベトナムからリクルートした「奨学生」を雇用した事情があるように感じる。一方的な解雇であるから、当然、奨学金の返済義務はないはずだが、返済を求められている。

ベトナムから新聞販売の従業員をリクルートする制度は、朝日新聞などが本格化させている。かつては中国や韓国の留学生を雇用するケースが目立ったが、現在、主流はベトナム人になっている。

筆者が販売店を取材したところ、トラブルも発生しているという。たとえば、ベトナム人の女性留学生に店主の自宅の家事をさせたといったトラブルである。

昔から労働問題が絶えない新聞業界。情報を人力で配達するスタイルそのものが、既に時代に即していないことはいうまでもない。新しいビジネスモデルを構築していかなければ、新聞社は生き残れないのではないか。

【写真】新聞奨学生SOSネットワークの村澤潤平代表

 

【参考記事】新聞販売店(ASA)から悲鳴、「新聞配達員がいない」、海外から250名を超える新聞配達員をリクルート

2017年08月04日 (金曜日)

広義の「天下り」問題は、昔からあったが、まったく解決されていない。しかも、事件を処理する立場にいた司法関係の元国家公務員までが、あたりまえのように企業に再就職する実態がいまだにある。これでは、経済事件などは放置されかねないケースが出てくるだろう。日本は学閥や人脈が、「後輩」に対して影響力を持つ前近代的な社会であるからだ。

検事総長は、検察組織のトップである。検事総長について検証してみても、退官後、ひとりの例外もなく天下りしている。法律事務所への再就職は、まだ許容範囲かも知れないが、一般企業への「天下り」は大きな問題がある。

本来、経済事件の被告となるはずの企業が、何の咎めも受けないことにもなりかねない。

次に示すのは、2004年以降に退官した検事総長の主要な天下り先である。

■大野恒太郎(2014年7月18日 - 2016年9月5日)
森・濱田松本法律事務所客員弁護士

■小津博司(2012年7月20日 - 2014年7月18日)
三井物産監査役、トヨタ自動車監査役、資生堂監査役、

■笠間治雄(2010年12月27日 -2012年7月20日)
日本郵政取締役、住友商事監査役、SOMPOホールディングス監査役、NKSJホールディングス監査役、キユーピー監査役、西武ホールディングス顧問、日清医療食品特別顧問、ワタキューセイモア特別顧問、一柳アソシエイツ特別顧問、イーサポートリンク顧問

■大林宏(2010年6月17日 - 2010年12月27日)
大和証券監査役、アサツー ディ・ケイ取締役、三菱電機取締役、新日本製鐵監査役、日本たばこ産業監査役

■樋渡利秋(2008年7月1日 - 2010年6月17日)
TMI総合法律事務所顧問、野村証券取締役、本田技研工業監査役、トーヨーカネツ監査役、

■但木敬一(2006年6月30日 - 2008年6月30日)
森・濱田松本法律事務所客員弁護士、日本生命保険監査役、(財)矯正協会会長、大和証券グループ本社監査役、イオン取締役、フジタ監査役

■松尾邦弘(2004年6月25日 - 2006年6月30日)
旭硝子取締役、トヨタ自動車監査役、日本取引所グループ取締役、ブラザー工業監査役、テレビ東京ホールディングス監査役、損害保険ジャパン監査役、三井物産監査役、セブン銀行監査役、小松製作所監査役、

■原田明夫(2001年7月2日 - 2004年6月25日)
原子力損害賠償支援機構運営委員長、住友商事監査役・取締役、資生堂監査役、セイコー取締役、日本郵政取締役、東京女子大学理事長、三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役、山崎製パン取締役

出典

「天下り」の問題は、かなり以前から指摘されてきた。しかし、改善するどころか、ますます露骨になっている。日本がいかに社会進歩から取り残されているかの証である。

しかも、驚くべきことに、2007年の第1次安倍内閣の下で、天下りの規制は緩和されているのである。安倍政権に「天下り」問題を解決しようという気など毛頭ないことは言うまでもない。甘えの構造が、職能や士気の劣化にも繋がっているようだ。

2017年08月03日 (木曜日)

新しい閣僚の顔ぶれが3日に公式発表される。野田聖子氏ら新閣僚の笑みの中に、「大臣になりたい病」の症状がすでに現れているが、本来、自民党は内閣改造に取り組むどころの場合ではない。

日本が正常な法治国家であれば、検察が職権を行使して、連日、安倍首相夫妻の取り調べを行っているはずである。が、当人の安倍首相は森友事件も加計事件も他人ごとのような顔をしている。

その背景には、検察とメディアの劣化がある。韓国の朴槿恵(パククネ)を法廷に立たせた韓国の検察と、安倍夫妻から事情聴取すらしない日本の検察の職能の差が顕著になっている。メディアについては、一部には安倍首相を取り調べない検察を暗に批判しているところもあるが、大半はそれよりも内閣改造に関するニュース報道に熱心だ。

実は、内閣を改造しても、看板が変わるだけで中身は何も変わらないのだが。

森友事件で鴨池夫妻が逮捕されたが、この事件の最大の焦点は、両氏による補助金の不正受給ではなく、国有地の不正な払い下げに、国や大阪府がどう関与したのかという点である。この点を解明するためには、安倍夫妻から事情聴取しなければならない。こんな基本的なことを検察は怠っているのだ。

法律の専門家によると、鴨池夫妻の逮捕容疑となった「詐欺罪」は本来であれば適用外だという。これについて郷原信郎弁護士は、みずからのブログで次のように述べている。やや長くなるが引用しておこう。

昨日、籠池泰典氏夫妻が、大阪地検特捜部に、「詐欺」の容疑で逮捕された。

驚くべきことに、この「詐欺」の容疑は、今年3月下旬に大阪地検が告発を受理した「補助金適正化法違反」の事実と同じ、森友学園が受給していた国土交通省の「サスティナブル建築物先導事業に対する補助金」の不正受給であり、「補助金適正化法違反」を、「詐欺罪」の事実に構成して逮捕したということなのである。

詐欺罪と補助金適正化法違反の関係は、「一般法と特別法の関係」というのが常識的な理解だ。一つの事象に対して一般的に適用される法律があるのに、適用範囲が狭い特別の法律が定められている場合は、法の趣旨として、その特別法が適用され、一般法の適用が排除されるというのが「一般法と特別法」の関係だ。

補助金を騙し取る行為は、形式上は詐欺罪が成立する。しかし、国の補助金は本来、当局による十分な審査を経て支給されるものであり、不正な補助金交付を行ったとすると、国の側にも問題がなかったとは言えないこと、国からの補助金の不正は地方自治体等の公的な機関でも行われることなどから、補助金適正化法は、不正受給の法定刑を、詐欺罪の「10年以下の懲役」より軽い「5年以下の懲役・罰金」とし、「未遂罪」が設けられている詐欺罪と異なり、未遂を処罰の対象外としたものだ。つまり、あえて「詐欺罪」より罪が軽い「補助金適正化法違反」という犯罪を定めたものだといえる。

このような法律の趣旨からすると、国の補助金の不正受給である限り、詐欺罪が適用される余地はない

出典 

◇権力構造の存在

本来、適用されるはずがない詐欺罪による逮捕を可能にしたり、マスコミが検察の怠慢を報じない背景を考えるとき、筆者は権力構造の存在を実感する。日本には財界を大黒柱とした客観的な権力構造があり、それを守るために自民党・警察権力・裁判所・マスコミなどが歯車の役割を果たしている。ある意味では、北朝鮮や旧ソ連の構図と同じである。それを認識していないだけの話なのだ。

メディアに関していえば、出版(書籍)は健全だが、新聞と放送はかなり劣化している。特にNHKは完全な国策放送局で、政府広報の役割を果たしている。単発的に質の高い番組を放送することもあるが、それはあくまでも記者個人の大変な努力と戦いの果実に過ぎない。放送局自体がジャーナリズムの真価を発揮しているということではない。

前川喜平・前文科省事務次官のインタビューを収録していながら、それを放送しなかった事実が、なによりもNHKの体質を物語っている。

民放放送の中には、比較的まっとうなニュース番組を提供している局もあるが、問題はバカなバラエティー番組を洪水のようにたれ流していることだ。こうした番組は、視聴者の知的レベルを著しく低下させる。「民は愚かにたもて」という言葉があるが、国民がバカな方が日本の権力構造は安泰なのだ。

筆者は今回の内閣改造によって、政治は何も変わらないことを断言しておきたい。

【写真】朴槿恵氏(左)、安倍晋三首相(右)

2017年08月02日 (水曜日)

NHKが受信料の支払いに応じない家庭(テレビがない家庭も含む)に対して、「すぐに開封いただき内容をご確認ください」と記した封筒をポスティングしていることをご存じだろうか?

封筒には複数の書面が入っている。そこに書かれていることは、HNKは公共放送だから、受信料を支払うことが法律で義務づけられている、支払わなければ、最終的には、「裁判所を通じた法的手続きの実施」を断行するというものである。

これでは学生や母子家庭は、大変な精神的負担を感じるだろう。なかには、自分の食費を切りつめて、なぜ、NHK職員の尋常ではない高給待遇をサポートする義務があるのかと疑問を持つ人も多いのではないか。NHKの記者が、自分の生活を犠牲にしてジャーナリズム活動を展開しているIWJの岩上安身氏のような方ばかりだとしても、特定のメディアを強制するのは押し売りである。

◇片務契約と押し売り

NHKは受信料契約の締結を要求しながら、契約書を作成しない。契約というものは、双方がその内容に合意してはじめて成立するものだ。NHKの場合は、その契約書が存在しないうえに、視聴者の義務だけを定めた「片務契約」である。

常識的に考えれば、公共放送という場合、NHKに対して国民は身の回りの社会問題を取材し報道するように要請する権利が生じるはずだ。筆者の場合は、「押し紙」の資料を提供しようとしたが、受け取りそのものを拒否された。筆者の知人は、携帯電話の基地局問題の取材をドタキャンされた。国策に反する番組は、原則として取材・放送しないのだ。

受信料を支払うということは、その内容について、要求を出す権利を有するということである。当然、予算の使途も公開しなければならない。要求が受け入れられなければ、契約を終了する自由もある。支援金で運営されているウエブサイトは、例外なくこのような厳しさを常識としてみずからに課して活動しているのである。

ところがNHKは、法律を上段にかざして受信料を取り立てている。これはかつて流行した恫喝による新聞拡販と同じ手口である。応じる必要はないだろう。

◇違憲訴訟が必要

NHKは放送法64条で「(日本放送)協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と明記されていることを根拠に、受信料を徴収している。

しかし、憲法19条は次のように述べている。

思想及び良心の自由は、これを侵してはならない

実質的に国策放送局になっているNHKが強制的に受信料を徴収する行為が、思想の自由を侵していることは疑いない。思想や主張のないジャーナリズムなどありえない。改めて言うまでもなく、放送法よりも憲法が優先される。従って違憲訴訟が必要ではないか。

◇英国のBBCの誤り

メディア研究者の中には、英国がBBCへの受信料支払いを義務化している一方で、時には政界の腐敗を暴きだすなどジャーナリズム性を発揮していることを根拠として、われわれ日本人も英国の制度にならうべきだと主張する人もいる。この種の研究者が念入りにBBCをモニターしているのかという疑問もあるが、たとえジャーリズム性を発揮していても、特定のメディアを支援することを強制するのはやはり誤っている。

英国のメディア政策を筆者はまったく評価していない。

2017年08月01日 (火曜日)

読者にとっては、にわかに信じがたい数字かも知れない。ある新聞販売店に搬入される新聞の約70%が「押し紙」だった事実を示す決定的な書面を紹介しよう。毎日新聞の資料で、2007年のものである。10年前には、すでに大量の「押し紙」があった証拠である。

紹介する書面は、毎日新聞の蛍ヶ池店(池田市)と豊中店(豊中市)の2店を経営していた故高屋肇氏からあずかった資料の一部である。

冒頭の書面は、2007年(平成19年)に、高屋氏が蛍ヶ池店と豊中店を廃業した際に、毎日新聞社と交わした書面である。書面に示された部数が、後任者に引き継がれた。

◇搬入部数

まず、搬入部数は、「新聞代原価」の箇所に示されている。次の数字である。

 蛍ヶ池店:2320部

 豊中店:1780部

 

それぞれ2320部と1780部を引き継ぎ、それに準じて発生する仕入れ代金の価値として、5,238,700円(蛍ヶ池店)と、3,954,850円(豊中店)が明記されている。ここに示されている部数が、俗にいう搬入部数である。「搬入部数×卸値=仕入れ価格の価値」という構図になっている。

◇発証額

次に発証額について説明しよう。発証というのは、新聞販売店が読者に対して発行した領収書のことである。従って「発証=実配部数」となる。ただし、
未収金の読者が若干いるので、厳密にいえば、実配部数の方が若干多い。発証額というのは、領収書の額面総計のことである。

高屋氏が経営していた2店の発証部数(実配部数)は、次の通りである。()内は、前出の搬入部数である。

蛍ヶ池店:746部(2320部)

豊中店: 500部(1780部)

蛍ヶ池店の場合、2320部が搬入されて、そのうち発証部数(実配部数)は、746部だった。差違の1574部が「押し紙」だった。「押し紙」率は、68%である。

また、豊中店の場合は、1780部が搬入されて、そのうち発証部数(実配部数)は、500部だった。差違の1280部が「押し紙」だった。「押し紙」率は、72%である。

◇なぜ、経営が成り立っていたのか?

「押し紙」が約70%にも達していたのに、なぜ、ある時期までは販売店経営が成り立っていたのだろうか。その要因は2つある。冒頭の書面の「補助奨励金」の欄を見てほしい。

蛍ヶ池店に対して、1,546,800円の補助金が、豊中店に対しては、540,700円の補助奨励金が支給されている。高屋氏はこの補助奨励金で「押し紙」で生じる損害の一部を相殺していたのだ。

しかし、それだけでは十分ではない。幸か不幸か、新聞に折り込まれる折込広告の搬入枚数は、新聞の実配部数に準じる原則がある。従って、豊中店の場合は、実配部数が746部しかないのに、搬入部数の2320部に準じた折込チラシが搬入されていたことになる。豊中店の場合は、、実配部数が500部しかないのに、搬入部数の1780部に準じた折込チラシが搬入されていたことになる。これが「折り込め詐欺」と呼ばれるものである。

高屋氏は、「押し紙」で発生する損害を、補助奨励金と折込チラシの水増しで相殺していたのである。

この事実に高屋氏は悩み、晩年に告発に踏み切り、筆者に膨大な内部資料を提供されたのである。

◇ABC部数のウソ

毎日新聞は、「押し紙」政策を徹底することで、ABC部数をかさ上げしてきたのである。それにより紙面広告の媒体価値も不正につり上げてきた可能性がある。少なくとも部数を偽ってきたことは間違いない。

筆者は、毎日新聞の実配部数は、150万部ぐらいではないかと推測している。

【写真】岸井成格氏(左)、高屋肇氏(右)

【参考記事】【試算】毎日新聞、1日に144万部の「押し紙」を回収、「朝刊 発証数の推移」(2002年のデータ)に基づく試算

 

2017年07月31日 (月曜日)

このところ「押し紙」回収の現場がビデオで秘密裏に撮影されるケースが増えている。これは「押し紙」問題が一般市民の間に浸透してきた証にほかならない。インターネット上に、毎日新聞の「押し紙」回収を撮影した画像がアップされている。

メディア黒書で既報したように、毎日新聞の部数は、4月から5月にかけて約4万6000部減っている。このペースで減部数を続けると、年間で約55万部減ることになる。

かつて同社は、「もったいないキャンペーン」を展開しており、「押し紙」問題との矛盾を指摘されてきた。

【参考記事】いよいよ危ない毎日新聞、ひと月で4万6000部減、試算で年間55万部減、産経は1,2年で倒産の危機、5月のABC部数

◇「押し紙」の2つの定義

「押し紙」とは、厳密にいえば、正常な新聞販売店経営に必要な部数(実配部数+予備部数)を超えて、販売店に搬入される部数である。予備紙の割合は、2%程度とするのが業界の慣行である。たとえば新聞の実配部数が2000部とすれば、40部が予備紙ということになる。従って2040部が、正常な販売店経営に必要な部数であって、これを超えた部数は、理由を問わず全部「押し紙」である。

古い「押し紙」の定義では、筆者も含めて、「押し紙」とは新聞社が販売店に押し売りした証拠がある新聞という解釈が一般的だったが、その後の調査で、公正取引委員会の公式見解は前者であることが分かった。

「押し紙」は一部も存在しないと主張してきた人々、たとえば喜田村洋一弁護士(読売の代理人で自由人権協会代表理事)らの主張は、旧来の「押し紙」の定義に基づいたものである。読売が勝訴した「押し紙」裁判(2009年に提起)では、裁判所も喜田村氏らの主張を鵜呑みにした。が、筆者に言わせれば、「押し紙」は1部も存在しないという主張は詭弁であり、「揚げ足取り」である。

全国の新聞販売店には、「押し紙」が存在するとする見方が真実である。どちらの主張が正しかったかは、今後、ますます明らかになるだろう。

◇ 「開かれた新聞委員会」は「押し紙」を認識しているのか?

毎日新聞社には、「開かれた新聞委員会」と呼ばれる第三者委員会がある。メンバーを調べてみると、池上彰、 鈴木秀美、吉永みち子、荻上チキの各氏が委員を務めている。これらの人々は、毎日新聞に多量の「押し紙」がある事実をどのように考えているのだろうか。彼らが毎日新聞の「押し紙」について、苦言を呈したという話は聞いたことがない。

2017年07月28日 (金曜日)

1976年の7月27日、東京地検特捜部は田中角栄を逮捕した。ロッキード社の航空機売込みに便宜を図った際の贈収賄容疑による逮捕だった。

田中邸へ赴いたのは、松田昇という検察官だった。松田氏は同じ事件でやはり逮捕された児玉誉士夫(元内閣参与で政界フィクサー)の取り調べも行っている。

ロッキード事件の発覚から41年。読者は、松田氏が現在、どのような地位にいるかをご存じだろうか? 結論を言えば、さまざまな企業の役員として再就職しているのだ。元検察官が特定の大企業と特別な関係を持つことが、公正に経済事件を取り締まる際の障害になる可能性が高いことはいうまでもない。

松田氏が関係している企業と役職は次の通りである。なかには不祥事を起こしている会社もある。

平成17年1月:株式会社博報堂社外監査役(現在)

平成19年4月:三菱UFJニコス株式会社社外取締役(現任)

平成24年6月:日清紡ホールディングス株式会社社外取締役(現任)

平成27年6月:当社社外取締役(現任)

平成28年3月:株式会社読売巨人軍社外取締役(現任)

裏付け

◇児玉誉士夫と博報堂

このうち、博報堂は広告代理店である。内閣府や中央省庁から国策プロパガンダの仕事を数多く請け負っている。この企業の過去を調べてみると、博報堂の持株会社が1975年に児玉誉士夫氏のグループに乗っ取られた事実がある。経緯については、次の記事に詳しい。

【参考記事】博報堂コンサルタンツの取締役に児玉誉士夫の側近・太刀川恒夫氏が就任していた、極右勢力と博報堂の関係

【参考記事】1975年ごろから博報堂へ続々と天下り、元国税庁長官2名、内閣府審議官や警察関係者も、病的腐敗の温床か?

「天下り」の問題は、昔からまったく解決されていない。放置されたままだ。最高裁判事を務めた人々までがあちこちの企業や法律事務所へ天下っている。

繰り返しになるが、こうした状況下では、天下り先企業が経済事件を起こした際、公正な捜査、公正な裁判は、形骸化しかねない。逆説的に言えば、それを知っているから、企業は天下りを受け入れている可能性が高い。

松田氏は、博報堂が内閣府へ送ったインボイスナンバーが欠落した請求書の額面総額が4年間で約64億円になっている事実をどう考えているのだろうか。文科省に対してウエブサイト1件で2100万円を請求した事実をどう考えているのだろうか。また、民間企業ともトラブルを起こしている事実をどう考えているのだろうか。

【参考記事】博報堂事件・重要記事特集

筆者は近々に松田氏に公開質問状を送付したいと考えている。

2017年07月26日 (水曜日)

裏金づくりは、まれなことなのだろうか。筆者は、水面下に隠れているだけでかなり広く、大手を振って行われていると見ている。特に珍しいことはない。

メディア黒書で報じてきたように、大手広告代理店・博報堂と内閣府・中央省庁の間の取引で発行された請求書には、インボイスナンバーが外してあるものが含まれている。こうした請求書の額面総計は次のようになる。

内閣府:64億円(2012年度~2015年度)
防衛省:(陸上自衛隊):約9億円(2008年~2015年度)
文部科学省:約9000万円(2015年度)
復興庁:2000万円(2015年度)
農林水産省:約300万円(2015年度)
環境省:1000万円(2015年度)

メディア黒書で既に公表している数字で、これを見た読者から次のような質問が寄せられた。それは、これらの金額がすべて裏金になっているのかという質問である。結論を先に言えば、裏金になっている可能性があるのは全額ではなく、一部である。

裏金づくりの構図をシュミレーションで説明する前に、実際に裏金工作の存在が確定したある例を紹介しよう。裏金づくりの構図を考える参考になるだろう。

◇毎日新聞不正経理事件

『毎日新聞労働組合五十年史』(毎日労組編)によると、裏金づくり事件は、1986年に毎日新聞大阪本社で発覚した。それによると1985年に、同社の販売局は、総額2億9480万4000円の補助金の架空請求書(黒薮注:架空の請求主は新聞販売店と思われる)を作成し、このうちの1億554万4000円を販売店に実際に支払い、1億8594万円を裏金にしたというものである。念のために原文を引用しておこう。

その調査報告書によれば、裏金をつくる方法と金額は次の通りである。

通知不要補助金制度を利用し、架空請求で裏金をつくった。60年度は2億9480万4000円、うち店に支給1億554万4000円、裏金1億8594万円。

文中にある「その調査報告書」がどの報告書を意味するのかは不明だが、筆者が入手した報告書は次のように述べている。

S52年秋から販売第1部(当時 武石部長)では、村上・松井両デスクの提案で、新聞販売手数料を部当たり20円カットした。第2部、第3部では行わず、全社的に行ってもいない。これは当時の第1部の部数(約90万~95万)からみて、月額約1900万円という莫大な金額となる。これを村上個人名義で本社周辺の約10の銀行に預金した。S55年5月の値上げ時まででも約30か月となり、5億7000万円(1900×30カ月)。これを自由に使っていたが、月額1000万円×30カ月=3億円位は浮いていた筈である。

裏付け資料

簡単に手口を説明しよう。新聞社は通常、販売店に対して補助金を支給する。補助金の中には、新聞1部につき●●円という形式を取るものがある。この制度を利用して、補助金を1部につき20円カットして、それを「本社周辺の約10の銀行に預金」して裏金をプールしたのだ。

従って販売店サイドは、自分たちに支払われている補助金の一部が裏金として抜かれていたことなどは知らなかった。この裏金工作は、請求額が一部を銀行の別口座にプールするというものだった。表向きは、請求額の全額が支出されているが、そこから裏金を抜き取る方法だった。

ちなみにこの報告書には、裏金を何に使ったまでが詳細に書かれている。飲み食いや、新聞拡張団の接待などに使っていたのである。

◇2種類の請求書の差額が裏金の可能性

この事件の構図を参考にして、博報堂事件の構図を推測してみよう。もちろんシミュレーションであるから、真相は分からない。官僚は、絶対に自分達の非を認めないだろう。そういう人種なのだ。しかし、問題になっている金が国家予算であるわけだから、想定される構図は示しておくべきだろう。

なお、なぜインボイスナンバーをあえて外したのかという問題については、メディア黒書で繰り返し伝えてきたが、再度、その説明部分を引用しておこう。

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  通常、企業が発行する請求書には、インボイスナンバーを付番することで、コンピュータと連動した会計処理を可能にしている。手動で処理していると大変な労力を要すからだ。会計処理を迅速に進め、しかも不正の防止にも効力がある。

コンピュータと連動したこの会計処理の原理は、クレジットカードのシステムを思い浮かべると分かりやすい。クレジットカードの番号が分からなければ、コンピュータは作動しない。従ってクレジットカードにナンバーの付番は不可欠である。

現在の会計システムも同じ原理で作動している。もちろん、インボイスナンバーがなくても、処理する方法はあるが、それは合理性の障害になるので、なるべく避けるのが一般原則である。従って正常な商取引では、あえてインボイスナンバーを付番しない合理的な説明はつかない。

博報堂の請求書から、インボイスナンバーが外してある事実は、これらの請求書が正規の会計システムとは別のところで、会計処理されている可能性を示唆している。もし、そうであれば会計監査もシステム監査も受けていないことになる。つまり裏金になっている疑惑があるのだ。

筆者は防衛省に対して、インボイスナンバーを外している理由を問い合わせたことがあるが、「答えません」という回答が返ってきた。

一方、博報堂の監査法人である「あずさ監査法人」は、取材を拒否している。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
請求金額が博報堂の口座に振り込まれていることはまず間違いない。が、問題は次に行う経理処理である。結論を先にいえば、次に博報堂はインボイスナンバーを付番した別の請求書を作成していたのだ。これについては、筆者の取材に対して博報堂も、4月28日に認めている。書面で次のように述べている。

すべての請求業務に社内では請求ナンバーを付与しており、売掛金の不明入金や債権トラブル等は発生していません。

つまり府省庁に対して発行したインボイスナンバーを外した請求書とは別に、インボイスナンバーを付番した別の請求書を作っていたというのである。

なぜ、インボイスナンバーを付番する必要があるのだろうか。答は簡単で、インボイスナンバーが付番されていなければ、会計監査・システム監査が受けられないからだ。コンピュータ・システムと連動した現在の会計システムの下では、インボイスナンバーなしでは経理処理できないのだ。

と、すればなぜ、博報堂は府省庁へ送付する請求書にはインボイスナンバーを付番しなかったのだろうか。筆者は、その理由について、次のように考えている。すなわち府省庁に送付した請求書の額面から、裏金としてカットした額を、社内で作成する請求書に記入したからではないか。こうして裏金分をプールしたうえで、システム監査・会計監査を受けている可能性があるのだ。

繰り返しになるが、これはあくまでひとつのシュミレーションである。インボイスナンバーを故意に外している事実から推測して、可能性が高いシュミレーションである。ある意味では、古典的な手口なのだ。

◇会計検査員に調査申し立て

現在、筆者はこの問題について会計検査院に調査を申し立てている。筆者は調査が終わるまで、各省庁は、博報堂に対して電通と同様に入札禁止の処置を取るべきだと思う。あるいは会計検査院は調査を急ぐべきだろう。

■会計検査院への調査申立書

■陳述書 

新聞各社に対しては、博報堂から受け取った新聞広告費の明細を明らかにするようにお願いしたが、朝日新聞と東京新聞から、応じられない旨の回答があっただけで、他社からは問い合わせに対する回答すらもなかった。

なお、博報堂には内閣府や内閣官房から審議官らが天下りしている。