1. 「押し紙」70年③ ABC部数と実配部数の乖離を生む「押し紙」、政府・公取委・警察が70年も「押し紙」を放置している本当の理由

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2015年07月02日 (木曜日)

「押し紙」70年③ ABC部数と実配部数の乖離を生む「押し紙」、政府・公取委・警察が70年も「押し紙」を放置している本当の理由

日本ABC協会という新聞や雑誌の部数公査(監査)を実施している団体がある。新聞の発行部数という場合、通常はABC部数を意味する。そしてこのABC部数を基準に、新聞に掲載される政府広報など、公共広告の掲載価格が
決められる。

日本ABC協会は、日本で最も信頼のおける部数公査機関としての定評があるが、同時に新聞業界の内幕を知る人々のあいだでは負の評価もある。特に新聞販売店主の間では、「まったく信用できない」という評価が定着している。ABC部数が、新聞の実配部数と著しく乖離(かいり)しているからだ。

◇ABC部数は単なる印刷部数

が、厳密にいえば、ABC部数はもともと実配部数を示す数値ではなく、発行部数(印刷部数)を示す数値であるわけだから、法的に見れば、同協会がデタラメな情報を公表しているわけではない。ABC部数として公表しているのは、実際に印刷されている部数である。

ここがトリッキーな部分なのだ。通常、新聞の発行部数がそのまま実配部数だと思いがちだが、両者の間には著しい差がある。

改めて言うまでもなく、ABC部数と実配部数がかけ離れている原因を生み出しているのは、「押し紙」である。あるいは新聞社の「押し紙」政策である。ABC部数の中に「押し紙」が含まれているために、必然的にABC部数が実配部数を反映しない現象が起こるのである。

わたしが述べた上記の問題は、実はかなり昔から指摘されてきた。1970年(昭和45年)11月の『日販協月報』からは、ABC部数に対する不信感が新聞販売店主の間で沸騰している様子が読み取れる。タイトルは、

    ABCの現状に強い不満表明

対談形式の記事で、ABC公査に対する強い不信感を語っている。

森実勉一氏:ABC協会の現在の公査方法には反対である。今の公査は、一週間前ぐらいに通知がきて、公査するが、これを抜き打ちに変えるべきだと思う。そして公査の結果は堂々と公表してもらいたい。

■出典:日販協月報PDF

なぜ、販売店主は「一週間前の通知」に反対して、「抜き打ち」調査の導入を希望したのだろうか。わたしがこれまで多数の販売店主から聞いた話によると、それは一週間前に通知した場合、新聞社が販売店に帳簿類を改ざんして、「押し紙」の存在を隠すように命じられるからだ。

「押し紙」は独禁法に抵触する。

改ざんの目的は、架空の配達地域と架空の読者を設定して、そこへ新聞を配達しているというフィクションの裏付けを設定することである。こうして「押し紙」の存在を隠してきたのである。

◇新聞研究者が「押し紙」を問題視しない理由

日販協月報がABC公査の問題を指摘して、半世紀になるが、ABC公査はいまも実配部数を反映していない。「押し紙」問題を放置していることが、その原因にほかならない。

本来、「押し紙」問題は、新聞研究者が指摘しなければならない。しかし、故新井直之氏らごく少数を例外として、だれもが口を閉ざしている。理由は簡単で、新聞社経営にかかわる決定的な問題を指摘すると、「紙面」という自分たちが言論活動を展開する場を失うリスクが生じるからだ。だから知らん顔をしている。

しかし、「押し紙」問題は新聞社のアキレス腱なのであるから、この問題を放置する限り、公権力は「押し紙」問題を逆手に取って、メディアコントロールの道具として悪用する。新聞社が忠犬のように政府の「広報部」になれば、「押し紙」を黙認し、逆に政府に批判的な論陣を張れば、「押し紙」やそれに連動した広告料の不正設定を理由に、新聞社経営に圧力をかけかねない。

政府・公取委・警察がなぜ70年にもわたって「押し紙」を放置しているのか、その理由を再考してみるべきではないか。