雑誌『創』の新聞社特集、「押し紙」問題の隠蔽と誌面の劣化
『創』の3月号(2025年)が「新聞社の徹底研究」と題する特集を組んでいる。これは、延々と続いてきた企画で定評もあるが、最近は内容の劣化が著しい。新聞社に配慮しているのか、「押し紙」問題へ言及を回避している。肝心の問題を隠蔽すると、誤った新聞業界のイメージが拡散する。世論の形成においては、むしろ有害な企画だ。
「押し紙」は、今や公然の事実になっているわけだから、メディア専門誌である『創』がその実態を把握していないはずがないが、「押し紙」は存在しないという偽りのリアリティーを前提に新聞を論じている。
以前は、消極的ながらも「押し紙」について言及することもあった。たとえば、2011年度の新聞特集(『創』4月号)は、鼎談の中で、共同通信編集主幹の原壽雄氏が「押し紙」に疑問を呈している。次の発言である。
部数の話が出るたびに思うのだけれど、元々、新聞協会が発表しているのは、本当の部数ではないわけですよね。いわゆる「押し紙」といって販売店に必要以上の部数が送られていた。それをなんとかしないといかんと思っている経営者は多いわけで、部数減のデータの中には、押し紙の調整も含まれているわけですね。
この鼎談の2年前、2009年には『創』の篠田博之編集長がわたしに「押し紙」問題についての記事の執筆を依頼してきたこともある。ただ、このときは、弁護士で自由人権協会・代表理事の喜田村洋一らが、読売新聞から委託を受けてメディア黒書に激しい裁判攻撃を加えていた時期で、しかも、3件目の裁判(約5500万円を請求)を起こされた直後だったこともあり、筆者の方から執筆の依頼を断った。
つまり『創』は、かつて「押し紙」問題を認識していたのである。
中国レポート:好調な経済、破綻はあり得ない、現実の世界と西側メディアが描く空想の世界の乖離
階段を這うように登る4つ足のロボット。荒漠たる大地を矢のように進む時速450キロの新幹線。AI産業に彗星のように現れたDeepSeek-r1。宇宙ステーションから月面基地への構想。学術論文や特許の件数では、すでに米国を超えて世界の頂点に立った。中国の台頭は著しい。2024年度の貿易黒字は、9921億ドル(約155兆円)を記録した。貿易には相手国があるので、数字を偽装することはできない。
筆者は、2024年9月から、2025年1月までの5カ月のあいだ中国の遼寧省に滞在して、この国の日常を凝視した。
この町に住んで最初に筆者が感じたのは、豊饒な食である。日常の中で食生活にまつわる場面が展開している。団地のマンションは、ベランダを台所に割り当てたものが多く、冬には湯気で白く曇ったガラスの向うで動いている人々の姿が浮かび上がる。
市場では、大胆に食材が捌かれる。鮮魚売り場では、エプロンをした店員が、プラスチック製の塵取りで、エビや貝を掬い取って袋に詰める。日本のように少量のパック詰めにはしない。精肉店では店員がナタのような包丁を振り上げて、あばら骨が付いた豚肉を砕き、それをビニール袋に詰めて客に手渡す。大量に購入して、冷凍庫で保存したり、親戚に分けしたりする。少量では販売しない店もある。
果実店売場では、店員が手の平をがんじきのようにして、大きなビニール袋にミカンを掻き入れる。食品を販売するスケールが、日本に比べてはるかに大きい。
市場近辺の路地には、露天商らが店を設置している。屋台を構えた店だけではなく、歩道に段ボールや板を敷いて、その上に果実などを並べている所もある。街路樹と街路樹の間にロープを張って、そこに衣類をかけて露店販売をしている店もある。
露天商といえば日本では貧しいイメージがあるが、中国では一概にそうとも言えない。「農家ですから、われわれよりも金持ちですよ」と言う人もいる。露店で販売されている果実は、マーケットで販売されているものよりも品質が高い傾向がある。実際、味覚にほとんど外れがない。露店商が成り立つゆえんである。
インターネットを駆使した販売は露店でも定着している。電子マネーの決済はいうまでもなく、メールマガジンで客に、商品情報を送る店もある。外見は質素に見えても、路地裏にまで近代化の波が押し寄せている。もはやひと昔まえの中国ではない。
ちなみに現金も流通している。電磁マネーしか使えないという情報は正確ではない。
西日本新聞押し紙訴訟 控訴理由書提出のお知らせ― モラル崩壊の元凶 押し紙 ―
福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士 江上武幸(文責) 2025年(令和7年)2月27日
去る2月17日、長崎県にある西日本新聞・販売店の押し紙訴訟の控訴理由書を福岡高裁に提出しましたので、ご報告致します。
*西日本新聞長崎県販売店の押し紙訴訟については、「西日本新聞押し紙裁判控訴のお知らせ」(2025年〈令和7年〉1月18日付)、「西日本新聞福岡地裁押し紙敗訴判決のお知らせ」(2024年〈令和6年〉12月26日付)、「西日本新聞押し紙訴訟判決とオスプレイ搭乗記事の掲載について」(同年12月22日付)、「西日本新聞押し紙訴訟判決期日決定のご報告」(同年10月15日)を投稿しておりますので、ご一読いただければ幸いです。
また、1999年(平成11年)新聞特殊指定の改定の背景に、当時の日本新聞協会長で讀賣新聞の渡邉恒雄氏と公正取引委員会委員長の根來泰周氏の存在があったことを指摘した黒薮さんの記事、「1999年(平成11年)の新聞特殊指定の改定、押し紙容認への道を開く『策略』」(2024年(令和6年)12月31日付)も是非ご覧ください。
西日本新聞社の押し紙裁判は、現在、2つの裁判が継続しています。長崎県の元販売店経営者を原告とする裁判と、佐賀県の元販売店経営者を原告とする裁判です。
2つの裁判は、ほぼ同時期に提訴しましたので併合審理の申立を行うことも検討しましたが、認められる可能性は薄いと考えたのと、同じ裁判体で審理した場合、勝訴か敗訴判決のいずれか一方しかありませんので、敗訴の危険を分散するために別々の裁判体で審理をすすめることにしました。
これまでも指摘しましたが、今回の敗訴判決を言い渡した裁判官は、2023年(令和5年)4月1日に、東京高裁・東京地裁・札幌地裁から福岡地裁に転勤してきた裁判官です。しかも、裁判長は元司法研修所教官、右陪席は元最高裁の局付裁判官であることから、敗訴判決は想定の範囲内であり、あまり違和感はなかったのですが、原告勝訴の条件がそろっている本件について、三人の裁判官達が如何なる論理構成によって原告敗訴の判決を書いたのかについて、控訴理由書でその問題点を指摘すると共に、新聞特殊指定の押し紙に該当しない場合、独禁法2条9項5号ハの法定優越的地位濫用の有無の判断を求める新たは主張を追加しました。
高裁が、どのような判断を示すかについて、引き続き関心を寄せていただくようお願いします。
朝日新聞330万部、毎日新聞130万部、2024年12月度のABC部数、
2024年12月度のABC部数が明らかになった。各社とも部数減に歯止めがかからない。朝日新聞は、この1年間で約20万部を減らした。読売新聞は、約37万部を減らした。
中央紙のABC部数は次の通りである。
朝日新聞:3,309,247(-200,134)
毎日新聞:1,349,731(-245,738)
読売新聞:5,697,385(-365,748)
日経新聞:1,338,314(-70,833)
産経新聞:822,272(-63,548)
西日本新聞押し紙裁判 控訴のお知らせ―モラル崩壊の元凶 押し紙―
福岡・佐賀押し紙弁護団弁護士 江上武幸(文責)2025年(令和7年)1月15日
令和6年12月24日の西日本新聞押し紙訴訟の福岡地裁敗訴判決について、同月27日に福岡高裁に控訴したことをご報告します。本稿では、判決を一読した私の個人的感想を述べさせて頂きます。
なお、「弁護士ドットコム・押し紙」で検索して戴ければ、判決の内容が簡潔且つ的確に紹介されております。
* 弁護士ドットコムの読者の方の投稿に弁護士費用を心配されるむきがありますが、法テラスの弁護士費用立替制度なども用意されていますので、地元弁護士会等の無料法律相談窓口などを気軽に利用されることをお勧めします。
* 別の合議体に係属中の西日本新聞押し紙訴訟(原告は佐賀県の販売店)は、証拠調べを残すだけになっております。
1999年の新聞特殊指定の改訂、「押し紙」容認への道を開く「策略」
渡邉恒雄氏の死に際して、次から次へと追悼記事が掲載されている。ここまで夥しく提灯記事が現れるとさすがに吐き気がする。ナベツネに「チンチンをしない犬」はいないのかと言いたくなる。
渡邉氏に関して、日本のマスコミが絶対にタッチしない一件がある。それは1999年に日本新聞協会の会長の座にあった渡邉氏が、新聞特殊指定改訂で果たした負の「役割」である。日本の新聞社にとって、計り知れない「貢献」をしたのだ。それは残紙の合法化である。残紙により大規模にABC部数をかさ上げするウルトラCを切り開いたのである
西日本新聞福岡地裁押し紙敗訴判決のお知らせ―モラル崩壊の元凶 押し紙―
- 福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士・江上武幸(文責)2024年(令和6年)12月25日
昨日(24日)、午後1時15分から、福岡地裁本庁903号法廷で、西日本新聞販売店(長崎県)の押し紙裁判の判決が言い渡されました。傍聴席には西日本新聞社関係者が10名程度ばらばらに座っていましたが、相手方弁護士席には誰もいないので、一瞬、原告のSさんと「ひょっとしたら」という思いに囚われましたが、予期した通り敗訴判決でした。判決文は入手できていませんので、とりあえず結果を報告します。
合議体の三名の裁判官は、昨年4月1日にそれぞれ東京高裁・東京地裁・札幌地裁から福岡地裁に転勤してきた裁判官で、裁判長は司法研修所教官、右陪席は最高裁の局付の経歴の持ち主であり、いわゆるエリートコースを歩んできた裁判官達です。
合議体の裁判官全員が同時に交代する裁判を経験したのは弁護士生活48年で初めてであり、他の弁護士・弁護団が担当している各地の押し紙裁判でも、奇妙な裁判官人事が行われていることは承知していましたので、敗訴判決の危険性は常に感じながら訴訟を進行してきました。
最高裁事務総局による意図的な裁判官人事の問題については、福島重雄裁判官、宮本康昭裁判官、最近では瀬木比呂志裁判官、樋口英明裁判官、岡口基一裁判官ら(注・いずれも元裁判官)、多数の裁判官が著作を出版されており、最高裁事務総局内部の様々な動きを知ることができます。大変、ありがたいことです。
西日本新聞押し紙訴訟判決とオスプレイ搭乗記事の掲載について―モラル崩壊の元凶 押し紙―
福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士・ 江上武幸(文責)2024年(令和6年)12月20日
11月28日(木)付西日本新聞の朝刊1面のトップに、「『国防の最前線』実感 屋久島沖墜落1年、オスプレイ搭乗ルポ」と題する記事が掲載されていました。
オスプレイは、ご承知のとおりアメリカでは「未亡人製造機」と呼ばれるほど墜落死亡事故の多い軍用機で、開発段階から昨年11月の鹿児島県屋久島沖墜落事故までに計63人が死亡しています。生産ラインは2026年に終了予定で、世界で唯一の輸入国である日本は、陸上自衛隊が17機を総額3600億円で購入し、来年6月に佐賀空港に配備する予定です。
関東地区新聞労連役員会における意見発表について -モラル崩壊の元凶「押し紙」-
福岡・佐賀押し紙弁護団・ 江 上 武 幸 (2024年「令和6年」12月19日)
去る11月29日(金)、ワークピア横浜で開催された関東地区新聞労連の役員会で、「新聞の過去・いま・将来」をテーマに意見発表する機会を得ましたのでご報告申し上げます。
私は、6月に、第8回横浜トリエンナーレを見学しましたが、メイン会場に足を踏み入れた途端、ミサイルが空気を切り裂く音を口真似で再現した映像作品に出合い、ウクライナやパレスチナで悲惨な戦争が続いている現実に引き戻されました。
2歳の孫を連れていましたので、大量破壊兵器を用いた無差別虐殺が行われていることが信じがたい反面、世界平和への強い政治的メッセージをもったアート作品を展示している横浜市民の皆さんの懐の深さに敬意を覚えました。
横浜は、日本で一番古い新聞が発行された街であること、熊本出身の宮崎滔天と中国の革命家孫文が出会った街であること、それに日本新聞協会が運営する日本新聞博物館があることを知りました。
京浜東北線の関内駅を下車し、日本新聞博物館に立ち寄ったところ、先生方に引率された小・中学生が社会科見学にきていました。国民の知る権利・表現の自由を保障するうえで新聞の果たしている役割の大きさが一目でわかるように全国の新聞が展示されていました。
動画で見る「押し紙」回収の現場
「押し紙」の回収現場を撮影した画像を紹介しよう。新聞社は、回収されている新聞は、「押し紙」ではないと主張してきた。彼らがその根拠としてきた論理は、「販売店が発行本社から補助金を騙し取ったり、折込チラシの水増しをするために、みずから注文した新聞部数なので、自分たちには責任がない」というものである。
しかし、新聞社が「押し紙」で莫大な利益を得ている事実は重い。「押し紙」がなければ、予算編成の規模も全く異なったものになる。新聞社は「押し紙」による不正取引を認識した上で、「押し紙」政策を続けてきたのである。
「押し紙」関連資料の閲覧制限、問われる弁護士の職業倫理、黒塗り書面は墓場へ持参しろ
「押し紙」裁判を取材するなかで、わたしは裁判書面に目を通す機会に接してきた。弁護士から直接書面を入手したり、あるいは裁判所の閲覧室へ足を運んで、訴状や準備書面、それに判決などの閲覧を請求し、その内容を確認してきた。
しかし、最近は、新聞社が書面に閲覧制限をかけていることが多い。書面の一部が黒塗りになっているのだ
国策としての「押し紙」問題の放置と黙認、毎日新聞の内部資料「発証数の推移」から不正な販売収入を試算、年間で259億円に
インターネットのポータルサイトにニュースが溢れている。衆院選挙後の政界の動きから大谷翔平選手の活躍まで話題が尽きない。これらのニュースを、メディアリテラシーを知らない人々は、鵜呑みにしている。その情報が脳に蓄積して、個々人の価値観や世界観を形成する。人間の意識は、体内の分泌物ではないので、外かいから入ってくる情報が意識を形成する上で決定的に左右する。
その意味で、メディアを支配することは人間の意識をコントロールすることに外ならない。国家を牛耳っている層が、それを効果的に行う最良の方法は、新聞社(とテレビ局)を権力構造の歯車に組み入れることである。実際、公権力を持つ層は、新聞社に経済的な優遇措置を施すことで、新聞ジャーナリズムを世論誘導の道具に変質させている。
「押し紙」が生み出す不正な販売収入が業界全体で年間に、少なくとも932億円になる試算は、9月27日付けのメディア黒書で報じたとおりである。
■「押し紙」問題がジャーナリズムの根源的な問題である理由と構図、年間932億円の不正な販売収入、公権力によるメディアコントロールの温床に
モラル崩壊の元凶 ―押し紙― 西日本新聞押し紙訴訟判決期日決定のご報告
2024年10月15
(文責)福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団 弁護士江上武幸
第1 はじめに
西日本新聞社を被告とする2つの押し紙裁判が終盤に差し掛かっています。
長崎県の西日本新聞販売店経営者(Aさん)が、2021年7月に、金3051万円の損害賠償を求めて福岡地方裁判所に提訴した押し紙裁判の判決言い渡し期日は、来る12月24日(火)午後1時15分からと決まりました。
また、2022年11月に5718万円の支払いを求めて福岡地裁に提訴した佐賀県の西日本新聞販売店主(Bさん)の裁判は証人尋問を残すだけとなっており、来春には判決言い渡しの予定です。
これら二つの裁判を通じて、私どもは西日本新聞社の押し紙の全体像をほぼ解明できたと考えております。
(注:「押し紙」一般については、グーグルやユーチューブで「押し紙」や「新聞販売店」を検索ください。様々な情報を得ることができます。個人的には、ウイキペディアの「新聞販売店」の検索をおすすめします。)
訴状を公開、毎日新聞の「押し紙」裁判、約1億2000万円を請求、前近代的な新聞の発注方法で被害が拡大
福岡・佐賀押し紙弁護団は、10月1日、毎日新聞の元店主Aさんが大阪地裁へ提起した「押し紙」裁判の訴状(9月20日付け)を公開した。
それによると請求額は、1億3823万円。その内訳は、預託金返還請求金が623万円で、販売店経営譲渡代金が1033万円、それに「押し紙」の仕入れ代金が1億2167万円である。
「押し紙」問題がジャーナリズムの根源的な問題である理由と構図、年間932億円の不正な販売収入、公権力によるメディアコントロールの温床に
読売新聞社会部(大阪)が、情報提供を呼び掛けている。インターネット上の「あなたの情報が社会を動かします」というキャッチフレーズに続いて、次のように社会部への内部告発を奨励している。
「不正が行われている」「おかしい」「被害にあっている」こうした情報が、重大な問題を報道するきっかけになります。読売新聞は情報提供や内部告発をもとに取材します。具体的な情報をお持ちの方はお寄せください。情報提供者の秘密は必ず守ります。
モラル崩壊の元凶-押し紙- 毎日新聞押し紙裁判提訴のお知らせ
福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士 江上武幸(文責)
2024年(令和6年)9月20日
兵庫県で毎日新聞販売店を経営してきたA氏を原告とする1億3823万円の支払いを求める押し紙裁判を大阪地裁に提訴しました。
請求金額の内訳は、預託金返還請求金が623万円、販売店経営譲渡代金が1033万円、押し紙仕入れ代金が1億2167万円です。
読売大阪が「押し紙」裁判の元原告の預金口座を差し押さえ、新聞人らが反撃、約1300万円の金銭支払を求める
読売新聞の元販売店主が読売新聞大阪本社に対して起こした「押し紙」裁判のその後の経緯を報告しておこう。新しい展開があった。
既報したように、この「押し紙」裁判は、大阪地裁でも大阪高裁でも読売新聞が勝訴したが、大阪地裁は読売による独禁法(新聞特殊指定)違反を部分的に認めた。その意味で、元店主が敗訴したとはいえ、画期的な認定が誕生した。高裁が、この認定を取り消したとはいえ、判例集でも公開され、「押し紙」問題の解決に向けた一歩となった。
しかし、読売は、元店主に対して新たな動きに出た。8月1日付けで、元店主の預金口座を差し押さえて、約1300万円(延滞損害金などを含む)のお金を支払うように求めてきたのだ。
北國新聞社に対する「押し紙」の排除勧告、原文の全面公開
新聞業界の「押し紙」問題の本質を考える上で欠くことのできない公文書の原文を公開しておこう。この文書は、公正取引委員会が1997年(平成9年)12月22日付けで、北國新聞に対して交付した「押し紙」の排除勧告書である。
この事件を契機として、公正取引委員会と日本新聞協会(新聞取引協議会)は、「押し紙」問題解決へむけた話し合いを始めた。そして約2年後の1999年に、独禁法の新聞特殊指定の改訂というかたちで決着した。
ところが不思議なことに改訂された新聞特殊指定は、「押し紙」問題の解決への道を開くどころが、逆に「押し紙」をより簡単に強要できる内容となっていた。実際、その後、「押し紙」率が50%を超えるケースが、「押し紙」裁判の中で判明するようになった。
本稿で紹介するのは、この問題(新聞業界の「1999年問題」)の発端となった公文書である。事件の概要については、下記のURLからアクセスできる。
―モラル崩壊の元凶、「押し紙」― 西日本新聞・押し紙訴訟の報告
福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団 弁護士・江上武幸(文責)
去る7月2日、西日本新聞販売店を経営していたAさんが、押し紙の仕入代金3051万円の損害賠償を求めた福岡地裁の裁判で、被告の担当員と販売部長の証人尋問が実施されました。双方の最終準備書の提出を待って、早ければ年内に判決が言い渡される見込みです。
押し紙は、新聞社が販売店に対し経営に必要のない部数を仕入れさせることをいいます。販売店への売上を増やすと同時に、紙面広告料の単価を吊り上げるためABC部数の水増しを目的とする独禁法で禁止された違法な商法で
す。
押し紙は、1955年(昭和30年)の独占禁止法の新聞特殊指定で禁止されてから約70年になります。このような長い歴史があり、国会でも再三質問に取り上げられてきたにもかかわらず、なぜ押し紙はなくならないのか、公正取引委員会や検察はなぜそれを取り締まろうとしないのか、押し紙訴訟に見られる裁判官の奇怪な人事異動の背景にはなにが隠されているのか、といった問題については、マスコミ関係者、フリージャーナリスト、新聞労連、独禁法研究者、公正取引委員会関係者、司法関係者など多方面の関係者、研究者・学者らによって更に解明が進められることが求められます。
新聞の発行部数は1997年(平成9年)の5376万部をピークに、2023年(令和5年)10月には2859万部と半世紀で約46%も減少しています。新聞販売店も2004年(平成16年)の2万1064店舗から、2023年(令和5年)の1万3373店舗と大きく減っています。
このまま推移すれば、10数年後には紙の新聞はなくなるだろうと予想されており、現在進行中の裁判の経過や背景事情について、時期を失せず皆様にお知らせすることはますます重要性を増しています。
西日本新聞「押し紙」裁判、証人尋問で残紙部数を把握した機密資料の存在を認める、担当員「私が作りました」
長崎県の元販売店主が2021年に起こした西日本新聞社を被告とする「押し紙」裁判の尋問が、7月2日の午後、福岡地裁で行われた。この中で証人として出廷した西日本新聞社の担当員は、原告弁護士の質問に答えるかたちで、同社が管轄する長崎県全域の販売店の残紙の実態を示す機密資料が存在することを認めた。
すでに佐賀県下の販売店については2016年に、この種の資料が存在することが、メディア黒書への内部告発で明らかになっていた。今回の尋問により、長崎県についても、同種の資料を西日本新聞社が内部で作成していた事実が分かったのだ。
既に暴露されている「佐賀県の資料」によると、西日本新聞社は、8月3日に販売店からの新聞の注文部数を確認し、その後、6日に販売店に新聞を搬入していた。しかし、搬入部数が注文部数を超えていた。
たとえば3日の注文部数が2000部で、6日の搬入部数が2200部であれば、差異の200部が残紙ということになる。たとえば次のように。
7月2日に尋問、西日本新聞の「押し紙」裁判、福岡地裁で、「4・10増減(よんじゅう・増減)」をどう見るか?
西日本新聞社を被告とする「押し紙」裁判の尋問が、次のスケジュールで実施される。
場所;福岡地裁 903号法廷
日時:7月2日 13時から17時
被告:西日本新聞社
この「押し紙」事件では、業界用語でいう「4・10増減(よんじゅう・増減)」が問題になっている。4・10増減とは、4月と10月に「押し紙」を増やす販売政策である。4月と10月のABC部数が、折込広告の定数を決める重要な目安になることから、新聞社が4月と10月に「押し紙」を増やしてABC部数をかさ上げする手口である。広告主の怒りをかいかねない販売政策にほかならない。
原告の元店主は、「4・10増減(よんじゅう・増減)」の被害を受けており、裁判所がそれをどう判断するかが注目されている。
1999年の新聞特殊指定改訂、談合と密約の疑惑、新聞ジャーナリズムが機能しない背景に何が?(2)
「新聞ジャーナリズムが機能しない背景に何が?」の連載(2)である。連載(1)では、2つの点に言及した。企業の不祥事に対して、公権力のメスが入ることがあっても、新聞業界に限っては、例外的に摘発の対象から完全に除外されている実態を述べた。
その上で新聞人らによる不正行為の際たるものである「押し紙」行為が生む黒い利益の実態を数字で示した。「押し紙」により年間で、少なくとも900億円程度の不正な販売収入が新聞社のふところに入っている。連載(1)の全文は次のとおりである。
■新聞ジャーナリズムが機能しない背景に何が? 「押し紙」を放置する国策、年間の闇資金は932億の試算(1)
本稿では、1997年の北國新聞事件の顛末に言及する。この事件は、新聞業界に公権力のメスが入りかけたが、結局、最後は密約の疑惑がかかってもおかしくない終焉を迎えることになる。この事件は、日本新聞協会と公権力機関、特に公正取引委員会の闇を象徴している。メディア史に記録しておかなければならない恐ろしい事件である。
新聞ジャーナリズムが機能しない背景に何が? 「押し紙」を放置する国策、年間の闇資金は932億の試算(1)
6月に入ってから、企業の摘発が相次いでいる。
国土交通省は4日、トヨタ、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの各社が不正なデータで型式指定の認定をクリアーしていたことを公表した。型式指定とは、自動車の大量生産の前段で自動車メーカーが、国土交通省に対して環境対策やブレーキ性能など、安全性に関するデータを提出して、同省から認可を得る手続きのことである。
公正取引委員会も4日に、医療メーカーを摘発した。神戸の大手医療機器メーカー「シスメックス」に対し、「抱き合わせ販売」をおこなった疑いで、立ち入り検査を実施した。独占禁止法違反するというのがその根拠である。同社は、血液凝固の機能測定装置を医療機関に販売する際に、検査用の試薬をセットで購入するように条件設置をしていた疑惑がある。
こうした取り締まりは、健全な企業活動を促進する意味で重要だが、日本の産業会の中で、絶対に公権力のメスが入らない領域がある。それは新聞業界である。ここは公権力がメスを入れない領域として周知されている。
その結果、厳重に壁で遮られた業界内部は無法地帯になっている。週刊誌も月刊誌も、そして書籍もめったにこの領域には踏み込まない。書籍広告や書評を掲載してくれる新聞社を敵に回して利益になることはなにもないからだ。
読売新聞押し紙訴訟 福岡高裁判決のご報告 ‐モラル崩壊の元凶「押し紙」‐
福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団 弁護士・江上武幸(文責)
2024(令和6年)5月1日
長崎県佐世保市の元読売新聞販売店経営者が、読売新聞西部本社に対し、押し紙の仕入代金1億5487万円(控訴審では、金7722万に請求を減縮)の損害賠償を求めた裁判で、4月19日、福岡高裁は控訴棄却の判決を言い渡しました。
* なお、大阪高裁判決の報告は、2024年4月13日(土)付「押し紙の実態」に掲載されていますのでご一読ください。
「バブル崩壊の過程で、私たちは名だたる大企業が市場から撤退を迫られたケースを何度も目の当りにしました。こうした崩壊劇にはひとつの共通点があります。最初はいつも小さな嘘から始まります。しかし、その嘘を隠すためにより大きな嘘が必要になり、最後は組織全体が嘘の拡大再生機関となってしまう。そして、ついに法権力、あるいは市場のルール、なによりも消費者の手によって退場を迫られるのです。社会正義を標榜する新聞産業には、大きな嘘に発展しかねない『小さな嘘』があるのか。それともすでに取り返しのつかない『大きな嘘』になってしまったのでしょうか・・・・。」(新潮新書2007年刊・毎日新聞元常務河内孝著「新聞社破綻したビジネスモデル」の「まえがき」より)。
大阪高裁と福岡高裁の判決をみると、裁判所は平成11年の新聞特殊指定の改定(1999年)を機に、押し紙については黙認から積極的容認に姿勢を転じたように見受けられます。
1999年の「改正」新聞特殊指定の何が問題なのか?(2)独禁法を骨抜きにした公取委、新聞人に便宜を図った疑惑
本稿は、「新聞の1999年問題」についての連載の2回目である。1回目では、1999年に公取委が独禁法の新聞特殊指定の「改正」を行った結果、「改正」前よりも新聞社の「押し紙」政策が容易になった事情について記した。「改正」前の新聞特殊指定の内容を検討し、それを「改正」後の新聞特殊指定と比較した結果、それが明確になったのだ。この検証作業を行ったのは江上武幸弁護士である。検証の結果、1999年の「改正」に重大な問題があることが判明したのだ。連載の1回目の記事は次の通りである。
■1999年の「改正」新聞特殊指定の何が問題なのか?(1) 新聞人による「押し紙」政策の法的温床に変質、「注文部数」から「注文した部数」に変更
◆公取委と新聞人の話し合い
1999年の新聞特殊指定「改正」に至る発端は、約2年前にさかのぼる。1997年12月のことである。公取委は石川県の北國新聞に対して「押し紙」の排除勧告を発令した。
1999年の「改正」新聞特殊指定の何が問題なのか?(1) 新聞人による「押し紙」政策の法的温床に変質、「注文部数」から「注文した部数」に変更
新聞販売店で残紙となっている新聞の性質が、新聞社が仕入れを強要した「押し紙」なのか、それとも販売店が自主的に注文した「積み紙」なのかを判断する際の指標になるのが、独禁法の新聞特殊指定である。
3月から4月にかけて、大阪高裁と福岡高裁で2件の「押し紙」裁判の判決が下された。元販売店主が、「押し紙」で受けた損害の賠償を求めた裁判で、いずれも原告の元店主が敗訴した。
裁判所が元店主らを敗訴させた根拠となったのは、独禁法の新聞特殊指定の解釈である。ところがその解釈にたどりつくプロセスに不可解な分部がある。
不思議なことに、新聞特殊指定の解釈を歴史的にさかのぼって検証してみると、1999年の「改正」を機に、新聞特殊指定が新聞社による「押し紙」政策を促進させるための強力な装置に変質していることが明らかになる。
独禁法の主旨からすれば、「押し紙」をなくすことが新聞特殊指定の最大の目的であるにもかかわらず、公取委はそれとは反対の方向への「改正」を断行していたことが明確になったのだ。その意味で、2件の判決は販売店側が敗訴したとはいえ、特別な意味を持っている。新聞業界と公権力の闇を浮き彫りにする。
裁判所は、新聞社を保護しようとしたが、はからずも1999年に進行した腐敗の構図を暴露してしまったのだ。
読売「押し紙」裁判、福岡高裁判決、元店主の控訴を棄却、判決文に「押し紙」問題を考える上で興味深い記述
福岡高等裁判所の志賀勝裁判長は、4月19日、読売新聞の元販売店主が起こした「押し紙」裁判の控訴審で、元店主の控訴を棄却する判決を下した。
去る3月28日には、大阪高裁がやはり元店主の控訴を棄却する判決を下していた。これら2つの裁判の判決には、勝敗とは無関係に、はからずも裁判官の筆による興味深い記述が確認できる。それは新聞特殊指定の解釈に言及した部分で、その記述を読む限り、1999年7月に改正され,現在施行されている新聞特殊指定の下で新聞社は、旧バージョンの新聞特殊指定よりも、はるかに「押し紙」政策を実施しやすくなった事を露呈している。
公取委との密約疑惑、「押し紙」を容易にした1999年問題(取材メモ)
1999年に公取委と新聞業界の間で密約が交わされた疑惑がある。この点に言及する前に、1999年について言及しておく。この年、政治上の暴挙が矢継ぎ早に起きている。
周辺事態法、盗聴法、国旗・国家法、改正住民基本台帳法・・・
「僕としては99年問題の重大性を最大限強調したい。年表でいえば、ここはいちばん太いゴチックにしておかないとまずい」(『私たちはどのような時代に生きているのか』辺見庸、角川書店)
1999年問題という表現を最初に使ったのは、辺見庸氏でる。しかし、辺見氏は新聞業界の密約疑惑については言及していない。この密約は、新聞業界を日本の権力構造に組み入れたという観点から特に重要だ。
2024年2月度のABC部数、堺市などで部数のロックも確認
2024年2月度のABC部数が明らかになった。中央紙は、次のようになっている。 ()内は前年同月比。
朝日新聞:3,464,818(-307,799)
読売新聞:6,005,138(-441,836)
毎日新聞:1,573,540(237,713)
産経新聞:871,112(-102,309)
読売新聞「押し紙」裁判控訴審、販売店が敗訴するも判決文の中で新聞業界の商慣行が露呈
新聞販売店の元店主が「押し紙」(広義の残紙)により損害を受けたとして損害賠償を求めた裁判の控訴審(約6000万円を請求)で、大阪高裁は3月28日、元店主の控訴を棄却した。
「押し紙」というのは、ごく簡単に言えば残紙のことである。(ただし、独禁法の新聞特殊指定が定義する「押し紙」は、「実配部数+予備紙」を超える部数のことである)。
元店主は、2012年4月にYC(読売新聞販売店)を開業した。その際、前任の店主から1641部を引き継いだ。ところが読者は876人しかいなかった。差異の765部が残紙になっていた。このうち新聞の破損などを想定した若干の予備紙を除き、大半が「押し紙」となっていた。
以後、2018年6月にYCを廃業するまで、元店主は「押し紙」に悩まされた。
大阪地裁は、元店主が販売店経営を始めた時点における残紙は独禁法の新聞特殊指定に抵触すると判断した。前任者との引継ぎ書に部数内訳が残っていた上に、本社の担当員も立ちあっていたことが、その要因として大きい。
控訴審の最大の着目点は、大阪高裁が読売の独禁法違反の認定を維持するか、それとも覆すだった。大阪高裁の長谷部幸弥裁判長は、大阪地裁の判断を覆した。
その理由というは、元店主の長い業界歴からして、「新聞販売に係る取引の仕組み(定数や実配数、予備紙や補助金等に関する事項を含む)について相当な知識、経験を有していた」ので、従来の商慣行に従って搬入部数を減らすように求めなかったというものである。皮肉なことに長谷川裁判長のこの文言は、新聞業界のとんでもない商慣行を露呈したのである。
しかし、残紙が「押し紙」(押し売りした新聞)に該当するかどうかは、本来、独禁法の新聞特殊指定を基準として判断しなければならない。元店主に長い業界歴があった事実が、新聞特殊指定の定めた「押し紙」の解釈を変えるわけではない。この点が、この判決で最もおかしな箇所である。
新聞特殊指定では、残紙が「実配部数+予備紙」を超えていれば、理由を問わず「押し紙」である。もちろん「押し紙」のほとんどが古紙回収業者のトラックで回収されていたわけだから予備紙としての実態もまったくなかった。