控訴審判決を前にして モラル崩壊の元凶 -押し紙-
福岡・佐賀押し紙弁護団 江 上 武 幸 (文責)2025(令和7)年7月16日
7月3日(木)午後1時25分の西日本新聞押し紙訴訟福岡高裁判決の言渡期日が迫ってきました。既報のとおり、福岡地裁判決は前年の4月1日に東京高裁・東京地裁・札幌地裁から転勤してきたいわゆる「東京組」と呼ばれる3人の裁判官達による判決でしたので、敗訴判決が出る可能性はある程度予期せざるを得ませんでした。
しかし、この裁判では、西日本新聞社が原告販売店に毎年4月と10月に前月より200部も多い部数を供給し続けていること、その目的は、原告の押し紙の仕入代金の赤字を補填するために折込広告部数算定の基礎となるABC部数を大きくするためであること、つまり、押し紙政策を続けるために西日本新聞社が主導して折込広告料の不正取得(詐欺行為)を行わせていたことが明らかでした。
また、押し紙を行っている新聞社は、西日本新聞社に限らず押し紙の責任を販売店に押し付けるために、販売店の実配数は知らないし知り得ないと主張します。しかしこの点についても、西日本新聞社は販売店の実配数を把握しており、毎月、実売部数を記載した部数表を作成し、外部に知れないように本社で厳重に管理している事実を認めました。
この裁判は販売店が勝訴する条件が充分に揃った裁判でしたので、敗訴判決を聞いた瞬間、東京組の裁判官3名を福岡に派遣した最高裁事務総局の、新聞社の押し紙敗訴判決は出させないという強い意志を感じました。
* 福岡地裁判決の問題点については、5月25日に投稿した「控訴準備書面(全文)」をご覧ください。
福岡高裁の裁判官達が九州モンロー主義が支配した時代にみられた「最高裁なにするものぞ」という気概に満ちた判決をくだしてくれるかどうか、皆様と共に期待しながら待ちたいと思います。
なお、近時、司法試験合格者の裁判官希望者が少なくなっており、若い裁判官の中途退官も増えていると聞いています。外部からはこれらの情報はなかなか知ることはできませんが、幸い、岡口基一元裁判官がフェイスブックで裁判の独立と裁判官の果たすべき役割について積極的に発信しておられますので、それらの様子を伺い知ることができています。
裁判所内部からも岡口元裁判官と同じ危機意識をもった人たちの動きが表面化してくれることを期待しています。
西日本新聞佐賀県販売店押し紙訴訟結審のお知らせ、モラル崩壊の元凶―押し紙―
福岡・佐賀押し紙弁護団 江上武幸(文責)2025(令7)年5月22日
福岡地裁の西日本新聞佐賀県販売店の押し紙訴訟は、5月20日に原告本人尋問と販売部長の証人尋問が実施され、9月9日(火)1時10分に判決言渡しと決まりました。一審で敗訴した長崎県販売店の福岡高裁の判決は、既報のとおり、7月3日(木)1時25分に言渡し予定です。
二つの訴訟は、主張と証拠はほぼ同一ですので、担当する裁判官によって、それぞれどのような判断が示されるのか興味が持たれるところです。
なお、佐賀県販売店の原告本人と販売部長の尋問の結果とその評価については、近日中に報告させていただくことにします。
* 追記
長崎販売店の控訴審において、提出済みの書証について説明した準備書面を提出しましたので、興味のある方は御覧ください。なお、個人名は黒塗りしております。
甲斐弦著『GHQ検閲官』の読後感-モラル崩壊の元凶「押し紙」-
福岡・佐賀押し紙弁護団 江上武幸(文責) 2025(令和7)年5月 1日
阿蘇の北外輪山に、カルデラの中央に横たわる涅槃像の形をした噴煙をたなびかせる阿蘇五岳をながめることができる絶好の観光スポットがあります。外輪山最高峰の「大観峰」と呼ばれる峰です。小国町の温泉旅館に宿泊したときなど、天気がよければ大観峰まで足を延ばし雄大な阿蘇の景色をみて帰ったりします。
最近、熊本インター経由で久留米に帰るため大観峰から内牧温泉にくだる道を通ったことがあります。 山の上の広々した草原地帯と異なり、道の両側には鬱蒼とした杉林が続いていました。おそらく、湯けむりで湿った空気が斜面をのぼり、時には雨を降らせるような地形が杉の成長に適しているのではないでしょうか。
ところで、昨年12月に関東地区新聞労連の役員会に招かれたことから、ネットで新聞の歴史を調べていたところ、偶然、甲斐弦熊本学園大学名誉教授の『GHQ検閲官』(経営科学出版)という本を見つけました。
「元検閲官だった著者が米軍検閲の実態を生々しく描き出した敗戦秘史がここに復刻」・「敗戦で日本人は軍のくびきから解放され自由を与えられたと無邪気に信じ込んでいるが、戦争は終わったわけではなく、今なお続いているのである。」とのカバーに目をひかれ、さっそくアマゾンで購入しました。
押し紙(その1)平成11年の新聞特殊指定「改正」の謎-モラル崩壊の元凶 -
福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士 江上武幸(文責)2025年(令和7年)4月15日
(年号は、西暦と和暦をランダムに用いることをあらかじめお断りしておきます。)
・新聞倫理綱領(2000(平成12)年6月21日制定)
「編集、制作、広告、販売などすべての新聞人は、自らを厳しく律し、品格を重んじなければならない。」・「新聞は、公共の利害を害することのないよう、十分配慮しなければならない。」・「販売にあたっては節度と良識をもってひとびとと接すべきである。」
・新聞販売綱領(2001(平成13)年6月20日制定)
「新聞販売に携わるすべての人々は、言論・表現の自由を守るために、それぞれの経営の独立に寄与する責任を負っている。販売活動においては、自らを厳しき律し、ルールを順守して節度と責任ある競争の中で、読者の信頼と理解を得るよう努める。」
日本の新聞は明治・大正・昭和と軍国主義日本の台頭と歩調を一にして発展してきました。戦前、1000社を超えた新聞社は、戦争に向けて国論を統一するために50数社に整理統合され、戦時中は大本営発表を垂れ流す軍の広報紙に成り下がりました。戦後は、多くの若者を戦地に送り出して無駄死にさせた責任をとることもなく、新聞経営者らは、一転して占領軍の手先となって、鬼畜米英の対象だったアメリカを美化する役割を引き受けました。
讀賣新聞の正力松太郎氏や朝日新聞の緒方竹虎氏らがCIAのスパイ、あるいは協力者となったことは戦後日本の歴史的事実です。戦前の戦意高揚の記事の氾濫の中、戦地に送られて亡くなっていった若者達や、銃後に家族を残したまま最前線で餓死状態で死んでいった壮年兵達、あるいは内地で空襲や原爆でなくなっていった人達、沖縄で断崖から飛び降りていった人達など、多くの戦争の犠牲者の方達の無念の思いはどこに行ったのでしょか。
ウクライナやイスラエルのガザでは今でも戦争が続いており、数え切れないほどの尊い命が失われています。せっかくこの世に生を受けてきた幼い子供たちも大勢殺されています。21世紀に生きる私達は、宇宙から地球を見ることができる神の目を持ちえた最初の人類です。地球が広大な漆黒の闇に浮かぶチリほどの存在にすぎないことを知っています。同時にこの地球を滅ぼすことが出来る大量の核兵器を製造し貯蔵していること、原子力発電所を多数稼働させていること、それらがいったん暴走を始めたら誰のもとめることが出来ないことを知っています。
ネット上で巨石文明の写真をみると、人類は滅亡と誕生を繰り返してきたとの説もあながち嘘とは思えません。祖父母の世代は日清・日露戦争、父母の世代は太平洋戦争を経験しています。私たちの世代だけが戦争のない平和な時代を過ごせていいのだろうかという思いを抱えてきました。人生は長くてせいぜい7~80年程度です。残された時の間に私達の世代も同じ体験することになっても不思議ではありません。
しかし、高齢の私はともかく、次世代の子供や孫達の時代に戦争を体験することにならないようにしなければなりません。戦争の準備が着々と進んでいるかのように見えてきており、人間の愚かさをしみじみと感じるようになりました。
戦後民主主義教育を受けた世代で、新聞・テレビ等のマスメディアに対しては漠然とした信頼感がありました。まさか嘘はつかないだろうと思ってきました。しかし、ひょんなことから押し紙問題に首を突っ込むようになり新聞業界の闇を覗いたことから、はたして新聞・テレビが果たしている役割とはなんだろうという疑問と不安を覚えるようになりました。戦前と同じ過ちを新聞・テレビのマスメディアが繰り返す心配はないか。せめて、日本は戦争をせず、他国の戦争にも巻き込まれない、平和な国であって欲しいものです。
アメリカ並みの軍産官界複合体のもとマスコミを動員して戦争熱を掻き立てたるようになれば、その行き着く先は第二次世界大戦以上に恐ろしい光景しか見えてきません。幸い、今のところネット上でも公然と戦争熱をあおる番組には出会っていませんが、鬱積した失われた30年に対する若者の怒りが爆発したとき、そのエネルギーがどこに向かうのか心配です。
西日本新聞押し紙訴訟 控訴理由書提出のお知らせ― モラル崩壊の元凶 押し紙 ―
福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士 江上武幸(文責) 2025年(令和7年)2月27日
去る2月17日、長崎県にある西日本新聞・販売店の押し紙訴訟の控訴理由書を福岡高裁に提出しましたので、ご報告致します。
*西日本新聞長崎県販売店の押し紙訴訟については、「西日本新聞押し紙裁判控訴のお知らせ」(2025年〈令和7年〉1月18日付)、「西日本新聞福岡地裁押し紙敗訴判決のお知らせ」(2024年〈令和6年〉12月26日付)、「西日本新聞押し紙訴訟判決とオスプレイ搭乗記事の掲載について」(同年12月22日付)、「西日本新聞押し紙訴訟判決期日決定のご報告」(同年10月15日)を投稿しておりますので、ご一読いただければ幸いです。
また、1999年(平成11年)新聞特殊指定の改定の背景に、当時の日本新聞協会長で讀賣新聞の渡邉恒雄氏と公正取引委員会委員長の根來泰周氏の存在があったことを指摘した黒薮さんの記事、「1999年(平成11年)の新聞特殊指定の改定、押し紙容認への道を開く『策略』」(2024年(令和6年)12月31日付)も是非ご覧ください。
西日本新聞社の押し紙裁判は、現在、2つの裁判が継続しています。長崎県の元販売店経営者を原告とする裁判と、佐賀県の元販売店経営者を原告とする裁判です。
2つの裁判は、ほぼ同時期に提訴しましたので併合審理の申立を行うことも検討しましたが、認められる可能性は薄いと考えたのと、同じ裁判体で審理した場合、勝訴か敗訴判決のいずれか一方しかありませんので、敗訴の危険を分散するために別々の裁判体で審理をすすめることにしました。
これまでも指摘しましたが、今回の敗訴判決を言い渡した裁判官は、2023年(令和5年)4月1日に、東京高裁・東京地裁・札幌地裁から福岡地裁に転勤してきた裁判官です。しかも、裁判長は元司法研修所教官、右陪席は元最高裁の局付裁判官であることから、敗訴判決は想定の範囲内であり、あまり違和感はなかったのですが、原告勝訴の条件がそろっている本件について、三人の裁判官達が如何なる論理構成によって原告敗訴の判決を書いたのかについて、控訴理由書でその問題点を指摘すると共に、新聞特殊指定の押し紙に該当しない場合、独禁法2条9項5号ハの法定優越的地位濫用の有無の判断を求める新たは主張を追加しました。
高裁が、どのような判断を示すかについて、引き続き関心を寄せていただくようお願いします。
西日本新聞押し紙裁判 控訴のお知らせ―モラル崩壊の元凶 押し紙―
福岡・佐賀押し紙弁護団弁護士 江上武幸(文責)2025年(令和7年)1月15日
令和6年12月24日の西日本新聞押し紙訴訟の福岡地裁敗訴判決について、同月27日に福岡高裁に控訴したことをご報告します。本稿では、判決を一読した私の個人的感想を述べさせて頂きます。
なお、「弁護士ドットコム・押し紙」で検索して戴ければ、判決の内容が簡潔且つ的確に紹介されております。
* 弁護士ドットコムの読者の方の投稿に弁護士費用を心配されるむきがありますが、法テラスの弁護士費用立替制度なども用意されていますので、地元弁護士会等の無料法律相談窓口などを気軽に利用されることをお勧めします。
* 別の合議体に係属中の西日本新聞押し紙訴訟(原告は佐賀県の販売店)は、証拠調べを残すだけになっております。
西日本新聞福岡地裁押し紙敗訴判決のお知らせ―モラル崩壊の元凶 押し紙―
- 福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士・江上武幸(文責)2024年(令和6年)12月25日
昨日(24日)、午後1時15分から、福岡地裁本庁903号法廷で、西日本新聞販売店(長崎県)の押し紙裁判の判決が言い渡されました。傍聴席には西日本新聞社関係者が10名程度ばらばらに座っていましたが、相手方弁護士席には誰もいないので、一瞬、原告のSさんと「ひょっとしたら」という思いに囚われましたが、予期した通り敗訴判決でした。判決文は入手できていませんので、とりあえず結果を報告します。
合議体の三名の裁判官は、昨年4月1日にそれぞれ東京高裁・東京地裁・札幌地裁から福岡地裁に転勤してきた裁判官で、裁判長は司法研修所教官、右陪席は最高裁の局付の経歴の持ち主であり、いわゆるエリートコースを歩んできた裁判官達です。
合議体の裁判官全員が同時に交代する裁判を経験したのは弁護士生活48年で初めてであり、他の弁護士・弁護団が担当している各地の押し紙裁判でも、奇妙な裁判官人事が行われていることは承知していましたので、敗訴判決の危険性は常に感じながら訴訟を進行してきました。
最高裁事務総局による意図的な裁判官人事の問題については、福島重雄裁判官、宮本康昭裁判官、最近では瀬木比呂志裁判官、樋口英明裁判官、岡口基一裁判官ら(注・いずれも元裁判官)、多数の裁判官が著作を出版されており、最高裁事務総局内部の様々な動きを知ることができます。大変、ありがたいことです。
西日本新聞押し紙訴訟判決とオスプレイ搭乗記事の掲載について―モラル崩壊の元凶 押し紙―
福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士・ 江上武幸(文責)2024年(令和6年)12月20日
11月28日(木)付西日本新聞の朝刊1面のトップに、「『国防の最前線』実感 屋久島沖墜落1年、オスプレイ搭乗ルポ」と題する記事が掲載されていました。
オスプレイは、ご承知のとおりアメリカでは「未亡人製造機」と呼ばれるほど墜落死亡事故の多い軍用機で、開発段階から昨年11月の鹿児島県屋久島沖墜落事故までに計63人が死亡しています。生産ラインは2026年に終了予定で、世界で唯一の輸入国である日本は、陸上自衛隊が17機を総額3600億円で購入し、来年6月に佐賀空港に配備する予定です。
関東地区新聞労連役員会における意見発表について -モラル崩壊の元凶「押し紙」-
福岡・佐賀押し紙弁護団・ 江 上 武 幸 (2024年「令和6年」12月19日)
去る11月29日(金)、ワークピア横浜で開催された関東地区新聞労連の役員会で、「新聞の過去・いま・将来」をテーマに意見発表する機会を得ましたのでご報告申し上げます。
私は、6月に、第8回横浜トリエンナーレを見学しましたが、メイン会場に足を踏み入れた途端、ミサイルが空気を切り裂く音を口真似で再現した映像作品に出合い、ウクライナやパレスチナで悲惨な戦争が続いている現実に引き戻されました。
2歳の孫を連れていましたので、大量破壊兵器を用いた無差別虐殺が行われていることが信じがたい反面、世界平和への強い政治的メッセージをもったアート作品を展示している横浜市民の皆さんの懐の深さに敬意を覚えました。
横浜は、日本で一番古い新聞が発行された街であること、熊本出身の宮崎滔天と中国の革命家孫文が出会った街であること、それに日本新聞協会が運営する日本新聞博物館があることを知りました。
京浜東北線の関内駅を下車し、日本新聞博物館に立ち寄ったところ、先生方に引率された小・中学生が社会科見学にきていました。国民の知る権利・表現の自由を保障するうえで新聞の果たしている役割の大きさが一目でわかるように全国の新聞が展示されていました。
モラル崩壊の元凶 ―押し紙― 西日本新聞押し紙訴訟判決期日決定のご報告
2024年10月15
(文責)福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団 弁護士江上武幸
第1 はじめに
西日本新聞社を被告とする2つの押し紙裁判が終盤に差し掛かっています。
長崎県の西日本新聞販売店経営者(Aさん)が、2021年7月に、金3051万円の損害賠償を求めて福岡地方裁判所に提訴した押し紙裁判の判決言い渡し期日は、来る12月24日(火)午後1時15分からと決まりました。
また、2022年11月に5718万円の支払いを求めて福岡地裁に提訴した佐賀県の西日本新聞販売店主(Bさん)の裁判は証人尋問を残すだけとなっており、来春には判決言い渡しの予定です。
これら二つの裁判を通じて、私どもは西日本新聞社の押し紙の全体像をほぼ解明できたと考えております。
(注:「押し紙」一般については、グーグルやユーチューブで「押し紙」や「新聞販売店」を検索ください。様々な情報を得ることができます。個人的には、ウイキペディアの「新聞販売店」の検索をおすすめします。)
モラル崩壊の元凶-押し紙- 毎日新聞押し紙裁判提訴のお知らせ
福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士 江上武幸(文責)
2024年(令和6年)9月20日
兵庫県で毎日新聞販売店を経営してきたA氏を原告とする1億3823万円の支払いを求める押し紙裁判を大阪地裁に提訴しました。
請求金額の内訳は、預託金返還請求金が623万円、販売店経営譲渡代金が1033万円、押し紙仕入れ代金が1億2167万円です。
―モラル崩壊の元凶、「押し紙」― 西日本新聞・押し紙訴訟の報告
福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団 弁護士・江上武幸(文責)
去る7月2日、西日本新聞販売店を経営していたAさんが、押し紙の仕入代金3051万円の損害賠償を求めた福岡地裁の裁判で、被告の担当員と販売部長の証人尋問が実施されました。双方の最終準備書の提出を待って、早ければ年内に判決が言い渡される見込みです。
押し紙は、新聞社が販売店に対し経営に必要のない部数を仕入れさせることをいいます。販売店への売上を増やすと同時に、紙面広告料の単価を吊り上げるためABC部数の水増しを目的とする独禁法で禁止された違法な商法で
す。
押し紙は、1955年(昭和30年)の独占禁止法の新聞特殊指定で禁止されてから約70年になります。このような長い歴史があり、国会でも再三質問に取り上げられてきたにもかかわらず、なぜ押し紙はなくならないのか、公正取引委員会や検察はなぜそれを取り締まろうとしないのか、押し紙訴訟に見られる裁判官の奇怪な人事異動の背景にはなにが隠されているのか、といった問題については、マスコミ関係者、フリージャーナリスト、新聞労連、独禁法研究者、公正取引委員会関係者、司法関係者など多方面の関係者、研究者・学者らによって更に解明が進められることが求められます。
新聞の発行部数は1997年(平成9年)の5376万部をピークに、2023年(令和5年)10月には2859万部と半世紀で約46%も減少しています。新聞販売店も2004年(平成16年)の2万1064店舗から、2023年(令和5年)の1万3373店舗と大きく減っています。
このまま推移すれば、10数年後には紙の新聞はなくなるだろうと予想されており、現在進行中の裁判の経過や背景事情について、時期を失せず皆様にお知らせすることはますます重要性を増しています。
読売新聞押し紙訴訟 福岡高裁判決のご報告 ‐モラル崩壊の元凶「押し紙」‐
福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団 弁護士・江上武幸(文責)
2024(令和6年)5月1日
長崎県佐世保市の元読売新聞販売店経営者が、読売新聞西部本社に対し、押し紙の仕入代金1億5487万円(控訴審では、金7722万に請求を減縮)の損害賠償を求めた裁判で、4月19日、福岡高裁は控訴棄却の判決を言い渡しました。
* なお、大阪高裁判決の報告は、2024年4月13日(土)付「押し紙の実態」に掲載されていますのでご一読ください。
「バブル崩壊の過程で、私たちは名だたる大企業が市場から撤退を迫られたケースを何度も目の当りにしました。こうした崩壊劇にはひとつの共通点があります。最初はいつも小さな嘘から始まります。しかし、その嘘を隠すためにより大きな嘘が必要になり、最後は組織全体が嘘の拡大再生機関となってしまう。そして、ついに法権力、あるいは市場のルール、なによりも消費者の手によって退場を迫られるのです。社会正義を標榜する新聞産業には、大きな嘘に発展しかねない『小さな嘘』があるのか。それともすでに取り返しのつかない『大きな嘘』になってしまったのでしょうか・・・・。」(新潮新書2007年刊・毎日新聞元常務河内孝著「新聞社破綻したビジネスモデル」の「まえがき」より)。
大阪高裁と福岡高裁の判決をみると、裁判所は平成11年の新聞特殊指定の改定(1999年)を機に、押し紙については黙認から積極的容認に姿勢を転じたように見受けられます。