公共事業は諸悪の根源? ジャーナリズムでなくなった朝日 その1(前編)
◆吉竹幸則(フリージャーナリスト・元朝日新聞記者)
いよいよ来年度の予算編成作業が始まりました。参院選で自民が圧勝。恐れていた通り、概算要求では各省庁に上限を示さず、青天井です。一応、公共事業は今年度、10%削減とされてはいます。でも、「新しい日本のための優先課題枠」と言う特別枠が設けられ、3.5兆円まで要求が認められます。
震災被災地への復興費までいろいろ名目を考え出し、流用したのがこの国の官僚です。特別枠に見合う名目など難なく見つけ、公共事業の大復活が目に見えています。来年度、予定通り消費税を増税しても、4.5兆円。その大半が公共事業に食い潰され、借金減らしに回らないまま、また増税と言うことになりかねません。
◇「水害から住民の命を守る」というウソ
これまで4回にわたりこの欄で、多額の税金を注ぎ込み、官僚・政治家が利権目当てに進める大型公共事業の内実がいかなるものだったのか、私が解明しながら朝日が記事を止めたことで、読者・世間の皆さんに伝えることが出来なかった長良川河口堰事業の「真実」について書いてきました。
当時の建設省は水余りの中、もともと利水目的が主だった河口堰事業を、1976年9月の長良川安八・墨俣水害を格好の理由づけに、「水害から住民の命を守る」として推し進めました。でも、この水害での最高水位は、堤防下2メートルに建設省が定めた安全ライン(計画高水位)より、さらに1メートル以上も下。堤防上からは3メートル以上下にしか水は来ていなかったのです。
このことを手掛かりに、実は治水上も堰は必要ないのではないかと考え、建設省の数々の極秘資料を入手。同省の行政マニュアル『河川砂防技術基準〈案〉』通りの結果を打ち出すウソ発見器のパソコンを完成させ、解明を進めました。
その結果、90年に1度(90年確率)の毎秒7500トン(計画高水量)の大水でも、堤防の安全ライン以下しか水が来ないのを、建設省は十分承知しながら公表していなかったのです。しかも、私の取材に気付き、川底の摩擦の値(粗度係数)まで改ざん、長良川を「水害の危険のある川」との偽装工作までしていました。
朝日が明文化している記者に求める仕事の第1は、「権力監視」です。それに何より、ジャーナリズムの基本中の基本は、国民の「知る権利」に応えることです。応えないジャーナリズムはジャーナリズムではないのです。
例え、利権に目がくらんだ官僚・政治家が無駄な公共事業をしようとしても、ジャーナリズムが健全で権力監視の役割りを果たせば、歯止めが出来ます。事実を知らせていけば、やがて国民・住民による自浄作用が働くはずです。
ジャーナリズムが腐敗、監視の役割を放棄すれば権力は野放し、やりたい放題です。実際、長良川河口堰では、朝日は恣意的に記事を止め、「権力の陰謀」を知らすことが出来ませんでした。その結果、工事に「待った」がかからず、その後のバブル崩壊で、「不況対策」の名の下に無駄な公共事業が際限なく続きました。この国が1000兆円を超える借金を抱え、今日の苦境に迎えたのも、そのためだと言えなくもないのです。