1. 大津地裁が原告患者らの請求を棄却、滋賀医科大医学部付属病院の小線源治療をめぐる事件

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2020年04月15日 (水曜日)

大津地裁が原告患者らの請求を棄却、滋賀医科大医学部付属病院の小線源治療をめぐる事件

医師が患者に対する説明義務を怠ったとして4人の癌患者が滋賀医科大医学部付属病院の2人の医師に総額440万円の損害賠償を求めた裁判の判決が14日に大津地裁であった。堀部亮一裁判長は、患者側の請求を棄却した。

この事件の発端は、2015年1月に同病院に前立腺癌に対する小線源治療の寄付講座が開設されたことである。講座の特任教授に就任したのは、この分野のパイオニアとして知られる岡本圭生医師だった。滋賀医科大は岡本医師を中心に、小線源治療のセンター化へ向けてスタートを切ったのである。

ところが泌尿器科の河内教授と成田准教授が、岡本医師の講座とは別に小線源治療の窓口を設置して、一部の患者を泌尿器科へ誘導し、泌尿器科独自の小線源治療を計画したのだ。実際に20数名の患者が事情が分からないまま泌尿器科へ誘導された。

しかし、滋賀医科大には、小線源治療においては岡本医師という卓越した実績の持主がいる。当然、泌尿器科へ誘導された患者も岡本医師による岡本メソッドを受ける権利がある。4人の原告患者は成田氏らが、自分たちにも岡本医師による異次元の治療を受ける選択肢があることを説明しなかったことが、説明義務違反にあたるとして提訴したのである。

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判決は、成田医師らが患者に岡本メソッドという選択肢を示さなかった事実を認定したが、「意図的な隠ぺい」ではなかったとして不法行為には当たらないという趣旨である。また、最終的に患者らが岡本医師の治療によって救済されたことなどを理由に、不利益は被っていないと結論づけた。

審理のなかで被告側は、岡本メソッドは特別な治療法ではなく、針生検ができる医師であればだれでも実施可能だという趣旨の主張を展開したが、裁判所はその主張を認定しなかった。逆に岡本メソッドと他の小線源治療では、質的にまったく異なると認定した。

と、なれば成田医師らは患者に泌尿器科独自の小線源治療と岡本メソッドの質の違いを説明して、極めて優位性の高い選択肢があることを示すのが当り前だが、判決は次の理由でその必要性を認めなかった。

①岡本医師の治療のパートナーである放射線科医・高野医師が経験豊富なこと。②成田医師は岡本医師が手術に立ち会うことを想定していたこと。③成田医師自身が前立腺癌チームのリーダーであり、ロボット手術などで経験豊富な医師であること。

こうした事情を考慮すると、泌尿器科独自の小線源治療が「大学病院で想定される医療水準を満たさない小線源治療とは認められず、全ての患者に対して、一律に他の選択可能な治療方法として」岡本メソッドの優位性を「説明しなければ説明義務違反になるとまではいえず、あくまで、患者の意向、症状、適応等を踏まえ、個別に診療契約上の説明義務の存否を判断すれば足りる」と判断したのである。

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このような論理構成が判決の前提になっているのだ。たとえば患者Aさんのケースである。

Aさんは、成田医師による2例目の手術を受ける予定になっていた。しかし、インフォームドコンセントの際に、成田医師は自分の未経験を告げなかった。そこで状況を察した岡本医師が、まだ院内にいたAさんを探して直接事情を説明したのである。

その後、成田医師、河内医師、松末院長、それに岡本医師がAさんのケースについて話し合いの場を持つ。その席で岡本医師は、執刀医となる成田医師の未経験やインフォームドコンセントの内容を批判する。これを受けて成田医師は診療録にAさんに対して、1例目(最初の患者は、成田医師の未経験を知って、治療を断った)の手術であることを告げたと書き加えた。この後付け措置について、裁判所は次のように認定した。

「A及びその家族は、被告成田から1例目であるとの説明を受けなかったと認められる」

これが客観的な事実である。しかし、これをもって裁判所は不法行為とは認定しなかった。その理由は次の通りである。

「なお、このような診療録への書き加えの事実は、その直前に補助参加人(注:岡本医師)がAに1例目であることを説明しなかったことを問題として指摘したことへの防御的な反応にとどまり、このことをもって患者への説明回避・事実隠ぺいの意図の存在にまで結び付くわけではないから、前記オの判断を左右する事情とは認められない」

論理が飛躍している。「前記オ」とは、不法行為を認定しなかった①~③の理由である。つまり、本稿「◆◆」の内容である。

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なお、この判決で特筆しておかなければならないことがある。それはこの裁判を担当した裁判長と、判決を言い渡した裁判長が別の人物である点だ。人事異動ということらしいが不自然だ。