2015年09月04日 (金曜日)

【サマリー】野党再編の仕掛け人が、小沢一郎氏から橋下徹氏に交代しようとしている。これまで野党再編の場に常に登場してきたのが小沢氏である。小沢氏は自民党政治に不満を持つ人々の受け皿になりながら、政策の中身は自民党と基本的に変わらない構造改革=新自由主義の路線を支持してきた人物である。

  安倍政権が危機に立たされるなか、同じような役割を担って登場してきたのが橋下徹氏である。しかし、橋下新党は、自民党に不満を持つ有権者の受け皿となっても、中身は基本的に同じだ。結局、自民党延命装置として機能する可能性が高い。

メディアで伝えられているように維新の党が分裂する公算が強くなった。同党から離れた橋下徹・大阪市長と松井一郎・大阪府知事が中心になって年内に新党を立ち上げる見込みだ。

橋下氏がこの時期に「再編」に打ってでたのは、単に現在の政情に反応したというだけではなくて、新党結成が来年にずれ込むと、政党助成金の取り分がなくなる事情があるからだと思われる。政党助成金は12月末日の時点における議員数に応じて、次年度に交付される。秋口から冬にかけて、毎年、政界再編の現象がみられるゆえんにほかならない。

さて、政界再編というキーワードで連想するのは、小沢一郎氏である。小沢氏はもともとは自民党に所属していたが、1993年に構造改革=新自由主義を叫んで、果敢に自民党を飛び出し政界再編に着手した。

小沢氏は新進党を皮切りとして、なんらかの形で常に野党再編に加わり、民主党政権の時代には、総理に就任する手前まで階段を上り詰めた。93年ごろに小沢氏が目指していた日本の未来像は、たとえばみずからの著書『日本改造計画』(講談社)の冒頭で語られている「自己責任論」などに見ることができる。

皮肉なことに小沢氏が提唱した構造改革=新自由主義は、小泉政権の手で急進的に実行された。が、小泉政治がもたらした非正規社員の増加や医療・福祉の切り捨て、それに貧困層の急増は、国民の自民党離れを引き起こして、民主党・鳩山政権を誕生させる。

鳩山首相は、自民党政治で生じた社会的不公平を是正したり、軍事大国化に歯止めをかけようと試みたが、思想的なひ弱さが原因したのか、米国の圧力に屈した。改革はできなかった。

後継者の菅首相は再び構造改革=新自由主義へ軌道を修正し、野田首相を経て、自民党・安倍首相にバトンを返した。

こんなふうに1993年からの日本の政治的軌跡を検証してみると、ひとつのあるパターンが定着していることに気づく。それはこうである。

①自民党政治に対する国民の不満が高まる。

②政界、あるいは政党の再編を目指す人物がしゃしゃり出てきて、自民党のニセの「対抗勢力」を結集する。この対抗勢力は、さすがに看板には「自民党」とは明記していないが、基本的な路線は、自民党そのもの、構造改革=新自由主義の推進派路線である。

③しかし、メディアが両者を対抗勢力として描き出すために、自民党政治に不満がある有権者の大半が、「対抗勢力」に投票する。が、もともと政策に大きな違いがなく、自民党政治の不満の受け皿の役割を果たしているわけだから、政治が変わるはずがない。変わらないのが当たり前だ。そこで再び、「やはり自民党の方がまし」ということになり、自民党政治が復活する。

日本はこのようなパターンを繰り返してきた。

◇再び政界再編の茶番劇が

そしていまかつての小沢氏の「役割」を代行する人物が現れた。橋下徹その人である。橋下氏は大阪市政の実態を見る限り、生粋の新自由主義者である。「小さな政府」の提唱者である。自民党よりも右寄りで、安倍内閣との連携が噂されるゆえんにほかならない。

橋下氏が担っている役割は、かつて小沢一郎氏が担っていた役割にほかならない。「仕掛け人」の世代交代が実現することになる。

ちなみに、現在、維新の党と民主党の連携もメディアの話題になっているが、すでに述べたように、維新の党はいうまでもなく、民主党も構造改革=新自由主義の推進政党である。つまり安倍政権が崩壊し、彼らが政権を取っても、政治はほとんど変わらない。

野党が政界の再編を行うのであれば、これまで政界再編において排除してきた共産党と社民党を再編の中心軸にしなければ、本当の対立構造にはならない。こんな単純なことをメディアが報じないために、日本は没落の一途をたどっている。

2015年09月03日 (木曜日)

「自分史の書き方と添削」は、書き方の技術を理解して、実際に作品を執筆し、それを担当のライターが添削・リライトして単行本を完成させるプログラムです。

このプログラムの大きな特徴は、実際に作品を制作しながら、自分史をはじめ広義の記録文学の書き方を学べることです。世の中には身のまわりの出来事から歴史的な事件まで、記録することで闇に光をあて、記憶に残さなければならないことが溢れています。その作業に挑戦することは、意義深い試みといえるでしょう。

■4つの留意点

自分史を書くためには、次の4点に留意する必要があります。

①合理的で無駄のない年表の作成
②正しい取材
③テーマの選択
④構成の選択

自分史執筆の前段として、年表づくりは欠かせませんが、いくら詳細な年表を作成しても、それがそのまま自分史の態をなすわけではありません。自分史はテーマに沿って、詳しく書き込む部分と省略する部分、あるいは筆を抑制して簡潔に語る部分を書き分ける必要があります。

情報を詰め込みすぎると、焦点が定まらず、全体として何がいいたいのか輪郭がぼやけます。省略も大切な要素なのです。プロとアマの違いは、このあたりに集約されていると言っても過言ではありません。

当然、そのための技術とコツを掴むことが、質の高い単行本を書きあげる条件になります。本プログラムでは、実際に作品を制作しながら、その方法を習得していただきます。

■プログラムの進行
 原則として月に1度の割合で、担当者が2時間程度の個別アドバイスを行います。それと平行して担当者が、Eメールで原稿(ワード)ファイルを受け取り、添削・リライトを行い返信します。このプロセスを繰り返して1章ずつ作品を仕上げていきます。

■受講料
 受講料は月額1万円です。終了までの期間は設けていませんが、1年ぐらいを想定することをお勧めします。たとえば1年で200枚(原稿用紙換算)の原稿を仕上げた場合、受講料の目安は12万円です。

 かりに原稿用紙200枚からなる単行本をライターに代筆してもらった場合、少なくとも60万円程度の原稿料がかかります。また、リライトの場合は、30万円程度の料金になります。こうした事情を考慮すると、本プログラムは極めて安価でメリットが大きいといえます。

■講師
講師は原則として主宰者の黒薮が担当しますが、別のライターが担当することもあります。ただし、講師は単行本執筆の実績がある人に限定しています。

■主宰者の経歴
黒薮哲哉
1959年兵庫県生まれ。ジャーナリスト、フリーランス・ライター。MEDIA KOKUSYOの主宰者。

 1993年、「海外進出」で第7回ノンフィクション朝日ジャーナル大賞・「旅・異文化テーマ賞」を受賞。1997年、「ある新聞奨学生の死」で第3回週刊金曜日ルポ大賞「報告文学賞」を受賞 。『新聞ジャーナリズムの正義を問う』(リム出版新社)で、JLNAブロンズ賞受賞。取材分野は、メディア、電磁波公害、ラテンアメリカの社会変革、教育問題など。代筆した単行本は、約70冊。

《著書》
1977年 『ぼくは負けない』(民衆社)
1982年 『はばたけ青春』(民衆社)
1995年 『バイクに乗ったコロンブス』(現代企画室)
1997年 『新聞ジャーナリズムの正義を問う』(リム出版新社)
1998年 『経営の暴走』(リム出版新社)
2003年 『新聞社の欺瞞商法」(リム出版新社)
2006年 『新聞があぶない』(花伝社)
2007年 『崩壊する新聞』(花伝社)
2009年 『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)
2010年 『あぶない!あなたのそばの携帯基地局』(花伝社)
2012年 『新聞の危機と偽装部数』(花伝社)
2014年 『ルポ 電磁波に苦しむ人々』(花伝社)

※共著は多数。

■連絡先

電話:048-464-1413
Eメール:xxmwg240@ybb.ne.jp

お気軽にご連絡ください。

■代筆とリライト

代筆とリライトについては、次のサイトを参考にしてください。

http://www.kokusyo.jp/edit/

 

■完成原稿の出版 

完成した原稿を書籍か冊子にする場合は、編集プロダクションをご紹介します。極めて社会性の高い作品については、企画出版の相談にものります。

 

 

2015年09月03日 (木曜日)

【サマリー】安保関連法と特定秘密保護法は、相乗効果によりとんでもない事態を招きかねない。たとえば自衛隊から戦死者が出た場合、戦死者に関する情報を特定秘密に指定してしまえば、だれがどのような状況で戦死したのか、誰も知ることができない。核兵器を運搬しても、それに関する作業を特定秘密に指定しておけば、「支援物資を運んだ」で通用してしまう。

  特定秘密保護法は広義の安保関連法である。特定秘密保護法を廃止に追い込めば、ジャーナリズム活動により戦争の実態を伝え、安保関連法も廃止に追い込むことができるが、同法への関心は薄れはじめているようだ。

 今、日本では安保関連法の「複合汚染」が始まろうとしている。

複合汚染という現象がある。これは公害に即していえば、単一の因子では、さして深刻な人体影響を及ぼさないが、複数の要因が重なると相乗効果によって重大な人体影響を出現させるメカニズムを意味する。

たとえば子宮けい癌の原因はヒト・パピロマ・ウィルスによる感染であるが、それだけでは癌を発症するリスクは高くならないが、これに環境因子が加わったときに、発症率が高くなる現象は、よく知られている複合汚染の具体例である。

8月30日に東京・永田町の国会議事堂周辺を12万の人々が取り囲んだ事実に象徴されるように、今、日本では安保関連法案の危険性を感じている人々が増え続けている。ところがこうした世論の動きとは裏腹に、2014年の12月から施行された特定秘密保護法の危険性については、むしろ認識が薄れ始めているようだ。この法律についても、かつては疑問を呈する声が広がり、法案が成立した夜には、人波とプラカードが国会を取り囲んでいたのだが。

特定秘密保護法と安保関連法は、個々部別のものなのだろうか。意外に認識されていないようだが、特定秘密保護法も広義の安保関連法のひとつである。しかも、両者を同時に運用することによって、ドラスチックな「複合汚染」を生むことになる。

たとえば、自衛隊の派兵先を特定秘密に指定すれば、日本軍が地球上のどの地域で銃撃を繰り返しているのかというような情報は、海外のメディアにアクセスできる者をのぞいて知ることができない。核兵器を自衛隊が運搬しても、この「作戦」を特定秘密に指定しておけば、誰が、誰に、何の目的で、何を運搬したのか、だれも知ることができない。

核兵器ではなく、たとえば救援物資を運搬していることにしておけば、それで通用するのだ。

海外の戦地で自衛隊員が銃弾に倒れても、戦死者に関する情報を特定秘密に指定しておけば、戦争被害の実態はベールに包まれたままになる。

かりに特定秘密保護法がなければ、ジャーナリズムの力で戦争の事実を伝えることで、世論を喚起し、戦争を中止へ追い込むことができるかも知れないが、この法律によりジャーナリズム活動そのものが著しい制限を受けるわけだから、大半の国民は、海外で自衛隊が何をしているのかすら知ることができなくなる。

◇自衛隊から死者が出ても秘密に

もともと特定秘密保護法は、武力行使を前提とした日米共同作戦を遂行する上で、両軍の軍事秘密を守るための法的根拠を担保するために、米国側から発案された法律である。しかし、その適用範囲が日米の軍事秘密の枠を超え、恐らくは原発をはじめ、ほとんどあらゆる分野にまで及んでしまったというのが実情だ。

が、この法律の元来の運用目的は、戦争に関する情報を隠蔽することにある。と、すれば特定秘密保護法も安保関連法のひとつとして位置づけるべきではないだろうか。両者を切り離して報じるのは誤っている。

安保関連法案は、残念ながら成立する勢いだが、まず特定秘密保護法を廃止に追い込んで、ジャーナリズムを正常に機能させることが、海外派兵を止めるための重要な作業ではないだろうか。

海外へ進出した多国籍企業を「政変」や「革命」から守るために、自衛隊員が血を流すのは道理がない。他国民の民族自決権を踏みにじること自体が蛮行にほかならない。

2015年09月02日 (水曜日)

【サマリー】30日の安保関連法案に反対する東京集会の場に、右翼の街宣車が「出征兵士を送る歌」を流しながらやってきた。しかし、法案が成立した後に本当に、徴兵制が敷かれるのだろうか。答えは、NOである。

想定されているのは、米軍と同様に世界の紛争地帯へピンポイントで兵力を投入する体制である。投入される兵士は、ジャーナリスト寺澤有氏の取材で判明した「隊員家族連絡カード」などを参照に選任される可能性が高い。

実際に想定されいる海外派兵のスタイルとは何か?右翼が考えている旧日本軍のスタイルとは何が異なるのか?海外派兵の実態を客観視する。

30日の安保関連法案に反対する東京集会の場に、右翼の街宣車が軍歌を流しながらやってきた。流していた軍歌を、帰宅後に調べてみると、当時の陸軍省が選定した「出征兵士を送る歌」(冒頭のYoutube)だった。

軍歌を流しながら大通りを走る街宣車は、場違いな印象をかもしだしたが、逆説的に考えてみれば、これは安保関連法案に反対する世論にずいぶん貢献したことになる。と、いうのも安保関連法案が成立すれば、集会参加者の目の前で展開しているのと同じ光景がさらに規模を拡大して展開されることを印象づけたからだ。

ただ、安保関連法案が成立すれば、本当に「出征兵士を送る歌」に象徴されるような光景が、東京の銀座で、あるいは新宿の都庁前あたりで展開されるのだろうか。答えは、NOである。右翼の人達が考えているようなことにはならない。

安倍首相や右翼が理想として描いている日本の未来像に旧日本軍の像が重なっているとしても、日本の政治を舞台裏から牛耳っているのは彼らではないからだ。舞台裏にいるのは経済界の面々の米国政府の面々にほかならない。両者の想定には多少のギャップがある。

こんなことを書くと、「お前は安保関連法案に賛成しているのか?」と言われそうだが、政治の構図はやはり客観的に見なければならない。

安保関連法案の発端になっているのは、復古的な右翼思想ではなく、第1次安部内閣の時代にリチャード・アーミテージとジョセフ・ナイが作成した『日米同盟』と題するレポート「2007年度版」である。この中で両氏は、次の事柄を提唱している。

◇5つの提唱事項

1.日本は、もっとも効果的な意思決定を可能にするように、国家安全保障の制度と官僚機構をひきつづき強化すべきである。現代の挑戦が日本に求めているのは、外交・安全保障政策を、とりわけ危機の時期にあたって、国内調整と機密情報・情報の安全性を維持しながら、迅速、機敏かつ柔軟に運営する能力を持つことである。

2.憲法について現在日本でおこなわれている議論は、地域および地球規模の安全保障問題への日本の関心の増大を反映するものであり、心強い動きである。この議論は、われわれの統合された能力を制限する、同盟協力にたいする現存の制約を認識している。この議論の結果が純粋に日本国民によって解決されるべき問題であることを、われわれは2000年当時と同様に認識しているが、米国は、われわれの共有する安全保障利益が影響を受けるかもしれない分野でより大きな自由をもった同盟パートナーを歓迎するだろう。

3.一定の条件下で日本軍の海外配備の道を開く法律(それぞれの場合に特別措置法が必要とされる現行制度とは反対に)について現在進められている討論も、励まされる動きである。米国は、情勢がそれを必要とする場合に、短い予告期間で部隊を配備できる、より大きな柔軟性をもった安全保障パートナーの存在を願っている。

4.CIAが公表した数字によると、日本は、国防支出総額で世界の上位5位にランクされているが、国防予算の対GDP比では世界134位である。われわれは、日本の国防支出の正しい額について特定の見解を持っていないが、日本の防衛省と自衛隊が現代化と改革を追求するにあたって十分な資源を与えられることがきわめて重要だと考えている。日本の財政状況を考えれば資源が限られているのは確かだが、日本の増大しつつある地域的・地球的な責任は、新しい能力およびそれに与えられるべき支援を必要としている。

5.自ら課した制約をめぐる日本での議論は、国連安保理常任理事国入りへの日本の願望と表裏一体である。常任理事国となれば、日本は、時には武力行使を含む決定を他国に順守させる責任を持った意思決定機関に加わることになる。ありうる対応のすべての分野に貢献することなく意思決定に参加するというその不平等性は、日本が常任理事国となろうとする際に対処すべき問題である。米国は、ひきつづき積極的にこの目標を支援すべきである。

■出典:特定秘密保護法、2007年の第1次安倍内閣の時代、すでにアーミテージ文書で米側が秘密保護の強化を提言

◇隊員家族連絡カードの存在

米軍の方針は、旧日本軍とは根本的に異なっている。みずからの権益が侵されるリスクがある地域に、ピンポイントで軍隊を投入して、「政変」を鎮圧して、傀儡(かいらい)政権をつくった後に引き上げる戦略が主流を占める。

この場合、1980年代の中米紛争に見られたように、直接介入を避けて、現地の軍事組織(傭兵を含む)を指揮する軍幹部だけを派遣することもある。

歴史的にみても前世紀の戦争にみられたように、侵略から占領、植民地支配というプロセスは取らない。取りたくても取れない。それだけ世論が強くなっているからだ。歴史が前へ進んでいるからだ。

日本政府が構築しようとしているのは、米国と協同作戦を展開できる体制である。念頭にあるのは、米軍に同化した軍の構築である。とのために特定秘密保護法もつくったのである。

しかし、徴兵制はまったく想定していない。国民の反戦意識を刺激することを警戒する以前の問題として、徴兵制で若者を集めて、軍事訓練を強いたところで、戦力にはならないからだ。かえって足手まといになる。

投入されるのは、十分に軍事訓練を積んで戦闘能力がある人員である。

それを裏付けるひとつの証拠として、自衛隊内で隊員に配布され、記入が命じられた隊員家族連絡カードの存在がある。これはジャーナリストの寺澤有氏の取材で判明したもので、9月1日付けの「The Japan Times」が詳しく紹介している。

それによるとこのカードには、隊員が隊員家族のEメールから、携帯電話番号、さらには隊員本人の健康状態まで、事細かに個人情報を書き込むことになっている。使用目的は、戦地で死亡したときの対処に役立てるのと、誰を戦地へ送り込むかを審査する時の参考とするためであるとの見方がある。

つまり戦う能力、メンタルな面をも含めた戦闘能力がある者が選ばれて戦地へ投入されることになるのだ。

しかし、徴兵された若者ではなく、自衛隊員を戦地に投入するから海外派兵が許されるというものではない。米軍の戦闘員が帰還後に肉体的にも精神的にもさまざまな障害を訴え、米国内で大きな社会問題になっているのは周知の事実である。

こうした実態があるから、米国は日本に「世界の警察」の役割分担を求めてきたのである。

◇中国の脅威は嘘

安倍首相は、中国の脅威を誇張して流布することで、国民の恐怖心をあおり、防衛体制の強化を訴えているが、おかしなことに、中国は日本の最大の貿易相手国である。企業にとっては、新市場でもある。その中国と交戦して最も損害を被るのは財界である。

事実、財界は米国型の日本軍を作ることには賛同しているが、安倍首相の極右的な動きは警戒しているようだ。靖国参拝にしても、しばしば苦言を呈している。米国が安倍首相の慰安婦発言などに不快感を示しているのも周知の事実である。

安保関連法案に反対する集会の場に、右翼の街宣車が登場したことは、財界にとっても迷惑行為だったに違いない。

安保関連法案が成立した後、地球のどの地域に対して派兵が行われるのか、短絡的な想定は避けるが、中国でないことは確実だ。あえていえば、中東やこれから市場獲得競争がはじまるアフリカあたりではないかという気がする。

2015年09月01日 (火曜日)

 【サマリー】 『財界にいがた』(9月号)が、志岐武彦氏の新刊書『最高裁の黒い闇』を紹介している。これは小沢一郎氏が検察審査会の議決で法廷に立たされた事件の舞台裏に、最高裁事務総局の策略があったことを、膨大な内部資料によって検証したものである。

従来、定説となってきた説、つまり検察が捏造報告書により検察審査員を誘導して起訴相当議決を下させたとする説を否定して、最高裁事務総局による謀略説を唱えたものである。

 その根拠となっているのが、情報公開請求によって入手した段ボール2箱分の資料である。小沢氏の起訴は、検察による謀略か、それとも最高裁による謀略か、この点を巡っては志岐氏との間に論争があり、元国会議員の森裕子氏は、志岐氏を名誉毀損で訴え、敗訴した。本書は、こうした挑発行為に対するジャーナリズムの視点からの回答書でもある。

『財界にいがた』(9月号)が、志岐武彦氏の新刊書『最高裁の黒い闇』を紹介している。同誌は志岐氏を取材して、繰り返し小沢一郎検審にかかっている疑惑を報じてきた。そんなこともあってこの事件の発端から結末までを詳しく記述した志岐氏の著書を紹介したようだ。書評は、次の通りである。

■ 『最高裁の黒い闇』の書評

小沢検審にかかっている疑惑とは、審査そのものが実施されていないのではないかというものである。実施せずに、検察審査会の上層機関である最高裁事務総局が、審査会を開いたことにして、みずから起訴相当議決を下して、小沢氏を起訴したのではないかという疑惑である。

まさかそんなことはあり得ないだろうという疑問を多くの人々が持つに違いないが、この本は、段ボール箱にして2箱分にもなる情報公開資料による裏付けに基づいて書かれている。わたしもこの事件を取材する中で、これらの内部資料を検証させてもらい、その中で小沢検審が「架空審査会」であったという確信を得た。

しかし、周知のように小沢氏が法廷に立たされた事件の舞台裏で何が行われたのかという問題に関しては、志岐氏が主張する最高裁事務総局による策略説と鋭く対立する別の説がある。それは検察が、小沢氏を誹謗中傷する内容の捏造報告書により小沢検審の審査員を誘導して、起訴相当議決を下させたとする説である。

◇元国会議員・森裕子氏による提訴

一般的には後者の説が正論として受け止められおり、そのために新説を提唱した志岐氏は、精神病院へ行けといった口汚い誹謗中傷を受けてきた。意見の対立が深まる中で、検察による誘導説を信じている森裕子氏が、志岐氏に対して言論活動の一部禁止とお金500万円を支払うよに求める裁判を起こす事態にもなった。

こうした状況の下で、わたしは検察による誘導説も検証してみた。が、志岐氏の主張が膨大な公文書による裏付けに基づいているのに対して、検察による誘導説を信じている論者の説は、有力な裏付け資料がなかった。

検察が捏造報告書を小沢検審へ提出した事実を根拠に、ごく単純に検察による誘導説を唱えているにすぎない。少なくともわたしはそんなふうに感じた。

あるいは検察による過去の不祥事をあげつらうことで、検察の悪質さを強調し、それを根拠に小沢検審でも悪事をはたらいたと結論づけているのだ。が、これは単なる推測であって、志岐氏が入手した公文書の前には、あまりにも説得力がない。

なかにはわたしが志岐氏の説を一方的に支持して、従来の検察による謀略説をメディア黒書で紹介しないのは、名誉毀損だと言って、提訴をほのめかしてきた男性もいる。この人物については、逆にこちらから恫喝で提訴する準備を進めているが、ジャーナリズムの基本はあくまで言論による論争であるというわたしの立場には変わりない。

そのなわけで志岐氏の新刊には、この問題を取材してきた『財界にいがた』やわたしの思いが込められている。一市民による調査報道だから信用するに値しない、などと考えてはいけない。志岐氏は、旭化成を退職するまでジャーナリズムとは無縁だったが、旭化成に在職中に養った恐ろしい情報収集力と分析力は、わたしの比ではない。だれもが脱帽するに違いない。

小沢検審に関する先入観を払拭して、本書を手にとっていただきたい。読者は、日本の司法を牛耳っているのは、検察ではなく、実は最高裁事務総局であることを知るだろう。また、検察誘導説が誤りであることも理解するだろう。

検察に不祥事が多いのは事実だが、個々の事件は切り離して考えなければならない場合もある。検察をひとまとめにして、「悪」と決めつける態度は改めなければならない。

2015年08月31日 (月曜日)

【サマリー】30日に安保関連法案に反対する集会が開かれ、主催者の発表で東京だけでも12万人が参加した。この大規模集会を中央紙はどう扱ったのだろうか。朝日、読売、毎日、産経を検証した。

  結論を先に言えば、4紙とも一応は大規模集会を報じているが、別の問題もある。海外派兵に対して、一貫して警鐘を鳴らしてこなかったことである。

安保関連法案に反対する全国規模の集会を中央紙はどう報じたのだろうか。

この集会は、「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」が主催して30日に行われたもので、東京集会の場合、主催者の発表で12万人、警察の発表で3万3000人が参加した。安保法制に反対する過去最大の集会である。事実、永田町から霞が関にかけての路上は人であふれかえっていた。

わたしは霞が関で行われた集会に参加した。灰色の空と小雨。日比谷公園の霞門のそばに停車した街宣車を中心に、弁護士会館前の大通りを挟んだ向かいの歩道や、日比谷公園の中にも人が押し掛けて混雑した祭りの場のようだった。人の波で容易に前に進めない。演説に呼応して拍手が起こるたびに、赤や青、それに黄などのおびただしいのぼりやプラカードが揺れ動く。

永田町へ通じる幹線道路も人々が往来して、あちらこちらに留まった街宣車の上で演説する人の声が聞こえていた。これだけ大規模な抗議行動をわたしはこれまで見たことがなかった。

◇朝日と毎日が大きく報道

さて31日付けの中央紙各紙は、この抗議行動をどう伝えたのだろうか。朝日、読売、毎日、産経の報道を検証してみよう。

【朝日】第1面で報道。2面の「時事刻々」でも取り上げている。さらに社会面でも大きく扱っている。

【読売】社会面で報じているが、2段扱い。ちなみにこの記事のタイトルは、「安保法案『反対』『賛成』デモ」「土日の国会周辺や新宿」と、なっており、安保法制に反対する動きが空前の規模で広がっている事実を伝えたものではない。これが読売が得意とする「客観報道」らしい。つまらない記事である。

【毎日】第1面と社会面で報道。安保法案賛成派の集会についても、社会面で3段扱の記事を掲載している。

【産経】社会面で報じている。

◇ピント外れな第1面トップ記事

中央4紙は、一応は30日の抗議活動を報じているが、朝日と毎日は大きく報じ、読売と産経は小さく報じた。

この抗議行動を第1面のトップ記事(右上段の記事)扱いにした社は1社もなかった。第1面のトップには、最も重要な事件と判断されたニュースが掲載されるが、中央4紙の編集幹部は、30日の抗議行動を大変な歴史の1ページとして受け止めなかったようだ。

参考までに、31日付け朝刊の第1面のトップ記事を紹介しておこう。

【朝日】「住宅耐震82% 鋭い伸び」「13年推計 高齢世帯に負担感」

【読売】「群大術後死 新たに12例」「計20例、専門医分析へ」

【毎日】「訪日客向け『民泊』拡大」「住宅の空室活用」

【産経】「スズキ、VWと提携解消へ」「仲裁採決定 株買い戻し4600億円」

ピントが外れているとしか言いようがない。新聞に対する軽減税率の適用除外が恐くて、報道を自粛しているのだろうか。

◇危険で過激な自民党

そもそも海外派兵がPRされ始めたのは、1990年代の初頭からである。そして小渕政権の下、1999年に新ガイドライン、住民基本台帳法、通信傍受法、それに国旗・国歌法などが矢継ぎ早に成立して、海外派兵への道を切り開き始めたのである。その時の自民党の幹事長が野中弘務氏である。

この時点で自民党が極めて危険な政党であること、いずれ日本が現在の状況に直面することは十分に予測できたはずなのに、マスコミはそれに警鐘を鳴らすどころが、2大政党制のレールに乗って進められていた軍事大国化を後押ししてきた。

大事な問題に限っては、報道が極端に遅れる。あまり大事ではない問題は早い。エネルギーを傾ける対象が間違っていることが多い。

新聞ジャーナリズムの評価は、特定の事件をどう報じたのかだけではなく、もっと長い期間における報道姿勢を見極めながら定めるべきだろう。

2015年08月28日 (金曜日)

【サマリー】汚職事件に関与したとされる中米グアテマラの現職大統領に対して、同国の最高裁は、「不逮捕特権」を取り上げる決定を下した。グアテマラでは、世界に先駆けて三権分立のあるべき理想を実践している。

これに先立つ2013年には、軍政時代の元将軍であり大統領であったリオス・モントに対して禁固80年を言い渡した。また、今年の1月には1982年にスペイン大使館焼き討ち事件を指示した元警察のトップに対して禁固90年の判決を下している。

三権分立が正しく機能した時、社会正義はどう実現されるのか。グアテマラは世界に先駆けて、その模範を示している。

時事通信が26日付けで、「初の不逮捕特権剥奪か=グアテマラ大統領―汚職追及、政界頂点に迫る」と題する記事を掲載している。最高裁判所の決定により、オットー・ペレス=モリナ大統領が、大統領の不逮捕特権を奪われることになったというのである。原因は税関汚職事件である。

現職の大統領に対して裁判所がこうした判断を下すのは、世界的にみても極めてめずらしい。しかも、前世紀までは内戦などの影響で、民主主義の後進国と評価されてきた国で、このような変化が起きているのである。

グアテマラに激変の兆候が見えたのは、2013年5月、1980年代の初頭に大統領職にあったリオス・モント将軍に対して、「ジェノサイドと人道に対する罪」で禁固80年の判決を下した時である。

その後、2015年の1月になって、今度は1982年のスペイン大使館焼き討ち事件を命じた当時の警察トップに対して、禁固90年の判決を下した。これは、同国の先住民族と学生37人が、軍による暴力を世界にむけてアピールするために、スペイン大使館に駆け込んだところ、軍が大使館のドアと窓を釘付けにして放火し、館内にいた人々を皆殺しにした事件である。生存者は、大使会員を含めて2人。事件後、スペインはグアテマラとの国交を断絶した。

そして今回、2015年8月、現職大統領に対して最高裁判所が弾劾の決定を下したのである。実は、このオットー・ペレス=モリナ大統領は、前出のリオス・モント裁判の中で、1982年当時、直接、先住民の虐殺事件に関与したことが指摘されていた。

グアテマラでこのところ起こっている現象は、三権分立が正常に機能したときに、正義が実現されるという真理の証である。とはいえ、本音と建て前に支配された社会では、それはそう簡単なことではない。

日本の裁判所の実態をみればそれが理解できるだろう。新聞社をはじめ権力を持つ者に圧倒的に有利な判決を下してきたのが日本の裁判所である。が、地球の裏側では、三権分立の模範的な手本が示さるようになっているのだ。

◇だれがテロリストだったのか?

しかし、グアテマラはもともと民主主義の思想に敏感な国だった。同国の歴史には、1944年から1954年までのあいだ「グアテマラの春」と呼ばれた時代があった。この時期、2代の大統領がそれぞれ米国大統領ルーズベルトが提唱したニューデール政策(政府による市場への介入を基調とするリベラル右派の経済政策)を導入して民主化を進めた。左派の政権ではないが、ラテンアメリカの中でもいち早く民主的な制度の構築を進めていたのである。

ところが、このリベラル右派の政権は、1954に米国の多国籍企業UFC(ユナイテッド・フルーツ・コンパニー)とCIAの謀略により崩壊する。当時の政府が農地改革のプロセスで、UFCの土地に手をつけたとたんに、クーデターが起こったのだ。

その後、軍事政権が敷かれた。これに対抗して山岳地帯では、ゲリラ活動が始まり、1996年にグアテマラ民族革命連合(URNG)と間で和平が実現するまで内戦状態にあった。が、終戦後は、急激なスピードで民主化が進んでいる。

ちなみに日本の公安調査庁は、URNGをテロ集団と位置づけているが、取材不足もはなはだしい。取材をしていないのではないかと思う。参考までに、公安調査庁のウエブサイトにあるURNGの説明を紹介しておこう。間違いだらけである。

■公安調査庁のウエブサイト

内戦中、だれがグアテマラを「殺戮の荒野」に陥れ、だれが生命を奪われたのかを現地へ行って再取材すべきだろう。情報は客観的でなければいけない。

2015年08月27日 (木曜日)

【サマリー】 共産党の小池晃氏が暴露した防衛省の内部文書の情報公開を防衛省の中谷元防衛大臣に対して請求したところ、8月21日付けで受付が完了した旨を伝える通知が送られてきた。防衛省はこれを開示するか、それとも隠すか、同省の姿勢を観察する機会となった。

  小池氏が指摘した内部文書の例でも明らかなように、このところ法案が成立していないのに、成立を前提に行動を起こす「見切り発車」が増えている。その背景に官僚による政治の復活があるのでは?

8月11日に参議院安全保障特別委員会で共産党の小池晃氏が暴露した防衛省の内部文書「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)及び平和安全法制関連法案について」の情報公開を防衛庁の中谷元防衛大臣に対して請求したところ、8月21日付けで受付が完了した旨を伝える通知が送られてきた。

■防衛省からの通知PDF

同封されてきた通知によると、「開示・不開示の決定は原則として30日以内に行われて、書面で通知される」という。期限は9月24日である。

ちなみに請求者が具体的に特定している公文書の開示をするのに、なぜ、ひと月もの日数がかかるのかよく分からない。民間企業であれば、この程度の手続きであれば、半日もあれば十分だ。

ジャーナリズムはスピードが勝負だから、このような「牛歩」戦術をと取られると取材に支障が生じる。

とはいえ特定秘密保護法が施行されている状況の下で、防衛省の内部文書に対して情報公開請求を行う試みそのものは大きな意義がある。防衛省の姿勢を観察する恰好の機会になるからだ。

ちなみに、防衛省の黒江哲郎防衛政策局長は、この文書について「秘密にあたるものではないが、流出したことは遺憾だ」と述べており、情報開示を拒否する理由はない。

◇官僚主義の復活

法案が成立していない段階で、法案が成立することを前提に、自衛隊が活動していることは周知の事実である。たとえば、特定秘密保護法違憲訴訟の中でも、ジャーナリストの寺澤有氏が、自衛隊員の死傷を想定して自衛隊が隊員に隊員家族連絡カードの記入を求めていた事実を暴露した。

さらに自衛隊が米軍と協同で敵地への上陸演習を繰り返していることも周知の事実となっている。

こうした状況が生まれている背景には、官僚が再び日本の政治を動かす体制が復活してきた証ではないか。規制緩和や官僚主義の打破を求めて小沢一郎氏らがイニシアティブと取った構造改革だったが、結局、新自由主義と軍事大国化の国策を進める官僚に作り替えられただけに過ぎなかったようだ。

2015年08月25日 (火曜日)

【サマリー】日本新聞販売協会が編集した『新聞販売百年史』によると、日露戦争の当時から「責任紙」と呼ばれる「押し紙」が存在した。しかし、それは表向きは契約によって取り決められたノルマにあたるために、「押し紙」には該当しないという論理の根拠でもあった。

 問題は、こうしたゆがんだ論理が現在にまで受け継がれ、新聞販売店に配達されない新聞が多量に残っている事実があるにもかかわらず、「押し紙」とは見なされていないことだ。弁護士の中にも、自由人権協会代表理事の喜田村洋一弁護士のように読売には「押し紙」が存在しないという見解の者がいる。

「押し紙」の歴史をさかのぼると、実は日露戦争の時代に行き着く。少なくとも日露戦争のころには、すでに「押し紙」が慣行になっていたとする記述が新聞販売に関する文献の中にある。

先日、国会図書館で閲覧を申し込んだ資料が開示されるのを待つあいだ、新聞関係の便覧が収録された棚の前で書籍を物色した。すると『新聞販売百年史』という本が視線にとまった。発行元は、日販協(日本新聞販売協会)である。

日販協は全国の新聞販売店の同業組合である。現在は、政治連盟を作って政界工作を行うなど問題が多い組織だが、かつては「押し紙」問題にも果敢に取り組んでいた。当然のことだが、新聞販売に関する情報に関しては詳しい。

『新聞販売百年史』の「拡張紙、責任紙と積み紙、抱紙」と題する節(487ページ)に、「押し紙」に関する記述がある。もっとも「押し紙」という言葉の代わりに、「責任紙」という言葉を使っているが、文脈からすれば「押し紙」の意味である。以下、ポイントとなる部分を引用してみよう。

この恒例拡販、不定期の拡張を問わず、拡張の場合は、本社と売捌人との間に、責任部数の契約を行うのを常とした。たとえば、

1,何月何日現在の取扱部数を基本数と定め

1,其の基本数以上に増した部数を純増と称し

1,純増1部に付き金銭幾何の拡張料を交付する

1,従って若干の増紙部数を契約する。其の引受け部数に対して、同数若くは幾倍、または幾数の拡張紙を幾日間交付する。

1,増紙は2ヶ月または3ヶ月の縛りとする

 といった条項がとりきめられるのである。この場合の引受部数はすなわち「責任紙」であって、それを「縛り」と称し、2ヶ月~3ヶ月間は、引受数のものが売れても売れなくても、代金は売捌人として本社へ支払わねばならないのである。責任紙とは引受部数に対するある契約期間代金支払いの責任あることを意味する。

この責任紙の制度もまたいつごろから始まったか不明であるが、日露戦争後盛んに行われるようになった。しかしこれは売捌人としては可なり苦痛なものである。

■出典PDF

厳密に法的な観点からすれば、責任紙の部数を契約で取り決めているわけだから、「押し紙」には該当しないが、新聞販売店と新聞社が対等な立場にあったとは考えられず、この責任紙 を拒否すれば、販売店は経営を持続させてもらえない事情があったと推測される。その意味では、やはり責任紙は「押し紙」を意味すると考えるのが妥当だ。

◇「押し紙をしたことは1回もございません」

日本新聞協会も、新聞社も「押し紙」は一部も存在しないという見解を取ってきた。明治時代の責任紙の論理がそのまま「押し紙」否定論の理論的主軸として受け継がれている。それゆえに配達されない新聞が新聞販売店に山積みになっていても、「あれは新聞社が押しつけた新聞ではない」という詭弁を弄することになるのだ。

参考までに、「押し紙」を否定する新聞経営者がどのように「押し紙」を否定するのか、具体例を紹介しよう。次の引用は、読売が『週刊新潮』とわたしに対して、名誉を毀損されたとして5500万円のお金を支払うように求めた「押し紙」裁判で、読売の宮本友丘専務(当時)が、読売の代理人である自由人権協会代表理事・喜田村洋一弁護士の質問に答えるかたちで証言した内容である。

喜田村:この裁判では、読売新聞の押し紙が全国的に見ると30パーセントから40パーセントあるんだという週刊新潮の記事が問題になっております。この点は陳述書でも書いていただいていることですけれども、大切なことですのでもう1度お尋ねいたしますけれども、読売新聞社にとって不要な新聞を販売店に強要するという意味での押し紙政策があるのかどうか、この点について裁判所にご説明ください。

宮本:読売新聞の販売局、あと読売新聞社として押し紙をしたことは1回もございません。

喜田村:それは、昔からそういう状況が続いているというふうにお聞きしてよろしいですか。

宮本:はい。

喜田村:新聞の注文の仕方について改めて確認をさせていただきますけれども、販売店が自分のお店に何部配達してほしいのか、搬入してほしいのかということを読売新聞社に注文するわけですね。

宮本:はい。

なお、喜田村弁護士は、YC久留米文化センター前店(福岡県)を廃業に追い込んだ裁判でも、読売の「押し紙」を否定している。YC広川の裁判でも、やはり「押し紙」の存在を否定した。

2015年08月24日 (月曜日)

【サマリー】2014年3月にフリーランスの出版関係者43名が提訴した特定秘密保護法違憲訴訟が、8月21日に結審した。結審に先立って黒薮が最終意見陳述を行った。

その中で、ジャーナリストが自衛隊の内部情報を暴露した場合、起訴されるのか、それともジャーナリズム活動として認められるのかを、寺澤有氏による「暴露」の具体例を示して、裁判長の見解を求めている。

 また、俗に言う「イスラム国」で殺害された湯川遥菜氏が代表を務める民間軍事会社の活動実態が報じられない背景に、特定秘密保護法とメディアの萎縮がある可能性を指摘している。民間軍事会社に関する情報は、戦争の民営化を考える上で極めて重要なはずだが情報が乏しい。プライベートな立場とはいえ、紛争地帯で射撃演習をするのは、ただならぬことである。

2014年3月にフリーランスの出版関係者43名が提訴した特定秘密保護法違憲訴訟が、8月21日に結審した。判決は、11月18日に言い渡される。結審を前に原告側から黒薮が最終意見陳述を行った。

最終意見陳述は、世界で唯一の被爆国である日本で、戦後70年の時期に特定秘密保護法を理由に、核兵器を秘密裏に運搬できる体制が整いつつあることを指摘したのち、裁判の中で明らかになった特定秘密保護法の欠陥について、裁判所に見解を明示することなどを求める内容になっている。

たとえば裁判の中で原告のひとり寺澤有氏は、安保関連法制が成立していない状況下にもかかわらず、戦場での死傷者の発生を想定して、自衛隊が「隊員家族連絡カード」を隊員に配布していたことを暴露したのだが、この内部情報が特定秘密に指定されていた場合、寺澤氏は起訴されるのかどうかを明確にするように求めている。

また、俗に言う「イスラム国」に殺害された湯川遥菜氏が代表を務めていた民間軍事会社に関する情報がほとんど存在しない背景に、特定秘密保護法の存在とメディアの萎縮がある可能性を指摘した。シリアで行方を絶っているジャーナリストの安田純平氏に関するニュースが、海外では報じられ、日本ではほとんど報じられない背景にも、同じ事情があるものと推測される。

なお、民間軍事会社とは、正規軍の軍事戦略をサポートする民営の会社で、活動がエスカレートすれば、紛争地帯で現地住民を傭兵として募集するなどの業務を行う場合もある。と、言うのも外国の軍隊は、地形などに関する知識が乏しい上に環境に順応しにくい事情があるので、ゲリラ戦に適さないからだ。

外国の軍隊はゲリラ戦になると、現地の軍隊には太刀打ちできないというのが米軍がベトナム戦争で学んだ教訓だった。そのために紛争地帯を「ホームグランド」とする同盟国軍隊や現地の傭兵を主力とする戦術が、1980年代の中米紛争などで浮上してきた。

その意味で湯川氏の民間軍事会社が計画していた戦略を明らかにする必要がある。民間軍事会社の代表が他国で射撃演習を行った事実は重い。ちなみに湯川氏の株式会社には、自民党の茨城県議も関わっていた。

■湯川遥菜氏のフェイスブックにある射撃演習の動画

■田母神俊雄氏と湯川氏のツーショット

最終意見陳述書の全文は次の通りである。

最終意見陳述書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1945年の夏、マンハッタン計画が産み落としたばかりの人類最初の原子爆弾が広島と長崎の空でさく裂しました。この年に原爆で亡くなった人は約21万人。その9年後には、第5福竜丸がビキニ環礁における水爆実験で被爆し、さらに今世紀に入ってからは、福島県で大規模な原発事故が起きました。このように核の惨事を繰り返し体験したのは世界の中で日本だけです。

戦後70年の夏、被爆国であるわが国にとって極めてセンシティブな核兵器を秘密裡に運ぶ自衛隊の作業にお墨付きを与える法体系が、第189回国会で構築されようとしています。

安全保障関連法案を審議する8月5日の参議院特別委員会で、中谷元・防衛大臣は、「核兵器の運搬も法文上は排除していない」と答弁しました。つまり核兵器に関する情報を特定秘密に指定すれば、国民の視線をかいくぐって核兵器の運搬作業が自由にできる事態が生まれようとしているのです。そして、かりに秘密の運搬作業をメディアが暴露すれば、処罰の対象になる可能性があります。

 確かに特定秘密保護法の22条1項は、国民の知る権利に配慮して取材や報道の自由に「十分に配慮しなければならない」と規定していますが、厳密にはこれにも条件が付いています。
つまり、「著しく不当な方法」によって情報収集が行われたと判断された場合には違法行為であるとみなされます。しかし、一体だれが何を基準に情報収集の正当性、あるいは不当性を判断するのでしょうか。かりに政府や裁判所がそれを判断するのであれば、それ自体がジャーナリズムの独立性を著しく侵害することになります。

わたしたち原告43名が本件裁判を提起したのは、特定秘密保護法により、フリーランスの出版関係者が取材と表現活動に支障を受け、憲法で保障された国民の知る権利がドブに捨て去られる危険性を訴えるためです。

提訴から1年半、わたしたち原告団はジャーナリストが受ける被害や官庁による情報隠しの実態を具体的に提示してきました。

たとえば、この裁判の本人尋問に立った寺澤有氏は、尋問の中で自衛隊が死傷者の発生を想定して、隊員家族連絡カードという書式を隊員に配布し、記入を求めていた事実を暴露しました。このような自衛隊内部の情報が特定秘密に指定されていた場合、寺澤氏は起訴されるのか、それとも特定秘密保護法の下においても、ジャーナリズム活動として認められ、起訴の対象にならないのかを判決文に明記していただくように希望します。

また、同じく本人尋問に立った林克明氏は、俗にいう「イスラム国」に関する情報が特定秘密に指定されている高い可能性を、実際に情報公開請求を行って、対応を観察することで明らかにしました。

周知のように後藤健二氏に関する情報は開示されませんでした。当然、湯川遥菜氏が代表を務めていた(株)民間軍事会社のシリア国内における活動実態に関する情報も特定秘密保護法の下に置かれていると想定されます。

他国で民間軍事会社の幹部が何をしていたのかを明らかにする作業は、戦争の民営化に警鐘を鳴らすためのジャーナリズム活動であるにもかかわらず、特定秘密保護法により取材が禁止されていたり、自粛を招いている可能性があるとすれば、それは由々しき問題です。

本来、海外における軍事作戦など、他民族の人命にかかわる極めて公益性が高い問題は、法解釈とはまったく別の場で議論されなければならないはずです。そのための情報を提供するのが第4の権力ともいわれるジャーナリズムの役割にほかなりません。

ちなみに、現在、ジャーナリストの安田純平氏が、シリアで行方を絶っています。このニュースを、米国の『ニューヨークタイムス』や『ワシントンポスト』、さらにメキシコの『ラ・ホルナダ』紙など、海外のメディアは報じていますが、日本のメディアは萎縮しているのか、ほとんど報じていません。かりに安田氏が生還されて、シリアにおける軍事作戦に関する情報を公開された場合、安田氏の活動が「著しく不当な」取材方法とみなされ、処罰の対象になるのか、わたしは強い関心を抱いています。
こんなふうに特定秘密保護法は多くの問題を孕んでいます。

裁判官には、人や国策などを裁くただならぬ特権が付与されています。一般の人々が絶対に持ちえない最大級の特権を有しておられます。それだけに軍事大国化が国策として浮上している状況下でも、政治判断で判決を下すことは許されません。司法の独立性を尊重していただきたいと思います。

この裁判に、毎回、100名近い傍聴人が駆けつけた事実は、特別な権限を有した裁判官に政治判断を排した公正な判決を望む声の反映にほかなりません。裁判所に於かれましては、法的安定性を重視して判決を下すようにお願いして、わたしの意見陳述とします。(黒薮哲哉)【了】

2015年08月21日 (金曜日)

【サマリー】今世紀に入って急激に「押し紙」率が上昇して、50%に達するケースも珍しくなくなった。2005年に、「押し紙」の実態を立証する毎日新聞の内部資料が外部へ流出する事件もあった。それによると搬入される新聞の36%が広義の「押し紙」だった。2007年には、70%という信じがたいケースも発覚した。

 読売の「押し紙」も問題になったが、裁判所は「押し紙」とは認定しなかった。押し売りで生じた「押し紙」ではなく、「残紙」、あるいは「積紙」ということになった。

搬入される新聞のうち半分以上が「押し紙」になるなど、高い「押し紙」率が報告されるようになったのは、今世紀に入ってからである。おそらくバブルが崩壊した1993年ごろから「押し紙」率が上昇していたと推測されるが、それが外部に発覚しはじめたのは、2000年代に入ってからである。

ある時、わたしは栃木県の新聞販売店で働いていた男性から、電話による告発を受けた。男性の言い分は次のようなものだった。

自分が働いている販売店には、約4000部の新聞が搬入されるが、このうちの約2000部が「押し紙」になり、廃棄している。あまりにも異常なので、新聞発行本社に内部告発したところ、販売店を解雇された。

この話を聞いたとき、わたしはガセネタに違いないと判断した。取材もしなかった。「押し紙」率が50%にもなっているという話を聞いたことがなかったからだ。

ところがそれから数カ月後、滋賀県新聞販売労組の沢田治氏から、類似した「押し紙」の例があることを聞いた。大阪府四条畷市の産経新聞・四条畷販売所のケースで、搬入される新聞が約5000部だったのに対して、配達している新聞は、時期により変動があるものの、おおむね2000部から3000部だったというのである。

この販売店の店主は、廃業に追い込まれた後、「押し紙」の損害賠償裁判を起こしたが、裁判の中でも、2000部から3000部が「残紙」になっていたことが認定された。ただ、産経新聞社がこれらの新聞を押し売りしたことは認定されなかった。

わたしは四条畷市まで旧販売店を見にいった。そこには「押し紙」小屋の跡が残っていた。

◇毎日新聞社の内部資料

その後、「押し紙」率が極めて高い例を数多く知った。その大半は、内部告発に基づいて、わたしが内容を確認して事実を確認したものである。

2005年には、毎日新聞の「押し紙」政策の存在を決定づける資料が外部へ流失した。「朝刊 発証数の推移」と題するものである。

次の資料の中にわたしが印した赤のマークに注目してほしい。

■朝刊 発証数の推移

店扱い部数:全国の毎日新聞販売店へ搬入される新聞部数を示している。約395万部である。

発証:「発証」とは、販売店が読者に発行する新聞購読料の領収書である。約251万枚である。

つまり395万部が販売店に搬入されているのに、領収書は251万枚しか発行されていないのだ。両者の差異にあたる144万(部)が、「押し紙」である。率にすると36%である。

「押し紙」率が70%

さらに次に示すのは、毎日新聞・蛍ケ池販売所と豊中販売所における「押し紙」の実態である。拙著『押し紙という新聞のタブー』(宝島新書)からPDFで紹介しょう。

■毎日新聞・蛍ケ池販売所と豊中販売所における「押し紙」

月によっては「押し紙」率が約70%にもなっている。
この販売店の経営者も2007年に廃業に追い込まれた。

さらに読売新聞の「押し紙」問題も発覚した。次のPDF(リーフレット『新聞の偽装部数について考える・・・・「押し紙」を知っていますか?』に示されたYC大牟田明治、YC大牟田中央、YC久留米文化センター前の数字である。

■読売の「押し紙」(広義の残紙)

ただし、読売は「押し紙」の存在を認めなかった。

上記、3店のうちYC久留米文化センター前は裁判を闘った。裁判の中では、「押し紙」の有無が争点になった。裁判所は、「押し紙」はなかったと判断した。この裁判の読売側代理人を務めたひとりが、自由人権協会代表理事の喜田村洋一弁護士である。

2015年08月20日 (木曜日)

【サマリー】フリーランスの出版関係者が起こしている特定秘密保護法の第7回口頭弁論が8月21日に開かれる。この時期にわたしは、中谷防衛大臣宛てに共産党の小池晃議員が曝露した内部文書「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)及び平和安全法制関連法案について」を開示するように情報公開を請求した。

黒江哲郎防衛政策局長は、この文書について、「秘密にあたるものではないが、流出したことは遺憾だ」と答弁しており、特定秘密保護法の下で、防衛省がどのような対応をするのかが注目される。

フリーランスの出版関係者が起こしている特定秘密保護法の第7回口頭弁論が8月21日に開かれる。裁判は今回で結審する予定。

8月21日(金)10:30

東京地裁101号法廷

(地下鉄「霞ヶ関駅」A1番出口すぐ)

終了後は、裁判所となりの弁護士会館502号で報告集会が行われる。

今回の口頭弁論では、わたしが意見陳述をすることになっている。意見陳述書は、後日、メディア黒書に掲載する予定である。

◇防衛省に情報開示を請求

周知のように特定秘密保護法が効力を持ってる状況の下では、何が特定秘密に指定されているのかを知ることができない。こうした法律の運用を「ならず者」の手に委ねると危険極まりない。

そこでしかじかの情報が特定秘密に指定されているのではないかと感じたときは、手探りでその糸口を探し当て、最終的には、推測によって状況を見極めなくては仕方がない。

こうした観点から、わたしは昨日、防衛庁の中谷元防衛大臣宛てに一通の情報公開請求書を作成した。20日にそれを発送する。

今回、情報公開を請求した資料は、共産党の小池晃議員が11日に国会で暴露した統合幕僚監部の内部文書「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)及び平和安全法制関連法案について」である。

『しんぶん赤旗』によると、この内部文書の流出について黒江哲郎防衛政策局長は、「秘密にあたるものではないが、流出したことは遺憾だ」と釈明しているので、その見解に偽りがなければ、公開の対象になる。拒否する理由はない。

小池議員による内部文書の暴露は、軍事大国化がどのように進行しているかを立証する内容である。それゆえに個人的な希望を言えば、インターネットを使って、あるいは小冊子にして、全文書を公開してほしい。

「秘密にあたるものではない」というこの文書を入手できれば、当然、メディア黒書では全文を公開することになる。