1. 水増し請求疑惑の根拠、「CMは本当に放送されているのか」②

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2018年10月09日 (火曜日)

水増し請求疑惑の根拠、「CMは本当に放送されているのか」②

CMのクライアントが広告代理店と交わした放送契約どおりに、CMが放送されているかどうかを検証するためには、CMの放送記録である放送確認書の性質を正しく把握しておかなければならない。この点を曖昧にしておくと、CMに関する不正を見抜くことはできない。

結論を先に言えば、放送確認書は公式の証明書である。CMが放送されたことを示す証明書なのだ。学位を示す卒業証書や、国籍・身分を示すパスポート、金の受け取りを示す領収書と同じように、放送確認書は、CMを放送したことを示す証明書なのである。従って単なるペーパーとは、その重みが異なる。

放送確認書が導入された経緯については、1990年代の後半に静岡第一テレビや福岡放送なので、大量のCM間引き事件が発覚したことである。テレビ業界の信用を回復するために、民放連などがコンピューターによる放送確認書の発行をシステム化したのである。これによりCMが放送されると、それをコンピューターが認識して、データを蓄え、自動的に放送確認書が出力されるようになったのである。

人間が人工的になにか作業を加えないことで、偽造のリスクを減らしたのだ。

このシステムが導入された当初にも、事故は起きているが、それはシステム上のトラブル、たとえばナイター中継でCM放送のスケジュールが変更になったが、それが反映されなかったといったケースで、いわゆる人の手による書面の偽造ではない。それゆえに放送確認書は、極めて信頼性の高いものとして定着している。民放連は、このシステムの導入を義務づけている。

◇疑問点だらけの放送確認書

次に偽造の意味について述べておこう。偽造には多種多様ある。犯罪としてよく問題になるのは、紙幣の偽造である。たとえば1万円札。福沢諭吉の像の位置がずれていたり、紙幣に番号が刻印しいてなかったり、紙幣のすかしがなかったら偽造紙幣だと分かる。放送確認書の場合も同じである。具体的には、次の諸点に着目しなければならない。

①10桁のCMコードが付番されているかどうか。

②テレビ局の印鑑がない。あるいはあっても位置が一定ではない。

③放送確認書がモノクロになっている。

④発行番号がない。

⑤放送確認書が「代筆」されている。

⑥テレビ局等の住所が間違っている。

⑦放送確認書の発行日とCM放送日が整合していない。

⑧放送確認書の発行日が月末締め、翌月初旬の発行になっていない。

①~⑧の要件のどれかに該当すれば、それは人力で放送確認書が偽造された可能性が高いといえる。

◇発行日の誤り

2018年9月になって、アスカコーポレーションが博報堂から受け取った放送確認書が偽造されている疑惑が持ち上がった。次に示すのが、分かりやすい具体例のひとつである。実物を提示して、解説を加えよう。

 

①~③はいずれもFOXインターナショナル・チャンネルズというテレビ局が発行した放送確認書である。これらの書面によると、CM放送は2012年2月に放送されたことになっている。当然、放送確認書は2月末締めで、3月初旬に発行される。広告代理店が前月分の請求書を発行する必要があるから放送確認書も必要になり、月末締め次月初旬発行になるのだ。

以上を踏まえて、筆者は2つの点を指摘しなければならない。まず、CM放送は2012年2月に放送されたのに、②の放送確認書の発行日が7月5日に
なっている点だ。①と③は、3月2日に発行されている。正常の範囲だ。

◇社印の位置が異なる

次に①~③社印の位置に注意してほしい。以下の解説と見解は、筆者(黒薮)の個人的なものである。

①~③は、全て微妙に位置関係が異なっている。読者には、0.05ミリ単位で、位置関係を観察してみてほしい。社印の高低差、背景にある住所やFAXを示す文字と、社印の接触点がそれぞれ微妙に異なっている。最も分かりやすいのは、②と①③の比較。②では社印の底辺が、社名の上にあるが、①③ではFAX番号の上にある。

不正のない放送確認書では社印の位置は一定だ。たとえば次の放送確認書の社印を確認してほしい。0.001ミリの狂いもない。これがこれがコンピューターによって出力された正常な放送確認書の社印の位置関係なのだ。

 

 

つまりFOXインターナショナル・チャンネルズの①②③の放送確認書は、コンピューターが自動的に出力したものではなく、なんらかの方法で人工的に偽造したものである可能性が極めて高いのだ。

放送確認書は、ひとつの基幹システムから出力されるのだから、タイトル、社印、住所といった記述の位置は精巧に固定されていると考えるのが自然だ。と、なれば社印の位置がそれぞれ異なる事実は、人的な作業が行われた重大な疑惑となるのである。一万円札で福沢諭吉の像が定位置が1ミリでもずれていれば、偽造の可能性が高くなるのと同じ原理だ。

コンピューターの基幹システムから出力されたものではない可能性が高い。