【書評】 詩織さん事件の元TBS山口敬之氏『総理』に見る政治記者の勘違い、取り違えた「スクープ」の意味
報道を評価する基準は多様だが、究極のところは、報道内容に価値があるかどうかである。厳密に言えば、報道の背景にどのような思想があり、どのような視点があるかである。そのためか、評価には歴史的な時間を要する。客観報道というのはまったくの幻想である。殊更にそれにこだわる必要はない。
山口敬之著『総理』(幻灯舎)は、報道の視点という観点から見ると、一体、何を主張したいのかよく分からない本である。山口氏の経歴は、1966年東京生まれ。慶應大学を卒業してTBSへ入社。後にワシントン支局長。16年には退社してフリージャーナリストになった。準強姦事件(詩織さん事件)を起こしていた疑いが浮上して、一躍、時のひとになったが、不起訴に。
安倍官邸との距離が極めて近いことでも有名だ。同著によると、「初めて安倍氏と会ったのは小泉純一郎内閣の安倍官房副長官、いわゆる『番記者』という立場の時であった」。初対面のときから「ウマが合った」のだという。その後、「時には政策を議論し、時には政局を語り合い、時には山に登ったりゴルフに興じたりした」という。