新聞社の世論調査は本当に信用できるのか ——収益構造から読み解く支持率報道の裏側

新聞各社が発表する内閣支持率は、政治状況の判断材料として大きな影響力を持つ。しかしその数字は本当に信頼できるのだろうか。高市内閣をめぐっては、批判が強まっているにもかかわらず支持率が上昇するという不可解な傾向が続く。本記事では、世論調査そのものを直接否定するのではなく、新聞社の収益構造──とりわけ「押し紙」による莫大な利益──に着目することで、世論調査の数字が客観的かつ中立なデータとして扱えるのかを検証していく。
日本のメディアが定期的に公表している世論調査に、正確な裏付けはあるのだろうか。10月に新聞各社が公表した高市内閣の支持率は次の通りである。
朝日新聞 68%
産経新聞 75.4%
毎日新聞 65%
日経新聞 74%
読売新聞 71%
共同通信 64.4%
ところがその後、台湾をめぐる発言で国内外から激しい反発を受けたにもかかわらず、支持率は高くなる傾向があるようだ。たとえば11月16日付の毎日新聞は、支持率が69%になったと報じている。国民の約7割は高市内閣を支持しているというのだ。
当然、これらの数字が高市内閣の方向性を支持しているとなれば、強引に日本の右傾化を推し進める根拠になる。世界から批判の的になっている高市首相にとっては、願ってもない数字である。
が、肝心の数字に根拠はあるのだろうか。
この記事では、新聞社の収益構造の観点から数字の信ぴょう性を検証してみよう。数字そのものが信用できないことについては、次の記事を参考にしてほしい。世論動向を推測する目的に最も合致した国政選挙の比例区における各党の得票率と、メディアが公表する数字に整合性がない点を指摘した記事である。
【参考記事】中央紙の年間の「押し紙」収入420億円から850億円──内閣支持率82%? マスコミ世論調査を疑う背景と根拠
◾️新聞社の収益構造から見る信ぴょう性
メディアの性質を解析するときに、最も重要な項目のひとつは、だれがメディア企業を運営するための資金の提供者なのかという点である。資金源が枯渇すると、メディア企業が成り立たなくなるからだ。
「押し紙」と呼ばれる新聞がある。これはごく簡単にいえば、新聞社が新聞販売店に対してノルマとして買い取りを強制する新聞のことである。たとえば3000部を3000人の読者に配達している販売店に4000部の新聞を搬入すれば、1000部が過剰になる。新聞の破損を想定して若干の予備紙を必要とするものの、ほぼ1000部がノルマである。この部数が「押し紙」といわれるものである。
改めて言うまでもなく、販売店は「押し紙」の代金を新聞社に納金しなければならない。
※厳密な定義については別にあるがここでは言及しない。
この「押し紙」により、後述するように新聞社は莫大な利益を上げているのだが、「押し紙」は独禁法で禁止されている。ところがおかしなことに、行政機関も裁判所も「押し紙」を容認している。取り締まりの対象にはなっていない。
◾️「押し紙」の実態と規模
全国にはどの程度の「押し紙」があるのだろうか。「押し紙」の量を裏付けるデータは、これまで度々明らかになっている。たとえば2004年に毎日新聞の内部資料が社外へ流出し、その中で販売店に搬入される新聞の約36%が「押し紙」であることが判明した。
内部資料をもとに試算した「押し紙」による販売収入は、年間で約295億円になる。詳細については、次の記事を参考にされたい。
【参考記事】国策としての「押し紙」問題の放置と黙認、毎日新聞の内部資料「発証数の推移」から不正な販売収入を試算、年間で259億円に
朝日新聞の「押し紙」の実態も明らかになっている。たとえば2014年に同社が実施した調査によると、「押し紙」率は次の通りである。
・「朝刊・夕刊のセット版」:29%
・「朝刊単独版」:25%
これらの数字が判明したのは、やはり内部資料が外部へ流出したことが原因である。
読売新聞や産経新聞の場合は、この種の内部資料が外部へ漏れたことはないが、これまで新聞販売店が繰り返し「押し紙」による損害賠償を求める裁判を起こしてきた関係で、かなり「押し紙」の実態が明らかになっている。
メディア黒書が行った裁判の取材によると、読売新聞と産経新聞の場合は、おおむね3割から4割が「押し紙」である。
◾️中央紙が得ている収入規模
「押し紙」による新聞社の不正な販売収入は、想像以上に巨額である。2025年8月時点で、中央紙(朝日・毎日・読売・産経・日経)の発行部数は約1180万部とされている。
このうち「押し紙」の割合を20%と仮定すると、約236万部になる。新聞1部あたりの卸価格を月額1500円(すべて朝刊単独版と仮定)とすれば、1か月あたりの「押し紙」販売収入は約35億4000万円、年間では約424億8000万円にのぼる。
もし「押し紙」率が40%に達すれば、年間収入は約850億円にもなる。もちろん、新聞社はこうしもちろん、こうした販売収入の一部、押し紙を買い取るための補助金と言う形で販売店に戻しているが、それを差し引いたとしても、莫大な販売収入を得ている。
しかも、この試算は控えめな前提条件に基づく。「朝・夕刊」セット版の場合、卸価格が2000円程度に上がるため、収入はさらに増加する。
また最近の中央紙に関する裁判では、「押し紙」率が40〜50%に及ぶケースも報告されており、筆者の試算に誇張はないといえる。
◾️「押し紙」が広告収入にも影響
しかし、「押し紙」制度の大罪はこれだけではない。
「押し紙」により新聞の公称部数(ABC部数)は水増しされる。その結果、何が起こるのか? 答えは簡単で、紙面広告の媒体価値が上昇することである。それにより広告収入も増える原理になっている。
逆説的に言えば、新聞社は、ABC部数をかさ上げするために、販売店に対して補助金を支出してまで、「押し紙」を買い取らせているのである。
このような手口は、一種のマネーロンダリングではないか?
もっとも最近は、新聞の公称部数に「押し紙」が含まれていることが公けになってきたこともあって、紙面広告の価格交渉で部数の大小が重視されなくなっている側面はあるが、少なくとも広告価格を設定するときの基礎資料になっていることは議論の余地がない。
◾️公権力機関はなぜ、「押し紙」を取り締まられないのか
既に述べたように、「押し紙」は独禁法に違反しており取り締まりの対象になる。それを立証するための資料の存在も明らかになっている。が、公権力はこの問題だけは絶対に踏み込まない。弱小な地方紙にメスが入ったことはあるが、中央紙の場合は逆に公権力が「押し紙」生徒を保護しているのが実態だ。
なぜ、公権力は新聞社を保護するのだろうか。
それは「押し紙」の汚点を把握しておけば、それを新聞社との取引材料として使うメディアコントロールが可能になるからだ。世論誘導に利用できるからに他ならない。
メディアコントロールは、経済のアキレス腱を握ることで可能になる。この原理は、実は戦前・戦中から変わっていない。戦前・戦中、政府は新聞用紙の配給制度を逆手にとって新聞をプロパガンダ機関に変質させたのである。今はそれが「押し紙」の黙認に変わっているに過ぎない。
2025年、高市政権の下でも同じ構図が構築されている。新聞社の世論調査が嘘だとする確証はないが、少なくとも新聞社の収益構造を検証する限りでは、信頼できる数字でない。
ちなみに高市首相は、新聞業界から政治献金を受けていた経緯がある。次の記事を参考にされたい。
【参考記事】高市早苗の政治献金とマネーロンダリングに関する全記事
