「押し紙」制度と折込媒体の水増し、新聞社の内部資料が示す虚像

「押し紙」裁判における発行本社の主張は、もはやパターン化している。それはおおむね次のような内容である。新聞社は、販売店が注文した部数に応じて新聞を搬入しているにすぎず、販売店が実際に配達している部数は知らない。したがって残紙は押し売りの結果ではないので、損害賠償に応じる義務はない、というのである。
しかし、新聞社は販売店の実配部数を把握している。実際、最近の「押し紙」裁判では、厳密な意味での「押し紙」(押し売りが立証できる新聞部数)は存在しないとされる一方で、大量の新聞が残紙になっている事実は認定されるケースが多い。さらに、新聞社の中には、販売店が配達している実配部数を把握していることを示す内部資料を保有しているところもある。
たとえば、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、西日本新聞などがその例である。
『ZAITEN』9月1日発売、参院選の選挙公報が水増し・廃棄されていた、 背景に「押し紙」

9月1日発売の『ZAITEN』(財界展望新社)は、「朝日新聞『選挙公報』折込で“水増し発覚”」と題する記事を掲載している。執筆は黒薮哲哉で、7月20日に実施された参院選に向けて税金で制作された千葉県版の選挙公報が、「押し紙」とともに廃棄されていた事実を報じたものだ。詳細は同誌をご覧いただきたい。
2025年08月27日 (水曜日)
新聞社系印刷会社が参院選公報を独占受注 首都圏1都3県の実態 もうひとつの「押し紙」問題

選挙公報など、税金で制作された新聞折込媒体を新聞社系の印刷会社が印刷するケースが少なからず存在する。既報のとおり、首都圏の1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)は、いずれもこのケースに該当する。当然、新聞折込の方法を採用すると、「押し紙」がある場合、その部数に応じて折込媒体も廃棄されていることになる。
「司法の独立・裁判官の独立」について-モラル崩壊の元凶 押し紙-

執筆者:弁護士 江上武幸(福岡・佐賀押し紙弁護団、文責)2025年8月21日
井戸謙一・樋口英明両元裁判官が今年6月に旬報社から共著『司法が原発を止める』を刊行されました。これを契機に、司法の独立・裁判官の独立をめぐる議論が再び活発化しています。
*瀬木比呂志元裁判官が『絶望の裁判所』(講談社)を刊行したのは2014年2月、生田輝雄元裁判官が『最高裁に「安保法」違憲を出させる方法』(三五館)を刊行したのは2016年5月です。なお、岡口基一元裁判官は現在もFacebookで最新状況を発信し続けています。
押し紙裁判においても、審理途中で不可解な裁判官交代があったり、販売店側の敗訴判決に類似性・同一性が認められることなどから、最高裁事務総局による報告事件指定がなされているのではないかとの疑念があります。
憲法76条3項は「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される」と定め、81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するか否かを決定する権限を有する終審裁判所である」と規定しています。
このように、日本国憲法は裁判官の独立と違憲立法審査権を明確に定めていますが、実際に裁判の場で法令の無効を宣言するには、裁判官に相当の勇気が求められるのが現実です。
裁判官の独立を妨げる圧力や、さまざまなしがらみについて、少し考えてみたいと思います。
2025年08月14日 (木曜日)
新聞社と公共機関の蜜月構造 ― ジャーナリズムの独立性を脅かす「特権と利権」

新聞社や関連会社が公共機関と取引を行うことで、ジャーナリズム本来の役割が損なわれる構図は、これまでも『メディア黒書』が繰り返し指摘してきた。主な構図は以下の通りである。
1. 公共機関による「押し紙」の黙認によって得られる莫大な新聞販売収入
2. 新聞に対する軽減税率の適用
3. 再販制度による価格維持
4. 記者クラブを通じた情報入手の優遇
5. 公共広告の出稿
これらの便宜に加え、新聞社や系列の印刷会社が公共機関から受注する折込媒体の印刷収入も巨額に上る。
2025年08月13日 (水曜日)
参院選選挙公報、首都圏で新聞社系が印刷を独占,神奈川新聞は1億4000万円で落札

7月2o日に投票が行われた参議院選挙の選挙公報について、首都圏の一都三県(東京・神奈川・千葉・埼玉)を対象に印刷業者を調査した結果、いずれの自治体も新聞社系列の印刷会社に発注していたことが判明した。詳細は順次公表予定。
神奈川県では、神奈川新聞社が選挙公報の印刷を担当。入札情報によれば落札額は1億4,460万円(144,647,814円)。
新聞、止まらぬ部数減 読売41万部減、毎日29万部減――最新のABC発表で浮き彫りになった「新聞崩壊」の現実

2025年6月度のABC部数が明らかになった。これは日本ABC協会が公表する最新の新聞発行部数であり、新聞業界の動向を示すひとつの指標である。
この1年間で、中央紙各社はいずれも大幅な減部数となった。最新のABC部数と、前年同月比(▲)は以下の通りである。
読売新聞:5,442,550部(▲413,770部)
朝日新聞:3,234,313部(▲156,690部)
毎日新聞:1,213,572部(▲285,999部)
日経新聞:1,288,439部(▲86,975部)
産経新聞:798,252部(▲51,539部)
佐賀県西日本新聞店押し紙訴訟の裁判官交代について、モラル崩壊の元凶-押し紙-

福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士江上武幸(文責)2025年7月31日
長崎県販売店の地裁裁判官の交代については、2024年12月26日(木)投稿の「西日本新聞福岡地裁敗訴判決のお知らせ」で報告したとおりです。
今回は、佐賀県販売店の押し紙訴訟の担当裁判官の交代について報告いたします。
佐賀県販売店の押し紙訴訟は、令和7年5月20日に原告本人尋問と販売部長の証人尋問が実施され、即日結審し、来る9月9日が判決言渡期日と定められました。
前回の4月15日の期日において日景聡裁判長は「裁判官変更の予定はありません。」と告げました。裁判官の異動は4月1日付で行われますので、日景裁判長がそのようなことを当事者双方の代理人に告げたのは、今の合議体で本件事案の審理を終え判決を作成することを宣言したに等しい出来事でした。
新興政党が台頭する中で、急がれる押し紙問題の解決、モラル崩壊の元凶―押し紙―

福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士 江上武幸(文責)2025年7月28日
衆議院に続き、参議院でも自民・公明の与党両党が過半数を割りました。一方、国民民主党や参政党が大きく議席を伸ばし、これに維新、れいわ新選組、日本保守党などを加えた新興勢力が、今後の政治の行方を大きく左右する存在となりそうです。
今回の選挙では、30年に及ぶ経済の停滞と、それに伴う社会全体の閉塞感に対する、若者世代の強い反発と怒りが背景にあると考えられます。
若者たちは、国民民主党の玉木代表の不倫問題、参政党・神谷氏の偏った女性観、元維新・橋本氏のハニートラップ疑惑など、SNSを賑わせた政治家のスキャンダルには目もくれず、変革への強い衝動に突き動かされているように見えます。財務省解体デモに象徴されるように、政治変革を求めるエネルギーは今後さらに拡大していくでしょう。
参政党が発表した「新日本国憲法構想案」により、この党の思想的傾向が明らかになり、既存メディアも批判的に報じ始めました。
新聞やテレビが新興政党に対し、党首や所属議員の女性問題、金銭スキャンダル、運営上の問題点などを積極的に報道するようになれば、これらの政党は、既存政党とは異なる立場から、新聞の「押し紙問題」を政治問題化し、メディアに対する強力な攻勢を仕掛けてくる可能性があります。
熊本日日新聞や新潟日報など一部の例外を除き、多くの新聞社は、押し紙による収入を前提に経営を続けているのが現状です。押し紙とは、新聞社が販売店に対し、実際に販売されない部数を強制的に仕入れさせる行為であり、これは独占禁止法に違反する不公正な取引方法で、資源の浪費であり、広告主に対する詐欺でもあります。
若者たちは新聞を購読していませんが、Google検索やSNSを通じて、押し紙の存在についてはよく知っています。新聞社がこの問題の存在を認めようとしない姿勢は、大人社会の「二面性」として受け取られ、若者から「正義を語る資格があるのか」と批判される原因になり得ます。
公取委が「押し紙」に関する公文書を黒塗り、情報公開請求で新聞協会との談合疑惑が浮上、迷宮の中、新聞特殊指定を骨抜きにした理由

公正取引委員会は、6月27日付で、筆者に対して行政文書開示決定通知書を送付した。この文書は、筆者が公正取引委員会に申し立てた情報公開請求に対する通知である。これを根拠として筆者は、開示された文書を入手したが、公取委は、解読を困難にするために肝心な分部を黒く塗りつぶしていた。(全文は、文末からダウンロード可)
公正取引委員会に対して筆者が、「押し紙」に関連した文書の情報公開請求を申し立てたのは、今年の4月21日である。請求内容は次の通りだ。
『1998年(平成10年)1月に公正取引委員会が下した(株)北國新聞社に対する「押し紙」の排除勧告の後、1999年(平成11年)8月に公正取引委員会が新聞特殊指定を改訂して、従来の「注文部数」を「注文した部数」に変更(「新聞業における特定の不公正な取引方法」の箇所)するまでの期間に、公取委と新聞公正取引協議会の間で行われた話し合いの全記録。』
請求内容を説明する前に、情報公開請求に至る経緯を説明しておこう。
2025年07月18日 (金曜日)
【YouTube動画】動画で見る参院選・選挙公報の水増し現場、税金の騙し取りもお咎めなし、新聞人は「知らぬ、存ぜぬ」

ユーチューブ動画で紹介したのは、廃棄される前段の参院選・選挙公報である。撮影日は、7月13日の21時。撮影場所は、千葉県流山市のASA(朝日新聞販売店)の前である。撮影者は、大野富雄・元流山市議。税金で制作された選挙公報が大幅に水増しされ、新聞に折り込まれないまま廃棄される前段を記録した動画を撮影した。
参院選の選挙公報は、7月12日に新聞折込のかたちで配布された。その翌日にあたる13日に大野議員はかねてから観察拠点としていた「押し紙」や折込媒体の収集場所を確認した。選挙公報は、12日に新聞に折り込まれたわけだから、本来であれば、13日に大量の選挙公報が積み上げられているはずがない。ところが収集場所には、大量の選挙公報が残っていた。(動画:1分10秒~)。大野元市議は、選挙公報の水増しの決定的な証拠を掴んだのである。
2025年07月17日 (木曜日)
参院選の選挙公報、全国で水増しが起きている可能性、流山市のケースは氷山の一角、背景に新聞社による「押し紙」政策

7月14日付けのメディア黒書で既報したように、新聞に折り込む参院選の選挙公報が、新聞の配達部数を大幅に超えて、新聞販売店に搬入されていることが千葉県流山市で発覚した。過剰になった選挙公報が山積みされている現場を、筆者は確認して、新聞販売店の店長に事実関係を確認した。
実は、流山市では4,5年前から、「押し紙」とそれに連動た折込媒体の水増しが発覚して、地元の市議が市議会で繰り返しこの問題を追及してきた。
たとえば、2021年10月時点での流山市のABC部数(新聞の公称部数)は、36,815部だったが、同市はこの数字をはるかに上回る50,128部の広報紙(流山市発行)を広告代理店に発注していた。その結果、たとえ「押し紙」が1部も存在しないとしても、1万3000部ほど折込媒体が過剰になっていた。これについて市当局は、広告代理店から指示された部数を発注しているだけと回答した。こうした問題は放置された。状況は改善しなかった。
