1. 日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を取材する、新聞社・放送局の優遇と国際報道の著しい軽視傾向

マスコミ報道・世論誘導に関連する記事

2017年08月30日 (水曜日)

日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を取材する、新聞社・放送局の優遇と国際報道の著しい軽視傾向

メディア黒書に掲載した吉竹幸則(ジャーナリスト、元朝日新聞記者)の「朝日のJCJ大賞受賞に異議あり、森友・加計報道は本当に朝日の特ダネなのか」(2017年08月09日)は、反響が大きかった。

JCJ賞は権威ある賞で、過去には斉藤茂男氏や本多勝一氏、それに立花隆氏ら著名なジャーナリストも受賞している。

そのためにあまり賞の性質について負の側面から考えたことはなかった。しかし、吉竹氏の記事を契機として、筆者は、去る19日にプレスセンターで行われた2017年度の授賞式に、取材をかねて参加してみた。はじめてこの賞について取材したのだ。

その結果、ある2つの特徴に気づいた。いずれも負の要素である。

◇受賞対象は国内のニュースに限定か?

まず、2017年度はいうまでもなく、他年度についても、受賞作が国内のテーマに絞られ、国際的なテーマが除外される顕著な傾向があることだ。2017年度の受賞作は、次の通りである。すべて国内のテーマだ。

 ・「森友学園」への国有地売却と「加計学園」獣医学部新設をめぐるスクープと一連の報道(大賞)朝日新聞社

・『「日米合同委員会」の研究─謎の権力構造の正体に迫る』(創元社)に結実した研究成果 吉田敏浩

・「高江・辺野古の基地建設強行を問う一連の報道」沖縄タイムス

・「政務活動費不正のスクープと地方議会改革の一連のキャンペーン」北日本新聞

・「富山市議会における政務活動費の不正を明らかにした調査報道」チューリップテレビ

新聞の第一面がほとんど連日、国内ニュースで占められる傾向は、日本の新聞ジャーナリズムの著しい特徴である。欧米では、国際ニュースの方が重視される。国内のニュースを重視する従来のジャーナリズムの傾向が、JCJ賞にもそのまま反映している。

ちなみにこの10年間の受賞作を調べてみたところ、国際的なテーマを扱った作品が受賞したのは、2010度の『ルポ 資源大陸アフリカ─暴力が結ぶ貧困と繁栄』(白戸圭一著、東洋経済新報社)の1作品だけだ。国際化の時代に、これはある意味では驚くべきことだ。

◇幻の大賞『スノーデン、監視社会の恐怖を語る』

しかし、皮肉なことに今年のJCJ賞授賞式では、クイーンズ大学(カナダ)の大学院生で、ジャーナリストの小笠原みどり氏が講演した。テーマは、エドワード・スノーデンが告発した監視社会の恐怖である。会場で小笠原氏が著した『スノーデン、監視社会の恐怖を語る』を購入して、さっそく読んでみた。メディア黒書でも取りあげたように、重大な同時代のテーマを扱った本である。

筆者が不思議に感じたのは、なぜ、小笠原氏の『スノーデン、監視社会の恐怖を語る』がJCJ賞の対象から外れたのかという点だった。発売が昨年の12月だから、推薦の条件にも合致している。JCJ大賞を受けた朝日新聞の報道よりも、こちらの方がはるかにレベルが上だと思った。

◇「東京新聞の望月衣塑子記者に特別賞を」の是非

JCJ賞の2つ目の特徴として、受賞団体の大半が、新聞社か放送局になっている事実だ。2017年度の場合、個人の受賞は吉田敏浩氏だけだった。

ジャーナリズムの神髄は、新聞記事やテレビニュースではなく、はやり公開のハードルが最も高い書籍ジャーナリズムである。内容をごまかせないから、出版のハードルが高いのだ。映像などは、簡単にイメージ操作ができる。
その書籍が最も軽んじられているのだ。

組織ジャーナリズムを過信する傾向は、審査員の発言の中にもかいま見えた。たとえば、柴田鉄治(元朝日新聞)氏が次のような趣旨の発言をした。

「受賞には至らなかったが、実は、東京新聞の望月衣塑子記者に特別賞を与えてもいいのではないかとも思った」

望月衣塑子記者は、記者会見の際に果敢な質問をすることで話題になった。彼女の鋭い質問をするその姿勢に対して賞を与えることを考えたというのだ。

普通、賞というものは、仕事の成果に対して贈るものである。記者の姿勢に対して贈ったという話は聞いたことがなかった。

筆者は、2017年度の授賞式を取材してみて、日本のジャーナリズムは完全におかしくなっていると思った。