
新聞販売店で働く人は、残紙問題、労務問題、メディアをどのように見ているのだろうか。Aさん(女性)の例を紹介しよう。在職期間は、2015年5月から2017年10月である。勤務先は、地方紙の販売店である。
・・・現場で働いていたとき残紙や折込広告の水増しと廃棄について、どう感じましたか?
A:仕事をはじめてまもなくに、奇妙な二つのことに気付きました。ひとつは配達後に新聞が相当余っていることでした。ひとつの新聞の梱包は60部、あるいは80部のいずれかなのですが、その梱包が10個以上も解かれないまま残っていました。
わたしは在職中に他の販売店に異動しましたが、そこでもやはり同じ光景を見ました。10個ぐらいの梱包が毎日残っていました。
・・・当然、折込チラシも大量に余っていたと思いますが、どう処理していましたか。
A:余ったチラシは、新聞紙で包装して処理していました。残紙を収納するコンテナに、包装したチラシの束も捨てていました。あるとき先輩に「なんで折込チラシを新聞でくるむのか」と聞いたら「見栄えが悪いので」との返事でした。コンテナの中身は月に数回、夕方に軽トラがきて、荷台に次々と残紙とチラシを積んでいました。
・・・折込チラシの広告主を覚えていますか?
A:折込チラシはパチンコ店やスーパーが多かったです。毎週金曜には不動産屋のチラシが入っていたように記憶しています。
市会議員の三上明(仮名)氏は、何か月かおきに活動報告のチラシを折り込んでいました。三上氏の活動に注目していたことと、活動報告チラシの紙が硬めのいい紙質だったことで印象に残っています。ただ、三上氏のチラシが捨てられていたかは確証がありません。県会議員のチラシもたまに折込がありました。
この新聞社は、夕刊を廃止して、それに代わる『エポカ』(仮名)という情報紙を発行するようになった。そして朝刊とセットにしたり、単独の販売を始めた。販売ルートが広がるにつれて配達員の負担も増えたという。
・・・『エポカ』が創刊されたころのことを教えてください。
A:夕刊が廃止になって『エポカ』になるに際しては、従来の夕刊読者に対して、契約を継続してくれるように、各戸をまわってお願いしました。社から命令が下ったのです。先輩の配達員が顧客に説明にまわるのに、わたしも一緒しました。しかし、みたこともない情報紙をどう営業しろというのかと心の中で毒づきました。
スタート時に営業でかなりの購読契約を取り付けましたが、一か月か二か月すると購読を止めたいという顧客がではじめました。一人の顧客から『エポカ』を止めたいと直接言われたときに理由を聞くと「おもしろくないから」との返事でした。
以前の夕刊は一部40円でしたが、『エポカ』は60円になりました。個人的には『エポカ』より元の夕刊のほうがいいのにと思っていました。紙の質は夕刊よりも上質でしたが。
・・・・『エポカ』は駅売りをしていましたか?
A:JR内の売店に搬入していました。夕刊の時代よりも、『エポカ』の方が搬入部数は多かったです。一店舗に50部ぐらいは搬入していたように記憶しています。ただ、売店のおばちゃんに、「売れないのにまだこんな数もってくるの?いつまで?!」とこぼされたことがあります。
コンビニにも搬入していました。こちらも搬入数と残数がどの店舗も毎回ほぼ同じでした。コンビニ店員からも、また売れてないよと言われたことがあります。『エポカ』発行部数は朝刊より少ないでしょうが売れ残りが相当あるのではと思っていました。
2014年から月に2回、『フレンテ』(仮名)というフリーペーパーも発行されるようになった。配布日は、第二金曜日と第四金曜配である。
・・・『フレンテ』の中身について教えてください。
A:配達員になる前からこのフリーペーパーの存在は知っていました。当時は新聞を取っていませんでしたが、勝手に『フレンテ』をポストインしてくれていました。わたしは「生ごみを包むのに助かる」と思って保管しておきました。届いたらひととおり目を通していました。
最初は地元の漫画家の作品などを掲載していましたが、内容はだんだん企業PRが増えてきたように思います。
・・・朝刊と一緒に配達するのですか。
A:配達員になってから身に染みたのですが、『フレンテ』は朝刊と同時配布ではなく朝刊配達後にまた同じ区域をひと回りするのです。配達員にとって『フレンテ』の配達はタダ働きだと思います。配布日にかかってもかからなくても賃金は同じでした。何軒か『フレンテ』を嫌っている個人宅があり、間違って配達しないように順路帳にその旨を記載していました。ある日『フレンテ』拒否の家の人が表に出ていたので「どうぞ」と手渡しを試みましたが「いりません!」と一蹴されたことがあります。とことん嫌っているようでした。
・・・フリーペーパーは読まれていないということですか?
A: アパートやマンションでは多くの場合集合ポストに入れるのですが、あるレオパレスのアパートの集合ポストに入れたところ、午後にはごみ箱に『フレンテ」がたくさん捨てられていました。
あるマンションの集合ポストに入れていたら、管理人から「これ、迷惑なんだよね」と言われたこともあります。
最近は、『フレンテ』にチラシを折り込んでいる不動産会社もあります。現場でこのような光景を見ていたので広告効果はあるか疑問です。「金をかけてごみを作っている」と感じました。
・・・・他に本業以外の仕事を課せられたことは?
A:発行本社が映画を作ることになった時のことです。原作の文庫本を販売するように強制されたことがあります。ノルマは一人一冊でした。売る相手が思いつかないので、自腹で一冊買いました。文庫本なのに価格は1000円ちかくしたと思います。まず、新聞社が映画を作るなんて話は他に聞いたことがなかったので驚きました。
当時路線バスに乗るとその映画をアピールする広告が出ていたことを覚えています。興行成績はわかりませんが。
2020年05月22日 (金曜日)

豊島区の広報紙『広報としま』が大幅に水増しされている問題で、過去10年分の関係資料を入手した。詳細については、検証が完了した段階で公表するとして、今回は、2018年度のケースに絞って報告する。
朝日、読売、毎日、産経、日経、東京の6紙が折り込み媒体となっている。卸部数は総計で7万8765部である。これに対して、ABC部数(2018年4月)は、5万4778部である。次に示すのが裏付けだ。
2018年度の水増し率は30%だった。2019年度の水増し率が43%であるから、18年から19年にかけて、13%も水増し率が増加したことになる。
2019年度のデータを公表した際に読者から、過剰になっている部数は、販売店がポスティングしているのではないかとの指摘があったので、この点について調査したところ、新聞を購読していない世帯で、『広報としま』を希望する住民に対しては、区から直接郵送していることが分かった。
郵送部数は、2018年が4040部である。
ちなみに豊島区のウェブサイトは、広報紙の普及方法について、次のように述べている。
「区政全般にわたる情報を、より早く、わかりやすく、正確に区民の皆さんに伝えるため、広報紙「広報としま」を発行しています。毎月1日は「特集版」と「情報版」を、毎月11・21日は「情報版」を発行します。また年に2回、「特別号(としまplus)」(A4冊子版)を全世帯に配布予定です。
下記デジタルブック版からご覧になれます。
ほか、日刊紙(朝日・読売・毎日・東京・産経・日本経済)への折り込みや、区内各駅の広報スタンド、区内ファミリーマート、区内公衆浴場、区内郵便局、区施設の窓口にも置いています。
また、区内在住で、新聞を購読していない世帯(企業は除く)で、ご希望のかたに個別配布をしています。」
なお、『広報としま』の新聞折込契約は、豊島区と豊島区新聞販売同業組合の間で交わされている。それによると、「折り込み部数」は7万9000部になっている。
広報紙を折り込む媒体(新聞)が5万4778部しかないのに、「折り込み部数」は7万9000部になっているのだ。
ただ、こうした状態になっている背景には、新聞販売店の経営悪化がある。残紙を相殺するために、折込媒体を水増しせざるを得ない苦しい事情がある。折込手数料と補助金の総額が、新聞の卸価格を上回れば、残紙による損害はないが、折込広告の需要が急激に減っている事情の下では、少しでも折込媒体を増やさなければ、経営が破綻してしまう。
その意味では、同情の余地がある。こうしたビジネスモデルを構築した発行本社に責任がある。

新聞販売店が起こした訴訟の中で、「押し紙」が認定されたケースは、これまでに3件ある。2006年の福岡地裁、2011年の岡山地裁、そして2020年の佐賀地裁である。
このうち福岡地裁のケースは、その後、2007年12月に最高裁で判決が確定した。福岡高裁の判決は有名で判例タイムズ(2008年6月1日)にも掲載されている。
◆◆◆
しかし、真村裁判は「押し紙」の損害を求めた裁判ではなく、店主の地位保全を求めた裁判である。YC広川(福岡県)の真村久三さんが、2002年に読売新聞・西部本社を訴えた裁判である。
発端は、真村さんが読売本社から自店の営業地区の一部を、隣接するYCへ譲渡するように求められたことである。真村さんは理不尽な要求を断った。これに対して読売は、真村さんの店主としての地位を解任しようとした。そこで真村さんが地位保全を求めて提訴したのである。
読売が提示した解任理由のひとつに、真村さんが新聞の部数内訳を虚偽報告していたというものがあった。具体的に言えば、残紙が存在するのに、それを実配部数に加算して報告し、残紙の存在を隠していたというものである。読売は、これらの残紙が「積み紙」だと主張し、それを改廃理由のひとつにしてきたのである。
「積み紙」とは、販売店が折込広告の水増し手数料を稼ぐためにみずから注文した残紙である。 「積み紙」は、折込詐欺の温床であり、当然、公序良俗に違反し、正当な改廃理由になる。それゆえに読売は、真村さんが虚偽報告していた残紙が「積み紙」だと主張したのだ。
これに対して、真村さんの弁護団は、残紙は「押し紙」だったと主張した。虚偽報告を認めたうえで、そうせざるを得なかった背景に、「押し紙」政策があったと主張したのである。
地位保全裁判にもかかわらず争点が、真村さんが虚偽報告していた残紙は、「押し紙」か、それとも「積み紙」かが争点になった。
福岡地裁と福岡高裁は、読売による「押し紙」を認定した。そして2007年12月に最高裁で判決が確定した。
この判決で興味深いのは、残紙の存在を隠すために、真村さんがコンピュータ上に「26区」と呼ばれる架空の配達区を設置して、架空の読者を登録していた事実が認定されていることだ。そうせざるを得なかった背景に、読売の販売政策があったと認定したのだ。
この裁判には、読売の代理人として、日本を代表する人権擁護団体であり護憲派である自由人権協会の代表理事を務める喜田村洋一弁護士が、読売支援のために東京から福岡へ駆けつけていた。判決が確定した後も別の係争が続いたこともあり、喜田村弁護士は東京と福岡を何度も往復されたようだ。
わたしも1年半の間に被告として3件の裁判に巻き込まれ、約8000万円を請求された。
◆◆◆
『月間HANADA』(2016年7月)に掲載した記事の中で、わたしは真村裁判の福岡高裁判決にふれ、「押し紙」政策が認定された旨を記載した。すると読売東京本社の滝鼻広報部長が版元に抗議文を送付した。
これに対して、わたしはメディア黒書上で反論した。この反論は、福岡高裁判決がどのような性質のものであるかを、一般読者にも分かりやすいように解説している。参考までに下記にリンクを張っておく。
2020年05月19日 (火曜日)

NHKが朝夕のニュースで放送している「ストップ詐欺被害!私は騙されない」では、振り込め詐欺をはじめ、これでもかというほど詐欺の手口が紹介されている。
一方、新聞に折り込んで配布される自治体の広報紙の一部が捨てられ、料金だけが徴収されている事例が多数あることは報じられていない。昨年から今年にかけて、筆者のところへ、「折込め詐欺」を告発する情報が次々と寄せられた。
その中から相互に関連する2件の告発を紹介しよう。騙されているのは東京都の23区の特別区のうち12区である。
「東京都江戸川区の広報紙、『広報えどがわ』が、配達されないまま大量に廃棄されています」
そんな告発と共に紙媒体が背の高さほどに積み上げられている写真がメールで送付されてきた。(左写真)
江戸川区は、『広報えどがわ』を新聞折り込みのかたちで配布してきた。しかし、実際に新聞に折り込まれているのは、販売店に卸した部数の一部で、配られずに大量に捨てられているというのだ。
ただ、写真を見るだけでは、広報紙の秘密廃棄が事実かどうかを確かめようがない。新聞に折り込む前の写真である可能性もあるからだ。
そこで筆者は情報提供者に対して、この販売店に「押し紙」があるかどうかを問い合わせた。「押し紙」の有無を検証することが、折込み媒体の水増し行為の実態を調査するための最初のステップだった。
「押し紙」とは、新聞社が販売店に対してノルマとして買い取りを強制する新聞のことである。たとえば2000部しか配達していない販売店に3000部の新聞を搬入すれば、1000部が「押し紙」である。残紙とも呼ばれ、新聞業界の暗部である。
自治体などの広報紙の販売店への割り当て枚数は、搬入される新聞の総部数に一致させる原則がある。民間企業の折込広告の場合、最近は広告主が自主的に枚数を減らすこともあるが、公共の媒体は従来の原則を貫いてきた。
というのも販売店へ搬入する総部数は、権威ある調査機関とされている日本ABC協会の公査を経ており、実際に配達される部数との間に大きな乖離はないとされているからだ。しかし、総部数(ABC部数)に「押し紙」が含まれていれば、媒体は水増し状態になる。

「押し紙」の有無についての筆者からの問い合わせに対して、「押し紙」の写真(左写真)が何枚も送られてきた。筆者は現場へ足を運んで情況を確認した。昼間の時間帯だったので、「押し紙」は確認できなかったが、写真に映っていた「押し紙」の保管場所は確認できた。
この販売店にどの程度の「押し紙」があり、それに伴って何部の『広報えどがわ』が廃棄されているかは、帳簿を見ない限り正確には特定できないが、送付されてきた写真を見る限り、「押し紙」が多量にあるので、広報紙の廃棄量も多量になっていると考えるのが自然だ。
◆◆◆
筆者は調査を次の段階へ移した。江戸川区の区役所へ足を運び、情報公開請求の権利を使って『広報えどがわ』の新聞販売店向け卸部数を開示してもらった。次に永田町の国立国会図書館へ行って、江戸川区の新聞のABC部数を調べた。その結果、次の数値が明らかになった。
ABC部数:13万4300
広報紙の折込部数:14万7000
新聞に折り込む『広報えどがわ』の部数が、ABC部数を1万部ほど上回っているのだ。逆転現象である。つまりたとえ一部たりとも「押し紙」がなくても、『広報えどがわ』は一万部ほど廃棄されている計算になる。
この実態を踏まえて、筆者は広報紙の配布に関する調査範囲を広げることにした。東京23区を対象に、各区の広報紙の水増し実態を調査することにしたのだ。『広報えどがわ』と同じ逆転現象が、他の区でも起きているのではないかと推測した結果である。
そこでまず東京都の各区役所に問い合わせて新聞折り込みで広報紙を配布している区を特定した。その結果、23区のうち16区で新聞折り込みが採用されていることが分かった。
この16区について、口頭で「2019年度6月時点における広報紙の新聞販売店向け卸部数」を聞き出した。新聞販売店に「押し紙」があることは、周知の事実となっているわけだから、これらの16区では、広報紙が水増しになっている可能性が高い。しかし、それだけでは裏付けが弱いので、江戸川区のケースと同様に、折込部数がABC部数を超えているケースだけを「水増し状態」と定義した。
その結果、この定義に当てはまったのは、荒川区、江戸川区、目黒区、港区、練馬区、大田区 、世田谷区、品川区、新宿区、杉並区、豊島区、板橋区の12区である。冒頭の図が各区のABC部数と広報紙の新聞販売店向け卸部数(19年6月時点)である。
これらの区では、販売店にたとえ一部の「押し紙」がなくても、広報紙が水増し状態になり、ゴミとして廃棄されていることになる。
最も水増し率が高いのは、豊島区の43%である。
◆◆◆
ただ、調査対象になった12区の担当者が、悪意をもってABC部数を上回る部数の広報紙の折込み配布を発注した可能性は少ない。新聞のABC部数と実配部数が整合していない事実がほとんど知られていないからだ。
その結果、12区の担当者は、「予備部数」を見込んで、言われるままにABC部数を上回る部数を発注した可能性が高い。ただ、たとえABC部数への上乗せ分が「予備部数」であるとしても、その割合は2%が常識とされている。1000部に対してわずか20部程度である。
【参考画像】「押し紙」回収の現場

既報したように佐賀新聞の「押し紙」裁判で、原告の元販売店主・寺崎昭博さんが勝訴した。佐賀地裁は佐賀新聞に対して、寺崎さんに約1066万円を支払うように命じた。
この判決の最大の評価点は、裁判所が単に寺崎さんが受けた被害だけではなく、86店ある佐賀新聞の販売店の大半で同じ被害が発生している高い可能性を具体的に指摘したうえで、「被告の原告に対する新聞の供給行為には、独禁法違反(押し紙)があったと認められる」と、認定したことである。佐賀新聞の販売店が一斉に「押し紙」裁判を起こせば、勝訴する道が開けたのである。
◆裁判所が下した賠償額について
請求額は約1億1600万円で、賠償額が約1066万円だから、原告が勝訴したとはいえ、原告の主張があまり認められなかったような印象もあるが、「押し紙」行為に関する肝心の部分では、原告の主張がほぼ認定されている。請求額に比べて賠償額が少ないのは次の理由による。主要なものを紹介しておこう。
①時効
請求は2009年(平成21年)4月から2015年(27年)12月までだが、平成2013年7月30日以前に支払った「押し紙」の仕入代金は、時効で消滅していると判断されたこと。
②逸失利益
逸失利益とは、「本来得られるべきであるにもかかわらず、債務不履行や不法行為が生じたことによって得られなくなった利益」(ウィキペディア)のことである。原告の寺崎さんは、「押し紙」で廃業に追い込まれたわけだが、仮に「押し紙」がなければ、65歳まで働けると想定される。原告弁護団は、それによって得られると推定される金額を請求したのであるが、認められなかった。
③慰謝料
慰謝料が認められなかったこと。
④弁護士費用
一部しか認められなかったこと。
⑤折込手数料
「押し紙」とセットになっていた折込手数料が、賠償額から控除されたこと。
◆原告販売店の「押し紙」を独禁法違反と認定した理由
裁判所が、佐賀新聞が原告販売店に行った「押し紙」行為を独禁法違反と認定した理由は、次のようなものがある。
1、実質的に佐賀新聞が年間目標を立て、それに沿って販売店に新聞の部数を注文させていた事実。年間目標を設定する際の具体的な方法は、次のようなものだ。
佐賀新聞は、毎年3月の定数(搬入部数)を基に次年度の年間目標を設置していた。たとえば3月の定数が1000部で、年間目標が72部とする。月に換算すると6部である。それを前提に、各月の目標定数(目標部数)を決める。たとえば次のように。
1月:1006部
2月:1012部
3月:1018部
4月:1026部
5月:1032部
6月:1038部
7月:1044部
8月:1050部
9月:1056部
10月:1062部
11月:1068部
12月:1072部
※これは実際の数字ではなく、説明の便宜上筆者が設定したものである。
1月から11月までの注文部数を1000部にして、12月だけ一気に1072部とすることは認められていない。
年間目標の設定に際しては、佐賀新聞の担当員が販売店を訪問して、店主と協議して決めるが、実質的には担当員の側に決定権がある。新聞の注文部数は、年間目標に沿った部数でおこなわれていた。
2、佐賀新聞が定期的に全店の一斉減紙を実施してきた事実があること。つまり佐賀新聞が全販売店の注文部数を決めていたのである。これについて判決は次のように述べている。
「販売店が購読部数に応じた部数を注文することができるのであれば、被告が販売店の救済のために一斉減紙を実施する必要はない。販売店の注文部数には、被告による拘束があったとみるほかない」(30P)
3、小城販売店の店主が申し立てた仮処分や本訴の中で、「押し紙」行為が明らかになった事実。佐賀新聞は、「年間販売目標に反する注文は普及努力義務に反するとして、年間販売目標に従った供給を続けた」(29)のである。2つの販売店が被害を訴えたことが功を奏した。
4、適正な予備紙の部数を、「原告が実際に原告販売店を経営する上で必要」とする部数と認定したこと。「本人尋問においては、(寺崎さんは)30部くらいで足りるし、予備紙率は2%あれば十分であると供述している」。
新聞社の見解は、残紙はすべて予備紙というものだが、「原告が実際に原告販売店を経営する上で必要としていた」部数とする見解が示されたのである。それ以外は、「押し紙」と認定されたのだ。
5、新聞1部の仕入価格が月額1692円で、折込媒体の手数料が月額750~1050円程度だったので、折込広告の水増しが目的で多量の残紙を購入していたのではないことが明確になったこと。
6、寺崎さんが残紙代金を支払うために、銀行から繰り返し借り入れをしていた事実があること。
7、ABC部数の公査対策を、佐賀新聞が指示していた事実があること。
佐賀新聞の販売局員は店主らに対して、残紙率が高いときは、帳簿類を改ざんして、実配部数との整合性を取ることを指示していたのである。
以上を理由として、裁判所は佐賀新聞の独禁法違反を認定したのである。
なお、原告が主張していた公序良俗違反や強迫などは認められなかった。
◆弁護団談話
2020年(令和2年)5月15日
佐賀新聞吉野ヶ里販売店「押し紙訴訟」原告弁護団談話
(文責 弁護士江上武幸)
本日午前11時、佐賀地裁民事部(達野ゆき裁判長)は、佐賀新聞社の独禁法違反の押し紙による経営政策を厳しく指弾する原告勝訴の判決を言いわたしました。
判決は、佐賀新聞社がABC協会の公査の際に押し紙の存在がわからないように販売店に偽装工作を指示していた事実や、販売店に対し年間販売目標に従った注文を求め販売店からの個別の減紙の申し出には応じない販売政策をとってきた事実を認め、これまでの経営姿勢を厳しく批判しました。
特に、新聞販売店経営に必要な部数は実配数とその2%程度の予備紙で足り、それを超える部数は独禁法の定める押し紙であり違法であるとの判断を示した点は、裁判所が独禁法の押し紙の公権的解釈規準を示したもので高く評価されます。
現在、新聞本社の意向に逆らえず大量の押し紙を購入させられている販売店にとって、押し紙返上に勇気と希望を与えられた名判決であり、全国的にもその影響は非常に大きいと考えます。佐賀地裁の裁判官の英断にあらためて敬意を表します。
【臨時ニュース】
佐賀新聞の元店主が起こした「押し紙」裁判で佐賀地裁は、15日、原告の元店主に対して1066万円の支払いを命じる判決を下した。「押し紙」裁判で勝訴判決が出たのは、2011年の山陽新聞の「押し紙」裁判以来。和解で販売店が勝訴するケースは相次いでいたが、裁判所が判決を下したのは9年ぶり。今後の「押し紙」裁判に大きな影響を及ぼしそうだ。
判決の詳細、判決文、弁護団声明は後日。
2020年05月14日 (木曜日)

ABC公査で不正を摘発されない体制を構築すれば、新聞社はABC部数をどうにでも操作できる。新聞社が販売店へ送り込んだ部数が、そのままABC協会へ申告され、ABC部数として認定される。さらにそれが折込定数になるわけだから、自由自在に折込媒体の水増しが可能になる。
広告主企業の中には、このような構図に気づいている企業もあるが、自主的に折込媒体の発注枚数を折込定数よりも少なめに設定するだけで、新聞社に抗議したという話はない。
わたしは複数の広告主から、その理由を聞いたことがあるが、共通して「新聞社とはトラブルになりたくない」という答が返ってきた。新聞社は社会的な影響力があるので、新聞社と係争になると、折込広告や紙面広告を出稿しづらくなる上に、紙面でバッシングされるリスクがあるからだ。それゆえに抗議しない。
しかし、大半の広告主企業は、この欺瞞的な実態そのものを知らない。そこへつけ込んで、大胆にABC部数を捏造する新聞社もある。そのための変形した手口が、「4・10(よんじゅう)増減」と呼ばれるものである。これは露骨な「折り込め詐欺」にほかならない。
◆◆◆
「4・10増減」は、折込定数の改定月にあたる4月と10月にABC部数を増やす政策である。それにより折込定数をかさ上げし、折込媒体による手数料収入を増やすことを意図している。
折込定数の改定は、年に2回行われ、4月の折込定数は6月から11月の期間で使われ、10月の折込定数は、12月から翌年の5月まで有効になる。それゆえに4月と10月にABC部数を増やせば、年間を通じて折込定数を高く維持することができる。
4月の翌月にあたる5月と、10月の翌月にあたる11月になると、販売店の残紙の負担を減らすために、ABC部数を減部数する。
「4・10増減」は、折込手数料を増やすことが目的であるから、単純に考えると新聞社が販売店のために採用しているような印象があるが、必ずしもそうとは言えない。というのも、折込手数料は残紙によって生じる販売店の損害を相殺するための資金として、最終的には新聞社へ入ることがあるからだ。ただ、一般論からいえば、「4・10増減」によって折込媒体の水増し率が高くなるので、販売店にとってはメリットになる。
「4・10増減」の問題は、千葉県の元販売店主が産経新聞を相手に起こした「押し紙」裁判の中で明らかになった。裁判の中で原告の元店主は、搬入部数を減らすように産経新聞社と交渉した際、「4月と10月は増紙(注:搬入部数を増やすこと)することを交換条件とされた」(訴状)と主張した。実際、「3月・4月・5月」と、「9月・10月・11月」の部数の変化は次のようになっている。4月と10月だけが高く設定される傾向があるのだ。
《2013年》
3月:910部
4月:1026部
5月:910部
9月 :910部
10月:1022部
11月:510部(残紙の整理が行われた)
《2014年》
3月:510部
4月:998部
5月:530部
9月 :600部
10月:600部
11月:600部
《2015年》
3月:600部
4月:972部
5月:600部
9月 :600部
10月:600部
11月:600部
2013年から2015年までの3年間に、年に2回、計6回の折込定数の改定が行われたが、そのうちの4回で、不自然なABC部数の増減が行われているのである。
◆◆◆
なお、「4・10増減」は産経新聞だけが採用している政策ではないようだ。下表は、全国紙における月別のABC部数の変化のうち「4月・5月・6月」と「9月・10月・11月」の部数増減を示したものである。
たとえば2007年の朝日新聞のケースを取り上げてみる。まず、3月から5月の部数変遷を見てみよう。3月のABC部数(全国)は 8,006,111部である。これが4月になると8,089,774部に増える。そして5月になると、再び減って8,012,030に減部数されている。
次に9月から11月を見てみよう。8月のABC部数は7,996,052部である。これが10月になると8,100,664部に増える。そして11月になると、再び8,000,860に減部数されている。
毎日新聞と産経新聞についても、全国規模で「4・10増減」が観察できるが、読売新聞については、その傾向は見られない。
◆◆◆
念のために比較的新しいABC部数でも検証してみる。採用するのは、2015年と2016年である。読者には、本記事上の表を確認してほしい。朝日新聞と読売新聞では、「4・10増減」は観察できないが、毎日新聞は2016年の4月を除いて、「4・10増減」の状態になっている。産経新聞は、常に「4・10増減」の状態だ。
ここ数年については、「4・10増減」の傾向はほんど見られない。ABC部数は右肩下がりになっている。折込媒体の需要が減っているために、水増しした折込手数料で残紙の損害を相殺できなくなり、残紙を排除しなければ新聞販売網が維持できない状況が生まれているからである。

ABC部数は、俗にいう新聞の公称部数のことである。ただ、日本ABC協会は、ABC部数が公称であることを否定している。同協会のウェブサイトは、ABC部数について次のように説明している。
新聞や雑誌の広告料金は、部数によって決まります。ABC協会は、第三者として、部数を監査(公査)し認定しています。この認定された部数がABC部数です。対して、公称部数(自称部数)とは、ABC協会に参加していない発行社が自社発表しているもので、数倍から10倍以上の部数を自称している場合があります。合理的な広告活動を行うため、発行社の自称ではない、第三者が確認した信頼出来るデータであるABC部数をご利用ください。
この引用を読む限り、ABC部数は実配部数を反映している説明している。と、言うのも対比の論法を採用して、「ABC協会に参加していない発行社が自社発表している」部数は、「数倍から10倍以上の部数を自称している」場合があると述べることで、ABC協会に参加している新聞社の部数、すなわちABC部数は実配部数を反映していると仄めかしているからだ。
しかし、実際にはABC部数は残紙を含んでいるわけだから、実配部数を反映していない。しかも、その残紙量は尋常ではない。
ABC協会が定期的に部数の監査(公査)を実施しているにもかかわらず、なぜABC部数が実配部数を反映しないのか、その原因を探ってみよう。
結論を先に言えば、新聞社と販売店が徹底した残紙の隠蔽工作を行っているからにほかならない。しかし、この点に踏み込む前に、ABC協会の運営体制にふれておこう。
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2020年2月時点における日本ABC協会の業種別の役員構成は次のようになっている。
会長:1名
専務理事:1名
新聞発行社:13名
雑誌発行社:3名
専門紙誌発行社:1名
広告主:12名
広告会社:5名
幹事:5名(新聞社1名、雑誌社1名、広告主2名、会計士1名)
役員総数は41名で、そのうち新聞社の所属である役員は14名いる。広告主の役員数、16名には劣るが、ABC協会の中で新聞社は強い影響力を持っていることがうかがわれる。
役員は、基本的に所属企業からの出向という形を取っている。役員を送り込んでいる新聞社と役員名は次の通りである。
広 瀬 兼 三 (北海道新聞社 代表取締役社長)
一 力 雅 彦 (河北新報社 社主・代表取締役社長)
小 林 剛 (朝日新聞社 取締役販売戦略・出版担当)
扇 谷 英 典 (産業経済新聞社 取締役販売担当 東京販売局長)
稲 宮 豊 明 (日本経済新聞社 常務執行役員 販売担当)
寺 島 則 夫 (毎日新聞社 取締役 販売担当)
芝 間 弘 樹 (読売新聞東京本社 専務取締役 販売担当)
小 坂 壮太郎 (信濃毎日新聞社 代表取締役社長)
大 石 剛 (静岡新聞社 代表取締役社長)
島 直 之 (中日新聞社 常務取締役 販売担当)
山 内 康 敬 (京都新聞社 代表取締役社長・主筆)
岡 畠 鉄 也 (中国新聞社 代表取締役社長)
柴 田 建 哉 (西日本新聞社 代表取締役社長)
各社とも新聞社経営のトップをABC 協会へ送り込んでいる。それだけABC協会を重要なビジネスパートナーとして位置づけているのである。
なお、新聞の残紙問題を指摘すると、「雑誌も実配部数を反映していないのではないか」と新聞関係者が反発することがあるが、新聞部数と雑誌部数では、基本的に性質が異なる。
確かに、雑誌部数も水増しされているという話はよく聞く。しかし、たとえそれが事実であっても、両者の間には決定的な違いがある。それは新聞社が残紙からも卸代金を徴収しているのに対して、雑誌社は「残誌」の卸代金を徴収していない点である。新聞の場合は、残紙を介して資金が動いているのである。しかも、その額は尋常ではない。
◆◆◆
ABC公査は抜き打ちで行われると言われているが、厳密に言えばこれは正しくない。ABC協会は、公査対象の販売店名を決めたあと、それを販売店が属する新聞社へ通知する。それが慣例になっている。
ABC協会から通知を受けた新聞社は、公査対象に指定された販売店に公査の日時を通知する。それを受けて販売店は、残紙を実配部数として「事務処理」するための改ざん作業を行う。ABC協会に所属している新聞社のすべてが、この「事務処理」をやっているとは限らないが、わたしが取材した限りでは、半ば一般化しているのが実情だ。
「事務処理」の中身は、読者名簿の改ざんやニセの領収書の発行などである。しかも、それは昨今に始まったことではなく昔から行われていた。合理化された部分は、昔は手作業だったのに対して、現在はパソコンを使って迅速に実施することである。
まず、昔の「事務処理」方法を紹介しよう。1990年代、パソコンがまだ十分に普及していない時代の手口である。大阪府の元店主(故人)が生前に語った証言である。
「残紙を実配部数に見せるために、ニセの読者名簿を作成していました。新聞社がABC公査の対象になったことを知らせてくると、近隣の販売店の支援も受けて、総手でニセの読者名簿と、それに整合したニセの順路帳(注:新聞の配達順路を示した地図)を作っていました」
残紙には読者がいないわけだから、それを実配部数として処理するためには、まず読者名簿に架空の名前を加える必要がある。その作業を迅速に、あまり頭を使わず機械的に進めるために、複数の著名人の名前と姓をいくつも組み合わせて、名簿上の偽名読者にしていたという。
たとえば「加山雄三」と「島倉千代子」を組み合わせて、「加山千代子」とか、「島倉雄三」としたり、「佐藤栄作」と「吉田茂」を組み合わせて、「佐藤茂」とか、「吉田栄作」にしたり、ブラックユーモアを呈するような作業を強いられたのだという。
ニセの読者名簿に整合した領収書も準備する。さらに順路帳も作成する。実配部数として処理する残紙の「読者」の自宅位置を順路帳に適当に書き込むのだ。デタラメの情報だが、ABC協会の職員が自分の足で順路帳を実地検証することはまずないという。
その結果、ニセの読者名簿とニセの順路帳に齟齬はないと認定してくれるのである。当然、ABC部数と実配部数に乖離が生じる。
現在では、こうした改ざん処理のうち、読者名簿と領収書は販売店のコンピューターなどの機器類を使って簡単にできるようになっている。手作業は過去の時代になった。販売店は、新聞社からABC公査の連絡を受けると、数日のうちにこれらの作業を完了するのである。
次にABC部数と実配部数の整合を取るために行われている現在の改ざんの手口を紹介しよう。どのように不正な「事務処理」が行われているのだろうか。話を聞くために、元販売店主を訪ねた。
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兵庫県西宮市は、春と夏に高校野球の全国大会が開催される阪神甲子園球場の地元である。大阪市の中心部から電車で20分。人口49万人の中核都市だ。
ニセの読者名簿やニセの領収書などの改ざん方法を暴露したのは、この町で毎日新聞の鳴尾販売所など2店を経営していた板見英樹さんある。板見さんは、現役販売店主だった2016年9月、改ざん作業を担当していた「実行者」から、その手口を聞き出し録音した。
販売店主であれば、噂として一応は聞いたことがある方法だったが、悪質な行為なので、その手口を録音することで不正の裏付けを取ったのである。
改ざん作業の実行者は、新聞販売店が使っているコンピュータや折込広告の自動折込機などの納品とメンテナンスを業務としている会社の社員である。
既に述べたように日本ABC協会は、公査を行う販売店と日程が決まると、それを新聞社へ連絡する。それを受けて新聞社は、公査の実施を販売店へ通知する。昔はこの時点で店主は人力で読者名簿などの改ざんを行う態勢を整えていたが、現在は、メンテナンス会社の社員が、新聞販売店からの依頼を受けて、コンピューター上で改ざん作業を実施する。
改ざん方法は単純だった。まず、読者名簿についていえば、販売店が保存している「過去の新聞購読者データ」を実際の読者名簿に流し込み、新しくニセの読者名簿を作成するのだ。そしてそれを基にして、自動で領収書を発行する。その領収書のバーコードを読み込むと、入金一覧表なども自動的に作成・更新され、複数の書類の整合性が取れる仕組みになっているのだ。
日本ABC協会の職員が公査するのは、この方法で改ざんされた書類である。その結果、ABC部数に残紙部数が含まれる現象が起きているのだ。
◆◆◆
板見さんが、改ざんの手口を内部告発しようとした発端は、メンテナンス会社の社員が板見さんが経営する販売店を訪れたことだった。この社員は板見さんに、領収書を高速で自動裁断(切り取り線を入れること)できる機械(「卓上シートバースターV-417」)を貸してほしい、と言うのだった。
新聞の扱い部数が500部にも満たない小さな販売店は、こうした高価な機械を備えていないが、板見さんの店は扱い部数が多いこともあって、同機を備えていた。板見さんが言う。
「なんでわざわざ借りにきたのかと思って、問うてみますと、神戸市の新聞販売店にABC公査が入る予定があり、それに先だって、メンテナンス会社がデータを改ざんすることが分かったのです。大量のニセ領収書を作って、それを裁断するために、高速の裁断機が必要だったわけです」
ABC公査が入る予定になっていたのは、板見さんが新聞販売の仕事を始めたころに勤務していた神戸市内の新聞販売店だった。そんなこともあって、板見さんは要請に応じた。社員は、車に機械を積み込み、板見さんの店舗を後にした。裁断機を書類改ざんの舞台となる神戸市内の販売店へ運んだのである。
板見さんは、裁断機を貸した販売店にABC公査が入った日の夕方、実際に改ざん作業をした技師Sを自店に呼びつけた。メンテナンス会社としても、板見さんから裁断機を借りた手前もあり、また板見さんの販売店が自社の取引先だった手前、要請に応じざるを得なかったのだろう。
板見さんが、社員Sを呼びつけた口実は次のようなものだった。自店には残紙が多量にある。その自店にABC公査が入ることもありうるので、予備知識として、改ざんの手口を教えてほしいというものだった。
それに応えてメンテナンス会社の技師は、改ざんの手口の全容を語ったのである。この録音記録を仮に「坂田テープ」と命名しておこう。
改ざん方法について板見さんが、次のように問うた。
板見:あれは数字をやるわけ、あれはどうやるんですか?
技師S:過去読を起こす。
「過去読」とは、かつて毎日新聞を購読していた読者を意味する。これに対していま現在の読者は、「現読」という。従って、「過去読を起こす」とは、過去に毎日新聞を購読していた読者を、いま現在の購読者として改ざんするという意味である。新聞販売店のコンピュータ上には、発証台帳(一種の購読者一覧)があり、そこには「現読」はいうまでもなく、過去の読者の名前や住所などが保存されている。それをボタンひとつで、現在の読者に変更することが出来る。
板見:過去読は赤色で表示されます。死亡した人や転居した人は、抹消しますが、それ以外は、セールスの対象になるので保存します。今、他紙を取っていても、再勧誘の対象になるから保存しておくのです。
繰り返しになるが、改ざんの第一段階として、「過去読」を「現読」に変更する。この点について板見さんは、次のように技師Sに再確認している。
板見:まあいえば、現在(新聞が)入っていないお客さんでも、入っているようにして、それでデータを全部作ってしまう?
技師S:うん
(改ざんの手口、全録音)
改ざんの第2段階は、改ざんした読者名簿に基づいた領収書の発行である。
板見:一回証券も全部発証してしまう?
証券を発証するとは、領収書をプリントアウトするという意味である。このプロセスについて板見さんは念を押したのである。これに対して技師Sは「します」と答えた。
ちなみにプリントアウトするニセ領収書の対象月数については、板見さんが質問する前に、技師Sがみずから説明している。
技師S:お店によってちがうんですけど、まあ3カ月ぐらいを。
板見:ほーおー。
板見さんの驚きの声が録音されている。あまりにも露骨な不正行為に面食らっているようだ。
◆◆◆
さらに坂田テープは、驚くべき事実に言及する。このメンテナンス会社が改ざん作業をしているのは、毎日新聞の販売店だけではなく、朝日新聞、神戸新聞、産経新聞の販売店でもやっているというのだ。次の会話である。
技師S:9月の1週に朝日さん、2週に神戸さん、3週に毎日さん、4週に産経さん、そんなふうに割り当てて。読売さんは抜けていますが、そういうかたちで、2年に1回、9月前後にやっています。
次に板見さんの妻が、販売店にABC公査が入ることが分かった場合、販売店の店主がメンテナンス会社に対して読者数の改ざん作業を依頼するのかどうかについて、次のように質問した。
板見さんの妻:もしそうなったら、わたしらがSさんを呼ぶん?
技師S:基本的には。
さらに技師Sは、新聞社がメンテナンス会社に改ざん作業を依頼することは都合が悪いので、販売店がメンテナンス会社にそれを依頼するのだとも述べた。しかし、改ざん作業を引き受けることは、メンテナンス会社にとっても企業コンプライアンスにかかわる。ある意味で迷惑なことなのだ。
そこで改ざん作業の当日は、メンテナンス会社の社員が有給を取って販売店に赴き、個人的に改ざん作業をするのだという。技師Sの説明に板見さんは驚きを隠さない。
板見:ほーおー。
ここで板見さんの奥さんが、改ざん作業当日の社員の勤務形態につい次のように再確認した。
板見さんの妻:出勤していないということにして?
技師S:そのへんちょっとやえこしい・・
板見さんの妻:ああそうなんですか。
全作業が終わると、作業開始前にあらかじめ保存していたバックアップデータを再入力してコンピューターを元の状態に戻す。
念のために技師Sが所属するメンテナンス会社と毎日新聞社に問い合わせてみた。メンテナンス会社は、事実関係を認めたうえで、「今後、こういうことがあったらやらない」と答えた。一方、毎日新聞(大阪本社)からは、次のような回答があった。
2018年11月14日付の「質問状」を拝受致しました。
貴殿がご質問にあたり前提とされている「録音」がそもそも如何なるものか知り得る立場になく、また貴殿のご判断を前提に「疑惑」があるとされ、ご質問をいただきましても、お答え致しかねるところです。
上記、取り急ぎ、ご回答申し上げます。
また、坂田テープの中で、メンテナンス会社が改ざん作業を請け負ったしている新聞社として名前があがった朝日新聞、神戸新聞、産経新聞の社名は、それぞれ次のようにメントした。
神戸新聞:(口頭で回答しないとのコメントがあった。)
朝日新聞:具体的な指摘でなく、根拠も不明なご質問には、お答えしかねます。
産経新聞:取引先販売店の業務に関する事案であり、コメントする立場にありません。
坂田テープは、日本の新聞業界の恐るべき堕落を物がたっているが、新聞社にそれを自己検証しようという姿勢はまったくない。
「坂田テープ」が物語る書類の改ざんが行われていることを日本ABC協会が把握しているかどうかは不明だ。しかし、少なくとも改ざんが行われていることは、新聞業界の内部では暗黙の事実になってきたわけだから、その手口が具体的に浮かび上がったいま、調査する必要があるのではないか。公査方法の見直しが必要だろう。
もちろん全新聞社が残紙の存在を把握したうえで、板見さんが内部告発した方法でABC公査に対応しているとは限らない。たとえば熊本日日新聞などは、自由増減の制度を導入していることで知られている。
自由増減というのは、新聞社が販売店に対して搬入部数を指示するのではなく、新聞販売店の側が新聞の注文部数を決める制度のことである。
このような方法では、「押し紙」は存在しないので、新聞社はあえてABC公査の対策を取る必要はない。ABC公査でABC部数と実配部数が著しく乖離していた場合は、残紙は「積み紙」ということになり、販売店が何らかの責任を負うことになる。
が、このような健全な体制を敷いている新聞社は、わたしのこれまでの取材経験からするとむしろ少数派である。

NIE(Newspaper in Education)をご存じだろうか。これは簡単に言えば、教育活動の中で新聞を教材として使う運動である。日本新聞協会が中心になって実施しているプログラムである。同協会のウェブサイトは、NIEを次のように説明している。若干長いが全文を引用してみよう。
NIE(Newspaper in Education=「エヌ・アイ・イー」と読みます)は、学校などで新聞を教材として活用することです。1930年代にアメリカで始まり、日本では85年、静岡で開かれた新聞大会で提唱されました。その後、教育界と新聞界が協力し、社会性豊かな青少年の育成や活字文化と民主主義社会の発展などを目的に掲げて、全国で展開しています。
日本新聞協会は96年にNIE基金を発足させるとともに、NIE事業を「新聞提供事業」と「研究・PR事業」に分け積極的に推進し始めました。そして、NIE事業は、新聞協会から98年3月2日新たに設立された日本新聞教育文化財団(新聞財団)へと引き継がれました。
学校に新聞を提供する活動は、89年9月パイロット計画として東京都内の小学校1校、中学校2校でスタートし、96年に「NIE実践校」制度となった翌97年には、47都道府県全ての地域での実践が実現しました。当初、学校総数の1%である400校を目標としていましたが、2004年にこれを達成。その後は500校を目標に掲げ07年に達成しました。09年4月から「NIE実践指定校」制度として活動を進めています。
また、全国47都道府県に教育界、新聞界の代表で構成されるNIE推進協議会が設立され、地域のNIE活動の核となっています。
新聞財団は11年3月に新聞協会と合併し、NIE事業は新聞協会で引き継ぐこととなりました。
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昨日、テレビ朝日の番組で、ある識者が子供向けのメッセージを送っていた。新型コロナの影響で、外出自粛が続いているが、こんな時にこそ視点を変えて、新聞を熟読したり、テレビのニュースを見るべきだという趣旨のメッセージだった。
ツイッターで、この発言を紹介したところ、興味深いコメントがツィートされた。
私は3人の我が子には大してしつけらしいことはしなかったが、「TVと新聞のニュースだけは読むな」とだけは伝えている。報道の全てが洗脳ではないが、やはり日本の報道を信頼するということだけはさせたくなかった。洗脳されるくらいなら無知なほうがまだマシだ。
わたしも、新聞・テレビには否定的な考えだ。もっともメディアを取材対象にしている関係上、テレビや新聞をモニタリングしているが、番組そのものを楽しむことはあまりない。特にやたらと増えている学校の教室に似たてた教養番組には辟易している。新聞人やテレビ人が学校を信仰している裏返しである。ジャーナリストと社会科教員の区別があいまいになっている。
◆◆
新聞・テレビが教育に逆効果である理由は複数ある。特に注意喚起を要するのは次の2点である。
まず、メディアが報じていることが、社会の全体像ではないということである。メディアがクローズアップしているニュースが形成する印象が、客観的な状況を反映しているとは限らないということだ。むしろ恣意的に操作されている部分の方が多い。特に印象に訴える映像はくせ者だ。どうにでも加工できるからだ。
たとえば新型コロナの終息を願って、祈祷したというニュースを掲載した新聞社があるが、このようなニュースに接していると、苦難と直面したときは、祈祷すればいいという意識が形成させる。無意識のうちに洗脳されてしまう。
ボランティアの美談に接していると、人権や生活権を守るのは、政府の役割ではなく、ボランティアの役割だと勘違いしてしまう。それは小さな政府を目指す政府と財界にとっては、好都合な意識の形成なのだ。
ボランティアそのものが悪いわけではないが、報道の仕方によっては、洗脳の道具にもなる。
テレビでホリエモンに接していると、新自由主義の世の中では、誰でもホリエモンのようになれると勘違いする。ホリエモン本人に責任はないが、実態は勤労者の4割が非正規である事実がかすんでしまうのだ。
新聞・テレビが洗脳の道具になっている。
◆◆◆
新聞記事には、日本語という観点からも問題がある。記事というものは、わたしが書く駄文も含めて、骨格がほぼ慣用句で成り立っている。また、型が決まっている。しかも、その慣用句の質が悪い。たとえば、「汗ばむ陽気」とか、「激を飛ばした」とか、「・・・と推測される」など。子供のうちから新聞の慣用句を頭の中に叩き込まれると、言葉による思考の幅が狭くなる。
たとえばむし暑さを表現する際に、「汗ばむ陽気」で片付けてしまう癖が定着しかねない。むし暑さを自分で感じ取ったり、外観を観察することで、最も適切な言葉に置き換える。それにより知力は発達するのだが、新聞の慣用句はそのようなプロセスを妨害してしまう。
子供に新聞を読ませるのは、子供に絵画の模写をさせるのと同じ弊害がある。模写をすると絵は上手くなるが、既存の概念が叩き込まれてしまい、却って弊害が大きい。
子供にバーベルを使ったウェートトレーニングを強いる過ちとも共通している。これをやると背が伸びなくなる。
豊かな日本語を身に着けるためには、新聞記事よりも、定評の定まった小説やノンフィクションを読む方が効果がある。幸田文氏が幼児のころから、父の幸田露伴に漢文を素読させられた話は有名だが、新聞を素読させられたという話は聞いたことがない。幸田文氏に限らず、そんな人はだれもいないはずだ。
こんなことは半ば常識なのだが、多く人が、「新聞を読め!」「新聞を読め!」と繰り返している。

数日前、米西海岸のビーチーの閉鎖が解除されたニュースをテレビ朝日が流していた。画面に映し出された白っぽいビーチーに見覚えがあった。そのうち「ラグナビーチ」と表示された。ロサンゼルスから車で1時間、アナハイムから20分の位置にある米国西海岸の有名なリゾート地である。
実は、このラグナビーチはわたしにとって忘れられない事件の場所だ。30代になったころ、このビーチにあるInn At Laguna Beachというリゾートホテルで駐在員をしていたことがある。駐在員といっても、ホテルを管理している管理会社を監督するだけで、ほとんど仕事はない。ホテルの1室に住んで、1日の大半をぶらぶら過ごしていた。夕方になると車でアナハイムあたりまでドライブして、食事するのが日課だった。
そのうちに、現地の日系企業のあいだで奇妙な噂が流れはじめた。Inn At Laguna Beach(写真)は、わたしが勤務していたサンウエイという不動産会社が買収したものなのだが、その買収に疑惑があるという噂だった。【続きはウェブマガジン】

かねてから指摘されてきた新聞社の問題のひとつに、経済的な利害関係を通じた特定政党との結びつきがある。2019年に公開された2018年度の政治資金収支報告書によると、数多くの新聞社やその系列の印刷会社が公明党の機関紙『公明新聞』の印刷を請け負っていることが判明した。
政治資金収支報告書の社名がある新聞社は次の通りである。(新聞社名で表示)
奄美新聞、岩手日日新聞、高知新聞、神戸新聞、山陰中央新報、四国新聞、静岡新聞、市民タイム、北國新聞、中国新聞、北海道新聞、長崎新聞、新潟日報、福島民報、毎日新聞、南日本新聞、中日新聞、読売新聞、愛媛新聞、秋田魁新報、
2020年05月05日 (火曜日)

新聞折り込みのかたちで配布されている東京都豊島区の広報紙『広報としま』が、43%も水増しされていた問題を調査するために、新たに4件の情報公開請求を行い受理された。4件の請求項目は次の通りである。
1、『広報としま』の新聞販売店向け部数を示す資料。対象は、2011年度から2018年度。及び2020年度。
2、『広報としま』の印刷会社を示す資料。対象は。2011年度から2020年度。
3、『広報としま』の新聞折り込み業務に関する新聞販売同業組合との契約書。対象は2011年から2020年の業務をカバーするもの。
4、『広報としま』の個人宅宛て郵送分の部数を示す資料。対象は、2011年度から2020年度。 ■出典
これらの請求対象からも分かるように、わたしは広報紙の水増し請求問題の調査対象を2011年から2020年までの10年間に設定した。2019年、6月の時点における水増し率が43%だったので、他の年度についても、高くなっている可能性がある。
【情報提供窓口】
折込広告や広報紙の水増しに関するデータ・写真・動画の提供は次のメールまで。地域は問わない。
xxmwg240@ybb.ne.jp

