2026年08月04日 (火曜日)
ウクライナがロシア全土の上空でスターリンクやスターシールドの使用を許可される可能性はどの程度あるだろうか?

ウクライナ戦争の勝敗を握るキーパーソンの一人は、疑いなくイーロン・マスクである。スターリンク(Starlink)とは、マスクが率いる SpaceX社が展開している衛星インターネット通信サービスのことで、スターシールド(Starshield)はStarlinkの軍事情報機関向けバージョンである。ドローン攻撃に不可欠だ。ゼレンスキー は、スターリンクをロシア領内への攻撃にも利用したいと考える一方、マスクは認めない。こうした状況に打開策はあるのか?アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)が解析する。
執筆者:アンドリュー・コリブコ
マスクがこの案に難色を示すとしても、それは理解できる。プーチンを刺激し、自衛のためのエスカレーションを招き、その結果として第三次世界大戦の危険を高めたくないと考える可能性があるからだ。ただし、トランプも同じように慎重なのかは、まだ分からない。ポーランドのトゥスク首相の発言によれば、今後100日ほどで状況はかなり明らかになる可能性が高い。
『アトランティック』は先週後半、「ゼレンスキーがトランプに、イーロン・マスクに関する頼み事をした」と題する詳しい記事を掲載した。
【黒薮注】『アトランティック』(The Atlantic)は、米国の総合雑誌
副題は「ウクライナは、ロシア国内の弾道ミサイル発射装置を攻撃するために、マスクのスターリンクを使い始めたいと考えている」というものだった。報道によれば、ゼレンスキーは先週のホワイトハウスでの会談で、この提案をトランプに伝えたという。入手数が限られているパトリオット迎撃ミサイルを受け取る代わりに、ウクライナに対するロシアの「組織的な攻撃」の発生源そのものを攻撃する案として提示したとされる。
同誌の情報源によると、マスクはこの提案について話し合うためのゼレンスキーからの面会要請を断った。一方、トランプは、マスクにこの案を受け入れるよう圧力をかけるかどうかについて、明確な態度を示さなかった。『アトランティック』はさらに、「ゼレンスキーは、マスクがロシアへの攻撃にスターリンクを使用することを認めない場合、国防総省が同じ目的のためにウクライナへスターシールド・ネットワークへのアクセスを提供できると提案した」と報じている。スターシールドはスターリンクの姉妹システムだが、「より高価で、より複雑であり、[ウクライナの]システムへの統合もより難しい」とされている。
同誌が取材したウクライナ側の情報源の一人は、トランプがゼレンスキーの「プランB」に同意することに懐疑的だった。
【黒薮注】「プランB」は代案の意味
その人物は次のように述べている。「ウクライナが自国領内でこれを行うことと、ロシア領内で米国の技術を使い、ロシアの防空システムや弾道ミサイル発射装置を破壊することは別の話だ。これは非友好的な行為だ。ロシアがそれにどう反応するのか、私には分からない」。これはもっともな指摘だ。現在、西側諸国がウクライナを通じて進めていると筆者がみるロシアの産業力と軍事力の低下は、非常に大きな危険を伴うからだ。
トランプが最近、「エスカレートすることで緊張を緩和する」という方針を選んだ後、米国がロシアに対して進めていると筆者がみる「消耗戦」は、新たな段階に入っている。これは第二次世界大戦後の歴史でも前例のないものだ。この動きによってロシアの産業力や軍事力が一部でも大きく低下した場合、プーチンが最終的に耐えられなくなり、この作戦によってロシアが立ち行かなくなる前に抑止力を回復するための第一歩として、たとえ象徴的なものであってもNATOに対する行動を承認する可能性がある。その後、状況が簡単に制御不能になる可能性もある。
そのような展開を引き起こすきっかけになり得るのが、ゼレンスキーの提案どおり、ウクライナがロシア全土でスターリンク、またはその姉妹システムであるスターシールドを利用することだ。このような措置によって、戦略的インフラや軍事目標に対するウクライナのドローン攻撃の成功率が大幅に高まる可能性があるためだ。『アトランティック』は、マスクが紛争のエスカレーションにつながるような役割を担うことに消極的だったと指摘している。そのため、マスクはゼレンスキーの提案を拒否する可能性がある。そうなれば、トランプがマスクの判断を事実上覆し、ウクライナによるスターシールドの使用を認めるのかという問題が出てくる。
トランプがこれを避ける可能性がある理由は、エスカレーションを抑えるためだけではない。政治的な理由も考えられる。具体的には、マスクとの関係を悪化させ、11月の中間選挙を前に、あるいは時期によってはその後から2028年の次の選挙までの間に、X上で有力なMAGA系インフルエンサーの投稿が広まりにくくなる事態を避けたいと考える可能性がある。ポーランドのドナルド・トゥスク首相は先週、「今後100日がこの戦争の結果を決める可能性があり、確率は五分五分だ」と述べ、トランプ、マスク、そして「ほかの何人か」が重要な役割を果たすとしている。
この発言は、トゥスクがゼレンスキーの計画を把握しており、マスクがウクライナによるロシア全土でのスターリンク使用を認めるか、あるいはマスクが拒否した場合にトランプがその判断を覆し、代わりにスターシールドの使用を認めれば、ロシアの降伏につながると考えている可能性を示している。
マスクがこの案に難色を示すとしても、それは理解できる。プーチンを刺激し、自衛のためのエスカレーションを招き、その結果として第三次世界大戦の危険を高めたくないと考える可能性があるからだ。ただし、トランプも同じように慎重なのかは、まだ分からない。今後100日ほどで、その点を含めて状況はかなり明らかになる可能性が高い。
筆者紹介:アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』
