1. 米国によるベネズエラへの介入の背景の石油のドル決算、イラン戦争の背景にも同じ構図

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2026年03月19日 (木曜日)

米国によるベネズエラへの介入の背景の石油のドル決算、イラン戦争の背景にも同じ構図

本稿は、『紙の爆弾』(2月号)に掲載した原稿に加筆したものである。米国とイラン石油の関係にも言及した。

2026年1月3日の深夜、米国陸軍デルタフォースは、ベネズエラの軍事施設などを空爆すると同時に大統領私邸を急襲し、ニコラス・マドゥロ大統領を拉致した。マドゥロは妻のシリア・フローレスとともに米国へ移送され、ニューヨーク州北部の空軍基地に到着した際には、手錠をかけられていた。麻薬密売ネットワーク「太陽のカルテル」の首領であり、麻薬・武器の密売などに関与したというのが容疑である。2020年3月の起訴から、およそ6年が経過していた。

ベネズエラのテレスール紙(1月13日付け)などによれば、警備に当たっていた兵士ら100人余りが死亡したという。この中には32人のキューバ兵が含まれていた。キューバ兵の配置はベネズエラ側の要請によるものであり、キューバがCIAによる600回を超えるとされるフィデル・カストロ暗殺計画を阻止してきた実績が評価された結果だという。だが、そうした備えも功を奏さず、マドゥロ夫妻は拘束され、米国へ連行された。米軍側に死傷者は出なかった。

ベネズエラの前外務大臣、ホルヘ・アレアサは、米国の独立系メディア「ザ・グレーゾーン」のインタビューに対し、

「我々はあらゆる事態に備えていたが、レーザー機能を無力化するなど、最新鋭の軍事テクノロジーが使われ対応できなかった」

と、完敗を認めた。米軍は軍用ヘリコプターに加え、複数のドローンも展開したとされる。音響兵器を使ったという報道もある。これは音波を利用し、人体に強い負荷を与えたり、平衡感覚を狂わせたりする兵器である。

軍事侵攻から2日後の5日には、マドゥロ大統領がニューヨークの連邦地裁に出廷した。一方ベネズエラでは、副大統領のデルシー・ロドリゲスが暫定大統領に就任した。6日には、ベネズエラの新政権と米国が、ベネズエラが3000万〜5000万バレルの石油を米国に引き渡すことに合意した。トランプ大統領はSNSに次のように投稿した。

「石油は市場で売られ、その収入はベネズエラと米軍関係者のために使われるよう、米国大統領である私が管理する!」

◆西側メディアを支援してきたUSAIDとNED

『AERA』(1月13日付)は、この事件について「マドゥロ大統領は、独裁者でベネズエラ国民の人権を侵害し、さらに国内経済を疲弊させ、800万人と言われる難民が国外へ逃がれるという事態を招いている」(執筆者:古賀茂明)と記述した。

日本は、西側諸国のメディアの影響を受けることが少なくない。たとえば国境なき記者団(RSF)は大きな影響力を持ち、同団体が毎年公表する「報道の自由度ランキング」は、多くの人に参照されている。ランキングを疑う人は殆どいない。しかし、西側メディアの報道内容が常に政治的な利害関係と切り離された形で提示されているとは限らない。たとえば次の事実を読者はどう考えるだろうか?

2025年、トランプ大統領が米国国際開発庁(USAID)を事実上閉鎖し、メディア向けの2億6800万ドル(約402億円)の予算を凍結した際、国境なき記者団(RSF)は、「この決定を強く非難する」とする声明を発表した。その中で、はからずも西側メディアの性質が露呈したのである。声明の中に、次のような記述がある。

(UASIDによる)援助凍結が発効するとほぼ同時に、米国の援助資金を受けている世界各地の報道機関や報道支援団体が、混乱や不安、先行き不透明感を訴えてRSFに連絡を寄せ始めた」。「二〇二三年に同機関(USAID)は六二〇〇人のジャーナリストに対する研修と支援に資金を提供し、707の非国家系ニュース媒体を支援し、さらに独立系メディアの強化に取り組むメディア分野の市民社会組織二七九団体を支援した。

国境なき記者団がUSAIDから資金援助を受けているかどうかは、現時点では確認できない。しかし、USAIDの下部組織に位置づけられてきた全米民主主義基金(NED)とは極めて親密な関係にある。国境なき記者団は、自らのウェブサイトに「サポーター」としてNEDの名を記載している。

NEDは1983年に設立された米国政府系の基金で、「米国流の民主主義」の促進を掲げ、メディアや市民団体などへの支援を行ってきた。2024年度、NEDはラテンアメリカ向けとして4100万ドル(約61.5億円)を支出した。支援の理由について同基金のウェブサイトは、

「ラテンアメリカとカリブ地域では権威主義が広がりつつあり、指導者たちは民主的な制度を弱めて権力を固めている。NEDはキューバ、ニカラグア、ベネズエラのように強い権威主義体制が続く国々に特に注目している」

と、述べている。

ちなみに香港の「雨傘運動」やウイグル問題などへのNEDの関与も明らかになっている。ベネズエラでも、2025年にノーベル平和賞を受けたマリア・マチャドが率いる団体が、かつてNEDの支援を受けて活動していた。24年にマチャドは、NEDから「NED民主主義」賞を授与された。

海外ニュースを検討する際には、その背景にある支援関係にも目を向けることが重要である。日本のメディアは、報道の自由度ランキングに象徴されるように欧米の情報を重視する傾向があるからだ。

◆「太陽のカルテル」の首領であるというフェイクニュース

1月3日の軍事侵攻は、マドゥロが麻薬密売ネットワーク「太陽のカルテル」の首領であるという触れ込みで行われた。米国政府は2020年、マドゥロや複数の政府関係者の逮捕・有罪立証につながる情報に対し、報奨金を支払うと発表した。このうちマドゥロに対する報奨金は最大500万ドル。顔写真入りのポスターも制作し、罪名として「麻薬テロ共謀」「コカイン輸入の共謀」「麻薬犯罪を助長する目的での機関銃および破壊装置の使用・携行に関する共謀」などを掲げた。極悪非道な犯罪者としての扱いである。

日本の新聞・テレビは、このニュースを「米国政府の発表」として客観報道の体裁で伝えた。しかし一般の読者・視聴者は、情報源が米国政府であることで、マドゥロを「麻薬王」と受け止めた公算が高い。

実際、その影響なのか、1月3日の軍事侵攻の後、米国を批判するコメンテーターでさえ、「マドゥロにも問題はあったが」と念を押したうえで、軍事侵攻を国際法違反として批判する傾向が顕著にみられる。

ちなみに複数の人権擁護団体がベネズエラによる人権侵害を指摘する報告書を公表しているのは事実である。それがベネズエラを批判するひとつの根拠になっている。しかし、この種の報告書は、ベネズエラに限ったことではない。日本も国連人権委員会から「人質司法」などについて指摘されている。米国に関する報告書も多数ある。むしろ報告対象になっていない国の方が少ない。

マドゥロが獄中につながれた数日後、意外なことが起きた。米国が、「マドゥロが『太陽のカルテル』の首領である」とする起訴状を訂正したのだ。『ニューヨーク・タイムズ』(1月5日付け)など複数のメディアによれば、米国は「太陽のカルテル」について、客観的に実体として存在する組織ではなく、「腐敗の文化」などを指す概念の総称だとして起訴状を訂正したという。肝心要の「太陽のカルテル」が客観的に存在しないことを認めたのだ。

ちなみにSNS上には、AI加工されたマドゥロ写真や動画が散見される。米国へ移送される機中で、マドゥロが目隠しされたまま座っている写真も加工品である。「イメージ写真」という注釈が付されている場合もあるが、その点が明確に伝わるとは限らない。SNSなどで虚像が拡散している。写真や動画はいまや事実を立証するための裏付けにはならない。

マドゥロの「独裁」の下でベネズエラは混乱し、貧困が広がったという前出『AERA』の報道も検証する必用がある。『AERA』は「800万人と言われる難民が国外に逃れ」と記すが、難民と移住者、さらには国政の左傾化を嫌って亡命した人々までを「難民」として一括りにしている。加えて、ラテンアメリカに特徴的な人口移動の特殊性を考慮していない。

ラテンアメリカ諸国は大半が公用語をスペイン語とし、文化的共通性も大きいため、域内移住の壁はかなり低い。たとえばメキシコの場合、人口1億3250万人(出典:国連、2025年)に対し、海外に滞在している人は約1200万人(出典:メキシコ政府)とされ、人口の約一割に当たる。コロンビアやペルーもほぼ同程度の割合である。これに対してベネズエラは約3割である。高い数値であることは事実だが、内戦時や経済制裁を課された状況下では、普通に起こり得る数字である。

また、ベネズエラの経済が混乱した最大の原因は、マドゥロによる独裁ではなく、主要産業である原油の価格暴落と、それに続く米国による経済制裁にある。原油価格が暴落した引き金は、2007年ごろから米国で「シェール革命」と呼ばれる新たな採掘方法が普及したことだ。これにより米国内の石油生産量は激増した。しかも当時、OPECは市場安定のための減産調整を行わなかった。さらに世界経済の減速によって需要も減っていた。こうした要因が重なり、原油価格は暴落したのである。

その影響は、マドゥロが大統領に就任した2013年ごろから顕著に現れ始めた。ベネズエラは世界有数の産油国であり、従来から経済を石油に依存してきた。ゆえに石油価格の下落の影響を直接的に受けたのである。加えて米国は、ベネズエラ国債およびベネズエラ企業債の取引を禁止し、ベネズエラ政府による資金調達を妨害した。さらに国営石油会社との取引を禁止するなど、次々に経済制裁を課した。ベネズエラ経済が混乱した原因は、西側メディアが報じてきたような、マドゥロの独裁でも失策ではない。

実際、ベネズエラ経済はその後、回復に向かった。GDP成長率は、2022年が8・0%、23年が4・0%、24年が8・5%を記録した。国民1人当たりGDPも、2020年には3722ドルまで落ち込んだものの、その後は回復して、2023年には4925ドルに達した。(国連のデータ)米国は「シェール革命」の影響と経済制裁によってベネズエラ経済の破綻を見込んでいたようだが、ベネズエラは逆に米国から自立する方向へ歩み始めたのである。

それとは逆に、今度は米国側にとって不安材料が生まれた。ベネズエラと親密な関係にある中国やロシアなどが、ドル以外の通貨による国際商取引の決済を検討し始めたのである。BRICS諸国も同様の方向性で動き始めた。従来のドル支配に風穴が開き始めたのだ。

国際的な石油取引は、長年にわたり米ドル建てで行われるのが主流であった。その背景には、1970年代に形成された米国とサウジアラビアの戦略的関係がある。米国が安全保障面でサウジアラビアを支援する一方、サウジアラビアは原油取引や外貨準備においてドルを重視する姿勢をとり、これが国際石油市場でドル建て取引が定着する一因となった。これは米国経済にとって資金調達面での利点をもたらしてきた。ドルによる投資を呼び込むからである。石油のドル決算は、想像以上に米国に利益をもたらしてきたのだ。

仮に非西側諸国がドル以外の通貨による決済を模索する動きを加速させ、その波が石油取引にまで本格的に及んだ場合、ドルの優位性は低下し、米国経済に中長期的な影響を与えかねない。完全にドル決済がなくなることはないにしても、ドル支配が浸食されていくリスクは免れない。

さらに石油取引で米国と戦略的関係を続けてきたサウジアラビアも、BRICSに加わろうとしている。米国にとって不安材料は尽きない。その反映なのか、トランプ大統領はベネズエラのロドリゲス暫定大統領に対し、ロシアや中国との関係を断つよう助言したとされる。が、ロシア・中国にその意思はない。

◆イランにおける米国の石油利権

ちなみに時期列は前後するが、2026年2月に米国とイスラエルが産油国イランへの空爆に踏み切った背景にも石油をめぐる利害関係がある。その米国にとって、イランはサウジアラビア以上に非西側諸国との関係が深い。現に非西側メディアによると、イラン政府は、石油タンカーがホルムズ海峡を通過するための許可を下す条件として、「石油の人民元決済」を提示しているという。これは米国に対する圧力だ。

ちなみにイランは2024年からBRICSの公式メンバーになっている。

石油利権をめぐる米国とベネズエラの関係と、同じく米国とイランの関係は、実は同じ構図である可能性が高い。さらに日本の高市政権と米国でアラスカの石油開発を進める提案の背景にも、世界の石油を制する者が世界経済を制するという考えがあるようだ。

1月9日、トランプ大統領は石油大手の幹部らをホワイトハウスに招いた。会合にはシェブロン、エクソンモービルなどの多国籍企業が参加した。トランプはこの場で、ベネズエラへの投資を呼びかけた。

◆多国籍企業の権益と軍事侵攻

米国によるラテンアメリカへの介入は、ベネズエラに限った話ではない。これまでも、国益や多国籍企業の保護を目的に、「裏庭」への軍事侵攻や軍事支援、CIAによるクーデター工作などを繰り返してきた。

戦後の主要な介入としては、たとえば1954年のグアテマラのクーデターがある。米国メリーランド大学が公開するデータによれば、米国のUFCO(ユナイテッド・フルーツ・カンパニー)は、グアテマラ全土の42%を所有していたという。農地の大半がUFCOの支配下にあった。その一方で、人口の約90%は土地を持たない農民であった。当時のグアテマラ政府は農地改革に着手したが、UFCOの農地に手を付けた途端、CIAがクーデターを起こしたのだ。

一九七三年のチリでも、多国籍企業と治安部隊との関係が露呈した。70年、チリでは社会主義を目指す左派のアジェンデ政権が、選挙によって成立した。アジェンデは米国の鉱山会社などを国有化した。これに対して米国はクーデターを起こし、軍事政権を敷いた。アジェンデ大統領は死亡した。

1979年には、ニカラグア革命で成立したサンディニスタ政権に対して介入を開始した。革命前のニカラグアは、米国の傀儡であるソモサ家の独裁下にあった。ソモサ家は、コーヒー産業をはじめとしてニカラグアの経済から政治までを牛耳っていた。傀儡を失った米国は、隣国ホンジュラスを拠点化し、反政府ゲリラを組織して、革命政権の打倒に乗り出したのである。

さらに、米国は1983年にグラナダ、89年にはパナマに軍事介入した。その後は、露骨な介入は亡くなったが、米国の関与が疑われているクーデターが、ベネズエラ(未遂)やホンジュラスなどで起きている。NEDも活動を強めて、2018年にはニカラグアで市民運動体と政府の間で衝突が起きる事態となった。クーデターの未遂説もある。

こうした状況の下、米国は2026年1月、米国は、ベネズエラで再び大がかりな軍事介入を断行したのである。

ベネズエラの暫定大統領に就任したロドリゲスは、1969年生まれの弁護士である。7歳のとき、社会運動家だった父親が獄中で拷問死したことが、その後の人生に影響を与えたとされる。マドゥロは消えたがベネズエラ政府は、そのまま残った。政府が掲げてきたシモン・ボリバールの民族自決主義も維持されている。米国はベネズエラに介入したが、基本的には何も変わっていない。かつてのような、「植民地化」はできなくなっている。それが社会進歩の証である。

海外派兵の背景には、どのような政治的・経済的要因があるのか。遠く離れた南半球で起きた事件を契機として、台湾をめぐり緊張が高まる東アジアでも検討する必要がある。また、メディアが果たす負の役割についても考察が求められる。