新刊の『新聞と公権力の暗部』-(「押し紙」問題とメディアコントロール)、書店販売が開始
新刊の『新聞と公権力の暗部』-(「押し紙」問題とメディアコントロール)《鹿砦社》の書店販売が開始された。
この本は新聞ジャーナリズムが機能しなくなった原因が、新聞社のビジネスモデルの中にあることを論じたものである。新聞社は「押し紙」によって莫大な利益を得ている。わたしの試算では、業界全体で年間に少なくとも932億円の不正な金が新聞社に流入している。
公権力機関がこの点に着目して、故意に「押し紙」問題を放置すれば、暗黙のメディアコントロールが可能になる。新聞は世論誘導の巧みな道具に変質する。
このあたりのからくりをわたしは本書で容赦なく暴露した。
とかく新聞が堕落した原因を、記者個人の資質や職能の問題と捉える風潮があるが、本書はその原因を新聞のビジネスモデルの中に潜む客観的な問題に求めた。
またこれまでわたしが著した「押し紙」問題の書籍の反省点も踏まえて、バブル期における「積み紙」の存在を認めるなど、新聞業界の実態をより客観的に把握している。「押し紙」問題を扱いながらも、本書のテーマは、公権力機関によるメディアコントロールのからくりである。
読売新聞「押し紙」裁判〈1〉元店主が敗訴、不可解な裁判官の交代劇、東京地裁から大阪地裁へ野村武範裁判官が異動
4月20日、読売新聞の元店主・濱中勇さんが読売新聞社に対して大阪地裁に提起した「押し紙」裁判の判決があった。
判決内容の評価については、日を改めてわたしなりの見解を公開する。本稿では判決の結論とこの裁判を通じてわたしが抱いた違和感を記録に留めておく。ここで言う違和感とは、判決の直前にわたしが想像した最高裁事務総局の司法官僚らの黒幕のイメージである。
まず判決の結論は、濱中さんの敗訴だった。濱中さんは、「押し紙」による被害として約1億3000万円の損害賠償を請求していたが、大阪地裁はこの請求を棄却した。その一方で、濱中さんに対して読売への約1000万円の支払を命じた。補助金を返済するように求めた読売の主張をほぼ全面的に認めたのである。
つまり大阪地裁は、「押し紙」の被害を訴えた濱中さんを全面的に敗訴させ、逆に約1000万円の支払を命じたのである。
◆権力構造の歯車としての新聞業界
判決は20日の午後1時10分に大阪地裁の1007号法廷で言い渡される予定になっていた。わたしは新幹線で東京から大阪へ向かった。新大阪駅で、濱中さんの代理人・江上武幸弁護士に同行させてもらい大阪地裁へ到着した。判決の言い渡しまで時間があったので、1階のロビーで時間をつぶした。そして1時が過ぎたころに、エレベーターで10階へ上がった。【続きはデジタル鹿砦社通信】
読売新聞「押し紙」裁判、原告の元店主が敗訴するも、読売による「新聞特殊指定第3項2号違反を認定」
大阪地裁は、4月20日、読売新聞の元店主・濱中勇さんが読売新聞社に対して大阪地裁に提起した「押し紙」裁判の判決を言い渡した。結果は、濱中さんの敗訴だった。しかし、判決の中で裁判所は、読売による新聞特殊指定第3項2号違反を認定しており、今後の「押し紙」問題の進展に大きな影響を及ぼしそうだ。
新聞特殊指定第3項2号とは、新聞社が「販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給する」行為である。しかし、「押し紙」に対する損害賠償責任は免責しており、論理の整合性が完全に欠落している。
この判決について「押し紙」弁護団の江上武幸弁護士が報告文を公開したので、以下、掲載しておこう。
「押し紙」驚愕の実態 新聞社不正収入35年で3兆円以上、統一教会より根深い問題
◆「押し紙」による不正収入は年間932億円規模
田所 実態として日本には5大紙を含め地方紙もたくさんありますが、ほとんどの新聞社が「押し紙」を続けているのですか。
黒薮 今ももちろん続いています。「押し紙」の収入は想像以上に巨額です。私がシュミレーションした数字があります。今問題になっている統一教会による被害額が、全国霊感商法対策弁護士連絡会によると35年間で1237億円です。一方で「押し紙」による収入がどれくらいかの規模になるのか想像できますか?。
わたしは、2021年度日本新聞協会による統計を使って試算したことがあります。朝刊だけを対象にした試算です。それによると朝刊の総発行部数は、2590万部です。このうちの20%が「押し紙」だとします。20%は過少な数字なのですが、誇張を避けるために20%で計算しました。そうすると「押し紙」の部数は、全国で1日に518万部です。新聞一部の卸値はだいたい定価の半額です。朝刊の月間購読料は約3000円ほどですから、一部あたりの卸値を1500円で計算すると、月間で77億7千万円となります。これを12倍つまり1年で計算すると約932億円です。これが「押し紙」による不正な収入の額です。先ほどの統一教会による被害額は、35年で1237億円と説明しましたが、「押し紙」による不正収入は、たった1年で932億円です。これを35年ベースになおすと、3.2兆6200億円になります。これだけの不正なお金が「押し紙」から発生しているのです。
統一教会の事件は、大問題になっていますが、不正な収入の金額という点でいえば、新聞業界のほうがはるかに悪質なことをしているわけです。こうした事実は、ちゃんと暴露すべきなのです。
田所 統一教会は信者の数が新聞購読者ほどたくさんいるわけではないので、一人当たりの被害額が大きいからあたかも悪いと。実際悪いのですが、総額でみると新聞のほうが途方もない額を誤魔化している。
黒薮 「押し紙」を無くせば年間で932億円ほどの収入が、全国の新聞社からなくなってしまうわけです。この点に公権力が着目すれば、メディアコントロールが簡単にできます。新聞社に対して、あまり反政府的なことを書いていると「押し紙」問題にメスを入れますよ、とほのめかせばメディアコントロールが簡単に成立します。私は日本の新聞がおかしくなった最大の原因はここにあると考えています。【続きは、デジタル鹿砦社通信】
遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫〈06〉日本のタブー「押し紙」問題の本質を探る
◆日本の新聞がデタラメだと感じた瞬間
黒薮 思い出すことがあります。日本の新聞がおかしいと最初に思ったのは、20代の終わりです。わたしは20代の大半を海外で暮らしたのですが、日本に帰って東京でアパートに入った、その日に驚くべき体験をしました。ドアを開けると、拡販員がいきなり洗剤を押し付けて「新聞を取ってくれ」と言ってきたのです。こうした新聞拡販を知らなかったので、「これで新聞記者の人は平気なのかな」と思いました。これが日本の新聞はどこかおかしいと感じた最初です。
田所 そこから黒薮さんはライフワークの「押し紙」の取材にとりかかられたのですか。
黒薮 東京で普通の会社に就職したんです。そこに2年くらい居ましたがバブル崩壊で会社が潰れたので、それからメキシコで、メキシコ日産の通訳をした後、日本に戻り新聞業界の業界紙に入りました。「押し紙」に関わりだしたのはそれからです。
田所 新聞業界の業界紙だから、ど真ん中にいらっしゃった。内部事情が分かりますね。
黒薮 業界団体の中で不正経理事件があって、それを調べようとしたら業界紙の社長さんらがみんなで、「これは取材してはいけない」と決めてしまいました。そこで「それはおかしいのではないか」と言っていたら、クビになったんです。
田所 解雇ですか。【続きはデジタル鹿砦社通信】
新聞の没落現象に歯止めかからず、2023年1月度のABC部数、年間で朝日新聞が62万部減、読売新聞が47万部減
2023年1月度のABC部数が明らかになった。それによると朝日新聞は約380万部、読売新聞は約651万部、毎日新聞は約182万部だった。この1年間の減部数は、朝日新聞が約62万部、読売新聞が約47万部、毎日新聞が14万部だった。産経新聞と日経新聞も大幅に部数を減らしている。部数回復の兆しはまったく見られない。
このペースで新聞離れが進めば、朝日新聞は2024年度中に300万部の大台を割り込む可能性がある。また、読売新聞は年内にも600万部の大台を割り込む可能性がある。
1月度のABC部数は次の通りである。
朝日新聞:3,795,158(-624,194)
毎日新聞:1,818,225(-141,883)
読売新聞:6,527,381(-469,666)
日経新聞:1,621,092(-174,415)
産経新聞: 989,199(-54,105)
なお、ABC部数には「押し紙」(広義の残紙)が含まれているので、新聞販売店が実際に配達している新聞部数は、ABC部数よりもはるかに少ない場合が多い。「押し紙」率は、新聞社によっても地域によっても異なるが、過去に起きた「押し紙」裁判のデータなどから察すると、搬入部数の20%から40%ぐらいになると推測される。相対的に地方紙よりも中央紙の方が「押し紙」が多い傾向にある。ただ、新聞販売店からの情報によると、今後、「押し紙」政策を廃止する方針を打ち出した新聞社もあるようだ。
新聞離れは、夕刊の廃止という形でも現れている。たとえば中央紙でも毎日新聞は、4月から愛知、岐阜、三重で夕刊を廃止する。今後、夕刊廃止の流れは他地域や他社でも起きるだろう。夕刊廃止はすでに秒読みの段階に入っている。
【続きはデジタル鹿砦社通信】
元販売店長が内部告発、「押し紙」と表裏関係、折込広告の水増し問題、古紙回収業者の伝票が示す凄まじい実態
事実を裏付ける資料は、報道に不可欠な要素のひとつである。新聞や雑誌などの紙媒体はスペースに制限があるので、資料を全面公開するには物理的な限界があるが、インターネット・メディアには限界がない。この当たり前の原理を最も有効に生かしたメディアは、恐らくジュリアン・アサンジが設立したウィキリークスではないか。生の資料を公開することで、記事の記述の裏付けを提示している。
先日、筆者は読売新聞販売店の元店長から、膨大な量の内部資料を入手した。その中で注目した資料のひとつに、古紙回収業者が販売店に発行した伝票がある。そこには業者が回収した残紙量と折込広告の量が明記されている。
残紙の実態は、「押し紙」裁判などを通じて、かなり明らかになってきたが、水増しされ、廃棄される折込広告の数量が伝票上で明らかになったのは、筆者の取材歴の中では今回が初めてである。抜き打ち的に伝票を写真付きで紹介しよう。
◆過剰になった折込広告を裏付ける伝票
まず伝票で使われている用語について事前に説明しておこう。「残新聞」とは残紙(広義の「押し紙」)のことである。「色上」とは、折込広告の事である。年月日の表記は、元号で表記されている。従って本稿でも例外的に元号を使用する。ただし(括弧)内に正規の年月日を示した。
元店長によると、古紙回収業者は月に2回から3回、残紙と折込広告を回収していたという。
■平成27(2015年)年8月26日
残新聞:6480kg
色上(折込広告):1210Kg
■平成28年(2016年)11月21日
残新聞:7320kg
色上:1250Kg
■平成30年(2018年)7月5日
残新聞:7010kg
色上:810Kg
残紙の回収量が約6・5トン、折込広告の回収量が1・2トン、廃業した読売新聞販売店の伝票を入手
茨城県古河市にあった読売新聞販売店の元店長から、「押し紙」(広義の残紙)と折込広告の回収状況を示す伝票を入手した。それによるとたとえば、「平成24年(2012年)8月26日」付けの伝票には次の数値が記されている。
残紙の回収量:6480kg
色上(折込広告):1210Kg
残紙の回収量が約6・5トンで、過剰になった折込広告の回収量が1・2トンである。
この店は新聞の卸代金が支払えなくなり2020年に廃業した。
折込広告の回収数量が明らかになったのは、筆者が知る限りでは今回が初めてである。折込広告が廃棄されていた事実が伝票で確認できたことにより、広義の「押し紙」は、新聞業界の外部へも被害を及ぼしていることが明らかになった。今後、ジャーナリズムは折込広告の廃棄問題をクローズアップする必要がある。
毎日新聞網干大津勝原店の事件、担当員の個人口座に新たに485万円の「裏金」振込が判明、総額で900万円に、背景に深刻な「押し紙」問題
この記事は、毎日新聞・網干大津勝原店の元販売店主が販売局員の個人口座に金を入金した事件の続報である。1月25日付けのデジタル鹿砦社通信で筆者は、『毎日新聞販売店、元店主が内部告発、「担当員の個人口座へ入金を命じられた」、総額420万円、エスカレートする優越的地位の濫用』と題する記事(以下「第1稿」と記す)を掲載した。
タイトルが示すように元販売店主が、「押し紙」を含む新聞の卸代金を販売局員の個人口座に入金するように命じられたとする内容である。元販売店主による内部告発だ。
これに対して毎日新聞東京本社の社長室は、筆者がコメントを求めたのに対して、「調査中であり、社内で適切に対応していきます」と回答した。
その後、筆者は不透明な入金を裏付ける別のデータを入手した。と、いうよりも筆者が、第1稿を公表した際に見落としていたデータがあったのだ。本稿では、新たに分かった店主による入金の年月日と入金額を補足しておこう。
金銭の振り込みを命じた毎日新聞社の人物は、第1稿で言及したのと同じ山田幸雄(仮名)担当員である。既に述べたように筆者は、1月5日に現在は毎日新聞・東京本社に在籍している山田担当に対して電話で、次の3点を確認した。
①電話の相手が、毎日新聞社販売局に所属している山田幸雄氏であること。
②山田氏が大阪本社に在籍した時代に、網干大津勝原店を担当した時期があること。
③網干大津勝浦店の元店主(内部告発者)に面識があること。
◆支払いの年月日と金額
新たに分かった金の振り込み年月日と金額は次の通りである。
※資料との整合性を優先して、日付けは例外的に元号で表記する。読者の混乱を避けるために西洋歴も()に記した。【続きはデジタル鹿砦社通信】
「押し紙」問題が急増、販売店は請求書や発証部数を示す資料の保存を
このところメディア黒書への「押し紙」に関する情報提供が急増している。確信的なことは言えないが筆者は、借金がゼロの店主のほうがむしろ少数になっているのではないかとの印象を受けている。しかも、借金の額が数千万円に及ぶケースも少なくない。被害額が尋常ではない。それ自体が社会問題なのである。
しかし、販売店の声はなかなか表に浮上しない。内部告発を自粛する空気があるように感じる。逆説的にいえば、それだけ新聞発行本社が何十年にもわたり優越的な地位を濫用してきた証ではないか。
なにしろ販売店は、新聞の供給を止められるとその日から立ちいかなくなるわけだから、新聞社に対する警戒心が極端に強い。これはやむを得ない事情だ。
しかし、今後、「押し紙」裁判が増える可能性が高い。そこで裁判のために保存しておくべき資料について、筆者の見解を述べておく。次の資料を、少なくとも3年前にさかのぼって保存しておくことを勧める。理想的には10年分の資料を保存することを推奨する。
毎日新聞・販売店元店主が内部告発、「担当員の個人口座へ入金を命じられた」、総額420万円、エスカレートする優越的地位の濫用
毎日新聞・網干大津勝原店(姫路市)の元店主から、筆者が入手した預金通帳や「取扱票」を調べたところ、元店主から毎日新聞社の担当員の個人口座に繰り返し金銭が振り込まれていることが判明した。金銭どのような性質のものなのかは現時点では不明だが、この販売店は昨年の12月に、「押し紙」が原因で廃業に追い込まれており、金額の中に「押し紙」により発生した金額が含まれていた可能性もある。
元店主は、次のように話している。
「山田幸雄(仮名)担当から個人口座への金銭の振り込みを命じられました。『押し紙』代金の支払いに窮しており、指定された個人口座に新聞代金を振り込めば、特別な取り計らいをすると言われました」
筆者は、毎日新聞・東京本社の山田担当に電話で事実関係を確認した。まず、本人が毎日新聞社販売局に所属している山田幸雄氏であることを確認した。次に山田氏が大阪本社に在籍した時代に、網干大津勝原店を担当した時期があることを確認した。さらに元店主と面識があることを確認した。
しかし、山田氏は元店主による告発内容については、「記憶にない」と話している。
毎日新聞社長室へ公開質問状、「押し紙」問題についての見解、販売店の改廃事件で刑事事件にするという脅し
企業には広報部とか、広報室と呼ばれる部門がある。筆者のようなルポライターが、記事を公表するにあたって、取材対象にした企業から事実関係や見解などを聞き出す時にコンタクトを取る窓口である。新聞社の場合は、ある程度の記者経験を積んだ者が広報の任務に就いているようだ。
今月に入って、兵庫県姫路市で毎日新聞・販売店の改廃にともなう事件が起きた。店主が、新聞の仕入れ代金などで累積した約3916万円の未払い金の支払いを履行できずに、廃業に追い込まれたのである。公式には双方の合意による取引の終了である。
請求は、さやか法律事務所(大阪市)の里井義昇弁護士が販売店主に内容証明で催告書を送付するかたちで行われた。里井弁護士は、催告書の中で、店主が積み立てた信認金(約80万円)を未払い金から相殺することや、12月分の読者からの新聞購読料は毎日新聞社のものであるから、店主が集金してはいけない旨も通知していた。
集金した場合は、「株式会社毎日新聞社としましても、民事上のみならず、それにとどまらない刑事上のものを含めた法的対応を講ずることを検討せざるを得ませんので、たとえ購読者の方より申し出がありましても、一切収受等することなく、後任の販売店主への支払いをと伝えられるようご留意ください」と述べている。
かりに請求金額に「押し紙」による代金が含まれていれば、実に厚かましい話である。
武富士から新聞社へ、「押し紙」代金の取り立て、問われる新聞人の人権意識
新聞販売店の強制改廃が後を絶たない。新聞社は、販売店の廃業に際して、店主に対し新聞の卸代金の未払い金を請求する。しかし、それには「押し紙」が含まれているので、請求額は尋常ではない。3000万円とか4000万円のレベルになることもある。ある店主に尋ねてみた。
「廃業後にどうやって未払い金を返済するのですか?」
「他の販売店で従業員として雇用してもらい、月に5万円とか7万円を新聞社に入金している人がかなりいます」
「押し紙」を廃止した新聞社、新潟日報のケース
中央紙が「押し紙」政策に徹していることは周知の事実になっている。ブロック紙や地方紙もやはり「押し紙」を柱としたビジネスモデルを導入している社が多いが、少数の例外もある。たとえば熊本日日新聞である。同社は、販売店に搬入する予備紙は、搬入部数の1・5%に固定している。その結果、残紙が店舗にあふれる状況はない。
熊本日日新聞の他に、わたしが調査した限りでは、新潟日報も「押し紙」政策を廃止した時期が確認できる。現在も正常な新聞販売政策を実践しているかどうかは不明だが、少なくとも過去に「押し紙」政策を廃止した時期がある
毎日新聞・網干大津勝原店の改廃、同店の内部資料を入手、里井義昇弁護士が「3915万円を支払え」と催告
網干大津勝原店(兵庫県姫路市)の内部資料を入手した。その中に2022年4月9日付けの「通知兼催告書」と題する内容証明郵便がある。執筆者は、毎日新聞社の里井義昇弁護士である。
「通知兼催告書」の中で里井弁護士は、店主が未払いにしている代金として、約3915万円を明記した上で、「直ちに株式会社毎日新聞社の指定する下記代理人預かり口座に振り込まれるよう催促いたします」記している。
この約3915万円の請求に、かりに「押し紙」代金が含まれているとすれば、請求書を送り付ける行為そのものに問題があるのではないか。里井弁護士は、長年にわたって毎日新聞社の代理人を務めているわけだから、「押し紙」問題を認識していないはずがない。しかも、店主に支払い能力がないことも知っている可能性が高い。
『弁護士職務基本規定』の第1条は、弁護士の使命について、次のように述べている。
毎日新聞が新聞の供給をストップ、網干大津勝原販売店の改廃事件、「押し紙」は新聞記者が報じるべき問題
毎日新聞社は、15日、網干大津勝原販売店(兵庫県姫路市)に対する新聞の供給をストップした。店主からの連絡によると、新聞配達員らは新聞の到着を待っていたが、新聞は供給されなかった。同店で扱っている産経新聞は通常通りに供給された。
毎日新聞社は、新たに設けた販売店から新聞を配達したが、店主によると、十分に新聞購読者の住所を把握できていなかったために、新聞が届かないケースが発生して、自店へ苦情の電話が殺到したという。
既報したように、この事件について筆者は、毎日新聞東京本社に事情を説明するように書面で質問状を送付していた。回答は社長室から14日の夜に、メールに添付したPDF書面で到着した。次に引用するのが、回答の全文である。
毎日新聞の網干大津勝原販売店の店主からメディア黒書へ相談、15日に新聞の供給が止まる可能性も?社会部へも情報提供
毎日新聞の網干大津勝原販売店の店主から、残紙の負担で新聞の卸代金の入金が困難になり、強制改廃されるリスクが高まっているとの相談を受けた。15日にも、毎日新聞が新聞の供給をストップする可能性がある。
この件に関して毎日新聞側の主張が聴取できていないので、断定的なことは言えないが、店主の報告が事実だとすれば、販売網を整備する政策の一端である可能性が高い。今後、新聞社の系統を問わず他の販売店にも起こり得る問題である。
念のために大阪本社の販売局に事情を問い合わせたが、担当者と話すことはできなかった。要件を伝えるためにFAX番号を尋ねたところ、同社の社会部のFAXが提示された。
毎日新聞東京本社の広報担当者に次の問い合わせメールを送付した。大阪本社の社会部にも、「CC」のかたちで同じ問い合わせを送った。残紙問題は、本来、新聞記者が報じるべき重大な問題なので、どう対処するかがみものだ。
わたしからの問い合わせは次の通りである。回答が到着次第に、メディア黒書で公表する。
西日本新聞に対する「押し紙」裁判の訴状を公開、20年の「押し紙」追及と研究の果実、注目される「債務不履行」についての審理
既報したように西日本新聞の元店主が、11月14日に福岡地裁へ「押し紙」裁判の訴状を提出した。代理人を務めるのは、「押し紙」弁護団(江上武幸弁護士ら)である。
本稿で、訴状の中身を紹介しよう。結論を先に言えば、弁護団の20年を超える「押し紙」追及と研究の成果を結集した訴状になっている。訴状の全文とそれに関連する資料は、次のPDFからダウンロードできる。
西日本新聞を提訴、「押し紙」裁判に新しい流れ、「押し紙」の正確な定義をめぐる議論と展望
「押し紙」裁判に新しい流れが生まれ始めている。半世紀に及んだこの問題に解決の糸口が現れてきた。
11月14日、西日本新聞(福岡県)の元店主が、「押し紙」で損害を被ったとして約5700万円の損害賠償を求める裁判を福岡地裁へ起こした。訴状によると元店主は、2005年から2018年までの間に3店の販売店を経営した。「押し紙」が最も多い時期には、実配部数(実際に配達する部数)が約1300部しかないのに、約1800部の新聞が搬入されていた。
他の「押し紙」裁判で明らかなった「押し紙」の実態と比較すると、この販売店の「押し紙」率は低いが、それでも販売店経営を圧迫していた。
この裁判には、どのような特徴があるのだろうか?
◆多発する「押し紙」裁判、読売3件・西日本2件・日経1件
「押し紙」裁判は、今世紀に入ることから断続的に提起されてきた。しかし、新聞社の勝率が圧倒的に高い。裁判所が、新聞社の「押し紙」政策の存在を認定した例は、わたしが知る限りでは過去に3例しかない。2007年の読売新聞、2011年の山陽新聞、2020年の佐賀新聞である。
※2007年の読売新聞の裁判は、「押し紙」が争点になったが、地位保全裁判である。
現在、わたしが取材している「押し紙」裁判は、新たに提起された西日本新聞のケースを含めて次の6件である。
・読売新聞・東京本社VS販売店(東京高裁)
・読売新聞・大阪本社VS販売店(大阪地裁)
・読売新聞・西部本社VS販売店(福岡地裁)
・日経新聞・大阪本社VS販売店(大阪高裁)
・西日本新聞VS販売店1(福岡地裁)
・西日本新聞VS販売店2(福岡地裁)
押し紙弁護団が報告書を公開、西日本新聞を被告とする「押し紙」裁判で、報道自粛の背景に「押し紙」問題
押し紙弁護団(江上武幸弁護士、他)は、14日に提訴した西日本新聞の「押し紙」裁判の提起に続いて、最新の「押し紙」裁判についての報告書を公表した。全文は、次の通りである。
「西日本新聞押し紙訴訟」追加提訴のご報告
2022年(令和4年)11月15日
福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団
弁護士 江上武幸(文責)
この度、当弁護団は、佐賀県の西日本新聞販売店元経営の●氏を原告として5718万円(弁護士費用を含む)の押し紙仕入代金の返還を求める裁判を福岡地方裁判所に提訴しました。当弁護団は他にも西日本新聞社・読売新聞西部本社・読売新聞大阪本社を被告とする裁判をかかえており、いずれも最終局面を迎えています。全国的には、他の弁護士による訴訟が各地で提訴されており、今後も同様の裁判が続くことが予想されます。
【臨時ニュース】西日本新聞を提訴、「押し紙」による被害5700万円の損害賠償
【臨時ニュース】
西日本新聞の元店主が、「押し紙」で被害を受けたとして14日、約5700万円の損害賠償を求める裁判を福岡地裁へ起こした。「押し紙」率は、最大で搬入部数の約25%程度。10%を下回っている時期もあり、相対的にはこれまで提起された「押し紙」裁判の例よりも低い。
原告代理人は、「押し紙」問題に取り組んでいる福岡の「押し紙」弁護団(江上武幸弁護士)が担当する。同弁護団は、佐賀新聞の「押し紙」裁判(2020年5月15日判決)では、佐賀新聞による独禁法違反を認定させる判決を勝ち取っている。
詳細は後日。
日本経済新聞の「押し紙」裁判と今後の課題── 露呈した公権力機関による新聞社保護の実態
2022年7月時点における全国の朝刊発行部数(一般紙)は2755万部(ABC部数)である。このうちの20%が残紙とすれば、551万部が配達されることなく無駄に廃棄されていることになる。30%が残紙とすれば、827万部が廃棄されていることになる。
1日の廃棄量がこの規模であるから、ひと月にすれば、おおよそ1億6530万部から、2億4810万部が廃棄されていることになる。年間に試算すると天文学的な数字になる。「押し紙」は重大な環境問題でもある。
しかし、裁判所も公正取引委員会も、いまだに「押し紙」問題に抜本的なメスを入れようとはしない。新聞社の「押し紙」政策を保護していると言っても過言ではない。新聞社を公権力機関の歯車として取り込むことによりメディアコントロールが可能になるから、「押し紙」を黙認する政策を取っている可能性が高い。
朝日新聞が399万部に、年間で62万部の減部数、2022年9月度のABC部数、
日本ABC協会が公表した2022年9月度のABC部数によると、朝日新聞は399万部となり、400万部の大台を割り込んだ。この1年間で62万部を失った。かつて読売「1000万部」、朝日「800万部」と言われていたが、「紙新聞の時代」の終わりを感じさせる。新聞が巨大ビジネスだった時代は幕を閉じた。今後、新聞産業はさらに縮小しそうだ。
一方、朝日のライバル紙である読売新聞のABC部数は667万部だった。前年同月比較で37万部減。さらに毎日新聞のABC部数は187万部、産経新聞は100万部、日経新聞は170万部だった。いずれの新聞も部数減が止まらない。
中央紙(朝日、読売、毎日、産経、日経)がこの1年間に減らした部数は、総計で134万部になる。これは東京新聞(38万部)が3.5社が消えたに等しい。
ただ、ABC部数には「押し紙」が含まれており、ABC部数の減少は、単に「押し紙」を整理した結果である可能性もある。「押し紙」の整理を進めれば、それに応じてABC部数も減る。逆に「押し紙」の整理をしなければ、ABC部数の減数幅も小さい。
9月のABC部数は次の通りである。
「押し紙」で生じた不正な資金・35年で3.2兆円、公取委が新聞社の犯罪を「泳がせる」背景に強い政治力、「世論誘導」という商品の需要と売買
2022年7月8日、安倍元首相が旧統一教会に恨みを抱く人物から狙撃されて命を落とした。この事件をきっかけとして、旧統一教会の高額献金や霊感商法の問題などが浮上した。被害額は、昨年までの35年間で総額1237億円になるという。(全国霊感商法対策弁護士連絡会」)
これに対して、新聞の「押し紙」による被害がどの程度に上がっているのか、読者は想像できるだろうか。簡単な試算を紹介しよう。
日本全国の一般日刊紙の発行部数は、2021年度の日本新聞協会による統計によると約2590万部である。このうちの20%にあたる518万部が「押し紙」と想定し、新聞1部の卸卸価格を1500円(月額)と想定すると、被害額は77億7000万円(月額)になる。これを1年に換算すると、約932億円になる。
旧統一教会による被害額が35年間で1237億円であるから、「押し紙」による被害額と比較するためには、1年間の「押し紙」の被害額932億円を35倍すれば、その数値が明らかになる。3兆2620億円である。
しかも、この試算は誇張を避けるために、「朝夕セット版」を外して、低く見積もった数値なのである。
公正取引委員会や裁判所などの公権力機関が正常に機能していれば、合法的に取り締まるレベルの問題であるにもかかわらず彼らは延々と問題を放置してきたのである。背後に強い政治力が働いている可能性が高い。
兵庫県を対象とした新聞部数のロック調査、朝日、読売、毎日、日経、産経、独禁法違反の疑い
次に紹介する記事は、2月26日にメディア黒書に掲載したものである。兵庫県を舞台に、朝日、読売、毎日、日経、産経を対象に、新聞部数のロック状態を調査したものである。調査結果から、新聞社が販売店に対してノルマを課している可能性が推測できる。これは独禁法に抵触する。
同じ記事を再掲載するのは、公正取引委員会や裁判所に「押し紙」問題を解決しようという意思が毛頭ないことが明白になったからだ。これらの公権力機関が、なぜか新聞社に「便宜」を図っている可能性が高い。
その背景に新聞社が世論誘導の役割を担う権力構造に組み込まれている事情があるようだ。(現在進行している憂うべき状況については、順を追って報告する。)
【再掲載】
このところわたしが提唱している「押し紙」問題検証の方法論として、ABC部数の新しい解析方法がある。兵庫県全域をモデル地区として、ABC部数の変化を時系列に、しかも、新聞社(朝日、読売、毎日、産経、日経、神戸)ごとに確認してみると、ABC部数が地域単位でロックされている自治体が多数あることが判明した。地区単位で部数増減の管理が行われている疑惑が浮上した。
「押し紙」問題を放置してきた公権力機関、巧みなメディアコントロールのからくり、モデルは戦前・戦中の新聞用紙の配給制度
「押し紙」が温床となっているメディアコントロールの例を、具体的な新聞記事を引き合いに出して立証することは不可能だが、公正取引委員会や裁判所などの公権力機関が新聞社の「押し紙」政策を黙認してきた軌跡を記述することはやさしい。それはちょうと公害の原因を医学的な根拠を示して立証することが困難であっても、疫学調査によって健康被害の全体像を立証できるのと同じ原理である。
「押し紙」問題を半世紀前までさかのぼってみると、公取委や裁判所がメスを入れる機会は何度かあった。しかし、実際は抜本的な対策を取ったことはほとんどない。それどころか、新聞業界の自主規制に委ねることで、故意に「押し紙」政策を奨励したのではないかと思われる節もある。
【参考記事】公取委と消費者庁が黒塗りで情報開示、「押し紙」問題に関する交渉文書、新聞社を「保護」する背景に何が?
余談になるが、2022年7月に起きた安倍首相狙撃事件を機にして暴露された旧統一教会と自民党の関係も、約半世紀に渡って放置されてきた。警察などの公権力機関はメスを入れなかった。マスコミもほとんど報道しなかった。この問題についてもメスを入れる機会はあったはずだが、実際には延々と放置してきたのである。
統一教会による霊感商法の被害額は、35年間で1237億円(日テレNEWS、7月29日)に上った。これに対して「押し紙」による新聞販売店の被害は、中央市の場合、年間で100億円単位になる推定される。
金額という観点から言えば、「押し紙」による被害の大きさは、霊感商法の比ではない。
【参考記事】「押し紙」を排除した場合、毎日新聞の販売収入は年間で259億円減、内部資料「朝刊 発証数の推移」を使った試算
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【取材メモ】新聞用紙の統制から「押し紙」放置の政策へ、メディアコントロールの手口
かつてメディアコントロールのアキレス腱となっていたのは、新聞用紙の配給制度だった。現在は、これと類似した構図が、「押し紙」を介して成立している。
公正取引委員会や裁判所などの公権力機関は、「押し紙」を放置することで、新聞社に莫大な利益をもたらす。一方、新聞社は、公権力の「広報紙」になることで、「押し紙」という経営上の大汚点にメスを入れられる事態を回避してきた。
次の記述は、新聞用紙の統制とメディアコントロールの関係を記述したものである。
公取委と消費者庁が黒塗りで情報開示、「押し紙」問題に関する交渉文書、新聞社を「保護」する背景に何が?
筆者は、今年の6月、公正取引委員会と消費者庁に対して、新聞の「押し紙」に関するある資料の情報公開を申し立てた。
9月になって消費者庁が資料を開示したが、肝心な記述部分を黒塗りにしていた。はからずもこうした情報公開の方法は、新聞社を延々と「保護」してきた公権力の姿勢を浮き彫りにした。背景に権力構造がすけて見える。
この資料は、公正取引委員会と日本新聞協会の間で行われた広義の「押し紙」問題に関する話し合いの記録である。
発端は1997年にさかのぼる。この年、公正取引委員会は、北國新聞社に対して「押し紙」の排除勧告を発令した。北國新聞が、販売店に対してノルマ部数を割り当てた事実を指摘して、改善を勧告したのである。
同時に公取委は、北國新聞以外にも、これと類似した手口の「押し紙」政策を実施している新聞社があるとして、日本新聞協会に対し、「本件勧告の趣旨の周知徹底を図ることを要請」した。
これに対抗して日本新聞協会は奇策にでる。結論を先に言えば、残紙の「2%ルール」を撤廃したのだ。これはどういう意味を持つのか?
2022年7月度のABC部数、朝日新聞、年内に400万部の大台を割り込む可能性、 「押し紙」を黙認する公権力と新聞人の関係
2022年7月度のABC部数が明らかになった。それによると朝日新聞は、前年同月比で約54万部の減部数となった。これは月間に換算すると約4万5000部。今年の12月まで5カ月あり、予想される減部数は22万5000部になる。従って400万部の大台を割り込む公算がかなり高くなっている。
読売も、年間で約36万部減らしている。産経新聞は、約18万部。産経はもともと部数が少ない新聞なので、18万部の減部数による経済的な影響は大きい。
朝日新聞:4,121,240(-541,662)
毎日新聞:1,885,163(-122,338)
読売新聞:6,760,411(-326,266)
日経新聞:1,703,815(-150,542)
産経新聞:1,013,683(-177,289)
霊感商法による年間の被害3億円、「押し紙」による年間の被害900億円
日テレNEWS(7月29日付け)によると霊感商法の被害は、「去年で3億円超」、「35年間では1237億円」と報告されているという。
わたしはこの数字を見たとき、額が大きいとは感じなかった。新聞社による「押し紙」の被害の方がはるかに莫大であるからだ。それを示すごく簡単な試算を紹介しよう。
◆控え目に試算しても年間の被害額が900億円超
日本新聞協会が公表している「新聞の発行部数と世帯数の推移」と題するデータによると、2021年度における全国の朝刊発行部数は、約2590部である。このうちの20%を「押し紙」と仮定すると、「押し紙」部数は518万部である。
これに対して販売店が新聞社に支払う卸価格は、おおむね新聞購読料の50%にあたる1500円程度である。
以上の数値を前提に、「押し紙」が生み出す販売店の損害を試算してみる。
卸価格1500円×「押し紙」518万部=約77億7000万円
ひと月の被害額が約77億7000万円であるから、年間にすると優に932億円を超える。霊感商法とは比較にならないほど多い。
しかも、この試算は誇張を避けることを優先して、「押し紙」率を低く設定している上に、「朝夕刊セット版」の試算を含んでいない。「朝夕刊セット版」を含めて試算すれば、被害額はさらに膨れ上がる。
「押し紙」により販売店が被っている被害額は、霊感商法の比ではない。