1. 【報道と人権5】「窃盗」表現をめぐる法廷闘争、弁護士・喜田村らが起こした2件目の裁判、読売が最高裁で逆転勝訴

「押し紙」の実態に関連する記事

2026年03月25日 (水曜日)

【報道と人権5】「窃盗」表現をめぐる法廷闘争、弁護士・喜田村らが起こした2件目の裁判、読売が最高裁で逆転勝訴

読売新聞の江崎徹志法務室長が筆者に対して著作権裁判を起こしてから、2週間後のことだった。筆者は自宅のポストに特別送達の通知が投函されているのを見つけた。そこで郵便局へ足を運び、封書を受け取った。封書には埼玉地裁の文字があった。開封すると、訴状が入っていた。

訴状の原告は、読売の江崎法務室長を含む読売の会社員3人で、1法人・3個人によるものだった。訴状を執筆したのは、喜田村洋一・自由人権協会代表理事である。請求額は2230万円で、この中には喜田村弁護士に対する弁護料200万円も含まれていた。最初に頭をよぎったのは、仮に敗訴すれば金銭面で破産に追い込まれるのではないかという不安だった。

◆「窃盗」という表現

読売が訴えたのは、真村裁判の福岡高裁判決が読売の「押し紙」政策を認定した後に発生したある事件について、筆者が「メディア黒書」に掲載した記事だった。

すでに述べたように、真村裁判の判例が確立した後、「押し紙」に苦しんでいたYCの店主らが、問題解決を求めて江上武幸弁護士に相談するようになった。

【連載4】で紹介したように、YC久留米文化センター前の平山春夫店主もその一人だった。平山さんの店では、江上弁護士に相談した時点で、搬入部数のおよそ50%が「押し紙」だった。

ところが、「押し紙」を排除して約3カ月後、読売は平山さんのYCを強制的に改廃した。しかもそのプロセスは強引で、江崎法務室長ら数人の読売関係者が事前連絡もなく平山さんの店を訪れ、本人の面前で改廃通知を読み上げ、契約を解除した。その後、読売ISの社員が店舗にあった折込チラシの束を搬出した。

この行為について筆者は、「メディア黒書」の記事で「これは窃盗に該当し、刑事告発の対象になり得る」と記した。

喜田村弁護士らが訴因としたのは、この「窃盗」という表現である。彼らは、折込チラシの搬出は契約解除後の行為であり、かつ平山さんの許可を得ていたため「窃盗」には該当しないと主張し、それを根拠に2230万円の金銭を求めてきたのである。

◆隠喩(メタファー)としての「窃盗」

確かに「窃盗」を文字どおりに解釈すれば、関係者の面前で行われた行為である以上、「窃盗」には該当しない。また、実際にチラシの束を運び出したのは読売新聞社の社員ではなく、読売ISの社員である。しかし筆者は、「窃盗」という言葉をレトリック(修辞法)としての隠喩(メタファー)として用いたのである。

隠喩の例としては、例えば次のようなものがある。

「あの監督は鬼だ」

「あの人は悪魔だ」

また、有名な例としては、

「踊子のように葉を差し上げた若い椰子は、私の愛を容れずに去った少女であった」(大岡昇平『野火』)

「人生は歩いている影だ」(シェイクスピア『マクベス』)

などが挙げられる。

筆者が記事の中で隠喩を用いたのは、この事件の悪質性が強いと感じたためである。突然店舗に現れた江崎法務室長が、平山さんの面前で改廃通知を読み上げたことは、平山さんに強い衝撃を与えた可能性が高い。仕事を失って動揺していたと想像できる。そのような心理状態の中で、読売ISの社員がチラシを搬出したのであれば、隠喩として「窃盗」と表現する余地はあったと考えた。筆者にとって、メディア企業が表現の問題で、このような訴訟を起こしたことは心外だった。

◆加藤裁判官と差戻審

判決は地裁・高裁ともに筆者の勝訴だった。その理由は、「メディア黒書」の記事が「窃盗」という事実を断定的に伝えること自体を主眼としていない、という点にあった。

読売は控訴したが、喜田村弁護士は控訴審の代理人から外れた。代わって登場したのは、TMI総合法律事務所の複数の弁護士である。同事務所は大手法律事務所であり、当時、元最高裁判事が少なくとも3名在籍していた(今井巧、泉徳治、才口千晴)

人脈が影響力を持つ日本社会の現状を踏まえると、筆者は控訴審の行方に不安を覚えた。しかし控訴審は一度の口頭弁論で結審し、結果は筆者の勝訴だった。ところが読売はさらに最高裁へ上告した。

最高裁は上告を受理し、口頭弁論を開いたうえで、筆者勝訴の判決を東京地裁へ差し戻した。差戻審では加藤新太郎裁判官が担当した。この人物について調べたところ、過去に少なくとも2度、読売新聞のインタビューを受けていたことが判明した。

また、読売の社員が最高裁の各種委員会に参加していることも確認された(2012年6月時点)。

金丸文夫:判官の人事評価の在り方に関する研究会
桝井成生:裁判制度の運用に関する有識者懇談会、明日の裁判所を考える懇談会

こうした事情から、筆者は最高裁が読売の上告について慎重な検討を行ったのか疑問を抱いた。

差戻審の判決では、加藤新太郎裁判官は読売の訴えを認め、筆者に対して110万円の支払いを命じた。読売社と3人の社員に支払う金銭は、メディア黒書でカンパをお願いして集めた。

なお加藤裁判官は裁判官を退任した後、アンダーソン・毛利・友常法律事務所顧問などを経て、2021年に瑞宝重光章を受章している。