1. 【連載・報道と人権2】読売裁判の原点-真村訴訟と「押し紙」問題

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2026年03月13日 (金曜日)

【連載・報道と人権2】読売裁判の原点-真村訴訟と「押し紙」問題

読売新聞社と販売店(YC)の係争が裁判に発展した例は、数えきれない。両者間の裁判はいうまでもなく、係争を報じた報道機関や記者が読売から提訴されたケースもある。最近の例としては経済誌『ZAITEN』があるが、わたし個人も、2008年から2009年にかけて立て続けに3件の裁判を起こされた。請求額は総額で約8000万円だった。これらの裁判の読売代理人として、頻繁に仕事を受けてきたのが、喜田村洋一・自由人権協会代表理事である。

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一連の読売裁判を理解する上で欠くことができないのが、2002年に始まる真村訴訟である。この裁判と、そこから派生した裁判が、読売と喜田村弁護士の訴訟方針を典型的にあらわしていると言っても過言ではない。「読売に『押し紙』は一部も存在しない」という主張は、当時から現在まで変わっていない。その意味で、真村訴訟の読売の販売政策を考える上で最良のテキストなのである。

真村訴訟の原告である真村久三さんは、1989年9月に福岡県にあるYC広川の経営を始めた。それまでは自動車教習所の教官を務めていたが、自分で事業を営むことを希望し、販売店主に応募した。真村さんは幸いにも採用され、退職資金などをつぎ込んで開業にこぎつけたのである。自店で独自のユニフォームを作るなど経営の才覚のある人物で、当初は読売新聞社とも良好な関係にあった。

しかし、開業から10年あまりが過ぎた2001年、読売新聞との係争に巻き込まれる。読売本社が真村さんに対して、YC広川の営業区域の一部を隣接するYCへ譲渡するよう通告してきたのである。

YC広川が譲渡対象地区で配達していた新聞の部数は約500部(200万円相当)だった。全体の3分の1程度である。真村さんは、YC広川を開業するに際してこの地区の営業権も買い取っていたこともあり、読売の提案を断った。

これに対して読売は説得を続けたが折り合いがつかず、最終的にYC広川に対して改廃を通告したのである。改廃理由の一つとして読売が持ち出したのは、新聞部数の虚偽報告であった。この虚偽報告という行為は、『ZAITEN』裁判でも読売側が問題視している。「配達していない部数が1日あたり398部もあり、その分を加えた虚偽の売り上げを原告に報告していた」(訴状)と述べている。

周知のように、読売に限らずほとんどの新聞販売店には「押し紙」(広義の残紙)がある。しかし新聞社側は、自分たちが残紙の買い取りを強制したことはなく、新聞販売店の側が自ら注文したものであるとの見解を維持してきた。新聞の搬入部数と折込広告の搬入部数が一致するという基本原則があるため、販売店の側が部数を水増し購入しているという論理である。

真村裁判でもこの論理が持ち出され、喜田村弁護士らは、部数の水増しを隠すために真村さんが部数内訳を偽って読売本社に虚偽報告したと主張したのである。

それゆえに読売は、部数の虚偽報告を有力な販売店改廃の理由に挙げ、裁判所は残紙になっていた部数の性質を検証した。つまり残紙の性質は、読売が押し売りした部数なのか、それとも真村さんが自主的に買い取ったものなのかを審理したのである。地位保全裁判で「押し紙」が争点になったゆえんにほかならない。

仮に真村さんが部数をみずから水増しして虚偽報告していたのであれば、正当な改廃理由になる。販売店と新聞社の信頼関係を損なうことになるからだ。

※同じ時期に、福岡県久留米市内にある他の2店のYCでも改廃事件が起きた。
厳密に言えば、真村訴訟の原告は真村さんだけではなく、他の2店の店主も原告となった。しかし真村さんのケースが大きくクローズアップされ、後に真村訴訟と呼ばれるようになる。同じ時期に3店のYCが係争に巻き込まれた背景には、販売店の統廃合計画があった可能性も指摘されている。

 

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この裁判は、真村さんの全面勝訴だった。特に福岡高裁判決(2007年6月19日)では、真村さんの主張をほぼ全面的に認め、真村さんに対して慰謝料220万円を支払うよう命じた。地位保全裁判で高額の慰謝料が認められるのは異例のことである。

福岡高裁判決は、真村さんが約130部の残紙を隠して読売本社に虚偽報告していた事実を認定したものの、その責任は読売側にある判断した。以下の引用文中の「定数」とは、新聞の搬入部数のことを意味する。

「このように、一方で定数と実配数が異なることを知りながら、あえて定数と実配数を一致させることをせず、定数だけをABC協会に報告して広告料計算の基礎としているという態度が見られるのであり、これは、自らの利益のためには定数と実配数の齟齬をある程度容認するかのような姿勢であると評されても仕方のないところである。そうであれば、一審原告真村の虚偽報告を一方的に厳しく非難することは、上記のような自らの利益優先の態度と比較して身勝手のそしりを免れないものというべきである。」

判決のこの箇所では、読売が実配部数と搬入部数の間に齟齬があることを認識していながら、正常な取引部数に修正しなかった事実を認定している。さらに裁判所は、その背景に読売の部数への異常とも言える執着があることを、次のように認定した。

「販売部数にこだわるのは一審被告(黒薮注:貴社のこと)も例外ではなく、一審被告は極端に減紙を嫌う。一審被告は、発行部数の増加を図るために新聞販売店に対して増紙が実現するよう営業活動に励むことを強く求め、その一環として毎年増紙目標を定め、その達成を新聞販売店に求めている。このため、『目標達成は全YCの責務である。』『増やした者にのみ栄冠があり、減紙をした者は理由の如何を問わず敗残兵である。増紙こそ正義である。』などと記した文章(甲64)を配布し、定期的に販売会議を開いて増紙のための努力を求めている。

米満部長ら一審被告関係者は、一審被告の新聞販売店で構成する読売会において、『読売新聞販売店には増紙という言葉はあっても、減紙という言葉はない。』とも述べている。」

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はからずも地位保全裁判の中で、読売の「押し紙」政策が認定されたのである。
しかし、真村訴訟の福岡高裁判決が読売の焦りを誘ったのか、その後、大変な事態が起きる。喜田村弁護士が読売のために奔走して、弁護士生命を危うくすることになる。(続く)

■参考資料:真村訴訟福岡高裁判決