2016年03月22日 (火曜日)

多国籍企業と国際ビジネスを考えるうえで格好のモデルとなるのは、前世紀までに見る米国とラテンアメリカの関係だった。ラテンアメリカは、「米国の裏庭」と言われてきたが、「庭」とは文字通り多国籍企業の「農園」の意味である。この裏庭ビジネスに使われる農地は、たとえばグアテマラの場合、全体の農地の6割から7割にも達していた。

当然、米国のフルーツ会社は、進出先の政界と軍部にも強い影響力を持っていた。事実、フルーツ会社が背後にいた政治的事件も多発している。

◆ユナイテッド・フルーツ社の謀略

たとえばコロンビアに進出していたUFC(ユナイテッド・フルーツ社)の農場で、1928年に農民のストライキが勃発し、コロンビア軍が出動して鎮圧する事件があった。この事件をモデルにした記述は、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』にも出てくる。多量の死体がバナナを運搬する貨物列車で運ばれていく場面だ。

1954年にはグアテマラで、当時のリベラル右派の政権が農地改革に踏み切ったところ、UFCとCIAが謀略をめぐらし、軍事クーデターを起こしている。これを機にグアテマラには、鉄の軍事政権が敷かれ、1960年代の初頭から、以後36年のあいだ内戦状態になったのだ。

死者は約20万人と推定されている。この中には、暗殺部隊によって殺害された市民が数多く含まれている。

わたしは1995年にグアテマラの隣国・ホンジュラスの農園地帯を取材したことがある。次のPDFはその時の記録で、単行本『バイクに乗ったコロンブス』(現代企画室)に収録した中編ルポ、「将軍たちのいる地峡」の一部である。

■将軍たちのいる地峡

TPPや海外派兵の問題を考えるとき、単純に国際化を賞賛する前に、その背景には多国籍企業のどのような権益が絡んでいるかを再考してみる必要がある。

2016年03月18日 (金曜日)

1980年ごろまで、中米の政治は、米国のフルーツ会社と軍事政権によって牛耳られているとも言われていた。中米の肥沃な大地と気候に目をつけた米国の多国籍企業が、原野をバナナ農園に変え、港まで鉄道を敷き、現地の人々を奴隷のように働かせて、バナナを収穫し、船で米国へ運搬した。地元の人々は豊かに実ったバナナの下で飢えていた。

「先進国」の繁栄と第3世界の悲劇が共存していたのである。

『バナナの逆襲』は、 スウェーデンのゲルテン監督の制作。ニカラグアに進出していた米国のドール社による禁止農薬の散布により生じた人体影響(無精子症、癌など)をめぐり、元バナナ農園労働者たちが米国で損害賠償を求める裁判を起こした事件の記録である。

この記録映画から伝わってくるのは、民衆の側に立った辣腕弁護士の活躍はいうまでもなく、公害の恐ろしさである。公害の被害が何十年も後になってから浮上してくる法則がみえる。作品中では言及されていないが、作品に使われている古い写真や動画から察して、問題の禁止農薬が散布されていたのは、1979年7月に崩壊したソモサ独裁政権の時代である。

ソモサ一族は、ラテンアメリカの歴史の中でも、最も残忍非道な独裁者のひとつで、1979年に約半世紀の幕を閉じた。ソモサはパラグアイに亡命し、そこで何者かに暗殺された。

先進国と第3世界の問題は、単に資源の収奪と海外派兵という観点だけでは捉えきれない。現地の人々に対する生命の軽視という大問題を孕んでいる。禁止された農薬の散布は、米国の傀儡(かいらい)と言われたソモサ独裁政権の下であったからこそ可能だったのだ。作品では、このあたりの説明が欠落している。

農薬散布の影響が明るみに出たのは、今世紀に入ってからである。コスタリカやホンジュラスでも、人体影響が報告されるようになった。そしてこの記録映画により、軍事政権の時代に恐ろしいことが水面下で起こっていたことが世界的に知られるようになったのである。

とはいえゲルテン監督は、ドール社から裁判を起こされ、米国のメディアからは総バッシングを受けた。当初は、上映もできなかった。しかし、そこは民意の強い米国である。評判が評判を呼び、国会議員の協力もあって上映にいたる。

◇携帯電話の基地局公害も同じ

現在、日本では携帯電話の基地局から発せられるマイクロ波による公害が広がっている。しかし、メディアの世論誘導でそれが隠されている。が、『バナナの逆襲』で描かれたように、公害というものは、長い歳月を経た後に牙をむき出してくるのである。

しかも、その被害はニカラグアのバナナ農園労働者の規模ではすまないだろう。その意味では、この作品は公害の恐ろしさを改めて認識させてくれる。

2016年03月16日 (水曜日)

埼玉県朝霞市にせまい区域のなかに携帯電話の基地局が3局も設置されている場所がある。市街から離れた台という地区で、ここには朝霞第9小学校と白百合園という保育園がある。

基地局と学校の距離関係は、次の通りである。

【朝霞第9小学校】
KDDI局まで150メートル
SB局まで300メートル
不明の局まで80メートル

【白百合園】
KDDI局まで50メートル
SB局まで300メートル
不明の局まで10メートル

さらにこれら2つの学校から80メートルの地点を高圧電線が走っている。

この位置関係を見たとき、わたしは施設を移転するか、基地局を撤去しなければ、将来的に児童たちが取り返しのつかない健康被害を受ける可能性が高いと思った。

◇すべての電磁波(放射線)は危険

周知のように携帯電話基地局からは、マイクロ波と呼ばれる電磁波が放射されている。また、高圧電線からは低周波電磁波が放射されている。これらの電磁波の人体影響は、かつては認められないと考えられていたが、現在では、危険視する見方が有力になっている。

特に欧米では、電磁波が健康被害を誘発するとの認識がすでに定着していることもあって、たとえばEUは、マイクロ波の推奨規制値として、0.01μW/cm2(室内)を定めている。こうした影響下で、フランスでは裁判所が基地局の撤去を命じる判決を下す事態にもなっている。

これに対して日本の総務省が定めている規制値は、1000W/cm2である。「0.01」 と「1000」のすさまじい違いは、マイクロ波の危険性をどのように考えるかによって生じる。マイクロ波に遺伝子毒性(発ガン性)がないと考えるグループは、「1000」というような規制にならない規制値を設定しているのに対して、遺伝子毒性があると考えるグループは、「0.01」という厳しい数値を設定している。

ちなみにザルツブルグ市に至っては、目標値として0.0001W/cm2を定めている。

◇新生代の公害

電磁波の危険性が住民のあいだでなかなか認識されないのは、まず、第1に電磁波が目に見えないという事情による。

第2に電磁波とカルト的な思想をむすびつける報道が、おそらくは戦略的に進行していることによる。電話・電気会社の巨大ビジネスにとって、電磁波問題の認識が広がることは痛手になるからだ。

第3に電磁波による人体影響の研究の歴史が浅く、電磁波を長期的(たとえば10年、20年、30年)に被曝した場合の人体影響がまだ完全には分かっていないからである。

電磁波による人体影響が本格的に問題視されるようになったのは、1980年代からである。送電線と小児白血病の因果関係が、疫学調査で判明したのである。その後、1990年代になって携帯電話が普及してくると、マイクロ波の安全性が検証されるようになる。

そしてWHOの外郭団体である国際癌研究機構は、2011年5月にマイクロ波に発ガン性がある可能性を認定したのである。いわば電磁波問題は、新生代の公害なのだ。

今日では、ガンマ線やエックス線はいうまでもなく、これらの放射線に比較してエネルギーが低いマイクロ波や低周波電磁波を含む、すべての電磁波(放射線)にはリスクがあるとする考え方が有力になっている。

ただ、既に述べたように危険性に関する検証には長い時間を要するので、現在はまだその途上にあり、最終的な結論は出ていない。従って10代でスマートフォンを常用しはじめた人が、40歳、あるいは50歳になったとき、どのような人体影響を受けているかは誰も知り得ない。今、人体実験が進行していると言っても過言ではない。

ちなみに動物実験でマイクロ波の影響が観察できなかったことを根拠に、マイクロ波は「安全」という結論を出す研究者が日本には多いが、公害の見極めに関しては、動物実験はあまりあてにならない。と、いうのも動物と人間とは体の性質が異なるうえ、電磁波による人体影響は、複合汚染のかたちで浮上すると考えられるからだ。

同じ量のマイクロ波を被曝しても、人体がどのような化学物質で、どの程度まで汚染されているかで、影響の現れ方は異なる。つまり電磁波問題といっても、厳密にいえば電磁波だけが健康被害を起こす原因ではないからだ。電磁波と他の因子が複合して公害を発生させるメカニズムになっていると考えられるのだ。

と、なれば被害の事実を統計的に把握する疫学調査の結果が、公害を検証する上でもっとも信頼性が高い。

携帯基地局と癌の関係を検証する疫学調査は、これまでイスラエル、ドイツ、ブラジルなどで行われてきた。これらの調査では、携帯基地局から半径300メートルから400メートルの円内では、円外よりも、癌の発生率が3倍から4倍ぐらい高いことが明らかになっている。

◇朝霞市の対応

朝霞市役所の市民環境部・環境推進課には、市民の窓口がある。先日、わたしは第9小学校と白百合園の直近にある基地局のリスクを環境推進課に知らせた。次の投稿である。

わたしは2010年5月20日、「無線基地局の設置に関する条例の制定を求める請願」を提出したフリージャーナリストです。周知のようにこの提案は、反対多数で否決されました。これにより基地局から放射されているマイクロ波による健康被害に対する予防措置の必要性が否定されたわけです。
 ところがその後、2011年5月にWHOの外郭団体・世界癌研究機構が携帯電話の通信に使われるマイクロ波の発癌性の可能性を認定しました。ブラジルやドイツで行われた疫学調査でも、癌と携帯基地局の因果関係が指摘されるようになっています。

 わたしが最も懸念しているのは、朝霞第9小学校と保育園のまじかに立っているKDDIとソフトバンクの基地局です。園児と児童に健康被害が発生していないのか、上記の条例案を否決されたは、朝霞市には調査する義務があると考えます。マイクロ波の人体影響に関する資料はわたしが提供しますので、最初の試みとして、まず、第9小学校の児童と、保育園の児童を対象に健康調査を実施していただけないでしょうか。ご検討ください。

これに対して次のような断りの返信があった。
 

黒薮 哲哉 様

このたびは、貴重なご意見をお寄せいただき誠にありがとうございました。次のとおり回答いたしますのでご了承ください。

電波の利用に関しましては、国が厳格な基準を設け、携帯電話基地局から発射される電波の強さについても「電波防護指針」で、十分な安全率を考慮した基準値以下に抑えられているものです。
また、総務省発行している「携帯電話基地局とわたしたち」の、携帯電話基地局からの電波に関する発がん性のQ&Aによりますと、「国際がん研究機関は2011年5月、電波には「発がん性があるかもしれない」と評価しましたが、これは、携帯電話端末などを体の近くで使用した場合の発がん性の限定的な証拠に基づくものです。その過程で、基地局からの電波についての発がん性の証拠は不十分であると評価しています。なお、今後WHO本部が電波の健康リスクを総合的に評価する予定です。」などの見解が示されているため、現地時点で市といたしましては、第九小学校の児童及び保育園児の健康調査を実施する予定はありません。

今後におきましても、国の見解を注視してまいりたいと考えております。
以上のとおりでございます。

朝霞市

平成28年3月14日

問合せ 朝霞市市民環境部環境推進課長 小野里 雅子
℡048-463-1111 内線2264
℡048-463-1512(直通)
E-mail kankyo_suisin@city.asaka.saitama.jp

2016年03月14日 (月曜日)

歌手で作家、「司法改革を実現する国民会議」の共同代表を務める八木啓代氏が、黒薮がサクラフィナンシャル・ニュースに書いた記事などを理由に、起こした本人訴訟の尋問が、15日(火)の14時から行われる。スケジュールは次の通り。

■3月15日 14:00~16:00

■東京地裁  624号法廷

■尋問の順番:八木(原告)、黒薮(被告)、志岐(被告)

八木氏が問題にしているのは、黒薮が書いた次の記事。

http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20150312_2

 

請求は200万円。
八木氏の主張のひとつは、この記事が互いに対立している八木氏と志岐氏のそれぞれの主張を公平に報じたものではなく、志岐氏に肩入れした客観性の乏しい記事なので、名誉毀損にあたるというもの。おそらく前例のない訴因だが、訴権が保証されているうえ、八木氏には代理人弁護士がついていないので、裁判になった事情があるようだ。

 

志岐氏が被告にされた理由のひとつは、この記事をツイッターで拡散したことである。

尋問の詳細については、尋問調書が整った段階で公開したい。

なお、志岐氏が八木氏を提訴した前訴は、志岐氏が勝訴している。八木氏による名誉毀損が認定された。八木氏は控訴したが、1回の口頭弁論で結審しており、志岐氏が勝訴する可能性が高い。

参考記事:八木啓代氏に10万円の賠償命令、志岐氏の主張の一部を認め、八木氏の抗弁(反論)はまったく認めず、「八木VS志岐」裁判

参考記事:【ツィッターによる名誉毀損の判例】歌手で作家・八木啓代氏のツィートを裁判所はどう判断したのか、裁判所作成の評価一覧を公開

このところ巨大企業によるスラップが問題になっているが、代理人弁護士がアドバイスする状況にない個人による本人訴訟も、その実態を検証する時がきている。

 

2016年03月10日 (木曜日)

歌手で作家の八木啓代氏(司法改革を実現する国民会議共同代表)がメディア黒書の記事に疑義を唱えてきたので、同氏の反論を掲載することにした。

八木氏が指摘している記事は、2015年11月26日付けの次の記事である。

■八木啓代氏に10万円の賠償命令、志岐氏の主張の一部を認め、八木氏の抗弁(反論)はまったく認めず、「八木VS志岐」裁判

記事の一部を引用しておこう。

市民運動家の志岐武彦氏が、歌手で作家の八木啓代氏に対して、多数のツイートなどで名誉を毀損されたとして、200万円の賠償を求めた裁判で、東京地裁の佐藤隆幸裁判官は、25日、志岐氏の主張の一部を認め、八木氏に対して10万円の支払いを命じた。

原告(志岐氏)と被告(八木氏)の双方から多量の書面が提出されたにもかかわらず、判決では志岐氏の主張の一部が認められたにとどまった。

志岐氏の主張に関していえば、裁判所が名誉毀損として認定したのは、八木氏が発信した6件のツイートと1件の電子メールである。

一方、被告・八木氏の抗弁(志岐氏に対する反論のこと)については、まったく認められなかった。すべてが不認定となった。

八木氏は、9日付けのEメールで、次のように伝えてきた。

「八木氏の抗弁(反論)はまったく認めず」「すべてが不認定になった」というのはまったく事実に反しております。

そこで八木氏の反論をそのまま掲載することにした。が、その前にここにいたる経緯を手短に伝えておこう。

◇発端は小沢検審疑惑

2013年10月に元参議院議員の森裕子氏が、市民運動家の志岐武彦氏を提訴した。小沢一郎氏に対して起訴相当議決を下した東京第5検察審査会が架空だったのではないかという説を巡り、志岐氏と森氏は対立を深め、ブログなどで論争を展開していたのだが、森氏が提訴に踏み切ったのである。

この論争では、八木氏が多量のツイッターで志岐氏を批判していた。そして裁判では森氏のために陳述書を提出した。

判決は2014年8月に下された。志岐氏の勝訴だった。森氏が控訴しなかったので、判決はそのまま確定した。

勝訴した志岐氏は、八木氏の多量のツイッターが名誉毀損にあたるとして、八木氏を提訴した。判決は、2015年11月に下された。志岐氏の勝訴だった。今回、八木氏が問題にしてきたのは、この裁判の判決を伝えるメディア黒書の記事(上記のもの)である。

記事の中でわたしは八木氏の反論(長文なのでPDF形式)を掲載した。その中に、「志岐氏の重大な虚言癖」という表現があった。それを知った志岐氏は、メディア黒書に対してコメントの削除を求めた。

わたしは志岐氏の申し出を断った。コメントは八木氏の反論であるから、削除できないと通知した。そこで志岐氏が八木氏に対して名誉毀損裁判を起こしたのだ。ただし、それは簡易裁判だった。わたしはすぐに決着が着くと思った。

ところが3月7日に開かれた第1回の法廷で、簡易裁判所はこの件を東京地裁へ移す決定を下した。裁判の長期化が予測されるので、わたしは八木氏に対して、希望があれば暫定的に一旦、コメントを削除する旨を伝えた。

これに対して八木氏は、次のように回答した。

私のコメントの中の「志岐氏の重大な虚言癖が明らかにされそうになって、」の部分については、削除を希望いたします。

それ以外の点についてですが、黒薮氏の書かれた、「八木氏の抗弁(反論)はまったく認めず」「すべてが不認定になった」というのはまったく事実に反しております。

私の主張は一貫して、表現の自由の範疇であり「名誉毀損に当たらず」というものであり、抗弁のうちの認められなかったのは、被告準備書面6にある、「万が一、名誉毀損に当たるとしても、『対抗言論の法理』や『緊急避難』が認められるべきである」とした部分に過ぎません。

したがって、私の反論も、「一部」が認められなかったに過ぎないにもかかわらず、「まったく認めず」という虚偽内容の記事を書かれているわけですので、この部分の訂正を求めます。

志岐氏が、このコメントをもって提訴をされるのであれば、反訴を行うと共に、私もこの部分をもって、黒藪さんを提訴させて頂くことになるでしょう。(略)

なお、八木氏はそれ以前に、2015年3月、志岐氏とわたしに対して200万円を要求する名誉毀損裁判を起こしている。本人訴訟である。わたしに対する請求理由は、次の記事で名誉を毀損されたというものである。

■【特報】「志岐武彦VS八木啓代」の名誉毀損裁判、背景に疑惑の小沢一郎検審をめぐる見解の違い

この裁判は現在も進行中で、3月15日に本人尋問が行われる。

◇八木氏の全面敗訴という評価の根拠

ちなみにわたしがメディア黒書の記事で、八木氏の抗弁がまったく認められなかったと書いた根拠は次の通りである。

志岐氏が損害賠償の対象とした約200件(リツイートも含む)のツイートの大半が名誉毀損ではないと認定されたとはいえ、それが逆説的に八木氏の主張を認めたと解釈できないこと。それは判決文に添付されているツイートの評価一覧表を見れば分かる。原告・被告・裁判所の判断に分類されている。

■判決文のうちツイートを評価した部分(一覧表)

判決のうち、八木氏の抗弁について判断した記述では、いずれも八木氏の主張が退けられていること。判決文の17ページ、「5 争点⑤(対抗言論の法理、真実性、正当防衛、緊急避難その他の抗弁の成否)について」の部分である。

■判決文

◇八木氏の反論

これに対して八木氏の反論は次の通りである。

判決文のP5のが「本件ツイートが原告の名誉を毀損するものではない」という点と「表現の自由の範疇に含まれ、原告の名誉を毀損するものではない」というのが私の主張であり、一方、志岐氏の主張が、数百のツイートの全てが名誉毀損性があるものであるというものであったにもかかわらず、名誉毀損性が認められたのが、わずか数点であったという点そのものが、私の主張の大半(要するに、私のツイートは名誉毀損性がないものである)を、判決が追認したものであるということです。

唯一、私の1/20敗訴部分と言えるのは、「肯」とされた部分に対しての、「万が一、名誉毀損に当たるとしても、『対抗言論の法理』や『緊急避難』が認められるべきである」とした部分に過ぎません。したがって、私の主張の全てが「まったく認められなかった」という論評は事実に反するものです。

■八木氏が自分の準備書面の中で指摘している関連箇所(メディア黒書宛てに送付されたもの)

■名誉毀損裁判の訴因となった八木氏のコメントの修正版

◇本人尋問のお知らせ

なお、問題になっているメディア黒書の記事にある八木氏のコメントは、八木氏が修正したものに差し替えた。

八木氏がわたしと志岐氏を訴えた裁判の本人尋問の日程は次の通りである。

  東京地裁624号法廷
  3月15日 14:00~16:00
   八木、黒薮、志岐の順番

繰り返しになるが、八木氏が名誉毀損だとしているのは次の記事である。

■【特報】「志岐武彦VS八木啓代」の名誉毀損裁判、背景に疑惑の小沢一郎検審をめぐる見解の違

 

 

2016年03月09日 (水曜日)

千葉県内の毎日新聞販売店から「押し紙」に関する新資料を入手した。

「押し紙」とは、広義には新聞社が新聞販売店に対して供給する過剰な新聞部数を意味する。残紙ともいう。たとえば2000部しか配達していない販売店に対して3000部を搬入すれば、差異の1000部が「押し紙」である。この1000部に対しても、新聞社は卸代金を徴収する。普通の新聞とまったく同じ扱いにしているのだ。消費税もかかる。

新資料について説明しよう。資料のタイトルは「毎日新聞 増減報告書」。新聞販売店の経営者が、新聞の搬入部数を毎日新聞社に通知するためのものである。日付けは2015年8月7日。

それによるとこの販売店の経営者は、店舗を2店経営している。仮にこれらをA店、B店とする。

経営者はA店については900部の減部数を、B店については200部の減部数を「増減報告書」を使って申し入れている。その結果、搬入される毎日新聞の総部数は、312部(A店)と161部(B店)に減った。

これらの数字から、元々搬入されていた毎日新聞の総部数と新規の総部数の差は次のようになる。

A店:1212部→312部 (差異:900部)
B店:363部→161部(差異:200部)

差異の部分がほぼ不要な新聞部数、つまり「押し紙」部数であった可能性が極めて高い。「押し紙」率は次のようになる。

A店:74%
B店:55%

■出典:毎日新聞 増減報告書

◇まったく解決されていない「押し紙」問題

これら2店を経営している店主は、毎日新聞社との契約を一方的に解除されており、現在は東京新聞や産経新聞、それに千葉日報などを配達している。

このところメディア黒書に対して新聞販売店からの情報提供があいついでいる。新聞社による販売店いじめは今に始まったことではないが、昨年、あたりからそれがさらに激しくなっている。経営者が自殺したという情報だけでも4件寄せられている。深刻な社会問題である。

2009年7月に読売新聞がわたしと週刊新潮を「押し紙」報道で提訴して以来、「押し紙」報道は沈黙しているが、問題が解決されるどころか、ますます深刻化しているわけだから放置できない。メディア黒書では、今後、さらに積極的にこの問題を取り上げていきたい。

なお、前出の販売店の経営者は、現在、地位保全の仮処分を申し立てている。

なお、新聞販売店の地位保全裁判については、次の有名な判例がある。

■真村訴訟・福岡高裁判決

 

【情報提供先】メディア黒書 ☎048-464-1413

注:動画は「押し紙」回収の場面。記事とは関係ありません。

2016年03月07日 (月曜日)

 本日(7日)発売の『紙の爆弾』(鹿砦社)に、わたし(黒薮)の著名記事が掲載された。タイトルは、「〝訴えた者勝ち〟で乱発される巨額訴訟『日本の裁判』を問う」。

ここで取り上げた裁判は、作曲家・穂口雄右氏が巻き込まれたミュージックゲート裁判、わたしが体験した4件の読売裁判、ボクシングの亀田兄弟がフリージャーナリスト・片岡亮氏に対して起こした裁判、それにヒロナカ事務所が代理人を務めている池澤裁判である。

池澤裁判では、お金の請求方法に注視してほしい。読者はどのような感想を持つだろうか。原告側の言い分も十分に紹介した。

高額訴訟が大きな社会問題になっていることは周知の事実である。2000万円、あるいは3000万円程度の請求は特に珍しくない状況が生まれている。穂口氏の場合は、なんと2億3000万円の請求だった。

こうした高額訴訟がいかに非常識であるかは、高額請求という行為がなにを意味するのかを、慎重に具体的に考えてみるとピンとくる。訴状に記された請求額が、たとえば5000万円だっとする。これを見た時、大半の人々は、「異常に高い」という驚きを露呈するだけに留まる。

しかし、ヤクザでも暴力団でも、「5000万円のお金を現金で払え」とは言わないだろう。ところが訴訟という形式を取るとそれが堂々と正当化されてしまうのだ。このような高額訴訟を日本を代表する人権擁護団体・自由人権協会の代表理事を務める弁護士(喜田村洋一氏)が引き受けたのである。

その背景には、広義の構造改革のひとつである司法制度改革により、弁護士業務を市場原理に乗せたことがあるようだ。司法制度改革の失敗が現在の状況を生み出した。モラルハザードが広がっている。

この記事では、最近の高額訴訟の実態をレポートした。

2016年03月06日 (日曜日)

4月から新しい新聞奨学生が全国の新聞販売店に配属される。この制度は各新聞社本体が運営母体となっており、仕事と学業を両立する手段としてよく知られるが、奨学生の「過労死事件」も起きるなど問題点の指摘も絶えない。このたび日本経済新聞の販売店で働きながら都内の芸能専門学校へ通う青年が、職場の実態を内部告発した。

規定の労働時間や月6日の休日数が守られず、疲労蓄積のなかで配達中の交通事故も多発し、生命の危険を感じる問題も起きているが、事故を起こしたバイクが自賠責保険にすら加入していないことがわかり、安全に使えるバイクの台数も十分でないという。

配達員の出入りが激しく内部での物品紛失が多く、夕食は毎日が仕出弁当で、少ない給料から2万9千円も天引き。配達の不着5回で解雇(つまり奨学金一括返済)を受け入れる、との念書を書かされた同僚もいるという。新聞奨学生SOSネットワークの村澤純平氏は「どの学校を選ぶか、どの店に入店するか」で奨学生の運命が左右される、と話す。新聞奨学生のリアルな現場の実像を報告する。【続きはMyNewsJapan】

 

2016年03月03日 (木曜日)

2月28日に、最高裁事務総局の実態を告発している「最高裁をただす会」が、東京の豊島区民センターでシンポジウム「裁判所は本当に駆け込み寺か?」を開催した。講演したのは、次の4氏。

生田暉雄(弁護士):元大阪高裁判事で最高裁事務総局の裏金疑惑を追及している。[2分50秒~]

志岐武彦(市民運動家):小沢一郎検察審査会架空議決疑惑で最高裁事務総局を追及している。[59分50秒~]

吉竹幸則(元朝日新聞記者でフリージャーナリスト):無駄な公共事業・長良川河口堰のウソを暴き、退職後、記事の不掲載や「ぶら勤」などをめぐり朝日新聞社を提訴した。[1時間23分40秒~]

黒薮哲哉(フリーランス記者):スラップ、メディア、電磁波問題などを取材している。[1時間47分50秒~]

このうちわたしは携帯電話の撤去を求める裁判で、第3者から見れば極めて不自然な裁判官の人事異動が行われ、電話会社が勝訴した事実を紹介した。田中哲郎裁判官が、福岡高裁が管轄する3つの裁判所(熊本・福岡・宮崎)を異動しながら、次々と住民を敗訴させていった問題の経過を話した。

なお、田中氏は定年後に、なぜか佐賀簡易裁判所に「再就職」している。

 

2016年03月01日 (火曜日)

 本日発売の『ZAITEN』(財界展望社)が「新聞『軽減税率適用』の断末魔」と題する特集を組んでいる。わたし(黒薮)も寄稿している。記事のタイトルは、「新聞業界『軽減税率』要求の陰に“押し紙”経営の恥部」。

読者は購読者がいない「押し紙」にも消費税が課せられるメカニズムをご存じだろうか。それにより新聞社がどのような負担を受けるのかを具体的な資料に基づいて分析した内容だ。

新聞ジャーナリズムの衰退が指摘されて久しいが、その根本的な原因は新聞社経営の汚点にある。もっと的確に指摘するならば、「押し紙」を柱に据えた新聞社のビジネスモデルにある。記者の職能が低下したからジャーナリズムが衰退したというような一般論は枝葉末節に過ぎない。

「押し紙」問題を解決しない限り、新聞ジャーナリズムの再生は絶対にありえない。しかし、日本の新聞人はいまだにこの大問題を直視しようとはしない。戦後、戦争犯罪・戦争協力の検証をごまかした先輩らの生きかたをそのまま継承している。

同じ特集で、他に河内孝氏、古川琢也氏らが寄稿している。

2016年02月29日 (月曜日)

3月1日は、読売新聞・平山事件8周年である。平山事件とは、福岡県久留米市の読売新聞久留米文化センター前店の店主だった平山春男さんを、読売が解任した事件である。この事件を機として、複数の裁判が始まることになる。

3月1日の午後、読売の江崎法務室長らは、事前の連絡もせずに平山さんの店を訪問した。そして対応に出た平山さんに解任を通告したのである。それから関連会社である読売ISの社員が、翌日に配布される予定になっていた折込広告を店舗から搬出した。

こうして平山さんの店は、あっけなく幕を閉じたのである。

前年の暮れに平山さんは、対読売弁護団(真村訴訟の弁護団)を通じて、「押し紙」(広義の残紙を意味する)を断った。弁護団がその後、作成したリーフレット『「押し紙」を知っていますか?』によると、2007年11月時点における平山店への新聞の搬入部数は2010部だった。このうち997部が配達されずに余っていた。

◇双方が提訴

この事件では、双方が相手に対して裁判を起こした。読売は、平山さんに店主としての地位が存在しないことを確認する裁判を、平山さんは地位保全の裁判をそれぞれ起こした。裁判は読売の勝訴で終わった。

平山さんは高裁で敗訴した後、病死された。

◇名誉毀損裁判も提起

平山事件の報道をめぐり、わたしも読売から裁判を起こされた。

事件が起きた3月1日、福岡県の販売店主から連絡を受け、わたしはその日のうちに新聞販売黒書(現・メディア黒書)に臨時ニュースを掲載した。その記事の中で、読売関係者が行った折込広告の搬出行為を「窃盗」と書いた。

予告することなく平山さんに解任を告げ、著しい精神的衝撃を与えた状態で、折込広告の搬出行為を行ったと推測されるので、「窃盗のように悪質」という意味の隠喩(メタファー)を使った表現を採用したのである。

事件から11日後の3月11日、読売の江崎法務室長らは、さいたま地裁に一通の訴状を提出した。被告は、わたしだった。「窃盗」は事実の摘示にあたり、事実に反するという主張等を前提に、2200万円(弁護士費用200万円を含む)の金銭等を要求する裁判を起こしたのである。

■訴状

判決は、さいたま地裁、東京高裁はわたしの勝訴。しかし、最高裁が小法廷を使って口頭弁論を開催し、判決を東京高裁へ差し戻したのである。

そして東京高裁の加藤新太郎裁判長が、わたしに110万円の金銭支払いを命じたのである。

加藤氏はその後、退官。その後、大手弁護士事務所・アンダーソン・毛利・友常法律事務所に顧問として再就職した。なお、加藤氏が読売新聞に登場していたことが、後に判明する。次の記事である。

■読売に登場した加藤新太郎氏

わたしは裁判の公平性という問題を考えざるを得なかった。高裁の事務局は担当裁判官の選任を間違ったのではないか?

なお、平山裁判とわたしの裁判に、読売の代理人として登場したのは、喜田村洋一・自由人権協会代表理事だった。喜田村氏らは、「押し紙」の存在を否定してきた。

2016年02月26日 (金曜日)

民主党と維新の党が3月中に合流して新党を結成することになった。非自民が本格的に結束するのは、これで3度目である。

最初は、小沢一郎氏が財界に後押しされて新自由主義=構造改革の導入を叫んで自民党を飛び出して組織した新進党。それから民主党。そして今回は、「民主+維新」である。これらの非自民政党に一貫して共通しているのは、新自由主義=構造改革を基本的な政策に据えている点である。

一方、自民党も小泉政権の時代から急進的な新自由主義政党に変化し、その後、一時的な足踏みはあったが、安倍政権下で再びドラスチックに小泉路線を継承しているので、今回の新党結成により、2つの新自由主義政党が政権を競う構図がみたび浮上することになる。これまでの2回は、新党側が完全に失敗したが、それに懲りずに3度目の「挑戦」に踏み出したのである。

民主党と維新の党が発表した合意事項のうち、経済政策は次のようになっている。(番号は便宜上、わたしが付した。)

、新規参入を拒む規制の改革によって、起業倍増を目標に新陳代謝を促し、持続的かつ実質的な経済成長を目指す。

、 経済連携協定によって自由貿易を推進する。ただし、個別具体的には、国益の観点から内容を厳しくチェックし、その是非を判断する。

、地域を支える中小企業の生産性向上のため、研究開発、人材、IT、デザインなど、ソフト面への支援を強化する。

、職業訓練とセーフティーネットを強化した上で、成長分野への人材移動を流動化する。科学者、芸術家、起業家など、クリエイティブ人材の育成と集積を進める。必要な海外からの人材は、計画的に認めていく。

、 同一労働同一賃金と長時間労働規制を実現し、働きがいのある社会を創る。

「5」を除いて、すべて新自由主義の政策である。「規制の改革」「自由貿易を推進」「研究開発、人材、IT、デザインなど、ソフト面への支援」「成長分野への人材移動」など、根本的な部分では自民党と同じだ。

唯一、自民党との対立点は、「今般可決された安全保障法制については、憲法違反など問題のある部分をすべて白紙化するとともに、我が国周辺における厳しい環境に対応できる法案を提出する。」という部分であるが、合意事項の冒頭には、「日米同盟を深化させる」とも述べており、本気で対米追随を断ち切るとは思えない。

◇基本的に自民党の政策と同じ

原発についても当面は再稼働の方向性だ。

、原発再稼働については、国の責任を明確化し、責任ある避難計画が策定されることと、核廃棄物の最終処分場選定プロセスが開始されることを前提とする。

2大政党制の強化をねらった政策もある。

、国民との約束である議員定数の削減を断行する。

参政権を狭めるのが愚策であるのは論を待たない。削減すべきは、政党助成金である。

新自由主義がめざす「小さな政府」の実現目標は、次のようなかたちで表明された。

、職員団体等との協議と合意を前提としつつ、国家公務員総人件費の2割を目標に、その削減を目指す。

消費税の10%アップも是認している。

、消費税10%への引き上げは、身を切る改革の前進と社会保障の充実を前提とする。

中央政府を小さくして、地方自治体に福祉や教育をまるなげして、これらの分野を縮小していく地方分権政策も露骨に打ち出されている。

10、「権限・財源・人間」の東京一極集中を脱して、地域の創意工夫による自立を可能とする地域主権社会を実現する。

11、基礎自治体の強化を図りつつ、道州制への移行を目指す。その際、それぞれの地域の選択を尊重する。

12、国の出先機関をゼロベースで整理し、職員の地方移管を推進する。

13、税源移譲や国庫補助金の一括交付金化、地方交付税制度の見直しを含め、地方財政
制度を見直す。

「11」に至っては橋下徹氏の主張である。

◇新自由主義と軍事大国化は同じ土壌

そもそも新自由主義の経済政策を中心に据えた場合、それに連動して軍事大国化の方針が浮上するのが自然の流れだが、この点に関しては、世論の批判を警戒しているのか隠している。むしろ自民党の方が、トランプ氏流に、本音をむき出しにしている。

新党が本当に安保関連法案に反対するのであれば、海外市場をターゲットとした経済政策-新自由主義と決別しなければならない。

夏の参院選では、一部の選挙区で野党共闘が実現する。共産党がかなり自分を押し殺して、野党共闘の形を整えたといえるだろう。だが、問題は新自由主義の経済政策を諸悪の根源と考えている人々は、投票先を失ってしまうことである。左派の受け皿がなくなってしまった。

そもそも新自由主義と軍事大国化は表裏関係にある。片方だけを取り下げることは、本来はありえない。

■民主・維新の基本的政策合意(案)