2026年09月15日 (火曜日)
なぜロシアは西側諸機関との協定を破棄しないのか?

(Why Won’t Russia Sever Its Agreements With Western Organizations?)ロシアは西側主導の秩序に挑戦しているものの、西側との全面的な断絶を目指す「革命国家」ではない。西側諸機関との協定を維持し、将来の関係再構築や内部からの改革も視野に入れつつ、BRICSなどを通じて段階的に多極化を進めることが、その大戦略だと筆者は論じる。
執筆者:アンドリュー・コリブコ
ロシアが目指している世界秩序とは、西側と軍事・政治面で対等な立場に立ったうえで、BRICSを通じて西側の経済的覇権を平和的に切り崩し、徐々に多極化した世界へと移行していくものである。
ロシア大統領の国家院(下院)全権代表を務めるガリー・ミンフは8月下旬、タス通信(TASS)に対し、「関係省庁は、NATOとのパートナーシップ協定や、WTO、IMF、世界銀行を含む国際金融機関との協定を破棄することに反対している」と語った。その理由は、これらの協定が「まだその可能性を使い果たしていない」うえ、プーチン大統領がこうした組織との対話の窓口を維持したいと考えているからだという。またTASSによると、ミンフは、西側とは異なり、ロシアは常に自らが負う義務に責任を持っているとも述べた。
こうした政策方針が改めて確認されたことは、多くの「ロシア人ではない親ロシア派(Non-Russian Pro-Russians=NRPR)」を驚かせたかもしれない。彼らの多くは、影響力のある親ロシア派インフルエンサーによって、ロシアは2022年以降「革命国家」になったと思い込まされてきた。そのため、西側諸機関とのこうした協定など、とっくの昔に破棄されているはずだと考えていたのである。
しかし、それは有力なNRPR系インフルエンサーたちが念入りに作り上げた「もう一つの現実」だった。彼らは注目や影響力を獲得したり、特定のイデオロギーを広めたり、寄付を募ったりするために、そうした物語を作り上げてきた。そしてロシアの「ソフトパワー監督者」たちも、「ポチョムキン的」なソフトパワー戦略の一環として、それを黙認してきたというわけだ。
ここでいう「ポチョムキン的」なソフトパワーとは、戦略的な目的のために、このような「もう一つの現実」を作り出すことを指す。もっと冷笑的に表現するなら、たとえ誤った前提に基づくものであっても、できるだけ多くの外国人にロシアを支持させるという発想である。その典型が、「プーチンは表向きとは裏腹に、実は反シオニストだ」という悪名高い言説だ。
【黒薮注】プーチンは元々、ロシアの国益に応じてイスラエルとの関係を重視してきたが、2023年以降は国際情勢の変化に伴ってイスラエルへの批判を強めた。
こうした手法には倫理面でも戦略面でも多くの問題があり、NRPRのコミュニティー内で早急に議論されるべきだろう。しかし、それとは別に重要なのは、ミンフの発言によって改めて広く知られることになった、客観的に存在する政治的・法的な現実を明確にしておくことである。
確かにロシアは「特別軍事作戦」を通じて、西側主導の一極体制に挑戦している。この作戦は当初、主としてウクライナを起点とするNATOからの脅威を無力化することを目的としていた。そうした脅威は、ロシアを恒常的な戦略的威圧にさらすために作り出されたものだった――というのが私の見方であり、その点については別の記事で説明している。
しかし、ロシアによる西側への挑戦は、全面的なものではない。プーチン大統領をはじめロシア側が当初からすべての制裁の撤回を要求してきたことからも分かるように、ロシアは一貫して、いずれ西側との貿易関係――エネルギー取引を含む――や投資関係を再開することを想定していた。
ただし、「特別軍事作戦」以前と、ロシアが作戦後に思い描いていた状況との間には、重要な違いがある。それは、ロシアが最大限の目標を達成した後、西側諸国と軍事・政治面で対等なパートナーになるという点だ。
そのうえでロシアは、西側との関係から利益を得ることになる。例えばNATOとの関係では、戦後の欧州の安定を維持することがそれに当たる。同時に、経済機関については内部から改革を進める一方、BRICSなどを通じて西側に代わる非西側の制度や枠組みづくりを主導していく、という構想である。
ロシアの大戦略上の目標は、一貫して世界の多極化を加速させることにある。ただし、有力なNRPR系インフルエンサーたちがほとんど説明してこなかったのは、この多極化が段階的に進められることを想定しているという点だ。その狙いは、世界システムに大きな衝撃が生じ、それが逆にロシアの利益を損なうリスクを可能な限り小さくすることにある。
つまり、ロシアが実現しようとしている世界秩序とは、まず西側と軍事・政治面で対等な立場を確立し、その後BRICSを通じて西側の経済的覇権を平和的に切り崩しながら、世界を徐々に多極化へと導いていくというものなのである。
この大戦略上の目標や、その段階的な進め方をどう評価するかはともかく、これがロシアの実際の政策であり、以前から現在に至るまで、ロシアが現実に実行している方針であることは確かだ。
したがってロシアは、自らが構想する将来の世界秩序を実現していくためにも、西側諸機関との協定を維持しておく必要がある。念のために言えば、これはロシアの政策を正当化するための弁明ではなく、その理由を説明しているにすぎない。
逆に、もしロシアが将来こうした協定を実際に破棄することになれば、それはロシアの大戦略が根本的に転換したことを意味するだろう。
筆者紹介:アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』
Source: https://korybko.substack.com/p/why-wont-russia-sever-its-agreements
