1. 博報堂の広告マンに電通も歯が立たずに撤退、京都きもの友禅とHISを巻き込んだ奇妙な「広告事件」

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2016年07月15日 (金曜日)

博報堂の広告マンに電通も歯が立たずに撤退、京都きもの友禅とHISを巻き込んだ奇妙な「広告事件」

博報堂とアスカコポレーションの係争の中で、広告にまつわる奇妙な事件が発生した。アスカが発行する月刊通販誌に他社の広告が掲載されたのだが、広告主と博報堂の間で、取り引き契約が結ばれていなかった疑惑があるのだ。

事実、アスカに対する広告料金の支払いも行われなかった。博報堂も「広告費の差引計算がなされていない事実は」裁判書面(第2準備書面)の中で認めている。

ただ、損害額については、アスカが1260万円としているのに対して、博報堂は「否認」している。

この事件の渦に巻き込まれた広告主は、着物や宝飾の販売などを業としている京都きもの友禅と、旅行代理店のHISである。

支払いが履行されなかった広告が掲載された年月日は次の通りである。

【HIS】
2006年2月
2006年5月
2008年9月
2009年2月

【京都きもの友禅】
2008年4月
2008年5月
2008年6月
2008年7月
2008年12月
2009年1月

◇電通も歯が立たず

このよな事件が起きた背景には、アスカ側の説明によると広告代理店相互の競争があったようだ。もともとアスカには、電通、博報堂、それに東急エィジェンシーが出入りして、「我こそは」と自社の優位性を誇示しながら、業務を進めていたという。表向きは同業者の仲間意識があっても、企業活動である以上、クライアントは実績によって評価を下すので、心の中では互いがライバルである場合が多い。

月刊通販誌に他企業の広告を掲載することになると、広告マンは当然、クライアント探しに奔走する。実績を示せば、生存競争の中で一歩も二歩も他社を引き離すことができるからだ。

が、競争心が高じると、とんでもないことになりがちだ。

博報堂の広告マンに清原氏(仮名)という「辣腕」がいた。清原氏は、通販誌に掲載する広告のクライアントを探し出しアスカに報告した。アスカ側も広告料金を支払ってもらえるものと思って、次々と広告を掲載していった。清原氏がアスカの南部社長の信頼を得ていたからだ。

次に紹介する写真のが、その通販誌と広告の一例である。

◇「辣腕」広告マンに屈した電通

博報堂の清原氏の「活躍」もあり、博報堂は徐々に他社を引き離しにかかる。そしてまず、電通が撤退した。天下の電通も博報堂の営業マンには、まったく歯が立たなかったようだ。結果として電通が、博報堂に屈するかたちになったのだ。さらに東急エィジェンシーも撤退した。

こうして博報堂は、アスカのPR戦術を独占するようになったのだ。それから後、通販誌の過去データの転用事件など、さまざまなトラブルが進行する。

■参考記事:博報堂による「過去データ」の流用問題検証(続編)、画像が示す「流用」の事実

ところが、広告は掲載されているのに、いつまでたっても広告料金の支払いはなされない。結局、支払いを踏み倒した状態で、博報堂とアスカは係争に突入してしまった。当然、広告料金の精算は裁判が終わるまで持ち越しになる可能性が高い。

◇京都きもの友禅とHISの取材

筆者は、この事件について当事者の「広告主」を取材した。

【京都きもの友禅】

・・・・貴社は、本当に広告を申し込まれましたか?

きもの:申し込んでないと思いますよ。

・・・・申し込んでないということですか。そうすると博報堂が勝手にやったということですか。

きもの:雑誌などへの広告はやってませんから。

・・・・・雑誌や通販のところへは出さないということですか。

きもの:出していません。

・・・・・そうすると申し込んでいないということですね。

きもの:申し込んでいないと思います。

【HIS】

HISは書面での回答になった。次のとおりである
お世話になっております。
ご連絡ありがとうございました。

該当のデータも古く、当時の担当者もいない為社内で確認はとってみますが、ご好意で出稿いただいているケースの可能性も否定できませんので(口頭でのやりとり等)結果につきましては控えさせていただきます。

宜しくお願い致します。

「好意で出稿いただいているケースの可能性」を示唆しているわけだから、広告掲載に関する契約は締結されていないことになる。

なお、この問題に関して、HISはアスカに対しては次のように話している。

「HISの経理に調べてもらったところ、広告料金に関して、博報堂から請求を受けた経歴はないとの回答がありました。また、広告局では、掲載した媒体の現物は全て保管されているが、弊社の広告物に関しては現物が管理されていないために、これ以上、調べようがない、とのことでした」

アスカが被った損害は、1260万円と企業としては少額だが、広告営業の倫理が問われる重大な事件である。

なお、博報堂は係争を理由に取材を拒否している。