
10月30日に投票が行われたブラジル大統領選で、左派のルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ元大統領(写真左)が、極右のジャイル・メシアス・ボルソナロ大統領(写真右)を破って当選した。両氏の得票率は、次の通りである。
ルラ元大統領:50.83%
ボルソナロ大統領:49.17%
ルラ氏は、2003年から2010年までブラジルの大統領を務め、好調な経済成長をけん引したり、福祉政策を進めるなどして、著しい成果をあげた。とりわけ貧困層の救済を優先する政策を進めた。その後、後継者のジルマ・ルセフ氏に政策を引き継いだ。
ルラ氏は、2018年の大統領選に再出馬を予定していたが、汚職容疑で逮捕され出馬が困難になった。刑務所の牢獄の中で、ボルソナロ現大統領の当選を知ったのである。ブラジスのトランプ大統領を呼ばれる人物である。新自由主義者であり新保守主義者である。
翌年、最高連邦裁判所は、ルナ氏の投獄を違法とする判決を下した。投獄は、国民の間で人気が高いルラ元大統領を政界から排除することが目的だったとする見方が有力だ。
2022年の大統領選でルナ氏は、世論調査で終始ボルソナロ大統領を大きくリードしていた。選挙戦が始まると両者の支持率の差は徐々に接近したが、1%に満たない僅差で、ルラ氏が逃げ切った。
ルラ元大統領は勝利演説で、ホームレスに住居を提供すること、貧しい人々に仕事と機会をあたえること、教育の向上、男女平等などを約束した。
◆米国の戦略、軍事介入からNEDへ
ブラジルにルラ政権が復活することで、ラテンアメリカの左傾化の波がますます顕著になる。ブラジルと国境を接するベネズエラ、コロンビア、ペルー、ボリビア、アルゼンチンも左派の政権である。さらに国境は接していないが、チリも左派政権である。
中米にも左傾化の波が押し寄せている。メキシコ、ホンジュラス、ニカラグア、パナマが左派政権の下になっている。
かつて中南米は、米国の裏庭とされていた。前世紀まで米国は、中南米で「反米」政権が生まれるたびに、軍事介入や軍事支援を繰り返していた。1954年のグアテマラを皮切りに、1961年のキューバ(写真左)、1973年のチリ、1980年代の中米、1989年のパナマなど、軍事力で多国籍企業の権益を守る戦略を繰り返してきたのである。
しかし、それでも刻々と民主主義が浸透してきて、今世紀に入るころから次々と左派政権が誕生しはじめた。選挙のたびごとに国際監視団が現地入りして選挙の公平性・透明性を担保する制度が定着した。今回のブラジル大統領選も、少なくとも8団体が監視団の役割を担った。その中には、OAS(米州機構)も含まれている。
左傾化の波は一旦停滞する。2010年代になると、右派が再び盛り返してきた。その背景に、NED(全米民主主義基金)などを使った米国の戦略があった。NEDは、表向きは民間の基金だが、実態としては米国政府そのものである。資金の支出には米国議会の承認を要する。
NEDは、外国の「市民運動」などに資金を提供して、親米世論と米国流の価値観、さらに反共感情を育み、「市民運動」を通じて政治混乱を引き起こして、現地の政府を転覆させる戦略を採用してきた。親米メディアの育成も重要な課題として位置付けている。ニカラグアやベネズエラの混乱は、NEDなどの米国資金で引き起こされた典型的な例である。日本に身近なところでは、香港の「民主化運動」がその類型になる。
NEDは、ブラジルの「市民運動」に対しても資金を援助している。
NEDがラテンアメリカで台頭してきた背景には、軍事介入という戦略が米国国内で受け入れられなくなった事情がある。民主主義の意識が世論として定着すると、軍事介入は反発を招く。米国はもはやラテンアメリカに対する露骨な軍事介入ができなくなったのである。社会進歩の結果にほかならない。
◆40年で顕著な社会進歩
最近、日本では「左派」、「右派」の分類に否定的なひとが多いようだが、左派勢力が基本的な方向性として社会主義をめざしている点を考慮すると、従来の分類は間違っていない。中国は、現段階では社会主義の国ではないが、社会主義の方向へ舵を切っている。今世紀なかばの実現を目指している。
ラテンアメリカの左派政権は、その中国との関係を緊密にしている。2020年にブラジルのサンパウロで開かれたチリの人民連合政府(UP)成立50年の式典(オンライン)には、中国の習近平主席もメッセージを寄せた。今後、脱米国の流れが進み、中国よりに政治地図が変わる可能性が高い。ラテンアメリカの統合も輪郭を現わし始めている。
わたしがラテンアメリカの取材を始めたのは、1980年代の初頭である。当時の日本は中曾根内閣の時代である。ラテンアメリカを語るキーワードは、軍事政権、独裁者、ゲリラ活動などだった。それから40年の歳月を経た現在、ラテンアメリカが大きな社会変革を経験した一方、日本は世界の動きから取り残されてしまったことを痛感する。
その最大の原因は、ジャーナリズムの不在だとわたしは思う。

「戦後処理」とは、戦争犯罪の検証と賠償のことである。現在、進行しているNATO-EU対ロシアの戦争は、いずれ戦後処理の傷を残すことになる。戦争が終わる目途は立っていないが、和平が実現した後も憎悪の記憶は延々と続く。
1980年から10年に渡り続いた中米エルサルバドルの内戦の戦後処理をめぐる興味深い動きが浮上している。去る10月13日に、エルサルバドルの裁判所が、内戦時に防衛大臣を務めたギジェルモ・ガルシア将軍と警察のトップだったフランシスコ・アントニオ・モラン大佐に対する逮捕状を交付したのだ。そして翌日、2人を拘束した。
さらに数人の元軍関係者にも逮捕状を交付した。この中には米国に在住する人物も含まれており、エルサルバドル政府は米国に対して身柄の引き渡しを要求するに至った。
◆広がる軍部の暴力
事件は今からちょうど40年前の3月17日に起きた。内戦を取材していたオランダのフォトジャーナリスト4人が、エルサルバドル政府軍に殺害されたのだ。この中にはラテンアメリカ報道で定評のあるクース・コースタ―氏も含まれていた。
エルサルバドル内戦は、米国をバックにした政府軍と民族自決主義を掲げるFMLN(ファラブンド・マルティ民族解放戦線)の間で勃発した。前年に隣国ニカラグアでFSLN(サンディニスタ民族解放戦線)が、やはり米国を後ろ盾としたソモサ独裁政権を倒し、その影響が中米諸国に伝染していた。
エルサルバドルは元々、社会運動が盛んな地域で、平和的な方法で社会変革をめざす運動が広がっていたが、1980年3月、政府に批判的なオスカル・ロメロ大司教が軍部に暗殺された。さらに大司教の葬儀に集まってきた大群衆に軍が無差別に銃弾を浴びせるに至り、平和裏の社会変革は完全に閉ざされた。この年10月、5つのゲリラ組織が統合して、FMLNを結成した。ラジオ・ベンセレーモス局も開設された。(下写真)
FMLNは結成後、ただちに首都サンサルバドルへ向かって大攻勢をかけた。政府軍は戦意を喪失して、エルサルバドルが「第2のニカラグア」になる公算が確実視された。ところが米国のレーガン政権がエルサルバドルに介入してきたのである。直接的な軍事介入ではなかったが、政府軍に対して莫大な軍事費を提供し、隣国ホンジュラスの基地で米軍が政府軍の軍事訓練を指導するようになった。
1980年の12月、政府軍は米国から布教にきていた4人のキリスト教関係者を殺害した。81年にはエルモソテ村でジェノサイドを断行した。978人の住民が殺害されたのである。エルサルバドル全土に暴力が広がっていた。
こうした状況の下でエルサルバドルは、国際政治とジャーナリズムの表舞台に浮上してきたのである。オランダから入国した4人のジャーナリストが殺害されたのもこのような時期だった。
◆FMLNのゲリラになった理由
政府と対立関係にある解放区の取材には、命の高いリスクが伴う。4人のオランダ人ジャーナリストは、あらかじめFMLNとコンタクトを取り、エルサルバドル北部のチャラテナンゴ県でFMLNの案内役と待ち合わせすることにしていた。ところがこの情報が政府軍にもれていたようだ。政府軍は待ち合わせ場所の直近に、あらかじめ兵士を配置し、4人のジャーナリストとFMLNの案内役を殺害したのである。そして交戦により死亡したと発表した。
わたしがこの事件を知ったのは、事件から数年後の1985年ごろである。中米紛争の取材の準備をする中で知ったのである。当時、米国にはエルサルバドルに関する正確な情報があった。直接の「証言者」となる避難民も多かった。
たとえばカリフォルニア州の診療医が、農場で働いているエルサルバドルからの移民の中に、拷問の傷跡がある者や精神に異常をきたしている者が多いことに気づいた。医師は、エルサルバドルの解放区へ入り、帰国後にメディアを通じて実情を訴えた。
ある時この医師は、FMLNの戦士に、「ゲリラになった理由」を尋ねたという。するとこんな答えが返ってきた。
「自分は内戦が始まる前は、地主の家で雑用係として働いていた。仕事のひとつに番犬の世話があった。毎日、犬に肉を与えていた。しかし、自分の子供に肉を食わせてやったことはなかった。犬が病気になった時は獣医のところへ連れていった。しかし、自分の子供が病気になっても、薬も買ってやれなかった」
エルサルバドルの全学連の代表から、大学で実情を聞く機会もあった。こんな話があった。
「村に電気も水道も来ていないので、村人が教会の牧師に相談した。するとその報復に軍隊がトラックで村に入って来て、住民運動のリーダーを次々と殺害した。銃声があちこちに響き、村に霞のような煙が立ち込めた。多くの村人が着のみ着のままで逃げてきた」
全学連の代表は、エルサルバドルに帰国すると空港で拘束された。米国側の受け入れ団体が抗議の電報を送って釈放された。
エルサルバドルは危険極まりない国だったのである。同時にジャーナリストの好奇心を刺激する土地だった。エルサルバドルを舞台とした映画や演劇も制作された。
◆戦争犯罪の検証
1992年に内戦は終結した。翌93年に国連が4人のオランダ人ジャーナリストが巻き込まれた事件の調査を実施した。そしてギジェルモ・ガルシア将軍らが関与していたとする報告書をまとめた。
しかし、FMLNと政府の間で交わされた和平協定に、元軍人の「恩赦」が盛り込まれた。これによりギジェルモ・ガルシア将軍らは、起訴を免れた。将軍は米国へ亡命して、生きながらえていたが、その後、国外追放になりエルサルバドルに戻った。
2016年になって、エルサルバドルは「恩赦」を無効とする決定を下した。これにより埋もれていた戦争犯罪の検証も可能になったのである。ギジェルモ・ガルシア将軍らの逮捕と起訴が司法当局の視野に入ってきたのだ。
そして事件から40年目の2022年10月、関係者が逮捕され、法廷で事件の検証が行われることになったのである。
40年前のエルサルバドルは、殺戮の荒野だった。数年前、コロナ禍の最中にわたしは、インターネットのSNSである写真を目にした。コロナワクチンを届けるために、エルサルバドルの国際空港に降り立った中国航空機の写真だった。それを見た時、わたしは時代の激変を感じた。かつては想像だにできなかった光景だった。長い歳月の海を経て社会進歩とは何かを実感したのである。
元将軍らを裁く法廷の開廷は秒読みに入っている。
2022年10月28日 (金曜日)

日本新聞協会は、10月18日、山梨県富士吉田市で第75回「新聞大会」を開催して、ジャーナリズムの責務を果たすことを誓う大会決議を採択した。議決は、「私たちは平和と民主主義を守り、その担い手である人々が安心して暮らせる未来を築くため、ジャーナリズムの責務を果たすことを誓う」などと述べている。(全文は文末)
新聞報道を見る限り、今年の新聞大会でも「押し紙」問題は議論されなかった。
「押し紙」問題がいかに深刻な問題であるかを認識するためには、旧統一教会による高額献金や霊感商法による被害額と「押し紙」による被害額を比較すれば明白になる。試算の詳細は省略するが、35年ペースで比較すると、旧統一教会がもたらした損害の総額は1237億円で、「押し紙」による黒い資金は、32兆6200億円になる。
32兆6200億円のグレーゾーンは尋常ではない。
(注:試算の根拠については、次のURLを参考にされたい。http://www.kokusyo.jp/oshigami/17238/)
◆新聞ジャーナリズムの衰退を考える唯物論の視点
新聞社が公権力機関に対してジャーナリズム性を発揮できない原因を考えるとき、大別して2つの視点がある。まず第一は、記者個人の職能や記者意識の欠落に求める視点である。この視点に立って新聞を批判する人々にとっては、東京新聞の望月衣塑子記者や朝日新聞の本多勝一記者のような人物が次々と登場すれば、問題は解決するという論理になる。きわめて単純な論理である。従って、それを鵜のみにしてしまう層が意外に多い。実際、ネット上には「東京新聞望月衣塑子記者と歩む会」もある。
これに対してジャーナリズムが機能しない原因を、新聞社経営にかかわる客観的な制度の中に探る視点がある。具体的には次のような着目点である。
〈1〉再販制度により販売店相互の競争を防止して、新聞社経営を安定させている事実。
〈2〉学習指導要領が学校の授業で新聞の使用を奨励している事実。これと連動して、「学校図書館図書整備5か年計画」の下で、新聞配備の予算が5年間で190億円講じられた事実。(『新聞情報』10月19日付け)。日本新聞協会はNIE運動(教育に新聞を)を推進している。
〈3〉新聞に対する軽減税率で、新聞社が莫大な額の税金を免除されている事実。
〈4〉「押し紙」を柱としたビジネスモデルで、莫大な利益を得ている事実。
〈1〉から〈4〉は、新聞社が高い利益を得て社員たちの高給を維持する上で欠くことができない制度である。このうち〈4〉の「押し紙」は、既に述べたように35年間で、少なくとも32兆6200億万円の黒い販売収入を生んでいる。諸悪の根源にほかならない。
◆新聞に対する消費税の軽減税率
本稿では、〈3〉についての試算を紹介しよう。軽減税率が8%の場合と10%の場合を、中央紙(朝日、読売、毎日、産経)をモデルとして比較した。
試算の前提は、次のような設定である。新聞の購読料は中央紙の場合、「朝刊・夕刊」のセット版がおおむね4000円で、「朝刊単独」が3000円である。新聞の公称部数を示すABC部数は、両者を区別せずに表示しているので、全紙が「朝刊単独」の3000円という前提で試算してみる。誇張を避けるための措置である。
消費税が10%に引き上げられた直後の2019年12月におけるABC部数は次の通りである。
朝日:5,284,173
毎日:2,304,726
読売:7,901,136
日経:2,236,437
産経:1,348,058
税率が8%の場合、次のような消費税額になる。いずれも月ぎめの数値である。
朝日:12億6820万円
毎日: 5億5313万円
読売:18億9627万円
日経: 5億3674万円
産経: 3億2353万円
これに対して税率が10%の下では次のようになる。
朝日:15億8525万円
毎日: 6億9142万円
読売:23億7034万円
日経: 6億7093万円
産経: 4億 442万円
8%と10%の違いにより生じる差額は次のようになる。()内は、年間の差異である。
朝日:3億1705万円(38億 460万円)
毎日:1億3829万円(16億5948万円)
読売:4億7407万円(56億8884万円)
日経:1億3419万円(16億1028万円)
産経: 8089万円( 9億7068万円)
これらの数字が示すように新聞社は、国会が承認した消費税率の軽減措置により、大きなメリットを得ている。しかも、消費税は(架空)読者から新聞購読料が徴収できない「押し紙」にも課せられるので、販売店にとっては軽減税率のメリットは大きい。
◆国会、公正取引委員会、裁判所
最大の問題は、新聞社経営に影響を及ぼす客観的な諸制度の殺生権を国会や公正取引委員会、それに裁判所(最高裁事務総局)などの公権力機関が握っている実態である。こうした条件の下で、日本新聞協会が、「ジャーナリズムの責務を果たすことを誓う」などと宣言しても、公権力を監視する役割を果たすことはできない。
考え方によっては、こうした「ジャーナリスト宣言」は逆に「新聞幻想」に世論を誘導する。世論誘導には、ジャーナリズムの看板を掲げながらも、肝心な問題には踏み込まない「役者」が必要なのだ。しかし、「空手の寸止め」では意味がない。
新聞衰退の問題を観念論の視点で議論しても、何の効果もない。客観的な制度上の事実の中に新聞衰退の原因を探る視点が必要なのである。
◎参考記事:http://www.kokusyo.jp/oshigami/16016/
【大会議決の全文】
戦後の国際秩序を武力によって大きく揺るがす事態や、選挙期間中に元首相が銃撃されるという暴挙が発生した。平和と民主主義を破壊する行為を、私たちは決して容認できない。
感染症の流行による社会・経済活動への打撃は、物価の上昇と相まって、国民生活に多大な影響を及ぼしている。相次ぐ自然災害に備え、地域の防災、減災の力を高めることも急務である。
報道機関は、正確で信頼される報道と責任ある公正な論評で、課題解決に向けた多様で建設的な議論に寄与しなければならない。私たちは平和と民主主義を守り、その担い手である人々が安心して暮らせる未来を築くため、ジャーナリズムの責務を果たすことを誓う。

日本ABC協会が公表した2022年9月度のABC部数によると、朝日新聞は399万部となり、400万部の大台を割り込んだ。この1年間で62万部を失った。かつて読売「1000万部」、朝日「800万部」と言われていたが、「紙新聞の時代」の終わりを感じさせる。新聞が巨大ビジネスだった時代は幕を閉じた。今後、新聞産業はさらに縮小しそうだ。
一方、朝日のライバル紙である読売新聞のABC部数は667万部だった。前年同月比較で37万部減。さらに毎日新聞のABC部数は187万部、産経新聞は100万部、日経新聞は170万部だった。いずれの新聞も部数減が止まらない。
中央紙(朝日、読売、毎日、産経、日経)がこの1年間に減らした部数は、総計で134万部になる。これは東京新聞(38万部)が3.5社が消えたに等しい。
ただ、ABC部数には「押し紙」が含まれており、ABC部数の減少は、単に「押し紙」を整理した結果である可能性もある。「押し紙」の整理を進めれば、それに応じてABC部数も減る。逆に「押し紙」の整理をしなければ、ABC部数の減数幅も小さい。
9月のABC部数は次の通りである。
朝日新聞:3,993,803(-626,041)
毎日新聞:1,871,693(-114,646)
読売新聞:6,677,823(-370,903)
日経新聞:1,702,222(-151,434)
産経新聞:1,008,642(-82,424)
【参考記事】兵庫県を対象とした新聞部数のロック調査、朝日、読売、毎日、日経、産経、独禁法違反の疑い
【参考記事】「押し紙」で生じた不正な資金・35年で32兆6200億、公取委が新聞社の犯罪を「泳がせる」背景に強い政治力、「世論誘導」という商品の需要と売買 | MEDIA KOKUSYO

全国の新聞(朝刊単独)の「押し紙」率が20%(518万部、2021年度)で、卸価格が1500円(月間)として、「押し紙」による販売店の損害を試算すると、年間で約932億円になる。「朝夕セット版」を加えると被害はさらに増える。
これに対して、旧統一教会による高額献金と霊感商法による被害額は、昨年までの35年間で総額1237億円(全国霊感商法対策弁護士連絡会」)である。両者の数字を比べると「押し紙」による被害の深刻さがうかがい知れる。
しかし、公正取引委員会は、これだけ莫大な黒い金が動いていても、対策に乗り出さない。黙認を続けている。司法もメスを入れない。独禁法違反や公序良俗違反、それに折込広告の詐欺で介入する余地はあるはずだが黙認している。
わたしは、その背後に大きな政治力が働いていると推測している。
次の会話録は、2020年11月に、わたしが公正取引員会に対して行った電話インタビューのうち、「押し紙」に関する部分である。結論を先に言えば、公取委は、「押し紙」については明確な回答を避けた。情報を開示しない姿勢が明らかになった。
個人情報が含まれる情報の非開示はいたしかたないとしても、「押し紙」に関する調査をしたことがあるか否か、といった「YES」「NO」形式の質問にさえ答えなかった。
以下、公取委との会話録とその意訳を紹介しよう。「押し紙」を取り締まらない理由、日経新聞店主の焼身自殺、佐賀新聞の「押し紙」裁判などにいついて尋ねた。
◆公取委の命令系統
── 「押し紙」を調査するかしないかは、だれが決めていますか?だれにそれを決める権限があるのか?
担当者 どういう調査をするかによって変わるので、なんともいえません。ただ、事件の審査は審査局が行います。
── そうすると審査局のトップが最終判断をしているということですね。
担当者 しかるべきものが、しかるべき判断をするということになります。
── そこは曖昧にしてもらってはこまります。
担当者 何を聞きたいのでしょうか。
── どういう命令系統になっているのかということです。
担当者 命令系統というのがよく分からない。
── 公正取引委員会として(「押し紙」問題を)調査するのかどうかの意思決定をする権限を持っている人のことです。だれがそれを最終決定しているのですか。
担当者 「押し紙」とかなんとかいうことは離れまして、
── では、残紙にしましょう。
担当者 残紙でもなんでも。個別の事件に関して、お答えするのは、適当ではないと思います。
── どういう理由ですか?
担当者 誤解が生じることを防ぎたいからです。
── 誤解しないように質問しているのです。
担当者 言葉の揚げ足を取られていろいろ言われるのもちょっと。わたしどもの本位ではないので、お答えを差し控えさせていただきます。(略)わたしどもは、個別の事件について、申告があったかとか、なかったとか、についてはお答えしないことにしています。それは秘密を保持する必要があるからです。申告の取り扱いについては、対外的にお答えしないことになっています。
── そういうことを聞いているのではなく、
担当者 ですから具体的に聞かれても、わたしどもはなかなか答えることができないということをご理解いただきたい。
── 答える必要はないというのが、あなたの立場ですね。
担当者 そうです。個別の事件については、お答えしないことにしています。
◆「押し紙」の実態調査の有無
── では、「押し紙」の調査を過去にしたことがありますか。
担当者 「押し紙」の調査?
── 残紙の性質が「押し紙」なのか、「積み紙」なのかの調査を過去にしたことがありますか。
担当者 「押し紙」の調査を過去にしたかしていないかについては、これまで公表していません。
── はい?
担当者 こちらから積極的にそういう広報はしていません。
── 広報ではなく、調査をしたかどうかを聞いているのです。
担当者 したかどうかの事実の確認もしません。
── 事実の確認ではありません。
担当者 もちろん個別の事件の情報を寄せられれば、必要に応じて調査をして、さらに調査が必要だということになれば、本格的に調査をしますし、そうでないものについては、そこまでの扱いになります。それ以上のことは申し上げられません。
── その点はよくわかっています。わたしの質問は、過去にそういう調査をしたことがありますか、ありませんかを聞いています。YESかNOで尋ねています。
担当者 「押し紙」の調査をしたことがあるかないか? 公表はしていません。
── はい?
担当者 公表はしていないので、お答えは差し控えさせていただきます。
── これについても答えられないと、命令系統についても、答えられないと。
担当者 はい。
◆日経新聞の店主の焼身自殺
── それから、日本経済新聞の店主が、本社で自殺した事件をご存じですか。
※【参考記事】日経本社ビルで焼身自殺した人は、日経販売店の店主だった!
担当者 承知しておりません。
── 知らないのですか。
担当者 知りません。
── 新聞を読んでいないということでしょうか?
担当者 そうかも知れませんね。
── この件は、全然把握していないということですね。
◆「押し紙」の存在を認識しているか?
── 新聞販売店で残紙とか「押し紙」といわれる新聞が、大きな問題になっているという認識はありますか。
担当者 それ自体は承知しております。
── いつ聞きましたか?
担当者 わたしも公正取引委員会で働いているので、また、取引部にいたこともあるので、またネットなどにも出ています。黒薮さんのものも含めて。こうしたことは存じ上げおります。
── 問題になっているのに、なぜ、動かないのですか。
担当者 問題になっているということは知っていますが、じゃあなぜ動かないのかということについては、わたしどもからお答えすることは控えたいと思います。わたし個人としては、「押し紙」の事象があることは知っていますが、なぜ公正取引委員会が動かないのかということについては、申し上げる立場にありません。公正取引委員会として、なぜ取り締まらないのかということを、個別の事件について申し上げることはありません。
── 個別の事件について質問しているのではなく……
担当者 「押し紙」についてなぜ取り締まらないのかということは、基本的に述べないという立場です。
── これまで3つの質問をしましたが、命令系統につても答えられない、調査をしたかどうかも言えない、「押し紙」については聞いたことがあると。
担当者 「押し紙」については、個人の経験としては聞いたことがありますが、「なぜ調査しないの」ということについては、申し上げられない。
── 新聞販売店の間で公正取引委員会に対する不信感が広がっていることはご存じですか。
担当者 まあ色々な考えの方がおられるでしょうね。
── 知らないということでよろしいですか。
担当者 知らないといいますと?
── 販売店が(公取委について)「おかしい」と思っているという認識はないということですね。
担当者 そういう見解を申し上げる立ち場ではありません。
── いえ、あなた自身がおかしいと感じないですかと聞いているのです。
担当者 「押し紙」とか、残紙といった話があることは認識していますが、それについてどう思っているかという点に関しては、個人の見解もふくめて、ここで申し上げることは控えたい。
◆佐賀新聞の「押し紙」裁判
── 佐賀新聞の「押し紙」裁判の判決が、今年の5月にありましたが、この判決については聞いたことがありますか。
担当者 はい。それは聞きました。
── 独禁法違反が認定されましたが、どう思われましたか?
担当者 それは裁判でしかるべく原告がだされた資料と主張を踏まえて判断されたということだと思います。わたしどもからコメントする立場にはありません。
── 今後とも、佐賀新聞についても、調査する気はないということですか?
担当者 佐賀新聞の事案を公正取引委員会がどう扱うかは、個別の案件ですので、コメントは控えたいと思います。
── 原告の弁護団から公正取引委員会にたくさんの資料を提出されていますが、それは把握しているわけですね。
担当者 それについては、申告がされたかどうかという話に該当しますので、こちらから何か申し上げることは差し控えたいと思います。
── これについても答えられないと・
担当者 答えられません。
── 「押し紙」問題は、重大になっていますが、今後も取り締まる予定はないということですか。
担当者 取り締まる予定があるかどうかをお答えするのも不適切ですので、回答は差し控えます。

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新世代公害とは、化学物質による人体影響と、電磁波による人体影響のことである。この両者が相互に作用して複合汚染を引き起こす。
米国のCAS(ケミカル・アブストラクト・サービス)が1日に登録する新しい化学物質の件数は、1万件を超えると言われている。勿論、そのすべてが有害というわけではないが、地球上は化学物質で溢れ、それに電磁波が重なり、生態系へ負の影響をもたらしている。透明な無数の牙が生活空間のいたるところで待ち構えている。
1年ほど前から、わたしは電磁波が人間の神経系統に何らかの影響を及ぼした可能性がある事例を取材している。具体的には「妄想」である。あるいは精神攪乱。2005年から、電磁波問題の取材をはじめた後、稀にこうした事例に遭遇してきた。ただし電磁波以外が「妄想」の原因である可能性もある。わたしは医師ではないので、このあたりのことはよく分からないので、事実を優先するのが基本的な取材の方針だ。
◆欧州評議会の勧告を上回る電磁波強度
今回、ここで紹介する事例の取材対象者は、AさんとBさんである。いずれも70歳前後の女性である。Aさんは一人暮らしで、Bさんは夫と二人で暮らしている。隣人同士である。住居の所在地は、神奈川県川崎市。郊外の緑が多い地域である。
最初、わたしはBさんから、「頭痛やめまいに悩まされている。電磁波の影響ではないかと疑っている」と電話で相談を受けた。わたしは現場を調査するためにBさんの自宅へ足を運んだ。Bさんの自宅には、Aさんの姿もあった。Aさんも、Bさんと同じような症状に悩まされていることをわたしは、その場で知った。
持参した電磁波測定器で、Aさん宅とBさん宅のマイクロ波(携帯電話の通信に使われる電磁波)の強度を測定した。Aさん宅でもBさん宅でも、優に1μW/c㎡を超えていた。1μW/c㎡という数値は、総務省の規制値はクリアーしているものの、欧州評議会の勧告値に比べると10倍も高い。欧州では危険な領域とされる数値に入る。Bさん宅では、2μW/c㎡を超えることもあった。
◆森を隔てて巨大な鉄塔型の基地局
近辺に基地局があるに違いないと考えて、わたしはAさんとBさんに、自宅近辺の環境について質問した。しかし、2人とも基地局の形状を知らない。従って基地局があるのかどうかを答えようがなかった。
そこでわたしは徒歩で基地局の有無を確認することにした。その結果、2人の自宅から、200メートルほどの位置に鉄塔型の巨大な基地局があるのを発見した。鉄塔の周りに、10本以上のアンテナが設置してあった。
基地局は、二人の家からは森に遮られて見えないが、強い電磁波はこの基地局が発生源である可能性が濃厚だった。たまたま基地局の近くで子供が遊んでいたので、
「頭痛や吐き気に襲われることはないか?」
と、聞いてみた。子供らは、「いいえ」と答えた。
◆自宅の周りに巨大な金属フェンス-電子レンジの状態
Bさん宅の玄関から5メートルのところに廃材置き場がある。Bさん宅の敷地と廃材置き場は、金属フェンスで仕切られている。廃材置き場の地形が入り組んでいて、Bさん宅はちょうど「コの字」金属フェンスに囲まれた中央部に位置している。金属は電磁波を反射するので、基地局から放射されるマイクロ波は、金属のフェンスに反射して、Bさん宅を直撃している可能性があった。ただし、Bさんの夫は特に体の不調はないとのことだった。
Aさん宅もそれに近い位置関係になる。
「コの字」型の金属フェンスと電磁波の関係について、わたしは電磁波問題に詳しい大学の専門家に問い合わせた。グーグルの航空写真で現地を確認してもらいコメントをもらった。
「巨大な電子レンジの中で生活しているような状態になっている」
わたしはAさんとBさんに、基地局を所有する電話会社と撤去の交渉をするように勧めた。二人は電話会社に苦情を申し入れたが、電話会社は総務省の規制値を守って操業しているので、対策するに及ばないと相手にしなかった。
◆顕著な被害妄想が現れた
その後、わたしはAさんとBさんから断続的に聞き取り調査を続けた。そのうちに2人とも奇妙な事を口にするようになった。Aさん宅とBさん宅に隣接するCさん(わたしは面識がない)が、夜になると殊更に荒々しく窓を閉めたり、騒音を出したりして、「自分たちを攻撃している」と言うのだった。
植木の鉢も壊されたので、警察に相談したが、相手にしてもらえなかったという。Bさんの方は、体調不良で自宅に住めなくなり、ホテルへ「避難」することが増えているという。実際、わたしに、
「どこか電磁波から逃れられる施設はありませんか」
と、尋ねてきた。
「福島県にありましたが、今はコロナで閉鎖されています」
ふたりの症状はさらにエスケレートした。Aさんは、
「自宅へ戻ってくると、見知らぬ男が投光器で光を放射したり、大声で怒鳴りちらしたりします。部屋の中をのぞかれたこともあります。嫌がらせの電話もかかってきます」
と、話す。
Bさんも同じような妄想めいた内容の苦情を打ち明けた。わたしは、2人の訴えを電話で繰り返し聞いた。その口調から、ウソを話しているとは思えなかった。
AさんとBさんのどちから1人だけに、「妄想」が現れているのであれば、マイクロ波と妄想の接点は弱いが、隣同士の2人が「妄想」を訴えているわけだから、マイクロ波が原因である可能性も考慮する必要があった。タブーに近いテーマを本稿で事例を紹介したゆえにほかならない。
それにわたしは他にも類似したケースを取材したことがあった。たとえば鎌倉市の事例では、男性が「夜になると、基地局からものすごい音がする」と訴えていた。基地局からは、低周波音はですが、「ものすごい音」というほどではない。従って男性の話は、マイクロ波による「妄想」の可能性があった。男性の妻は、音については否定していた。夫妻のうち男性にだけ「妄想」が現れたことになる。
◆マイクロ波で精神を攪乱する技術
マイクロ波が人間の精神を攪乱することは、昔からよく知られている。この点に着目して、マイクロ波を使った武器の開発が進められてきた。たとえば1977年2月に発行された『軍事研究』に興味深い記事が掲載されている。短いものなので、全文を引用してみよう。
ソ連マイクロ波兵器を開発
国防総省報告によると、ソ連は現在、人間の行動を混乱させたり、精神障害や心臓発作を起こさせるマイクロウエーブ(極超短波)兵器を開発中である。
同報告はさらに、ソ連はすでにマイクロウエーブやその他の波長の電波による人体への科学的作用や脳機能の変化を実施しており、マイクロウエーブの照射によって、敵の外交官や軍部高官の思考を狂わすことを狙っているようだ。
すでにソ連はさきにモスクワの米大使館にマイクロウエブ照射を行って情報収集電子機器を狂わせ、米国務省から抗議を受けている。
また、英国BBCは、「米外交官らがキューバで体調不良、マイクロ波攻撃の可能性=米報告書」(2020年12月20日)と題する次のような記事を掲載している。
米外交官らがキューバで体調不良、マイクロ波攻撃の可能性=米報告書
キューバでアメリカの外交官らが原因不明の体調不良を訴えたのは、マイクロ波に直接さらされたのが原因だった可能性が高いと、米政府が報告書で明らかにした。
米国科学アカデミーがまとめた報告書は、マイクロ波を誰が発していたのかは特定していない。
ただ、50年以上前に当時のソヴィエト連邦が、パルス無線周波エネルギーの効果を研究していたと指摘した。
この体調不良は2016~2017年に、キューバの首都ハバナのアメリカ大使館職員に最初にみられた。
◆「妄想」を取材対象に
マイクロ波を使って精神を攪乱したり体調の異変を誘発する技術は、すでに完成していると言われている。マイクロ波で敵地を軍事攻撃したり、デモ隊を解散に追い込む戦略も実現可能になっている。マイクロ波で、激しい吐き気を引き起こしたり、戦意を喪失させたりする戦略である。
AさんとBさんに見られる「妄想」が、本当に携帯電話基地局からのマイクロ波によるものかどうかは現時点では判断できない。しかし、「妄想」が現れている人を指して、単純に「精神の病」と判断することは避けなければならない。マイクロ波が影響している可能性もあるのだ。
以前、わたしは「妄想」を訴える人は、電磁波問題の取材対象から外していたが、最近は、積極的に取材する方針に変えた。精神疾患が原因で「妄想」が現れたのか、それともマイクロ波が原因で精神疾患になったのかは分からないからだ。
今後も、この問題の推移を追っていきたい。

2022年7月8日、安倍元首相が旧統一教会に恨みを抱く人物から狙撃されて命を落とした。この事件をきっかけとして、旧統一教会の高額献金や霊感商法の問題などが浮上した。被害額は、昨年までの35年間で総額1237億円になるという。(全国霊感商法対策弁護士連絡会」)
これに対して、新聞の「押し紙」による被害がどの程度に上がっているのか、読者は想像できるだろうか。簡単な試算を紹介しよう。
日本全国の一般日刊紙の発行部数は、2021年度の日本新聞協会による統計によると約2590万部である。このうちの20%にあたる518万部が「押し紙」と想定し、新聞1部の卸卸価格を1500円(月額)と想定すると、被害額は77億7000万円(月額)になる。これを1年に換算すると、約932億円になる。
旧統一教会による被害額が35年間で1237億円であるから、「押し紙」による被害額と比較するためには、1年間の「押し紙」の被害額932億円を35倍すれば、その数値が明らかになる。3兆2620億円である。
しかも、この試算は誇張を避けるために、「朝夕セット版」を外して、低く見積もった数値なのである。
公正取引委員会や裁判所などの公権力機関が正常に機能していれば、合法的に取り締まるレベルの問題であるにもかかわらず彼らは延々と問題を放置してきたのである。背後に強い政治力が働いている可能性が高い。
◇公取委が「押し紙」政策を泳がす理由
公権力機関が「押し紙」を取り締まらないことで、新聞社は莫大な販売収入を得る。その支払元は販売店だが、公権力機関が「押し紙」を放置しなければ、このような資金の流れは成立しようがないわけだから、換言すれば新聞社は、公権力機関と癒着することで、「押し紙」による収入を確保していることになる。
一方、公権力機関はこの裏工作の見返りに新聞社から何を得るのだろうか。それは公権力機関にとって好都合な世論の形成である。新聞にはそのノウハウがある。
GHQからの世論調査の方法を伝授された歴史記もある。
言葉を替えると、公権力機関は、世論誘導という商品を間接的な方法で新聞社から買っているのである。
その結果、新聞社サイドにこの高収入を生む世論誘導ビジネスの軌道を逸脱しない編集方針が暗黙のうちに形成される。自然にイナーシア(慣性、あるいは軌道を保持しよとする力)が生じ、それを逸脱しないことが暗黙の合意事項になる。
このようなメディア状況を最も典型的に現れたのが朝日新聞の天声人語である。
作家の辺見庸氏は、天声人語の性質を次のように指摘している。
あれはだいたい七百四十字です。原稿用紙わずか二枚足らずで世界を論じ、善意を論じ、世の中を嘆いてみせる。そこにあるのはクソ人間主義的な底の浅いヒューマニズムであり、じつに楽天的な世界像の矮小化です。しかし、この非常に伝統的な「天声人語」的なるものが世の中の“良識”というものを形づくり、これら“良識”が堆積して、創造的意識を搾取し、無化し、イナーシア(注:慣性)を全体的に支えていると私は思います。そしてこの良識は、現状を打破したり、ナーシアを止めたり、あるいは方向を変えたりするようなものでは断じてない。適度の社会批判、多少の反省、それがわれわれの日常にとっては最もいいことなのだと、世の中はさして悪くもなく特別に良くもないと、そう説いているのであると、私は皮肉として申し上げたい。(『不安の世紀から』)
わたしは、朝日新聞だけではなく、日本の新聞社全体が天声人語に象徴させる状況に置かれていると考えている。その背景に、世論誘導という商品の需要が絶えない事業がある。
2022年10月03日 (月曜日)

米国CIAの別動隊とも言われるNED(全米民主主義基金)が、ロシアの反政府系「市民運動」やメディアに対して、多額の資金援助をしていることが判明した。
NEDがみずからのウエブサイトで公表したデータによると、支援金の総額は、2021年度だけで約1384万ドル(1ドル140円で計算して、約19億4000万円)に上る。支援金の提供回数は109回。
米国がロシア国内の「市民運動」とメディアに資金をばら撒き、反政府よりのニュースや映像を制作させ、それを世界に配信させている実態が明らかになった。ウクライナ戦争やそれに連動したロシア内部の政情を伝える報道の信頼性が揺らいでいる。ウクライナ戦争は、メディアと連携した戦争とも言われてきたが、その裏側の疑わしい実態の一部が明らかになった。
良心的なジャーナリストさえ情報に翻弄されている可能性がある。
NEDは、メディアを対象とした資金援助に関して、たとえば次のように目的を説明している。
▼高品質の調査ジャーナリズムに一般の人々がアクセスできる機会を増やすと同時に、そのような報道の存在を広く知らしめる。地域や国際機関による報告に焦点をあてた調査ジャーナリズムを遂行する。その目的を達成するために、デジタルコンテンツを作成する。
▼地域ジャーナリズムの発展を支援し、重要な政治や社会問題に関する独立したニュース源の分析結果を公衆に提供する。 コンテンツは、一般市民に影響を与える政治情勢の展開や人権侵害に対する市民活動などのトピックに焦点を当てたビデオ形式を含み、定期的にオンラインやSNSで発信する。
一方、ロシアの「民主化運動」に対する資金提供については、たとえば次のように目的を説明している。
▼活動家、政治家、公共思想のリーダーを繋ぐネットワークを強化し、ロシアの民主的発展のための国際支援を提唱する。 政治と時事問題に関する専門家による分析を実現する。 客観的で事実に基づいた報告とそれを裏付ける証拠は、(注:ロシア政府が)偽情報キャンペーンで使う中心的な筋書きを正すために使用する。 出版物を世に出し、著者と共に定期イベント、公開プレゼンテーション、各種の集会を開く。それにより、重要な発見事項をテーマとした公開討論を促進する。
▼ロシアの民主化運動を地球規模の連帯で促進する。ヨーロッパの政治家やオピニオンリーダーと活動家の間でネットワークを強化する。 国内の信頼できる独立した情報源を提供して、(注:ロシア政府の)プロパガンダに対抗する。
これらの資金援助の性質から察すると、「市民運動」が反政府運動を展開して、それをメディアが発信する共闘関係が構築されていると想定される。独立系メディアの独立性にも疑問符が付くのである。歪んだニュースが巧みに制作されている可能性が高い。
実際、NEDに関する白書類の中には、「市民運動」のメンバーにNED資金が日当として支払われているという情報もある。たとえば中国外務省が、今年の5月に公表したNEDについての報告(ファクトシート)は、ウクライナにおける「市民運動」について次のように報告している。
2013 年、ウクライナで大規模な反政府デモが起きた。その際にNED は多額の資金を提供して、国内で活動をしている NGOの65団体の活動家、一人ひとりに賃金を支払った。
NEDが絡んでいる国の「市民運動」や独立系メディアの情報は慎重に見極めなければならない。「市民運動」の資金源を確認する必要がある。
◆NEDとラテンアメリカ諸国
今回、明らかになったNEDによるロシアへの約1384万ドルの援助額は、他諸国の反政府運動への資金援助に比べて桁はずれに多額だ。たとえば、下のグラフは、ラテンアメリカ諸国に対するNEDの支援額を示している。
最も高額なのは、キューバの反政府勢力に対する支援で、470万ドル(2018年度)である。ロシアへの支援額約1384万ドルはその金額の3倍近くになっている。
◆口実は、他国の「民主主義」を育てること
全米民主主義基金(NED)は、1983年に米国のレーガン政権が設立した基金である。表向きは民間の非営利団体であるが、支援金の出資者はアメリカ議会である。米国民の税金である。
NED設立の目的は、他国の「民主主義」を育てることである。親米派の「市民運動」や特定のメディアなどに資金を提供することで、親米世論と反共思想を育み、最終的に親米政権を設立することを目的としている。その意味では、ウクライナを舞台に展開している代理戦争の裏側で、メディアを巻き込んだこうした戦略が展開されていることに不思議はない。報道されていないだけで、米国による内政干渉の手はロシア国内に延びているのだ。
かつて米国の対外戦略は、軍事力による他国への軍事進行やクーデターを主体としていた。しかし、ベトナム戦争での敗北を皮切りに、その後も軍事作戦の失敗が相次いだ。民主主義に対する国際世論の高まりの中で、米国内でも軍事作戦が批判の的になり始める。そこで従来の直接的な軍事作戦に代って「代理戦争」に切り替える傾向が生まれ、さらにはNEDを通じた「市民運動」や独立系メディアの育成により、他国の内政を攪乱したうえで、クーデターなどを試みる戦略が浮上してきたのである。
NEDについて西側メディアはほとんど報じていないが、非西側諸国では、その行き過ぎた活動が内政干渉として強い反発を招いている。ロシアのケースも同じ脈絡の中で検証する必要がある。マスメディアの情報を鵜呑みしてはいけない。
◎[参考記事]米国が台湾で狙っていること 台湾問題で日本のメディアは何を報じていないのか? 全米民主主義基金(NED)と際英文総統の親密な関係

次に紹介する記事は、2月26日にメディア黒書に掲載したものである。兵庫県を舞台に、朝日、読売、毎日、日経、産経を対象に、新聞部数のロック状態を調査したものである。調査結果から、新聞社が販売店に対してノルマを課している可能性が推測できる。これは独禁法に抵触する。
同じ記事を再掲載するのは、公正取引委員会や裁判所に「押し紙」問題を解決しようという意思が毛頭ないことが明白になったからだ。これらの公権力機関が、なぜか新聞社に「便宜」を図っている可能性が高い。
その背景に新聞社が世論誘導の役割を担う権力構造に組み込まれている事情があるようだ。(現在進行している憂うべき状況については、順を追って報告する。)
【再掲載】
このところわたしが提唱している「押し紙」問題検証の方法論として、ABC部数の新しい解析方法がある。兵庫県全域をモデル地区として、ABC部数の変化を時系列に、しかも、新聞社(朝日、読売、毎日、産経、日経、神戸)ごとに確認してみると、ABC部数が地域単位でロックされている自治体が多数あることが判明した。地区単位で部数増減の管理が行われている疑惑が浮上した。
独禁法の新聞特殊指定に違反している疑惑がある。公正取引委員会は、少なくとも調査すべきだろう。
たとえば神戸市灘区における読売新聞のABC部数は、次のようになっている。
2017年4月 : 11,368
2017年10月: 11,368
2018年4月 : 11,368
2018年10月: 11,368
2019年4月 : 11,368
2年半にわたってABC部数は変化していない。新聞の購読者が特定の広域自治体で、2年半に渡って一部の変化もしないことなど、実際にはありえない。これは新聞社が販売店に搬入する新聞の「注文部数」を決めていることが原因である可能性(ノルマ部数、押し紙)がある。あるいは、販売店が自主的に購入する新聞部数を定数化している可能性(積み紙)もある。どちらの側に非があるにしても、これは広告主にとっては見過ごせない問題である。
本稿は、デジタル鹿砦社通信に連載した兵庫県全域をモデルケースとした新しい方法論の下で行ったABC検証の結果の報告である。以下、読者は以下に掲載した調査結果を確認する前に、次の【注意】を一読願いたい。表を理解する上で不可欠だ。
【注意】以下の表は、ABC部数を掲載している『新聞発行社レポート』の数字を、そのままエクセルに入力したものではない。数字を表示する順序を変えたのがこれらの表の大きな特徴だ。
『新聞発行社レポート』は、年に2回、4月と10月に区市郡別のABC部数を、新聞社別に公表する。しかし、これでは時系列の部数変化をひとつの表で確認することができない。確認するためには、『新聞発行社レポート』の号をまたいでデータを時系列に並べ変える必要がある。それにより特定の自治体における、新聞各社のABC部数がロックされているか否か、ロックされているとすれば、その具体的な部数や期間はどうなっているのかを確認できる。同一の新聞社におけるABC部数の変化を、地方自治体をベースにして長期に渡って追跡したのが以下の表の特徴だ。
■読売
■朝日
■毎日
■産経
■日経
■神戸
【出典-デジタル鹿砦社通信】
新聞衰退論を考える ── 公称部数の表示方向を変えるだけでビジネスモデルの裏面が見えてくる ABC部数検証・兵庫県〈1〉
新聞衰退論を考える ── 新聞社が新聞の「注文部数」を決めている可能性、新聞社のビジネスモデルの闇、ABC部数検証・兵庫県〈2〉
新聞衰退論を考える ── 新聞人の知的能力に疑問、新聞社のビジネスモデルの闇、ABC部数検証・兵庫県〈3〉

赤色に錆び付いた人事制度。人脈社会の腐敗。それを彷彿させる事件が、琵琶湖湖畔の滋賀県大津市で進行している。
大津市の佐藤健司市長は、9月9日、大津市民病院の次期理事長の名前をウェブサイトで公表した。新理事長に任命されるのは、滋賀医科大付属病院の泌尿器科長・河内明宏教授(写真、出典=九州医療新報)である。河内教授の理事長就任は、今年の6月に既に内定していたが、今回、任命予定者として公開されたことで、近々、公式に理事長に就任することが確実になった。任期は、2022年10月1日から25年3月31日である。
デジタル鹿砦社通信でも報じてきたように、河内教授は滋賀医科大病院の小線源治療をめぐる事件に関与した当事者である。はたして公立病院の理事長に座る資質があるのか、事件を知る人々から疑問の声が上がっている。
佐藤市長に対して、新理事長選任のプロセスを公開するように求める情報公開請求も提出されている。
◆滋賀医科大付事件の闇
小線源治療は、前立腺がんに対する治療法のひとつである。放射性物質を包み込んだシード線源と呼ばれるカプセルを前立腺に埋め込んで、そこから放出される放射線でがん細胞を死滅させる治療法だ。1970年代に米国で始まり、その後、日本でも今世紀に入るころから実施されるようになった。この療法を滋賀医科大の岡本圭生医師が進化させ「岡本メソッド」と呼ばれる高度な小線源治療を確立した。
【参考記事】前立腺癌の革命的な療法「岡本メソッド」が京都の宇治病院で再開、1年半の中断の背景に潜む大学病院の社会病理
この岡本メソッドに着目したのが、放射性医薬品の開発・販売を手掛けるNMP社だった。NMP社は、岡本メソッドを普及させるために2015年、滋賀医科大付属病院に寄付講座を開設した。講座の指揮を執るのは、岡本医師だった。
ところがこれを快く思わない医師がいた。泌尿器科長の河内明宏教授である。河内教授は、寄付講座とは別に泌尿器科独自の小線源治療の窓口を開設し、前立腺がんの患者を次々に囲い込んだ。そして部下の成田充弘准教授に患者を担当させたのである。
しかし、成田准教授には、小線源治療の実績がない。専門は前立腺がんのダビンチ手術で、小線源治療は未経験だった。それを憂慮した岡本医師が、成田医師による手術を止めた。幸いに塩田学長も未経験者による手術のリスクを察して、河内教授らの計画を中止させた。
河内教授は計画がとん挫したことに憤慨したのか、岡本医師を滋賀医科大から追放するために動き始める。水面下で河内教授が取った行動は不明だが、松末病院長と塩田学長は、なぜか小線源治療の寄付講座の閉鎖を決めた。その結果、岡本医師の治療の順番待ちをしていた98名の前立腺がん患者が混乱に陥ったのである。
寄付講座の開設に際して、河内医師には関連する公文書を偽造した疑惑がある。寄付講座の人事を決める際に、みずからの息がかかった成田医師を幹部として送り込むことを企て、「岡本」の三文判を使って、人事関連書類を偽造したのである。岡本医師が成田准教授の寄付講座への抜擢を承諾したかのように工作したのである。
書類の偽造に気付いた岡本医師は、弁護士を通じて河内教授を大津警察署へ刑事告訴した。大津警察署は、2020年8月21日に河内教授を大津地検へ書類送検した。地検の取り調べを受けた河内教授は、公文書偽造の責任を部下の2人の女性に押し付けたらしく不起訴となった。地検は、2人の女性に非があると結論づけたようだが、不自然きわまりない。
さらに河内教授は、岡本医師の医療過誤を探すために、無断で岡本医師の患者の診療録を閲覧していたことも分かっている。
◆佐藤市長、「地域医療に精通している方であると判断」

「押し紙」が温床となっているメディアコントロールの例を、具体的な新聞記事を引き合いに出して立証することは不可能だが、公正取引委員会や裁判所などの公権力機関が新聞社の「押し紙」政策を黙認してきた軌跡を記述することはやさしい。それはちょうと公害の原因を医学的な根拠を示して立証することが困難であっても、疫学調査によって健康被害の全体像を立証できるのと同じ原理である。
「押し紙」問題を半世紀前までさかのぼってみると、公取委や裁判所がメスを入れる機会は何度かあった。しかし、実際は抜本的な対策を取ったことはほとんどない。それどころか、新聞業界の自主規制に委ねることで、故意に「押し紙」政策を奨励したのではないかと思われる節もある。
【参考記事】公取委と消費者庁が黒塗りで情報開示、「押し紙」問題に関する交渉文書、新聞社を「保護」する背景に何が?
余談になるが、2022年7月に起きた安倍首相狙撃事件を機にして暴露された旧統一教会と自民党の関係も、約半世紀に渡って放置されてきた。警察などの公権力機関はメスを入れなかった。マスコミもほとんど報道しなかった。この問題についてもメスを入れる機会はあったはずだが、実際には延々と放置してきたのである。
統一教会による霊感商法の被害額は、35年間で1237億円(日テレNEWS、7月29日)に上った。これに対して「押し紙」による新聞販売店の被害は、中央市の場合、年間で100億円単位になる推定される。
金額という観点から言えば、「押し紙」による被害の大きさは、霊感商法の比ではない。
【参考記事】「押し紙」を排除した場合、毎日新聞の販売収入は年間で259億円減、内部資料「朝刊 発証数の推移」を使った試算
◆◆
元々、日本の新聞社は戦前・戦中はいうまでもなく、戦後も政府広報の性質を引きずっている。俗に「新聞人」と呼ばれる新聞社幹部は、公権力機関と対峙するよりも、相互理解を前提に親密な関係を維持してきた。もっとも警察の腐敗を追及した北海道新聞のような例外はあるが、その後、この問題を追及した記者らは社から冷遇されたようだ。
しかし、公権力機関と新聞人の情交関係は、今に始まったことではない。それは戦前に始まり、戦後もほとんどそのまま維持され、今日に至ったと言っても過言ではない。両者の関係を親密なものにしたのが、新聞業界の構造改革と新聞用紙の配給体制だった。新聞社側の経済的な事情が両者を結び付けたのである。
有山輝雄・東京経済大学教授の「総動員体制とメディア」(『メディア史を学ぶ人のために』収録)によると、新聞の構造改革は、1938年に始まった。最初の段階は、「悪徳不良紙の整理」だった。次に、「弱小紙整理」だった。そして太平洋戦争が始まった1941年には、「1県1紙制」への統合が始まった。「その結果、1938年秋段階には739紙であったのが、1942年4月15日には108紙に減少した」のである。新聞社の数が減ったことで、言論統制が容易になったことは言うまでもない。
この構造改革の牽引役となったのが、新聞用紙の配給体制だった。このあたりの事情について、有山氏は次のように述べている。
【引用】当時の(新聞社の統合、構造改革の)切り札になったのは、新聞用紙の不足であった。原料を輸入に頼っていた新聞用紙の不足が顕著化するのは、1938(昭和13年)年頃からである。当初は製紙業界と新聞業界との話し合いで節約しようとしたが、調整がつかず、1938年8月、政府が強制的に新聞用紙の節約を命じた。このため各新聞社は減ページを余儀なくされたし、用紙の確保が各社の死活を制することとなったのである。これは、弱小新聞の廃刊、合併に大きな圧力となった。それだけでなく、各新聞社側に政府の政策に先取り的に迎合し、少しでも有利な立場を確保しようとする行動を引き起こすことになったのである。」
政府は、露骨な方法で商業メディアを検閲したわけではない。むしろ表向きは、新聞社の自主性を重んじていたのである。と、いうのも厳しい言論弾圧をするまでもなく、新聞用紙の配給に裁量を働かせることで、新聞社が国策の方向性に反する記事を掲載する事態を回避することが出来たからである。有山氏の言葉を借りていえば、「いうまでもなく、メディアが従順であったのは、差止命令に反して処分された場合の損害を回避し、協力することによって有利な用紙配給を得られるという企業的利益があったからである」。
戦前・戦中の新聞がジャーナリズムになりえなかった主要な原因は、記者の職能や記者魂の欠落といった観念的なものに存在したのはなく、新聞社を経営する上で不可欠な物質的経済的事実の中に存在したのである。
戦後、日本の新聞社は、GHQによって「改革」を迫られた。「改革」と言っても、それは「親米」と「反共」の世論形成を前提とした方向性の「改革」であって、真の意味でジャーナリズムの導入を進めたわけではない。
GHQの方針の結果、次々と新興紙が登場した。戦前の構造改革で淘汰された新聞が復活した例もある。一見すると多様な言論がGHQによって誕生したかのような印象があった。しかし、新聞社が新聞拡販を柱とした自由競争のレールの上を走り始めると、大半の新興紙は生き残ることができなった。その結果、戦前の構造改革の中で生き残った新聞社が、戦後もそのまま事業を継続する体制になったのだ。
このあたりの事情について、東京経済大学の有山輝雄教授は、1998年、わたしのインタビュー(『新聞ジャーナリズムの正義を問う』に収録)に答えて次のように述べている。
【有山】戦後の初期、新聞ジャーナリズムは機能し、その後に腐敗堕落したと考えている人もいますが、私はそうではないと思います。基本的な体質は創業から同じであって、それは新聞人の個人的な問題ではなくて、ひとつのシステム(体制)の問題があるからです。新聞が社会制度の中に組み込まれて来たわけですから。
--戦後、新聞を改革できなかった理由は?
【有山】アメリカが、日本を民主化しようとしたといっても、一面では自分たちの国益を優先したわけです。考え方によっては、日本の新聞社の戦争責任を追及して、新聞社を全部つぶすことも選択肢としてはもっていたわけです。しかし、アメリカは国益を守るためには今ある新聞社を利用する方が都合がいいと考え、新聞の制度それ自体はいじらなかった。独占禁止法を導入し、朝日、読売、毎日などの独占を言葉の上では批判し、分割することもひとつの選択だったわけです。しかし、それをやれば、日本国内が混乱するので、避けようという判断だったのだと思います。
戦前に定着した新聞紙と公権力機関の癒着は、戦後もそのまま受け継がれた。新聞人らは、日本政府に強い影響力を持つ米国の公権力機関とも親密な関係を構築した。それを裏付ける典型的な人物が、読売新聞の正力松太郎と朝日新聞の緒方竹虎だった。この2人を米国CIAが抱え込んでいた事実は、米国公文書館の文書でも明らかになっている。
2013年1月23日付け『東京新聞』は、「日米同盟と原発」と題する記事の中で、このあたりの事情について、次のように延べている。
【引用】首都ワシントンの米国立公文書館に保管されている国務省やCIAの膨大な極秘文書。正力は「PODAM(ポダム)」(右写真)という暗号名で呼ばれていた。どういう意味かは不明だが、ちなみに元朝日新
聞主筆で、自民党副総裁を務めた緒方竹虎(六七)の暗号名は「POCAPON(ポカポン)だった。
正力が衆院議員初当選からほぼ半年後の五五年八月十一日付けのCIA文書には「PODAMは協力的だ。親密になることで、彼が持つ新聞やテレビを利用できる」
。その1カ月後の9月十二日には「PODAMとの関係ができてきたので、メディアと使った反共工作を提案できる」と記されていた。
「PODAMの存在感が大きくなっている。彼の関心はテレビから原子力へ拡大し、今では首相になると言っている」
日本の世論形成に影響力を持つ新聞、テレビのオーナー、正力とその懐刀の柴田。ビキニ事件の対応で手をこまねいていた米国が見逃すはずがなかった。当時、米政権中枢に提出したCIA局密文書には「大手日刊紙とつながりを持つため正力と柴田を取り込むべきだ」との助言が盛り込まれていた。
◆◆
日本の新聞社は、元々、公権力機関に組み込まれることで生存してきたのである。戦前・戦中は、新聞用紙の配給制度がそのアキレス件になっていた。このアキレス腱切れると生存できない状況に置かれていた。
では戦後は、何が公権力機関のメディアコントロールのアキレス件になってきたのだろうか。答えを先にいえば、「押し紙」制度が、その温床になってきた可能性が高い。再販制度や新聞に対する消費税の優遇措置も、その客観的な原因になっているが、決定的なものは「押し紙」を放置する公権力機関の政策にほかならない。「押し紙」によって新聞社が得る経済的利益が尋常な額ではないからだ。
もっとも公権力機関が意図的に「押し紙」政策を導入したのではなく、過当な新聞拡販競争の土壌の中から、「押し紙」制度が生まれ、それが莫大な不正利益を生む点に着目して、暗黙のうちにメディアコントロールの道具にした可能性が高い。
「押し紙」問題にメスを入れると、公権力機関は世論誘導の有力な手段を失ってしまう。従って新聞の問題は、戦前と同様に自主規制に委ねる姿勢を取り続けることで、「押し紙」問題を放置してきたのである。そして裁判になれば、最高裁事務総局が、裁判官の人事権を行使して、裁判官を交代させるなどして、新聞社に有利な判決を下してきたのである。
【参考記事】野村武範判事の東京高裁での謎の40日、最高裁事務総局が情報公開請求を拒否、透明性に疑惑がある事務局運営の実態













