2016年01月08日 (金曜日)

新聞に対する消費税軽減税率の適用問題は、意外に盲点になっているが、政府による世論誘導の分かりやすい例である。表向きは消費者保護の観点から、軽減税率の適用を検討しているかのように見えるが、新聞人に軽減税率という特権を付与するこで恩を売り、新聞を世論誘導の道具として利用しようという意図が露骨だ。

◇飲み食いだけではない

安倍内閣の政策は、大別すると①新自由主義=構造改革と②軍事大国化の2本柱である。前者を象徴するのはTPPで、後者を象徴するのは特定秘密保護法と安保関連法、さらに憲法改正である。安倍内閣にとっては、これら2つの課題をいかに押し進めていくかが手腕のみせどころである。それは財界の要望でもある。

改めて言うまでもなく、政策を宣伝して国民の理解を得るためには、なるべく大きなメディアを味方につけなければならない。昨年、経済誌『ZAITEN』が、安倍首相と会食を重ねているマスコミ関係者のリストを公開したが、政府の戦略は新聞人らの接待だけにとどまらない。
■参考記事:安倍首相の応援団と化した日本のマスコミ、『ZAITEN』が首相とメシ食う人々を紹介

政府が新聞社を味方につけるために取引材料にしている最大のものは、新聞社経営を安定させるための諸政策である。それは新聞に対する軽減税率の適用にほかならない。厳密に言えば、再販制度もこの種の政策のひとつである。

◇消費税5%への軽減を要求

新聞に対する軽減税率の適用問題がどのように議論されてきたかを新聞・テレビは報じなかったので、多くの人々は、昨年の12月になって急遽適用が決まったかのような印象を持っているが、実はこの問題は、かなり古くから検討項目になってきた。しかも、新聞業界は、8%の維持ではなく、5%への引き下げを要求してきたのである。

安倍内閣は、この問題をペンディングにしながら、その一方で、新自由主義と軍事大国化を進めてきたのである。この間、政府を敵視することができない新聞人らは、基本的に政府の方針を後押ししてきた。もちろん、地方紙を中心に反安倍内閣の論調を取った社もあるが、その姿勢を一貫して維持することはなかった。新聞社の生命をかけて戦うことはなかった。

消費税問題や再販制度問題など新聞社経営の決定的な「弱点」を突かれるのを警戒したのではないだろうか?

◇政界と新聞業界の癒着

新聞販売店の同業組合である日販協(日本新聞販売協会)が発行する『日販協月報』には、はからずも政治家や官僚が新聞業界とどのようにかかわってきたかが、記録されている。結論を先に言えば、それは癒着である。

昨年7月に開かれた日販協の総会には、次の政治家が来賓として出席して、軽減税率問題をはじめ新聞社経営にかかわるテーマに言及している。

丹羽雄哉(自民党・元読売新聞記者)

高市早苗(自民党)

漆原良夫(公明党)

中川雅治(自民党)

柴山昌彦(自民党)

薗浦健太郎(自民党)

山谷えり子(自民党)祝電

北村経夫(自民党)代理

中川俊直(自民党・元日経新聞記者の息子)代理

総会における各人の発言は次の通りである。

■発言の詳細PDF

2016年01月07日 (木曜日)

7月の参院選で予想される各党の獲得議席数を推測する記事が、早くも掲載されるようになった。たとえば三重大学副学長の児玉克哉氏は、Yahooニュースで、自民党の圧勝を予測している。タイトルは、「参議院選挙の予想~自民党単独過半数、自公おおさかで3分の2を確保」。

■記事の全文

具体的には次の数字を示している。

自民党  61議席(比例19議席)総計  127議席
公明党  15議席(比例8議席) 総計   26議席
おおさか  5議席(比例4議席) 総計 10議席
こころ   0議席(比例0議席) 総計  3議席

民主党  26議席(比例6議席)総計  42議席
維新の党  4議席(比例4議席) 総計    5議席
共産党   5議席(比例 4議席)総計   13議席
生活の党  2議席(比例1議席) 総計      3議席
社民党   1議席(比例1議席)総計        2議席
日本を元気 1議席(比例0議席)総計    3議席

何を根拠にこのような数字を予測しているのかは、まったく分からないが、同氏は、『週刊現代』による予想も紹介している。次の数字である。

    自民党  61議席(比例19議席)総計   127議席
 公明党   15議席(比例8議席) 総計 26議席
 おおさか 5議席(比例4議席) 総計 10議席
 こころ     0議席(比例0議席) 総計  3議席

 民主党  26議席(比例6議席)総計   42議席
 維新の党  4議席(比例4議席) 総計  5議席
 共産党   5議席(比例 4議席)総計  13議席
 生活の党  2議席(比例1議席) 総計    3議席
 社民党   1議席(比例1議席)総計  2議席
 日本を元気 1議席(比例0議席)総計  3議席

◇数字の裏付けが不明

選挙前に予想獲得議席数を公開する行為は、世論誘導の典型的な手口のひとつにほかならない。自民党が圧勝するという予測を流せば、自民党政治を嫌う人々は、「自民党の圧勝なら、投票に行く必要はない」と考えるからだ。

その結果、投票に行かない。当然、投票率が下がる。投票総数も低下する。その結果、自民党の得票数も落ちる。が、それでも「勝者ひとり」の小選挙区制の仕組みで、自民党の圧勝という奇妙な構図になる。

逆にメディアが自民党大敗の予想を流せば、反自民の勢力は、政権交代の可能性に期待して、投票場へ足を運ぶことになる。それが自民党に不利に働くことは言うまでもない。

こうしたメディアを利用した世論誘導は昔から行われてきた。メディア側がそれを自覚的にやっているのか否かは不明だが、結果として世論誘導の片棒をかついでいる。しかも、それは新聞・テレビだけではない。雑誌もインターネットも同類である。

選挙予想を公表してはいけないというルールはないが、しかし公表する以上は、数字の裏付けを詳しく示さなければならない。

ところが三重大学・児玉副学長の記事には、どういう取材と調査によって、自民党が圧勝するという結論に至ったのかが、まったく説明されていない。情報としてまったく信用できない。

◇マスコミによる世論誘導

非正規社員が労働者の約4割を占め、消費税による庶民の負担がどんどん増え、医療・福祉も削られる一方で、多国籍企業化した大企業は海外のタックスヘイブンに利益を蓄積し、空前の内部留保と好景気を享受している。このような矛盾した構図を、ジャーナリズムが客観的に報じていれば、かなり多くの国民は自民党へ投票することが、自らの首を絞める結果を生むことを自覚するだろう。

が、選挙になれば、とりこぼしはあってもやはり自民党が強い。その背景に日本のマスコミによる巧妙な世論誘導がある。われわれが想像している以上に、日本のマスコミには重大な問題を内包している。社会進歩を妨害している。

■参考記事:安倍首相の応援団と化した日本のマスコミ、『ZAITEN』が首相とメシ食う人々を紹介

2016年01月06日 (水曜日)

日本の政治家が劣化しているひとつの原因が世襲にあるのではないかと言われて久しい。世襲議員だから必ずしも能力が低いとは限らないが、そういう傾向があることは否めない。

日本では政治家の世襲は、あまり批判の対象にはならない。北朝鮮の金王朝を批判するひとはいても、日本の世襲政治家、たとえば麻生太郎氏に同じ視線を向けるひとはまずいない。

政治は舞台裏の人物が操っていることが多く、その結果、世襲があまり問題にならない可能性もある。たとえばこれが実力本位のスポーツの世界であれば、世襲は通用しない。

ジャーナリストの林克明氏が編集した本に『世襲議員-ゴールデン・リスト』(データハウス)がある。そこには170人の世襲議員の経歴が紹介されている。議員に対する評価も付されている。

2009年の出版なので、データがやや古いが、大物政治家との定評がある議員のうち、世襲議員に該当するのは次の方々である。一部を紹介しよう。

麻生太郎、小泉純一郎、福田康夫、町村信孝、石破茂、岸田文雄、宮澤洋一、伊吹文明、加藤紘一、野田毅、丹羽雄哉、島村宜伸、高村正彦、谷垣禎一、大島理森、細田博之、森山眞弓、高木毅、中谷元、小沢一郎、鳩山由紀夫、松野頼久、羽田孜、小宮山洋子、北側一雄、田中眞紀子、渡辺喜美、

このうちたとえば、週刊誌が下着(パンツ)泥棒の烙印を押した高木毅議員の経歴は次のようになっている。

■高木毅の経歴

もちろん親子は別の人格だから、世襲を禁止することはできないが、有権者が世襲議員の職能を慎重に見極めることはできる。

ジャーナリズムが正常に機能していたら、このような前近代的は状況は出現しなかったのではないか。

2016年01月05日 (火曜日)

旧日本軍が朝鮮半島で引き起こした戦争犯罪-「慰安婦」問題の解決を求める弁護士の有志36名が、昨年の12月30日に声明を発表した。これは慰安婦問題の日韓合意を受けて開かれた両国の外相による共同記者会見に反応したもので、合意内容を厳しく批判する内容になっている。

このうち岸田外相が、「安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、心身にわたり、癒やし難い傷を負われたすべての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明します。」(NNN)と、述べたことに対しては、次のように批判している。

これまでの歴史研究や裁判所の判決等の成果を踏まえるならば、日本軍が主体的に「慰安所」を立案・設置し、管理・統制していた事実や、慰安所での性暴力が国際法や国内法に違反していたことなどを認めることができる。日本政府が今日「慰安婦」問題の事実と責任に言及するのであれば、これらの研究成果等も踏まえるべきであり、それが被害者の求めていることでもある。その点で、岸田外相の上記発言は不十分と言わざるを得ない。

また、日本政府が慰安婦問題は歴史的に決着済みとしている根拠、つまり1962年の日韓請求権協定については、確かに裁判で損害賠償を求めることはできないものの、それ以外の方法では賠償を受ける権利は残っていると述べている。

さらに日本政府が10億円を負担して設立する財団については、事業内容が具体化されていないことを指摘している。

声明の全文は次の通りである。

■日本軍「慰安婦」問題に関する日韓外相会談に対する弁護士有志の声明

2016年01月01日 (金曜日)

チリの映画監督ミゲル・リティンが、1985年、パラグアイ籍のビジネスマンに変装して、亡命先からピノチェトによる軍事独裁政権下のチリに潜入し、戒厳令下の祖国を記録したドキュメンタリー。1986年に公開された。

【前半】

【後半】

2015年12月28日 (月曜日)

新聞に対する消費税の軽減税率適用が決まった。軽減される負担額、すなわち新聞を読まない国民が別途負担することになる額は、筆者試算で少なくとも360億円。このうち、最も熱心に取り組んできた公明党の支持母体(創価学会)が発行する『聖教新聞』は約23億円を免除される。

ここに至る道筋をマスコミが報じなかったため急遽決定した印象があるが、水面下では新聞業界による自民・公明への政治献金と選挙支援によって綿密な政界工作が行われていた。しかも、運動の獲得目標は8%の軽減ではなく「5%への引き下げ」だった。

政界工作の中心になったのは日販協(日本新聞販売協会)で、2014年度だけで約927万円を、高市早苗、丹羽雄哉、漆原良夫ら130名ほどの議員に献金。同年の衆院選では議員推薦も行った。新聞社が公権力に経営上の弱点や汚点を握られることでジャーナリズムが機能しなくなるのは自明だ。軽減税率適用に至るまでの、職業倫理を放棄して利権を貪った下劣な新聞業界の裏側を報告する。【続きはMyNewsJapan】

2015年12月24日 (木曜日)

「小沢一郎氏を裁いた検察審査会は、実は開かれていなかった」とする推論を『最高裁の黒い闇』 (鹿砦社)の中で記述した市民運動家の志岐武彦氏が、その推論の裏付けとなる7つの根拠を、ビデオ・カメラを前に説明した。

小沢審査(東京第5検察審査会)は2010年9月に小沢氏に対して起訴相当議決を下した。これにより小沢氏は、刑事裁判の法廷に立たされた。

ところが2012年4月、東京地裁が判決を下す直前になって、検察が小沢氏を取り調べた際に作成した報告書(事実を捏造して小沢氏を誹謗中傷したもの)が、何者かの手で『週刊朝日』やインターネット上に流出して、検察の「悪」がクローズアップされた。それが影響したかどうかは不明だが、小沢氏は無罪になった。

その後、誰がこのような策略を仕組んだのかを調査する動きが現れた。その先頭に立ったのが、最高裁事務総局による謀略説を説く志岐氏と、検察による謀略説を説く国会議員・森裕子氏であった。両者は、当初は共同戦線を張っていたが、ある時期から決別する。

次のYouTubeは、最高裁事務総局による謀略説の7つの根拠について、志岐氏が説明したものである。

なお、この問題は森裕子氏が志岐氏を名誉毀損で提訴(森氏の敗訴)したことが引き金となり、その後、別の裁判が3件も起こされ、そのうちの1件は、わたしも被告になっている。森氏は、来年の参院選の前に「市民」を巻き込んでいるこの係争についての見解を明確にすべきだろう。

また、小沢氏本人も見解を述べるべきだろう。

2015年12月22日 (火曜日)

12月9日に「最高裁をただす会」(志岐武彦代表)は、フリージャーナリストで元朝日新聞記者の吉竹幸則氏を講師に、裁判の実態について考える学習会を開いた。同会は講演をYouTubeに収録した。

吉竹氏は、朝日新聞の記者だった1990年ごろ、現在では国費のばらまきとして悪名だかい評価が定着した長良川河口堰の改修工事の実態をいちはやく取材した。公共事業による税金の無駄づかいを厳しく批判した。

しかし、朝日新聞社の上層部は、この問題に関する大半の記事を差し止めたあげく、吉竹氏を記者職からはずし、最後はいわゆる「ぶらきん」で定年をむかえさせた。労組もなんの支援もしなかった。

退職後、吉竹氏は朝日新聞社による差別待遇を本人訴訟というかたちで告発した。しかし、名古屋地裁は、判決文の中で事実の時系列を故意に捏造するなどして、あたかも吉竹氏の取材が不十分で報道するに値しなかったかのようなストーリーをでっち上げたあげく、朝日新聞社の「編集権」などを理由に、訴えを退けた。本人尋問も開かなかった。

収録したYouTubeで吉竹氏は、第1部では長良川河口堰の改修工事の実態を、第2部では軍事法廷を連想させる恐ろしい裁判の実態を語っている。

◇第1部 長良川河口堰問題とは

◇第2部 軍事法廷なみの裁判の実態

2015年12月21日 (月曜日)

読売新聞西部本社の江崎徹志法務室長が、喜田村洋一・自由人権協会代表理事を代理人として、わたしに対して著作権裁判を起こして8年が過ぎた。「戦後検証」は、係争の発端から8年目に入る。2007年12月21日、江崎氏はEメールでわたしに対してある催告書を送りつけてきた。(判決文、弁護士懲戒請求・準備書面のダウンロード可)

◇新聞販売黒書に掲載した2つの書面

発端は福岡県広川町で起こった読売新聞社とYC広川(読売新聞販売店)の間で起こった強制廃業をめぐるトラブルだった。当時、新聞販売の問題を取材していたわたしは、この事件を取材していた。

幸いに係争は解決のめどがたち、2007年の末に読売はそれまで中止していたYC広川に対する担当員の定期訪問を再開することを決めた。しかし、読売に対する不信感を募らせていたYC広川の真村店主は、読売の申し入れを受け入れるまえに、念のために顧問弁護士から、読売の真意を確かめてもらうことにした。

そこで代理人の江上武幸弁護士が書面で読売に真意を問い合わせた。これに対して、読売は江崎法務室長の名前で次の回答書を送付した。

前略 読売新聞西部本社法務室長の江崎徹志です。
   2007年(平成19年)12月17日付け内容証明郵便の件で、訪店について回答いたします。当社販売局として、通常の訪店です。

わたしは、新聞販売黒書でこの回答書を紹介した。すると即刻に江崎氏(当時は面識がなかった)からメールに添付した次の催告書が送られてきたのである。

冠省 貴殿が主宰するサイト「新聞販売黒書」に2007年12月21日付けでアップされた「読売がYC広川の訪店を再開」と題する記事には、真村氏の代理人である江上武幸弁護士に対する私の回答書の本文が全文掲載されています。

 しかし、上記の回答書は特定の個人に宛てたものであり、未公表の著作物ですので、これを公表する権利は、著作者である私が専有しています(著作権法18条1項)。  

貴殿が、この回答書を上記サイトにアップしてその内容を公表したことは、私が上記回答書について有する公表権を侵害する行為であり、民事上も刑事上も違法な行為です。

 そして、このような違法行為に対して、著作権者である私は、差止請求権を有しています(同法112条1項)ので、貴殿に対し、本書面到達日3日以内に上記記事から私の回答を削除するように催告します。  

 貴殿がこの催告に従わない場合は、相応の法的手段を採ることとなりますので、この旨を付言します。

回答書が自分の著作物なので削除するように求めているのだ。(回答書の著作物性については後述する)

わたしは、回答書の削除を断り、逆に今度はこの催告書を新聞販売黒書(現在のメディア黒書)で公開した。これに対して、江崎氏は、催告書は自分の著作物であるから、著作者人格権(注:後述)に基づいて、削除するように求めてきたのである。

が、催告書の作者は江崎氏ではなく、代筆者がいたのだ。少なくとも、後日、裁判所はそう判断したのだ。

◇喜田村洋一・自由人権協会代表理事が登場

わたしは催告書を削除するように求める江崎氏の申し出を断った。その結果、江崎氏は仮処分を申し立ててきた。ここで江崎氏の代理人として登場したのが、名誉毀損裁判や著作権裁判のスペシャリスト、喜田村洋一・自由人権協会代表理事だった。

仮処分は代理人なしに臨み、わたしの敗訴だった。そこで本訴になったのである。わたしの代理人には、江上弁護士ら福岡の販売店訴訟弁護団がついた。

著作権裁判では、通常、争点の文書、この裁判の場合は江崎氏の催告書が著作物か否かが争われる。著作物とは、著作権法によると、次の定義にあてはまるものを言う。

思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

改めて言うまでもなく、争点の文書が著作物に該当しなければ、著作権法は適用されない。

わたしの裁判でも例外にもれず、争点の催告書が著作物か否かが争われた。催告書の著作物性を争った裁判は、日本の裁判史上で初めてではないかと思う。ちなみに、新聞販売黒書に掲載した肝心の回答書の方は、争点にならなかった。

◇意外な決着

裁判は意外なかたちで決着する。裁判所は、「江崎名義」の催告書の著作物性を判断する以前に、そもそも江崎氏が催告書の作成者ではないと判断したのである。つまりもともと江崎氏には著作者人格権を根拠とした「提訴権」がないにもかかわらず、催告書の名義を「江崎」に偽って提訴に及んでいたと判断したのである。

なぜ、裁判所はこのような判断をしたのだろうか。詳細は判決に明記されているが、ひとつだけその理由を紹介しておこう。催告書の書式や文体を検証したところ、喜田村弁護士がたまたま「喜田村名義」で他社に送っていた催告書とわたし宛ての催告書の形式がそっくりであることが判明したのだ。同一人物が執筆したと判断するのが、自然だった。

つまり催告書を執筆していたのは喜田村弁護士だった。それにもかかわらず江崎氏は、自分が著作権者であることを主張したのだ。認められるはずがなかった。そもそも提訴権すらなかったのだ。

当然、江崎氏は門前払いのかたちで敗訴した。東京高裁でも、最高裁でも抗弁は認められず、江崎氏の敗訴が確定した。

◇だれが作者なのかという問題

おそらく読者の大半は、著作権という言葉を聞いたことがあるだろう。文芸作品などを創作した人が有する作品に関する権利である。その著作権は、大きく著作者財産権と著作者人格権に分類されている。

このうち著作者財産権は、作品から発生する財産の権利を規定するものである。たとえば作者が印税を受け取る権利である。この権利は第3者にも譲渡することができる。

これに対して、著作者人格権は、作者だけが有する特権を規定したものである。たとえば未発表の文芸作品を公にするか否かを作者が自分で決める権利である。第3者が勝手に公表することは、著作者人格権により禁じられている。

著作者人格権は、著作者財産権のように他人に譲渡することはできない。「一身専属」の権利である。

代理人は、既に述べたように、喜田村洋一・自由人権協会代表理事だった。
裁判所は判決の中で、催告書を執筆したのは喜田村弁護士か彼の事務所スタッフであった高い可能性を認定した。

◇弁護士懲戒請求

弁護士職務基本規程の第75条は、次のように言う。

弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。

喜田村弁護士は、問題になった「江崎名義」の催告書をみずから執筆していながら、江崎氏が書いたという前提で裁判の準備書面などを作成し、それを裁判所に提出し、法廷で自論を展開したのである。

当然、弁護士職務基本規程の第75条に抵触し、懲戒請求の対象になる。わたしが懲戒請求に踏み切ったゆえんである。

◇弁護士倫理の問題

なお、裁判の争点にはならかなったが、喜田村弁護士に対する懲戒請求申立ての中で、わたしが争点にしているもうひとつの問題がある。ほかならぬ催告書に書かれた内容そのものの奇抜性である。

著作権裁判では、とかく催告書の形式ばかりに視点が向きがちだが、書かれた内容によく注意すると、かなり突飛な内容であることが分かる。怪文書とも、恫喝文書とも読める。端的に言えば内容は、江崎氏がわたしに送付した回答書が江崎氏の著作物なので、削除しろ、削除しなければ、刑事告訴も辞さないとほのめかしているのだ。

回答書は、本当に著作権法でいう著作物なのだろうか?再度、回答書と著作権法の定義を引用してみよう。

【回答書】 前略 読売新聞西部本社法務室長の江崎徹志です。
  2007年(平成19年)12月17日付け内容証明郵便の件で、訪店について回答いたします。当社販売局として、通常の訪店です。

【著作物の定義】 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

誰が判断しても、著作物ではない。しかも、この内容の催告書を書いたのは、著作権法の権威である喜田村弁護士である。回答書が著作物ではないことを知りながら、催告書には著作物だと書いたのだ。

弁護士として倫理上、こうした行為が許されるのか疑問がある。が、日弁連はこの懲戒請求を喜田村弁護士を調査することなく却下した。

わたしは今でも、この判断は間違っていると考えている。

■知財高裁判決

■参考資料:懲戒請求申立・準備書面(1)

2015年12月18日 (金曜日)

虚偽の記事により韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の名誉を傷つけたとして起訴された産経新聞の前ソウル支局長(49)の加藤達也氏に対して、ソウル中央裁判所は、17日、無罪の判決を言い渡した。

判決そのものは真っ当で、当然の結果であるが、裁判の中で、韓国の司法制度の未熟さを国際的に露呈する取り返しのつかない珍事が発生した。改めていうまでもなく、韓国外務省が「産経新聞の加藤達也前ソウル支局長(49)の裁判に関し、検察を通じて裁判所に対し、日韓関係などを考慮し善処するよう要請した」ことである。

外務省という圧倒的な権力を握っている組織が、裁判所に対して判決の方向性を暗に示唆したわけだから、事実上、外務省の指示を受けて裁判所は、加藤氏を無罪にしたと解釈されても仕方がない。これは韓国の裁判制度そのものが正常に運営されていないことを意味する。韓国においては、三権分立は仮面であって、政治的判断により判決内容が決められていることになる。はからずも、この裁判を通じて前近代的な韓国の実態が露呈された。

当然、検察が控訴することもあり得ない。

考えてみれば、これは恐ろしいことだ。国の評価や威信にもかかわるが、実は他人事ではない。日本でもよく似た実態がある。しかも、わたしが知る日本のケースでは、韓国外務省に相当するのが、なんと新聞社である。

 ◇圧倒的に高い中央紙の裁判勝率

次のPDF資料は、「平成20年」から「平成25年」までの期間で、最高裁判所に上告(あるいは上告受理申し立て)された裁判のうち新聞社が上告人、あるいは被上告人になった裁判の勝敗表である。

結論を先に言えば新聞社(朝日・読売・日経)の48勝1敗である。これを見ると、新聞社を相手に裁判をしても、勝ち目がないことが分かる。表示した資料の中で、唯一の例外、つまり新聞社の敗訴は、である。読売が上告(受理申し立て)を行ったが、「不受理」になり敗訴が決定している。

は、上告人も被上告人も黒塗りで隠してあるが、実は上告人が読売で、被上告人がわたし「黒薮哲哉」である。黒塗りという情報公開の仕方そのものが読売に手厚く配慮したもので尋常ではない。

■最高裁における勝敗表PDF

この裁判は、MEDIA KOKUSYO(当時は、新聞販売黒書)の記事に対して、読売と3人の社員が、2008年、喜田村洋一・自由人権協会代表理事を代理人に立て、2230万円のお金を支払うように求めて起こしたものである。

地裁と高裁では、わたしが勝訴した。これに対して、読売は上告受理申し立てを行った。そして最高裁は、PDF資料にあるように、高裁判決を差し戻す判決を下したのである。これを受けて東京高裁の加藤新太郎裁判長は、わたしに対して110万円の金を払うように命じたのである。

ちなみに加藤裁判官は少なくとも2度、読売新聞に登場している。

◇アジアは依然後進国

わたしは新聞社、特に中央紙は朝日新聞をも含めて、日本の権力構造の一部に組み込まれていると考えいる。それゆえに新聞社を相手に裁判をしても、勝ち目がない。新聞販売店訴訟で、裁判所がいかに道理のない判決を下してきたかは、拙著『新聞の危機と偽装部数』(花伝社)に詳しい。現場の取材もせずに、「押し紙」は1部も存在しないと認定しているのが、その分かりやすい実例である。

韓国の醜態(しゅうたい)は、他人事ではない。

2015年12月17日 (木曜日)

2015年10月度のABC部数を紹介しよう。新聞の長期低落傾向に歯止めがかかる気配はない。この1年間で朝日、読売、毎日、産経、日経の中央紙5紙は、総計で発行部数を約72万部減らしている。

一方、地方紙・ブロック紙、それにABC調査の対象となっている若干の子供新聞や英字紙などは、総計で約25万部を失った。つまり1年の間に日本全体では、約100万部の新聞が減ったことになる。

中堅規模の地方紙が3社ほど姿を消した計算になる。文化のにない手、あるいはニュースの提供源が紙メディアから電子メディアにシフトチェンジしている現象を反映している。

朝日、読売、毎日の部数変動は次の通りである。()内は対前年同月差。

朝日:665万部(-37万部)
読売:910万部(-27万部)
毎日:326万部(-7万部)
産経:166万部(-1万部)
日経:274万部(---)

■2015年10月度のABC部数の詳細全データ

◇「押し紙」問題は未解決

ABC部数を解析する場合に、考慮しなければならないのは、ABC部数が必ずしも実配部数(実際に配達されている新聞の部数)を反映しているとは限らないという点である。

日本の新聞社の多くは「押し紙」政策を採用してきた事実があり、これが原因で「ABC部数=実配部数」という解釈を困難にしている。両者は別物である。

「押し紙」とは、新聞社が配達部数を超えて販売店に搬入する部数のことである。たとえば2000部の新聞を配達している販売店に、2500部を搬入すれば、差異の500部が「押し紙」ということになる。

新聞社は「押し紙」についても新聞の卸し代金を徴収する。また、「押し紙」部数をABC部数に加算することで、紙面広告の媒体価値をつり上げる。

広告主からも、「押し紙」政策を批判する声が挙がっているが、日本新聞協会は、「押し紙」は存在しないとする立場を貫いている。しかし、「押し紙」は、新聞業界では周知の事実となっており、それを足下の大問題として検証しないこと自体が真実を追究するジャーナリズムの姿勢からはほど遠い。

「押し紙」は独禁法に抵触するので、公権力がそれを逆手に取れば、メディアコントロールの道具になる。その意味では、極めて危険な要素だ。

2015年12月16日 (水曜日)

市民運動家の志岐武彦氏が歌手で作家の八木啓代氏に対して起こした名誉毀損裁判が東京高裁へ舞台を移すことが確実になった。地裁で敗訴した八木氏が控訴したのを受けて、志岐氏も控訴を決めた。高裁での争点は、名誉毀損の認定をめぐる抗弁に加えて、八木氏が命じられた賠償額10万円の妥当性になりそうだ。

地裁判決のうち判決文の本文はすでに紹介したが、その後半、八木氏による具体的なツイートを裁判所がどう見たかを示す一覧を紹介しよう。判決文の記述部分も再掲載する。

■判決文の本文

■判決文のうちツイートを評価した部分(一覧表)

なお、この裁判に対抗して八木氏は、志岐氏に対して別訴を起こし、被告として志岐氏だけではなく、わたし(黒薮)も加えてきた。提訴後、八木氏は前訴と新案件を統合することを裁判所に希望したが、裁判所はわたしが前訴とはかかわりがない事情に配慮して、別々に審理を行うことにした。

この裁判については、結審の後、検証作業を開始する予定にしている。ただ、わたしを被告に加えたことが訴権の濫用にあたると考えていることだけは、現段階で付け加えておきたい。