1. 新聞労連が新聞奨学生の問題でシンポジウム、「求人パンフレットに書いてあることと、実際の労働実態が異なっている」

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2017年08月07日 (月曜日)

新聞労連が新聞奨学生の問題でシンポジウム、「求人パンフレットに書いてあることと、実際の労働実態が異なっている」

新聞労連と新聞通信合同ユニオンは、6日、東京都の文京区内で「新聞奨学生と求人詐欺~改正職安法は学生をまもれるか?」と題するシンポジウムを開いた。新聞奨学生SOSネットワークの村澤潤平代表、新聞労連の加藤健書記次長、それに法政大学の上西充子教授が報告した。

このうち村澤氏は、新聞奨学生が頻繁に直面する最大の問題を、

「求人パンフレットに書いてあることと、実際の労働実態が異なっている」

と、指摘した。

奨学生を希望する者は、パンフレットの内容、あるいは説明会の内容を確認して、奨学生に募集する。ところが実際に仕事を始めてみると、労働条件がかなり異なっているケースが少なくない。

なかには夕刊の配達時間と学校での授業の時間帯が重なって、授業が受けられないこともある。4年生大学を4年で卒業できないような実態もあるという。
奨学生を辞めようにも、授業料を前借りしているので、一括返済が出来なければ、退職できない。結局、学業を断念して、新聞販売店の仕事だけに専念して、借金を返済せざるを得ない。

求人パンフレットと労働実態が著しく異なる実例として、パンフレットでは手取りが9万円と記されていたが、実際には3万円しか払ってもらえなかったケース(2010年)などが紹介された。また、新聞拡販は任意に行うという説明を受けていながら、実際には、強制されるケースも後を絶たない。

その他、求人パンフレットには書かれていない電話番や自転車のパンク修理、庭木の剪定まで命じられたケースも報告された。

◇奨学生からの相談は絶えない

加藤氏は、奨学生問題の背景にある新聞業界の衰退について報告した。新聞協会のデータによると、新聞販売店の店舗数は、2001年の段階では、2万1864店だったが、2016年には、1万6731店に減った。新聞販売店で働く人員は、2001年は約46万人だったが、2016年は約31万人まで減少した。そして奨学生の数は、2001年の1万6333人から、2016年には4573人にまで激減した。

業界の規模は縮小している。しかし、加藤氏は、

「相談はあいかわらず寄せられています」

と、話す。

販売店の店数が減ると、販売店が統合されるので、逆に配達範囲がどんどん広がり、労働実態はより厳しくなる。新聞労連への相談が絶えない背景である。

解決の事例としては、新聞労連に加盟している発行本社の組合を通じて、対策を取った実例もあるという。たとえば奨学生を辞めて、奨学金の一括返済を迫れていた相談者と新聞奨学会・販売店の間に、発行本社の組合が入って分割返済で合意したケースなどである。

◇求人パンフの記述があいまい

上西教授は、改正職業安定法により、問題の解決に方向性が見えてきた実情を報告した。

「改正労働法を根拠に、きちんと本来の労働条件を求人パンフレットに書かせるようにすることが大事です」

上西教授によると、求人パンフレットの記述には、曖昧な部分、あるいはどうにでも解釈できる記述が多々みうけられるという。たとえば、朝日奨学生の求人パンフには、「月額平均152,240円(早朝手当を含む)と記されているが、月給なのか、時給なのか曖昧だという。「平均」と記されているわけだから、時給を明記しなければならない。日経新聞の求人パンフには、労働時間の記述すらない。

その他、「『待遇に勤務地に関する記載がなく、勤務地がどう決まるのか分からない」「労働契約は誰と結ぶのか、販売店とであるのか、はっきりしない」「育英奨学会の案内主体は職業紹介事業者なのか、はっきりしない」などの問題が指摘された。上西教授は、

「まず、奨学会が職業紹介事業者であることを理解させることが大切です」

と、話す。

ちなみに奨学会の事業が、職業紹介事業者に該当するかどうかは、現在のところ確定的な解釈は存在しない。筆者が毎日新聞の奨学制度について調べた限りでは、職業紹介事業者としての事業者登録はなかった。しかし、実態としては、明らかに職業紹介事業者である。

◇解雇し、さらに奨学金の返済を迫る

会場からも次のような報告があった。息子が新聞奨学生を途中で一方的に解雇された。その背景には、より使い勝手がいいベトナムからリクルートした「奨学生」を雇用した事情があるように感じる。一方的な解雇であるから、当然、奨学金の返済義務はないはずだが、返済を求められている。

ベトナムから新聞販売の従業員をリクルートする制度は、朝日新聞などが本格化させている。かつては中国や韓国の留学生を雇用するケースが目立ったが、現在、主流はベトナム人になっている。

筆者が販売店を取材したところ、トラブルも発生しているという。たとえば、ベトナム人の女性留学生に店主の自宅の家事をさせたといったトラブルである。

昔から労働問題が絶えない新聞業界。情報を人力で配達するスタイルそのものが、既に時代に即していないことはいうまでもない。新しいビジネスモデルを構築していかなければ、新聞社は生き残れないのではないか。

【写真】新聞奨学生SOSネットワークの村澤潤平代表

 

【参考記事】新聞販売店(ASA)から悲鳴、「新聞配達員がいない」、海外から250名を超える新聞配達員をリクルート