
昨年、電通と博報堂の業務実態が社会問題としてクローズアップされた。広告依存型のビジネスモデルが定着している日本では、大手広告代理店の批判は、かつてはタブーだった。しかし、インターネットの台頭で変化の兆しが現れてきた。
年頭にあたり、元博報堂の社員で、作家の本間龍氏に、これら2社が内包する問題を総括してもらった。
執筆者:本間龍(作家)
◇電通タブーの終わり
2017年が明けた。昨年は12月28日に電通の石井社長が突然辞任を発表し、昨年後半から広告業界だけでなく日本中を揺るがせた「電通問題」に一つの区切りがついた形だ。
しかし、東京労働局はまだ捜査を続行しており、数名の幹部社員を書類送検する可能性があるという。電通としては社長の首というジョーカーを切ったことで何とか終息を図りたいのだろうが、実は一連の電通事件はこれからが正念場を迎えるので、年初に整理して示しておきたい。
多くの国民にとって「電通事件」とは新入社員自殺事件に端を発した電通の労務管理問題に映っているかも知れないが、それはほんの一面に過ぎない。社員の命すら軽んじ、儲けるためには不正をも是としながら、圧倒的なシェアを背景にあらゆるメディアや下請け企業に対して傲慢で高圧的な態度をとり続けてきた企業体質こそが真の問題であり、今年はさらにそれらが白日の下に晒される年になるだろう。これから明らかになる、もしくは問題になるであろう電通案件はこれだけある。
A 社員自殺事件の責任問題、残業代未払いに関する追送検
B ネット関連業務における巨額不正請求の実態解明
C オリンピック招致における裏金疑惑
D 書類送検を受けての官業務、とりわけオリンピック関連業務の指名停止の可能性
Aは昨年の書類送検に伴うもので、電通幹部のさらなる立件の可能性があり、まだまだ予断を許さない。Bは、昨年9月27日の記者会見で、昨年末までの調査発表を約しながら越年した案件である。
9月時点で対象企業がトヨタをはじめ110社、2ヶ月調査しただけの不正請求額が2億3千万円という内容だったから、その後の内部調査でさらなる追加件数と金額増になっているに違いない。そのまま年末に発表していたら、過労死問題との強烈なダブルパンチになるとの危惧から発表を先延ばしにしたのだろう。
Cはフランス検察による捜査が続行中で、国内と違って海外メディアに電通の恫喝は効かないから、いつ何時とんでもない発表が海の向こうから飛んでくるか分からない。こちらももし「クロ」裁定が出れば、国内どころか海外で批判の火の手が上がるだろう。
◇玉木雄一郎議員が深刻なコンプライアンス違反を指摘
そしてDのオリンピックにおける業務停止こそ、電通が最も恐れる最悪の事態である。私は昨年10月頃からこの可能性について指摘してきたが、昨年12月28日の記者会見の場で共同通信が「今回の件はオリンピック業務に影響を及ぼさないか」と質問するなど、複数のメディアがその可能性について調べ、言及を始めている。
また、「月刊日本」の1月号で民進党の玉木雄一郎議員は『深刻なコンプライアンス違反を犯した電通にオリンピックを取り仕切る資格はない。「社会的責任」や「倫理規範の尊重」を重んじる五輪憲章やその理念に反しているからだ。これらの問題について国会や行政、マスコミは調査すべきで、裏金疑惑の説明責任や社員自殺を受けての再発防止が出来ないのなら、電通はオリンピックから撤退すべきだ』と発言している。
まさしくその通りで、いよいよ国会での釈明が必要になり、電通の次期社長が証人喚問される可能性すらあるのだ。そしてその対応を誤れば、独禁法違反を名目とした「電通の分割」まで追及が広がる可能性もある。つまり、今年こそが電通にとって「正念場」となるのは間違いないのだ。
◇深刻だが、電通の影で見えにくい博報堂事件
一方、業界2位の博報堂はどうか。電通パッシングの陰に隠れてはいるが、同社も官・民両方面に大きな問題を抱えており、今年は厳しい年になりそうだ。民間企業に訴えられている「アスカ事件」は、長年(株)アスカの広告を担当していた博報堂が、同社の信頼を良いことに多額の広告費を水増し請求していたというもので、制作費関連で約15億円、媒体費関連で約42億円もの返還訴訟を起こされている。
裁判はまだ始まったばかりだが、「顧客第一主義」を掲げる博報堂がスポンサー企業からこれだけ巨額の訴訟を起こされた例はない。110社以上に対してネット関連業務の不正請求を繰り返していた電通でさえどこからも訴訟を起こされていないのに、7年近く広告宣伝業務を独占受注していた元スポンサーから訴訟を起こされるというのは、博報堂の顧客対応能力に問題があると言わざるを得ない。
しかも訴状資料と博報堂の答弁書を見る限り、博報堂側の過失は明らかである。通販用パンフレット制作費の短期間での異常な上昇、出演タレントの契約費が毎年値上りするなど、あまりの杜撰さに失笑してしまうレベルだ。さらにはビデオリサーチの視聴率を改竄して提出していたことに対し、答弁書で「視聴率は番組選定における一つの指標に過ぎず、特に重要ではない」と反論するに至っては、一体なにを言っているのだと情けなくなる。
ただこの事件は、博報堂という企業全体というより、一担当者の度を越した利益追求によって引き起こされた色合いが濃い。だから博報堂がこの社員を庇って社のメンツのために法廷で争い傷を広げるよりも、どこかでアスカ側と話し合いを持って和解する方が、同社のためではないかと考える。
◇内閣府と博報堂の不可解な関係
もう一つの、内閣府を中心とする不可解な巨額請求案件は、より深刻である。期初に提出した見積もりの数倍、数十倍の請求が毎年期末に起こされ、しかもその内容は全て黒塗りで中身が確認できないのでは、架空請求を疑われても仕方がない。
例えば、内閣府側は2015年の「政府広告コミュニケーション戦略の構想」の見積りを構想プランの作成費だと釈明しているが、プランの作成に6700万円もかけるなど、聞いたことがない巨額だ。シンクタンクに依頼しても、単年度の案件でそんな金額のプラン作成などあり得ないだろう。さらに、その疑問に対して成果物を開示できないとする内閣府の姿勢はどうみてもおかしい。
さらに内閣府に限っていえば、博報堂から提出されている掲載媒体の請求書は同社の正式な請求書様式ではなく、営業担当部署による手打ちのエクセル書式だ。つまり、経理システム上で実際の請求額と紐付けがなされておらず、いかようにも内容を改変できる「ただの紙切れ」に過ぎない。
それでさえ詳細が黒塗りでは、一体何をやっているのかと誰でも疑問に思うだろう。しかも、支払われているのは全て税金である。その用途を開示するのは行政の義務ではないか。
内閣府は内調をも所管する政権の中枢であり、しかもそのナンバー2が博報堂に天下っていたという。もし内閣府が博報堂と組んで架空請求を起こさせ裏金を作っているとすれば、これは電通事件に匹敵する巨大なインパクトを社会に与えるだろう。黒藪氏の精力的な調査に全面協力し、この疑惑解明に努力していきたい。

1月1日、キューバは58回目の革命記念日をむかえた。今年はフィデル・カストロなき革命記念日だ。また、この日は、中米エルサルバドルの内戦が終結した日でもある。
前者については、当然、わたしには記憶がないが、後者については鮮明に覚えている。当時、わたしはメキシコシティーに在住していた。露店で元旦の朝刊『ホルナダ』を買ったところ、第一面に大きな見出しが、「エルサルバドル内戦終わる」と出ていた。FMLN(ファラブンド・マルティ民族解放戦線)の兵士たちが抱き合って喜んでいる写真が掲載されていた。1992年のことである。
◇エルサルバドル和平から25年
その後、FMLNは合法政党になり、2009年の大統領選挙でマウリシオ・フネスが勝利して政権の座についた。現政権はFMLNの2期目である。
内戦中、当時のエルサルバドル政府は、内戦の原因がキューバにあるとしてカストロ政権を厳しく批判していた。米軍も同じ口実の下で、指揮官をエルサルバドルに送り込み、政府軍の軍事訓練の指揮を執っていた。
これに対しフィデルがどこかのメディアで、内戦の原因は空腹であり、軍による暴力であり、文盲の放置であり、人命軽視であり、・・・と反論していた。実際、エルサルバドル政府軍による人権侵害は凄まじかった。
たとえば1980年3月24日、首都サンサルバドルのロメロ大司教がミサの最中に政府軍の兵士に狙撃された。さらに軍部は、ロメロ大司教の告別式に集まってきた民衆に向かって無差別に銃を乱射した。犠牲者は40名とされている。政府軍が標的にしていたのは、左派だけではなかった。
この年の10月に、それまでばらばらだった5つのゲリラ組織が統一してFMLNを結成した。そして首都サンサルバドルへ向かって大攻勢をかけたのである。首都陥落は時間の問題との見方が有力だった。ところが米軍の介入が始まったのだ。こうしたエルサルバドルは泥沼の内戦に突入した。
◇民族自決主義者たち
米国はニカラグア革命についても、その背景にキューバがいるとして、1979年の革命後、FSLN(サンディニスタ民族解放戦線)による新政権に対し、武力攻撃に乗りだした。ニカラグアを経済封鎖し、隣国ホンジュラスを米軍基地の国に変え、コントラと呼ばれる傭兵部隊を組織して、内戦を仕掛けたのである。
1980年代から90年にかけて展開された中米紛争の背景にキューバの影響があったことは間違いない。が、より決定的だったのは、精神的な影響だった。解放戦線の戦士らが理想としていたのがフィデル・カストロやチェ・ゲバラといったキューバ革命の戦士だった。
もちろんサンディノやファラブンド・マルティといった中米の民族自決主義者の影響も大きいが、キューバの支援があったことは否定できない。アフリカのアンゴラについても、キューバは支援していた。
◇グランマ号の遠征
フィデル・カストロについて、わたしが思いをめぐらせたのは、1985年、マイアミから空路、新生ニカラグアへ向かう機の中だった。カリブ海の上空を縦断しながら、眼下に広がる海を見ていると、エメラルド色の海面に自分が吸い込まれてしまうような恐怖に襲われた。太陽の輝き。白い波。光の乱反射。空とも海とも見分けがつかない不思議な空間が広がっていた。
国民が混乱し、苦しんでいるのを見る者は、平和と名誉のために見えざる扉を探し求めよ。そうでない者は名誉ある人間ではない。(ホセ・マルティ)
この海を1956年に、フィデルら84人の戦士が12人乗りのクルーザー「グランマ号」で渡ったのである。それはだれが見ても、人命よりも理想を優先した無謀な冒険に違いなかった。が、同時にそれは青春にしか与えられない特権でもあった。
グランマ号の遠征から60年。2016年、キューバは米国との国交を回復した。それを見届けるようにフィデルがその年の11月にこの世を去った。キューバ革命の時代は終わったのである。
しかし、グランマ号に象徴される精神は不滅に違いない。
それはおそらくジャーナリズムの世界でも応用できるだろう。

◇博報堂事件の第1ステージ
◇テレビCMの「中抜き疑惑」
◇放送確認書の偽造
◇博報堂事件の第2ステージ
◇全省庁に対して情報公開の開示請求
◇通信社OBらの支援
◇報道の広がり
◇戸田裕一社長名で巨額請求を繰り返す
この一年、わたしは博報堂がかかわった事件と向き合った。
その糸口は2月に1本の電話を受けたことだった。化粧品などの通販会社・アスカコーポレーション(本社・福岡市)からの電話で、折込広告の水増し被害を受けた疑いがあるので、資料を検証して、アドバイスをもらえないかという申し入れだった。
断る理由はないので引き受けた。折込広告の詐欺は、わたし自身が取り組んできたテーマである。
数日後、アスカから郵送されてきた資料を精査したところ、確かにアスカが折込詐欺の被害を受けていた可能性があることが分かった。たとえば東京・町田市の新聞のABC部数が約13万部しかないのに、15万枚の折込広告が見積もられていた。新聞購読者にもれなく折込広告を配布しても、13万枚あれば十分で、2万枚が過剰になる計算になる。
もっとも、なにか別の目的で2万枚を余分に印刷したというのであれば、別問題だが。「折込詐欺」は水面下の社会問題になっているので、わたしは取材することにした。
たまたまこの時期にアスカが本拠地としている福岡市近郊の久留米市へ取材にいく予定があった。メディア黒書でも取り上げている佐賀新聞の「押し紙」裁判の取材である。
この機会を利用して、わたしは福岡市のアスカを訪問した。情報の提供会社に直接あって、相手が信頼できる企業かどうかを確かめておく必要があったからだ。
アスカの社員から直接事情を聞いてみると、折込広告に関する疑惑以外にも、テレビCMの「中抜き」疑惑や、嘘の視聴率を提示してCMの口頭契約を結ばされた疑惑など、問題が山積していることが分かった。
係争の相手が博報堂であることも意外だった。紳士的なイメージがあったからだ。ただ、大手広告代理店に対するタブーがあることも知っていた。日本のメディア企業の大半は、広告依存型のビジネスモデルなので、広告代理店を抜きにすると経営が成り立たなくなるからだ。
逆説的に見れば、ジャーナリズムの光があたらない業界は、内部が腐敗していることが多い。タブーの領域こそが最高の取材対象になるのだ。この矛盾がジャーナリズムの魅力でもある。
そこでわたしはアスカに対して、博報堂との過去の取引に関する全資料を提供してくれるようにお願いした。2週間後に、段ボールいっぱいの資料が送られてきた。全資料ではないが、アスカが疑惑を抱いている取引に関する記録である。こうして博報堂事件の第1ステージの取材が始まったのだ。大手広告代理店に対するタブーに挑戦することになったのだ。
ちなみに博報堂は、完全にわたしの取材を拒否した。
◇博報堂事件の第1ステージ
事件の発端は、メディア黒書で既報してきたように、アスカの資金繰りが苦しくなり、同社のPR業務を独占していた博報堂に対する未払い金が発生したことである。博報堂はアスカの銀行口座を仮差押さえなどの強引な策に出たあげく、2015年の秋に6億円の支払いを求める裁判を起こした。
その結果、アスカには博報堂との過去の取引を精査してみる必要が生じた。6億円の支払いを求められて、本当に支払い義務があるかどうかを検証しない者はいない。そこで過去の取引を精査する作業に入ったのである。
その結果、博報堂の請求方法などに多種多様な疑惑が浮上してきたのだ。そして2016年5月、逆にアスカの側が博報堂に対して15億円の返金を求める訴訟(不当利得返還請求)を起こしたのだ。
さらに8月には、博報堂が過去に提示していたCMなどの番組提案書に嘘の視聴率が記されていたとして、番組提案書の無効を求める裁判を起こしたのだ。この裁判の請求額は約43億円だった。
PR業務はテレビCMの制作から、新聞広告の制作・掲載、イベント、それに情報誌の編集・制作まで多岐に渡るので、当然、裁判の争点も多い。分かりやすい具体例を、メディア黒書に掲載した記事からいくつか紹介してみよう。
■元博報堂・作家の本間龍氏がアスカの「15億円訴訟」を分析する、後付け水増し請求という悪質な手口①
■元博報堂・作家の本間龍氏がアスカの「15億円訴訟」を分析する、得意先の企業を欺く愚行の連続②(執筆:本間龍、作家)
■博報堂による「過去データ」流用問題、編集の実態、アスカ側は情報誌のページ制作費だけで7億円の過剰請求を主張
■プロの眼が見た博報堂事件、テレビ視聴率の改ざんをめぐりアスカコーポレーションが提起した42億円訴訟①(執筆:本間龍、作家)
■博報堂がアスカに請求したタレント出演料の異常、「 契約金が翌年に20%も上昇することなど有り得ない」
■朝日放送による「番組の中止→料金請求」問題で放送倫理・番組向上機構(BPO)に申し立て、放送確認書の代筆者は博報堂
◇テレビCMの「中抜き疑惑」
ちなみにテレビCMの「中抜き疑惑」も浮上している。「中抜き疑惑」とは、秘密裏にCMを放送しない行為をさす。しかし、「中抜き」は記録に残る。テレビCMがコンピューター管理されているからだ。
完成したCMに10桁のCMコードを付番しておくと、そのCMが放送された時、コンピュータに放送実績が記録される。そして放送確認書をプリントアウトすると、書面の中にCMコードが表示されている。
博報堂事件では、このCMコードが非表示になっている番組が、少なくとも1508件あることが判明したのだ。このうち979件が、スーパーネットワークという衛星放送局の取り扱い分だった。この会社について調査してみると、博報堂の株が50%入っていることが分かっ
た。博報堂そのものである。
CMの「中抜き」は、1990年代の後半に、福岡放送、北陸放送、それに静岡第一テレビで発覚し、大きな問題になった。再発を防止するために、放送関係者と広告関係者が、2000年から10CMコードでコンピュータ管理するシステムを導入した経緯があった。従って放送確認書のCMコードが非表示になっていれば、常識的には、CMは放送されていないと判断できる。
もちろんアスカは、放送されていない可能性が高いCMの料金も徴収されていた。博報堂を過信していた上に、請求書の送付が経理「締め日」ぎりぎりだったこともあって、請求内容などをよく確認する時間的な余裕がないまま、支払い承認をしていた結果である。
◇放送確認書の偽造
その放送確認書を何者かが偽造していたケースも判明している。この事件については、詳しく報じたので、記事をリンクしておこう。
■博報堂事件、放送確認書そのものを何者かが偽装した疑い、確認書の発行日とCM放送日に矛盾
◇博報堂事件の第2ステージ
博報堂事件の第2ステージは、博報堂と省庁の関係を検証する作業である。具体的には、省庁から博報堂に対するPR関連業務の発注実態の調査だ。
わたしが第2ステージに着手することになったのもまったくの偶然である。わたしは従来から新聞社を取材してきたこともあって、公共広告の出稿実態を定期的に調査してきた。その調査対象のひとつが内閣府である。
2015年度(2015年4月1日~2016年3月31日)に広告代理店が内閣府に送付した請求書を情報公開請求で入手して精査したところ、1点だけ尋常ではないものが出てきた。それが博報堂が内閣府に送付した次の請求書である。
この請求書については、メディア黒書で繰り返し公表してきた。注目してほしいのは、27ページである。27ページから請求書に対応する契約書が掲載されている。
契約書によると、契約額は約6700万円だ。しかし、複数の請求書の金額を合計すると請求額が20億円を超えていたのだ。
これについて内閣府は、6700万円は、この企画の「構想費」にあたり、他のPR活動については、口頭とメモで、博報堂に指示を出していたと説明している。見積書も存在しない。博報堂がこのような請求を繰り返し、内閣府が支払いに応じてきたのである。博報堂事件の第一ステージで、博報堂が後付け請求で請求額を増やす手口を把握していたので、わたしは直感的に怪しいと思った。
実は、この不自然な請求と支払いに関しては、かなり多くの情報や感想がメディア黒書に寄せられている。その中に興味深い証言があった。
「これは博報堂が正規に使っている請求書ではありません。おそらくエクセルで作成しています」
別の証言者は、
「他年度でも同じことをやっていますよ」
他年度でも同じことをやっていれば、疑惑のある金額は莫大になる。そこでわたしは裏付けを取るために、内閣府に対して2011年度から2014年度、さらに2016年度を対象として、博報堂が内閣府に送付した請求書の情報公開を申し立てた。(2015年度については、既に入手済み)。
その結果、2012年度から、請求額が契約額を大きく上回る請求パターンが繰り返されていることが判明したのだ。この特殊な請求書方法については、さまざまな分野の専門家に意見を聞いた。いくつか紹介しょう。
「これだけ金額が大きいわけですから、見積書がないとすれば、なにかそれに代わる書面があるはず。それがなければ支出はできない」(弁護士)
「このような請求書方法は聞いたことがない」(税理士)
「1件の広告ごとに見積書、契約書、請求書がなければおかしい」(税理士)
「これは博報堂の正規の請求書ではない」(黒書への情報提供)
「これだけの額(20億円)が新聞広告の掲載料というかたちで新聞社に流れているとすれば、メディア対策費の性質が出てくる」(黒書への情報提供)
さらに調査を進めるうちに、メディア企業に対して支払われた広告料の総額が、予算枠をはるかに上回っていることが判明した。つまり決められた予算とは、別の財源から資金を調達した疑惑があるのだ。そのための工作なのか、全請求書に日付が付されていない。これについては次の記事で報告した。
■内閣府は2015年度の広告費をどこから調達したのか、少なくとも5億200万円の出所が不明、新聞社にも疑惑、大疑獄事件の様相
◇全省庁に対して情報公開の開示請求
内閣府に対する請求が不可解だったので、わたしは念のために他の省庁についても調査対象とした。博報堂との取引に関する内部資料(見積書、契約書、請求書)を開示するように、情報公開請求を行った。
12月になって開示が本格化した。その中で、たとえば、一件のウエブサイト制作に2100万円を請求していた事実などが判明した。
■内閣府に続いて文科省でも博報堂がらみの資金疑惑、 民主党の蓮舫氏らは事業仕分けで何をしていたのだろうか?
内閣府以外の省庁の調査はまだ始まったばかりである。黒塗りで開示された書面については、徹底的に調査する。
◇内閣府の阪本和道・元審議官が博報堂に天下り
年末の12月28日、衝撃的な情報がメディア黒書に寄せられた。元内閣府のナンバー2が2016年1月に博報堂に天下りしているので、調査するように読者の方がアドバイスをくれたのだ。
天下りとの指摘があった人物は、阪本和道・元審議官。「審議官」は内閣府のナンバー2のポジションである。過去に、広報室長、内閣官房内閣広報室内閣審議官も務めている。博報堂の業務はPRに関連したものであるから、窓口は広報室である。従って阪本氏は、博報堂とも接点があるといえよう。
博報堂による不自然な20億円請求の件について、阪本和道氏が事情を知っている可能性がある。少なくとも阪本氏に事情を取材する必要があるだろう。
幸いに、再就職等監視委員会という機関が、内閣府に設置されている。同委員会のウエブサイトには、次のように記されている。
再就職等監視委員会では、再就職等規制違反行為に関する情報収集のため、規制違反行為に関する情報を幅広く受け付けています。
来年早々、わたしは再就職等監視委員会に対して、博報堂が阪本氏を自社に就職させた背景を調査するように申し立てを行う予定だ。
◇通信社OBらの支援
省庁の取材に追われているうちに、今度は横浜市の市民から、博報堂JVが開国博Y150(2009年4月28日から9月27日までの153日間)で企画を請け負って、62億円を請求し、横浜市議会で大問題になったという情報提供があった。横浜市議を取材して記事にした。
■疑惑に満ちた横浜市の「開国博Y150」、博報堂JVとの契約額は約62億円
このように取材の範囲が広がりすぎて一人では、博報堂事件を処理し切れなくなった。そんな時、通信社のOBの人達が取材を手伝ってくれるようになった。作家で元博報堂社員の本間龍氏も、寄稿してくれるようになった。
このうち通信社のOBは、次のように話している。
「これまで広告代理店の請求書を詳細に調査するジャーナリズム活動はだれもやらなかった。だから盲点になっていた。広告代理店の側も、このような手法で調査されるとは想像もしていなかったのではないか。これは日本のジャーナリズムの暗部だ。ある意味では、『押し紙』問題よりも深刻だ」
◇報道の広がり
博報堂事件の第1ステージでは、『ZAITEN』、『週刊金曜日』、『ジャーナリスト』、『MyNewsJapan』が記事を掲載してくれた。このうち『週刊金曜日』は3回の連載を快く引き受けてくれた。やはり広告に依存しないメディアである。
また、第2ステージでは、『ビジネスジャーナル』が記事掲載の機会を作ってくれた。
メディア黒書の読者は、次のような感想を寄せている。
「博報堂には、電通とは違った問題があります。電通の場合は被害者が会社内部の女性ですが、博報堂の問題は、被害者が広告主です。しかも、民間企業だけではなくて、省庁に対しても、不自然な請求を繰り返しています」
「広告代理店は、所詮、国策プロパガンダの機関です。予算を5分の1程度に削減すべきでしょう。請求額が普通ではありません。金銭感覚が異常です」
国会では、議員定数を削減して人件費を抑制すると同時に、国民の参政権を狭めようとする動きがあるが、削減する分野が完全に間違っている。旧民主党は、「事業仕分け」で一体なにをやったのだろうか?
◇戸田裕一社長名で巨額請求を繰り返す
博報堂が発行した請求書には、すべて戸田裕一社長(冒頭写真)の名前が付されている。戸田社長名で、庶民感覚からすると、極めて不自然な請求を繰り返してきたことになる。
なお、メディア黒書で入手した情報は希望者に提供している。たとえば『紙の爆弾』の記者に情報を提供した。その結果、何度か『紙の爆弾』が博報堂事件の記事を掲載した。
情報は共有物との認識と精神で、来年も幅広く情報提供を進めたい。もちろん、「押し紙」問題や携帯基地局問題についての情報共有も同じ方針だ。

内閣府から博報堂に再就職(広義の天下り)した阪本和道氏について、詳しいことが分かったので紹介しておこう。この人物は、内閣府の元審議官である。
審議官について、ウィキペディアは次のように説明している。
内閣府の官僚においては内閣府事務次官に次いでナンバー2のポストであり、いわゆる次官級審議官職の一つ。現在の定員は2人。
経歴は次のようになっている。
香川県出身
1977年 一橋大学法学部卒業、総理府入省
1991年 国務大臣(総務庁)秘書官事務取扱
1994年 内閣府大臣官房参事官
1996年 内閣府賞勲局審査官
2000年 内閣府大臣官房参事官
2001年 内閣府賞勲局総務課長
2003年 総務省人事・恩給局総務課長
2004年 総務省大臣官房審議官(大臣官房調整部門担当)
2005年 総務省大臣官房政策評価審議官、電気通信事業紛争処理委員会事務局長
2006年 総務省人事・恩給局次長
2008年 内閣府大臣官房政府広報室長、内閣官房内閣広報室内閣審議官
2009年 内閣府賞勲局長
2012年 内閣府大臣官房長
2013年 内閣府審議官
2016年 株式会社博報堂顧問
◇博報堂との窓口は広報室
既報したように、メディア黒書が問題視している博報堂の請求書は、次のものである。
読者に注目してほしいのは、27ページから始まる契約書である。契約額が約6700万円であるのに、請求額の総額が20億円を超えているのだ。しかも、見積書は存在しない。広告の段あたりの単価も黒塗りになっている。
こうした請求方法が2012年度から始まっている。
なお、この問題について、わたしがビジネスジャーナルに記事を書いた際に、編集部から内閣府に対して、博報堂の窓口になっている部署を書面で質問したところ、広報室という答えが返ってきた。PR関係の業務だから、広報室が窓口になっているようだ。
阪本氏の経歴を見ると、広報室長、内閣官房内閣広報室内閣審議官の前歴もある。退官後、博報堂に天下った阪本氏が、不可解な請求書の件で何か事情を知っている可能性もある。また、どういう経緯で博報堂に再就職したのかも、今後、聞き出す必要がある。

メディア黒書では、博報堂が2012年ごろから内閣府へ送付してきた不自然な請求書について調査しているが、このほど阪本和道(元内閣府審議官)が退官後の2016年に博報堂に再就職(広義の天下り)していることが分かった。
裏付け資料は、内閣府が9月に公表した、「国家公務員法第106条の25第2項等の規定に基づく国家公務員の再就職状況の公表について」と題する文書である。
博報堂の不自然な請求書とは、請求額が契約額を大幅に上回っているものである。たとえば2015年度の場合、契約額が約6700万円で、請求額は約20億円となっている。その大半は、新聞広告の掲載費である。

執筆者:本間龍(作家)
28日、東京労働局は会社としての電通と、亡くなった高橋まつりさんの元上司と思われる社員一名を書類送検した。捜査は越年するとみられていたが、11月7日の強制捜査から僅か一ヶ月半という極めて異例の早さで進展した。
記者会見した労働局幹部は「一刻も早くやらなければと全力を挙げた。これで終わりではなく、捜査を続行して他にも送検すべき対象がいれば今後も訴追する。12月25日の高橋さんの命日も意識した」と語った。
これを受け電通は19時から記者会見を開き、石井直社長の1月引責辞任を発表した。石井氏は「高橋さんが亡くなったことは慚愧に耐えない。不退転の決意で改革を実行する」などと沈痛な表情で語った。
この記者会見を私はネット中継を見ていたのだが、実に不思議な光景だった。電通側登壇者は石井社長、中本副社長、越智人事局長の3名で、相当大きな会場なのに、集まったメディアは20人に満たないほどに見えた。まるで大きな体育館で、僅かな出席者が一カ所に集まって集会を開いているかのようだった。
◇大手広告代理店問題を報じはじめたNHK
会見後の質疑応答から察するに、参加したのは全国紙の記者、共同通信、時事通信、ハフィントンポストなどネットニュースサイトの記者や編集者などで、雑誌関係は質問者がいなかった。さらに、テレビ局はさすがに映像が必要だから撮影クルーはいたようだが、NHKとフジテレビ、日テレ以外は質問しなかった。全国紙記者とNHKが何度も繰り返し質問していたのに比べ、民放全体での消極性が鮮明になっていた。
前回記事でも述べたが、電通事件に関する報道はNHKの独壇場といった状況で、今日も夜7時のニュースで記者会見の模様を中継し、石井社長が深々と頭を下げる映像を流した。また、社長辞任を告げた数秒後にニュース速報のテロップも打った。さらに、夜9時の「ニュースウオッチ9」でもコーナーを作り詳報した。
民放はいまのところ30秒程度の短い報道しかしていないようだが、電通というメディアの中心にいる会社の社長が引責辞任するのに、明日以降のワイドショーやニュース番組でも今まで通りスルーするのだろうか。今頃各局編成部は鳩首会議の真っ最中に違いない。
◇刑事裁判化した場合の不利益を恐れて・・・
印象に残ったやりとりをいくつか紹介しよう。
まず、読売新聞の記者が「一連の問題発覚から数ヶ月経つが、社長の記者会見はこれが初めてだ。なぜこのタイミングになったのか」と問うと、石井社長は「遺族への謝罪を最優先と考えていたが、今まで許可を得られなかった。ようやく25日の一周忌に弔問が叶った。また、本日書類送検されたということで会見実施を決めた」と返答した。
さらに「会見が遅すぎたとは思わないか」と質されると「思いません」と回答した場面では、これまでメディアからの記者会見要請を散々無視してきたことを肯定するかのような即答ぶりだった。
そもそも高橋さんが亡くなってもう1年も経つのだ。その間は労災認定まで傍観し、認定後に騒ぎが大きくなったから慌てて謝罪しようとしても遺族に拒絶されたのは当然だったのだから、「遺族を最優先にした」などとは片腹痛い。さらに刑事裁判化した場合の不利益を恐れて今まで謝罪表明せず、延々と事態を悪化させた挙げ句の記者会見が「遅くない」とは、やはり傲慢という鎧が衣の下から垣間見えた瞬間だった。
さらにハフポストが「今年のブラック企業大賞に電通が選ばれた。世間にブラック企業と思われていることについてどう考えているか」と三者に回答を要請。これに対し、
石井社長「謙虚に受け止めて反省の材料にしたい」
中本副社長「決してブラック企業ではないと声を大にして言いたいが、そう見られている事実を謙虚に受け止めたい」
越智人事局長「真摯に受け止めてブラック企業の名を返上できるように努力していきたい」
と模範回答したのだが、「ブラック企業大賞を知っていたか」との再質問に石井社長は「知らなかった。当日報道で知った」と苛立ち気味に回答していた。
しかし、情報を最大の武器とする企業の社長が今年で5回目となる「ブラック企業大賞」を知らなければそれこそ問題だし、「知らなかった」と吐き捨てるように言ったその表情には、そのようなものに翻弄されている悔しさが滲み出ていた。
◇東京五輪への影響
そして共同通信が、今回の事件で東京オリンピックの業務に支障はないかと質問したのに対し、石井社長は問題ないと軽く受け流したていた。しかし、実はこれが電通にとって今後最大のアキレス腱となる可能性がある。
私は以前から、もし電通が書類送検されれば、それは国によって電通が「法令違反企業」と認定されたことになるから、官庁関係業務の指名停止処分の対象となる可能性があると指摘してきた。そうなれば、オリンピックは当然官製業務であるし、そもそも「倫理規範の尊重」を金看板とするオリンピックを「法令違反企業」が仕切るなど、日本国内はごまかせても世界には全く通用しない論理だ。
欧州や米国は人権や労働環境軽視に関して、日本とは比較にならないほど規制や監視が厳しい社会だ。現段階での「電通事件」は国内の一企業の問題だが、皮肉にもオリンピックというワールドクラスの檜舞台を担当していることによって、電通の悪名が世界に広がる可能性がある。
そうなれば、「人命軽視の法令違反企業はオリンピックから外せ」という要求が海外からわき上がる可能性があるのだ。さらに電通には、ネット関連業務における不正請求問題や、オリンピック招致時の賄賂疑惑も残っていて、もはや社長の引責で全てが終息できるような状況ではなくなっている。引き続き、これらの問題を追及していきたい。

最近、新聞販売関係者から折込広告の搬入枚数が激減しているという話をよく聞くようになった。とはいえ、広告主(スポンサー)が減っているという意味ではない。かつては「押し紙」部数に相当する折込広告が販売店に搬入されていたが、今はそれが搬入されないケースが増えているというのだ。
メディア黒書では、日本の新聞販売制度(新聞社のビジネスモデル)のからくりについて、「押し紙」の負担を折込広告の水増しと新聞社からの補助金で相殺する仕組みになっていると説明してきた。しかし、現在は徐々にこの説明が成り立たなくなっている。
「押し紙」の損害を相殺する道具である水増しされた折込広告と補助金が減ったり、無くなったりして、相殺システムが機能しなくなっているのだ。その結果、全ての負担が販売店の肩にのしかかってくる。
◇最初から折込広告を印刷しない
しかし、販売店サイドは、必ずしも広告主が自主的にABC部数よりも少なめの枚数を発注していると考えているわけではない。もちろんそのようなケースも少なくないが、折込広告の「中抜き」を疑っている店主が増えているのだ。
折込広告の「中抜き」とは、広告主が折込広告を発注した段階から、折込広告が販売店に到着するまでの過程のどこかで、広告代理店が折込広告の一部を抜き取ってしまう行為である。あるいは印刷枚数を減らす。
たとえばある商店が10万枚の折込広告を、B新聞の販売店20店を通じて配布するために、広告代理店と契約を結んだとする。
しかし、B新聞の「押し紙」率が40%とすれば、6万枚あれば、全読者に折込広告は届くことになる。4万枚は過剰になる。
従来は、この4万枚で販売店は「押し紙」の損害を相殺していたのだが、最近は、この水増し分が搬入されなくなったというのだ。と、すれば4万枚はどこへ消えたのか?
答えは簡単で、廃棄されたか、最初から印刷していないかである。印刷はしないが、広告代理店は印刷したことにして、広告主から10万枚分の料金を徴収する。このような手口を広義に「中抜き詐欺」と呼んでいる。
広告代理店による「中抜き詐欺」が増えているというのが最近の販売店の見方だ。
◇警察の調査能力の欠落
「中抜き詐欺」が発覚した例としては、読売広告社の元社員が設立したアルファトレンド(すでに倒産)という広告代理店が、大阪市で貴金属の販売を営む小売販売業者に対して「中抜き詐欺」をはたらいたケースがある。損害額は、年間で約250万円に達していた。
この250万円は2013年に民事訴訟で賠償された。しかし、小売販売業者の怒りはおさまらず、刑事告訴したが不受理となった。調査能力の欠落が原因だと思われる。
この件については、来年、筆者が検察審査会に不服を申し立てる予定にしている。
◇「中抜き詐欺」の実態
参考までにアルファトレンドによる中抜きの実態を示す資料(訴状の一部)を紹介しておこう。
注:写真と本文は関係ありません。

執筆者:本間龍(作家)
12月23日、今年のブラック企業大賞に電通が選定された。ブラック企業大賞とは、過労死問題に取り組む弁護士やNPO、ジャーナリストなどが中心となって、その年に労務問題等で話題になった企業を選ぶもので、今年で5回目となる。初回は東電、昨年はセブンイレブンジャパンが大賞に選ばれていた。
毎年ネットなどではそれなりに話題になっていたのだが、大手メディアはあまり報じていなかった。ところが今年はなんとNHKが速報を流し、さらに夜7時のニュースでも大々的に取り上げるという異例の展開となった。ブラック企業大賞実行委員会の弁護士らの間でも驚きの声が上がっている。
NHKが昼12時、夜7時のニュースで取り上げる意味は非常に大きい。注目度が非常に大きいだけでなく、そこで扱われたネタは、その後の時間帯のニュースや、様々な番組で繰り返し取り上げられるからだ。
しかもそれらのほとんど全てが全国放送だから、その拡散力は民放の比ではない。さらにNHKは25日、自殺した高橋まつりさんの母親の手記も夜7時のニュース等で大々的に報じた。この原稿を書いている26日夕方のニュース番組でもコーナーを作って報じている。イメージ悪化に歯止めをかけたい電通にとっては大打撃であり、NHKがここまで一企業に関するニュースを継続して報道するのは極めて異例だ。
◇電通タブーの消滅
そしてここまでNHKが突っ走ると、いまだに電通に対して尻込みしている民放各社の弱腰ぶりが逆にあぶり出されてくる。現に、NHK以外で電通のブラック企業大賞受賞を報じたのは、読売テレビ(日テレ系)のニュースなどごく僅かだった。NHKの独走が話題になればなるほど、同時に民放の弱腰もクローズアップされるのだから、民放の経営陣も頭が痛いだろう。
今回の一連の電通事件関連の報道で、活字メディアにおける「電通コード(電通について報じてはならないとする暗黙の了解)」はほぼ消滅した。11月7日の電通に対する強制捜査は朝日や毎日、読売など全国紙全紙が一面トップ扱いで報じていたし、その後も各紙が続報を掲載し続けた。
電通には弱いと言われていた週刊誌などの紙メディアも、講談社系の週刊現代やフライデーは数回にわたって追究記事を掲載。AERA、週刊朝日、サンデー毎日、文藝春秋、週刊文春なども記事を掲載した。
◇CM依存の民放各社の弱腰ぶり
それに比べると、電波メディアの弱腰ぶりはいまだに目立っている。強制捜査はさすがに報じたが、いわゆる事実報道だけで、論評や後追い取材は一切ない。昼のワイドショーや夜のニュース番組でも、司会やコメンテーターが電通ネタで議論した例はほとんど無い。
小池都知事による豊洲問題やオリンピック施設問題を取り上げるのはまだ分かるが、自国ではない韓国大統領問題を連日のように取り上げるのに、自国で大きな注目を集めている電通問題を全く取り上げないのはどうみても不自然だ。やはり放送業界における「電通コード」はまだ強固に残っているといえるだろう。
確かに、スポット、タイムCMの3割以上を電通に頼っている民放各社は、地方系列局を含めれば年間数百億円のCM放送料が電通を経由してくるため、極力同社の機嫌を損ねたくない。その金額は雑誌や新聞メディアとは比較にならないほど大きいため、呪縛の度合いが何倍も大きいのだ。
しかし、ネットのニュースサイト、まとめサイトでは電通批判記事がガンガン掲載されているのに、まるでそれを無視するかのように放送しないのは明らかに目立つ。
それでもやらないのは、究極的に民放という組織は視聴者ではなく、カネを払ってくれる広告代理店とスポンサーだけをみている、ということの証明でもある。政権批判もせず、大企業批判もせず、そして電通批判もしない。民放には報道部門など無いも同然である。
◇高いジャーナリズム性を発揮したNHK
電通事件報道でのNHKの突出ぶりは、民放の弱腰ゆえに競合がいないというのもあるが、そもそもNHK社会部は昨年から過労死問題を重点テーマとして取材しており、電通はその線上に突如出現した巨大な「クジラ」だった。
売上高2兆円を超す国内最大の広告代理店で業界トップ企業が実はとんでもない人権蹂躙企業だった、というのは、ジャーナリズムに関わる者なら誰しも強い関心を抱く対象だろう。そしてNHKは、民放のように収入源を電通に頼らないで済む、国内唯一の存在だったのだ。
電通は1月早々にも予想される労働局の書類送検を何とか軽くしようと、矢継ぎ早の改革を打ち出している。1月には全社員の1割にあたる600人以上の人事異動を行い、人手の足りない部門・部署に人員を配置して平準化を行おうとしているし、他にも労務専門の担当者を各部門に配置するとか、全社の有給取得率を50%以上に設定するなど、必死の様相である。
しかし、この年末のNHKによる2発の「報道パンチ」はその努力を吹き飛ばす威力だった。ネット上はそのニュースで溢れ、一時沈静化に向かっていた電通の極悪イメージはもはや修正不能な域に達したと言える。
◇背景に電通に対する記者の反発
ではなぜNHKはこのタイミングでここまで大きく報じたのか。1つ考えられるのは、電通の傲慢さに対する意趣返しという面がある。これはどのメディアの記者や編集者に聞いても同じだが、電通広報の取材に対する態度が極めて悪いという。質問に対してあやふやな回答に終始する、まともに回答しない、挙げ句の果てには何度聞いても回答さえ寄越さない等、とにかく不祥事を起こした企業の対応ではない、というのだ。
しかしそうなるとさらに徹底追及してやろうと反発するのが記者という生き物である。電通はジャーナリズムへの対応を完全に誤っているとしかいいようがない。
そしてさらに、電通は11月7日の強制捜査日にNHKのインタビューに応じた社員を12月に入り戒告処分にするという暴挙を行った。「自浄作用がない会社だと思う」という至極まっとうな感想を述べただけの社員を特定し、戒告という厳罰に処したのだ。
最初のニュース映像でモザイクがかかっていなかったために特定されたのだが、この処分に対してはNHKの記者でなくとも強い違和感を感じる人が殆どだろう。外向きには様々な改革を打ち出しても、中身はまったく変わらない傲慢な体質が透けて見える。
つまりNHKは、この電通の傲慢さに対して強烈なしっぺ返しを食らわしたと言えるだろう。電通の取材軽視、恐怖による社内統制はあまりにも高くついた。NHKは来年も電通報道の手綱を緩めないだろう。

不透明な取引としてメディア黒書で報じてきた内閣府と博報堂のプロジェクト「政府広報ブランドコンセプトに基づく個別広報テーマの広告実施業務等」。
このプロジェクトに関する情報開示資料は、平成27年度分しか筆者の手もとになかったが、このほど、多年度分を入手した。それを検証したところ、複数年度に渡って同じ疑惑があることがわかった。
今回入手したのは、平成23年度分(2011年度分)から平成26年度分(2014年度分)である。平成27年度分(2015年度分)については、すでに8月に入手している。
平成27年度分で不可解な点が発見されたので、過去にさかのぼって同じプロジェクトの関係資料の開示を求めたのである。次に紹介するのは、平成24年度、平成25年度、それに平成26年度の資料である。以下のPDFは、それぞれ契約書・請求書の順になっている。見積書はもともと存在しない。
■平成24年度(契約書・請求書)--準備中
■平成26年度(契約書・請求書)--準備中
◇請求金額が契約金額を大きくオーバー
平成27年度分の請求書と同様に、他年度の請求書も多くの部分が黒塗りになっている。契約書の肝心な部分、納税者が最も知りたがっている部分、たとえば新聞広告の単価は全て黒塗りになっており、個々の新聞社に国から支払われた「公費」の額は分からない。これでは特定のメディアに配慮した措置であるとの批判を免れない。
プロジェクトの契約額と新聞広告の請求総額は、次の通りである。
■平成24年度:
契約金額:3980万円
新聞広告に対する請求額:11億430万円
■平成25年度:
契約金額:約4600万円
新聞広告に対する請求額:10億870万円(日経は黒塗りのため含まれてない)
■平成26年度
契約金額:約6670万円
新聞広告に対する請求額:13億5090万円
※テレビCM、雑誌広告などは別途。
いずれの年度も、請求金額が契約金額を大きく上回っている。これについて内閣府は、契約額はプロジェクトの「構想」費であって、具体的なPR業務については、それが発生するたびに請求対象になる方式なので、請求額が契約額を大きく上回っても、問題はないと説明している。
しかし、PR業務の内容と予算を示す見積書は存在しない。口頭とメモで博報堂に指示して、PR活動の内容と価格を決めていたのだという。
◇「構想」費とは何か?
内閣府の説明でまず不可解なのは、契約額に該当する「構想」費の中身である。成果物が何であるのかが分からない。さらに「構想」費が年々高くなり、平成26年度には7000万円近くにまで達している。
さらに内閣府の説明でおかしいのは次の点だ。プロジェクトの契約が1年なので、契約が終了した後、博報堂は請求書をまとめて内閣府へ送ってくるという説明なのだが、平成24年度から27年度までの請求書に刻印されている受領印は、当該年度の契約が終了した後の日付けにはなっていない。広告を掲載した数カ月後の日付けになっている。
契約が完了してから、請求書を送るのが公式な事務処理なので、内閣府の説明は正しいが、実際に受領印の日付けを見るとそうはなっていない。契約が終わらないうちに、支払いが行われたことになっている。
ただしその振込み先がどこなのかは分からない。
年度を問わず「政府広報ブランドコンセプトに基づく個別広報テーマの広告実施業務等」で博報堂が請求の根拠にしている業務内容は、ブラックボックスの中だ。見積書が存在しないので、どのような業務に対して、請求を起こし、億単位の収入を得ているのかよく分からない。
今後は、それぞれの請求書に対応する具体的な成果物の情報開示を求めていくことになるだろう。

12月12日付けのウエブサイト「ビジネスジャーナル」に掲載されたわたしが執筆した記事に対して、内閣府からわたしに釈明があった。内閣府が問題にした記事のタイトルは「内閣府、博報堂へのCM発注額を「黒塗り」…発注額と契約金額に30倍の乖離、見積書なし」。
この中で内閣府が釈明したのは、次の記述の赤字箇所である。
ちなみに契約書によると、業務内容は「政府広報コミュニケーション戦略の構築」や新聞広告、テレビCM、バーナー広告の制作・掲載などである。これらのPR活動の費用として約6701万円という額を契約していながら、実際の請求は20億円を超えているのだ。
確かに請求額が契約額を上回ることはある。しかし、ここで指摘しているケースのように、契約額の約30倍にも達しているケースは稀である。かりに契約価格を請求額が上回るのであれば、受注元(今回は博報堂)が契約外の業務を行うに先立って見積書を発行して、内閣府の承諾を得るのが一般的である。
◇内閣府の契約書の解釈
記事で批判の対象になった人物や組織の言い分を紹介するのは、ジャーナリズムの基本原則なので、内閣府の言い分を紹介しておこう。
まず、内閣府が問題にしたのは次の契約書と請求書である。
この書面の27ページに、博報堂が内閣府に対して請求を起こすための根拠となる契約書がある。冒頭部分を下記に示そう。
内閣府の言い分は、契約額の約6700万円は、「政府広告コミュニケーション戦略の構想」に対する額であって、新聞広告やテレビCM、それにバーナー広告の制作などは、それとは別に契約書に示された単価に応じて、支出できる契約になっているというものである。それゆえに、6700万円の30倍を超える請求になっても、なんら不正行為ではないという主張である。
この契約書をどう解釈すべきかは一概には言えないが、わたしにはそんなふうには読めない。何度読みかえしても、契約額が6700万円で、すべての業務はその範囲内で行うとしか解釈できない。実際、「戦略の構想等」になっている。
第一、「戦略の構想」費として、6700万円は高額すぎる。
しかも、追加の仕事(新聞広告の制作など)に対する見積書がないのであるから、取引そのものが不透明だ。
ただ、内閣府の主張であるから、参考までに紹介しておく。
【写真】博報堂が制作した広告

執筆者:本間龍(作家)
前回まで数回、(株)アスカが博報堂に対して起こしている約15億円の訴訟内容を検討してきた。訴状項目は15点にもなり、広告のプロがその内容を見れば、思わず首を傾げてしまうというか、残念ながらこれはかなり水増ししていることがすぐに分かってしまう程度のものがほとんどであった。
そこで今回はもう一件の訴訟である、TVCM(注:テレビコマーシャル)の過剰請求について述べてみたい。
こちらは総額で約42億円、前述の制作費関係とは金額が桁違いに大きいものだ。もしこれが裁判で認められるようなことがあれば、博報堂の信用に大変なダメージを与えるだろう。訴状内容は以下の2点に大別される。
A)視聴率偽装による不正請求
B)放送しなかった番組、CMの不正請求
◇博報堂の不可解な番組視聴率表と見積書
アスカは博報堂を通じて通販番組の買い切りと通常のスポットCM購入を行なっていたが、その際、博報堂が提出した番組視聴率表を参考にしていた。これはどのスポンサーも同じだ。テレビCMの放映料は全国放送なら数千万、数億円となる取引だから、この視聴率表の持つ意味は非常に大きい。
博報堂は提案の際、担当者が視聴率表を持参し説明し、その後殆どを持ち帰っていたというが、これは非常に不自然だ。当然ながら、そうした参考資料は全てスポンサー側に渡すものだからだ。
さらに、博報堂側が提出していた見積書を見ると、これもテレビ局やビデオリサーチの出す書式ではなく、博報堂が作った見積もりになっている。しかもコピーを見ると、博報堂のテレビ放送担当部署発行のものではなく、営業局で作った手打ちの形式に見える。そうした例は皆無ではないが、テレビ担当部署からの書式を手打ちで打ち変えるため、当然ながら数字の誤記載などのミスが生じやすい。
視聴率は、仮に1000万人の視聴者がいたとすれば、僅か0、1%の違いでも約1万人の視聴者数が違ってくる。こうした手打ち見積もりではいとも簡単に偽装できるため、あまりこうした出し方はしない。コンマ以下の違いでも、後で問題になるからだ。
◇ビデオリサーチの数字よりも高い数字を提示
そしてこの博報堂が提出した視聴率に不信感を持ったアスカ側は、ビデオリサーチの協力を得て、博報堂が提出した視聴率表と照らし合わせた。その結果、非常に多くの番組で、いずれもビデオリサーチが提出した数字よりも高い数字が提出されていたことが判明した。視聴率には「個人」と「世帯」の2種類があるが、特に「世帯」における違いが目立つ。例を挙げると(いずれも2007年当時、数字はパーセンテージ)
・みのもんたの朝ズバ 博報堂提案書3,3 ビデオリサーチ3,2
・ちちんぷいぷい 〃 8,9 〃 7,0
・NEWS23 〃 8,1 〃 8,0
・ヒルナンデス 〃 14,1 〃 11,1
・相棒(再放送枠) 〃 10,2 〃 9,8
・ひろしま満点ママ 〃 7,4 〃 6,9
などがある。
0,1%単位の小さな差から3%程度のかなり大きな差まであるのだが、このような視聴率の差異はアスカ側が突き止めただけでも50番組以上にものぼっている。さすがにこうなると、これは単なる「間違い」では済まされないものだ。仮に博報堂がケアレスミスだったなどと言ったなら、広告代理店として全く信用されなくなってしまうだろう。
アスカはこれだけの数字の差異には、視聴率を高めに見せることによってこれらの番組を購入させようとした意図的なものだ、と主張している。番組購入の最大要件は視聴率なのだから、これは当然の言い分だろう。
◇論理性が欠落した博報堂の答弁
しかし、これらの指摘に対し博報堂が裁判所に提出した「答弁書」では奇妙な理屈で反論している。それを簡単にまとめると、
A 番組の視聴率は、番組購入に際して、いくつかの判断材料の1つにすぎない
B 視聴率は過去のデータであり、1つの目安に過ぎない。実際の視聴率を保証するものではない
というのだが、スポンサーは自社の予算と視聴率を勘案して番組を選ぶのであり、その最大の判断材料である視聴率を「いくつかの判断材料の1つに過ぎない」とことさら過少に扱おうとするのは不自然だ。テレビ局がコンマ1%の差に一喜一憂してしのぎを削るのは、スポンサーの番組購入動機が一にも二にも視聴率至上主義だからである。
さらに、なぜこれだけ多くの数字の差異が生じたのかという肝心な点に対する反論は、
「視聴率データを取得するために最適と思われる条件を設定してデータを入手し、企画提案書にデータを転載した」
「アスカが指摘した視聴率の誤差は、単にアスカが今回の裁判資料を作成するために設定した条件が、当時博報堂側が設定した条件と異なっていたことによるもの」
としているが、これも非常に奇妙な論理だ。「視聴率データを取得するために最適と思われる条件を設定してデータを入手し」とあるが、これではまるで条件設定で数字はいくらでも変わると言っているようだし、さらにはビデオリサーチ以外の、何か別の視聴率調査会社のデータを使用したようにも聞こえてしまう。
しかし、当時アスカの企画提案において使用された視聴率データはビデオリサーチのものだけであり、それを前提に博報堂とアスカは交渉していた。数字は簡潔であり、アスカが入手したビデオリサーチの数字を博報堂もそのまま提出していればいいだけの話で、「視聴率データを取得するために最適と思われる条件を設定してデータを入手」する必要などないのだ。
また、誤差の原因を「アスカの数字は当時博報堂が設定した条件と異なっていたからだ」というのならば、その「当時の博報堂の設定条件」なるものを提出すべきだろう。これだけ大量の誤差が出ているのに、「それは計算の仕方が違うからだ」と言うだけでは、弁明にならない。この件に関しては引き続き論考していく。(続)

KDDIは、東京都目黒区中央町2丁目にあるスミレレジデンス(6階建て)の屋上に基地局を設置する計画を断念した。この問題はメディア黒書で既報したように、スミレレジデンスの近くに住む女性がKDDIに計画の中止を求めていたものである。女性は化学物質過敏症と電磁波過敏症を併発している。
■化学物質過敏症から電磁波過敏症へ、東京目黒区で浮上している基地局問題で注目されるKDDIの「患者」対応
女性から20日、筆者に対して、「スミレレジデンスの地権者が設置を断り計画は中止になった。搬入されていた機材は、26日に搬出される」と連絡があった。
このところ住民運動の力で、携帯電話の基地局設置の計画が中止になったり、既に設置されている場合は、撤去されるケースが増えている。マイクロ波の危険性が否定できなくなっている事情に加えて、地権者が住民の声を無視できなくなっている事情がある。
ところが不思議なことに、筆者が知る限り、地権者に対して基地局の撤去を求める裁判は一件も起きていない。電話会社に対する裁判は、九州を中心に起こされたきたが。今後、地権者を被告とした裁判が必要だろう。
最近は、単身者が多い小部屋を中心とした賃貸マンションに基地局が設置されるケースが増えているが、健康被害を理由に地権者が提訴され、賠償を命じられた場合、地権者はマンション経営どころではなくなる。
今年になってから電話会社と省庁のビジネスについて調査しているが、広告代理店に劣らず、こちらもかなり金額が大きい。再度、事業仕分けが必要だろう。

