【報道と人権3】真村訴訟が暴いた新聞業界の「押し紙」構造、不正な利益が400億円超、公権力によるメディアコントロールの温床に

真村訴訟の最大の意義は、日本で最大規模の新聞社である読売新聞社が続けてきた「押し紙」政策の存在を認定したことである。すでに述べたように、この裁判は販売店の地位保全裁判であるが、裁判所は判決の中で、読売による「押し紙」政策の客観的な存在を認定したうえで、過剰な新聞が日常的に販売店に残っていた原因は読売にあると判断し、それが正当な改廃理由に該当しないと結論づけたのである。
読売にしてみれば、裁判所が真村さんの地位を保全したことよりも、自社の「押し紙」政策の存在が認定されたことの方が、痛手は大きかったと推測される。
さらに、「押し紙」政策は読売新聞社に限ったことではなく、日本の新聞社の大半が行っている悪行である。それゆえ、真村訴訟の影響は業界全体に波及した。
参考までに、「押し紙」により新聞業界がどれほど莫大な利益を上げているかを示す試算を紹介しよう。尋常な額の不正ではない。公権力機関がこの点に着目すれば、メディアコントロールの温床にもなり得る。「押し紙」は独禁法違反である。
◆試算1
2025年8月時点で、中央紙(朝日・毎日・読売・産経・日経)の発行部数は約1180万部とされている。仮に「押し紙」の割合を20%とすると、約236万部が「押し紙」という計算になる。新聞1部あたりの卸価格を月額1500円(朝刊単独版と仮定)とすれば、1か月あたりの「押し紙」販売収入は約35億4000万円、年間では約424億8000万円に達する。次の計算式である。
1500円(新聞の卸価格)×236万部(「押し紙」部数)=35億4000万円(月額)
35億4000万円(月額)×12か月=424億8000万円
仮に「押し紙」率が40%であれば、年間収入は約850億円規模となる。
しかも、この試算は控えめな前提に基づいている。朝夕刊セット版の場合、卸価格は2000円前後となり、収入規模はさらに膨らむ。「押し紙」率についても、最近の「押し紙」裁判では40%から50%に達している例が少なくない。以上の点から、この試算が誇張されているとはいえない。
もちろん、「押し紙」収入に匹敵する補助金が販売店へキックバックされているケースもある。しかし、たとえそうであっても、水増し部数により紙面広告の価格が相対的に高くなるため、「押し紙」によって新聞社が得る利益は莫大なものとなる。販売店側も、新聞の搬入部数に準じた折込広告が割り当てられるという原則があるため、折込広告収入が増え、必ずしも損害を受けるとは限らない。
※新聞部数が激減した2000年ごろからは、補助金の未払いなどもあり、「押し紙」による被害が増えている。
◆試算2
別の試算も紹介しよう。
2004年、毎日新聞社の記者が、社長室から1通の内部資料を持ち出した。「朝刊・発証数の推移」と題する内部資料である。この資料には、毎日新聞の部数内訳が記録されていた。
それによると、2002年10月時点における毎日新聞の公式部数は3,953,466部である。これに対して、新聞販売店が読者に発行した領収書の数(発証数)は2,509,139枚である。差異にあたる約144万部が、1日あたり全国で発生していた毎日新聞の「押し紙」であったと推測できる。
※厳密に言えば、販売店に搬入される新聞の2%は予備紙であり、「押し紙」の定義には含まれない。しかし数字が小さいため、ここでは詳細には踏み込まない。
「押し紙」1部の卸代金を1500円として試算すると、「押し紙」による販売収入は月額で21億6000万円になる。年間では約259億円となる。次の計算式である。
1500円(新聞の卸価格)×144万部(「押し紙」部数)=21億6000万円(月額)
21億6000万円(月額)×12か月=259億2000万円
公正取引委員会が毎日新聞社にメスを入れれば、同社は年間で約259億円の販売収入を失うことになる。もっとも、「押し紙」を買い取るために販売店へ支出する補助金が相当額にのぼるとしても、部数の水増しによって紙面広告の価値も水増しされるため、不正な利益の額は尋常ではない。
参考までに裏付け資料も紹介しよう。
◆人権派弁護士が
真村訴訟で司法が読売の「押し紙」にメスを入れた影響は大きかった。真村さんの代理人を務めた江上武幸弁護士のもとには、次々と「押し紙」に関する相談が持ち込まれるようになった。
たとえば、YC久留米文化センター前(久留米市)、YC大牟田明治(大牟田市)、YC大牟田中央(大牟田市)の3店は、江上弁護士を通じて読売新聞社と「押し紙」の減紙交渉を行い、「押し紙」の排除に成功した。
「押し紙」を排除する直前の部数内訳は次の通りである。
YC久留米文化センター前
総部数:2010部
押し紙:997部
YC大牟田明治
総部数:2400部
押し紙:920部
YC大牟田中央
総部数:2520部
押し紙:900部
しかし読売は、喜田村洋一・自由人権協会代表理事を前面に立て、裁判攻勢に乗り出してくる。
