モラル崩壊の元凶-押し紙- 毎日新聞押し紙裁判提訴のお知らせ
福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士 江上武幸(文責)
2024年(令和6年)9月20日
兵庫県で毎日新聞販売店を経営してきたA氏を原告とする1億3823万円の支払いを求める押し紙裁判を大阪地裁に提訴しました。
請求金額の内訳は、預託金返還請求金が623万円、販売店経営譲渡代金が1033万円、押し紙仕入れ代金が1億2167万円です。
この事案の特徴は、Aさんが廃業後の生活に予定していた預託金623万円と販売店譲渡代金1033万円の計1656万円を受け取れないまま、無一文の状態で廃業に追い込まれた点にあります。
これまで、銀行負債を抱えたまま廃業せざるを得なくなった販売店は多数見聞きしてきましたが、信認金(預託金)や販売店譲渡代金を一円も受け取れないまま廃業に追い込まれたケースは初めてです。
販売店経営者は、廃業せざるを得なくなった場合でも、信認金や販売店の譲渡代金があれば、当面の生活費に充てたり、自己破産の弁護士費用に充てることができていました。しかし、Aさんの場合は、蓄えもなく銀行負債を抱えたままで経営が続けられなくされたうえに、信認金や販売店譲渡代金も新聞の仕入代金に充当され、翌日の生活費も残らない状態で廃業させられました。
幸い、Aさんは単身者だったため、経営者仲間の協力でアルバイトをしながら生活を維持することが出来ています。今年の熱い夏、毎日汗水を流しながら新聞配達とオリコミ広告のポスティングをしているAさんには頭が下がります。
しかし、Aさんに奥さんや子供さんがいたとしたら、その生活はどうなっていたでしょうか。考えるだけで恐ろしくなります。
月刊誌「ZAITEN」の5月号に、廃業を申し出た読売新聞の販売店主が本社から廃業を再三慰留されてやむなく経営を続けていたところ、大雪に見舞われ欠配しないように店に泊り込みしたことから体調を崩し、数日、店を休み電話にもでなかったところ、販売店継続意思の放棄であるとして読売から販売店契約を強制解除され、販売店譲渡代金が支払われなくなった記事が掲載されていました。
また、私共が担当した広島県福山市の濱中さんに対しても、読売は補助金の不正受給を理由として大阪高裁が1000万円を超える損害賠償を認めた判決に基づき、浜中さんの預金を差し押さえる状況が生まれています。
共存共栄をうたい文句に販売店経営者に莫大な押し紙仕入代金の支払いを続けさせておきながら、廃業した途端、販売店主に残されたわずかな生活資金まで取り上げてしまう新聞社の非道な仕打ちには言葉も出ません。新聞社のモラル崩壊もついにここに極まれりという感じがしています。
大手新聞社ですら、販売店経営者の最後の命綱ともいうべき営業保証金や販売店経営譲渡金まであてにしなければならないほど危機的な経営状況にあることを示しているのかもしれません。
ABC部数の減少がこのままのペースで進むと、新聞社の経営は10年も持たないのではないかと危惧するむきもあります。
そうなれば、新聞の消滅と共に押し紙もいずれなくなります。長い間、「押し紙」は新聞業界の最大のタブーとして国民の目から隠し続けられてきましたが、ネットの普及によって「押し紙」を検索すればおびただしい情報があふれており、もはやタブーでもなんでもありません。失われた30年を経た現在、日本の現状をみると新聞社のモラルの崩壊がシロアリが巣食うように全国津々浦々にまで及んでおり、もはや日本人の美徳であったモラルの取り戻しは絶望的なようにも感じております。
最後のよりどころというべき裁判所が、この問題にどのような姿勢をしめすのか、これからも押し紙裁判の行方に関心を寄せて頂くようお願いして、毎日新聞押し紙訴訟提起の報告と致します。
* 福岡地裁の西日本新聞の2件の押し紙訴訟の内1件は、来る10月1日に結審予定です。最終準備書面を提出しますので、その内容は次に報告させて頂くことにします。