1. 『石ころの慟哭』出版差し止め問題 争点となったエクセルファイルの著作権

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2026年06月04日 (木曜日)

『石ころの慟哭』出版差し止め問題 争点となったエクセルファイルの著作権

同志社大学の元教授・浅野健一氏が、あけび書房に対して出版差し止めを求めている事件の続報である。既報してきたように、浅野氏は、あけび書房が刊行した『石ころの慟哭』(辻井彩子著)の中に、自身に著作権がある記述が使用されているとして、出版差し止めの仮処分を申し立てた。これに対し、あけび書房は、『石ころの慟哭』の記述は、辻井氏が執筆した裁判記録に基づくものであると反論してきた。さらに、浅野氏の『石ころから石礫に』の中に、辻井氏が執筆してエクセルファイルにまとめた記述が見受けられると主張している。

浅野氏は、エクセルファイルが辻井氏によって作成されたものであること自体は認めている。事実、辻井氏に作業報酬を支払ったため、その成果物は自分のものであると主張している。三一書房の大口昭彦氏が、あけび書房に宛てた書面(6月1日付け)にも、その旨が記されている。

「④ この趣旨(辻井さんをアシスタントとして使うこと)に基づいて、浅野氏から辻井氏に対して総計金11万円相当の金品が交付され、同氏はこれを受領している。」

■大口昭彦弁護士の書面

つまり、金銭を支払ったのだからエクセルファイルを使用して構わないと主張しているのである。しかし、そもそも辻井氏は浅野氏とアシスタント契約を締結しておらず、また出版そのものも浅野氏の希望により中止となっている。当然、この時点で浅野氏は当該ファイルを使用する権限を失ったと考えられる。というのも、エクセルファイル内の文章についての著作者人格権は辻井氏に帰属するからである。著作者人格権は、金銭の支払いによって譲渡することはできない。一身専属性の権利である。

「第59条(著作者人格権の一身専属性)
著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」

著作者財産権は譲渡できるが、著作者人格権は譲渡できない。それゆえに、ゴーストライターを使う場合は、「著作者人格権は行使しない」旨を明記した契約を交わすが通常である。しかし、浅野氏と辻井さんの間でそのような契約はない。

このあたりの事情を大口弁護士も理解しているようで、前出の書面では、エクセルファイルそのものが著作物ではないと新たな主張をしている。

たしかに、すべての文書が著作物に該当するとは限らない。著作権法第2条第1項は、著作物を次のように定義している。

「一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」

実際には、大半の文章は著作物として保護される。極端な例を紹介しよう。次の記述は、読売新聞の江崎法務室長が作成したメモで、わたしがメディア黒書に掲載したものである。

「前略 読売新聞西部本社法務室長の江崎徹志です。2007年(平成19年)12月17日付け内容証明郵便の件で、訪店について回答いたします。当社販売局として、通常の訪店です。」

読売の代理人・喜田村洋一自由人権協会代表理事は、この文書が著作物に該当すると主張して、わたしに次の催告書を送付した。催告書の名義は江崎になっているが、実際には喜田村弁護士が執筆したものである。このメモが、江崎氏の著作物であるから、削除するように求めたのである。

※喜田村弁護士が、催告書の名義を偽って提訴したことを認定した知財高裁判決

冠省 貴殿が主宰するサイト「新聞販売黒書」に2007年12月21日付けでアップされた「読売がYC広川の訪店を再開」と題する記事には、真村氏の代理人である江上武幸弁護士に対する私の回答書の本文が全文掲載されています。

しかし、上記の回答書は特定の個人に宛てたものであり、未公表の著作物ですので、これを公表する権利は、著作者である私が専有しています(著作権法18条1項)。  貴殿が、この回答書を上記サイトにアップしてその内容を公表したことは、私が上記回答書について有する公表権を侵害する行為であり、民事上も刑事上も違法な行為です。

 そして、このような違法行為に対して、著作権者である私は、差止請求権を有しています(同法112条1項)ので、貴殿に対し、本書面到達日3日以内に上記記事から私の回答を削除するように催告します。  

貴殿がこの催告に従わない場合は、相応の法的手段を採ることとなりますので、この旨を付言します。

喜田村弁護士の主張が極論であるにしろ著作権の主張がいかに簡単に行われるかを示す例である。著作権を主張することがいかにたやすいかを示す例である。逆説的にいえば、ある書面が著作物ではないと主張するハードルは極めて高い。まして辻井さんのエクセルファイルには、辻井さんの意見や感情表現も含まれており、著作物と考えるのが妥当だ。

ちなみに浅野氏は5月16日、自身の講演の中で5月中にあけび書房を提訴する旨を表明したが、現時点では提訴を確認できていない。仮処分の申立書も、あけび書房には到達していないようだ。