メディア黒書に相次ぐ内部告発②-「押し紙」など水面下に隠されてきた新聞販売問題、「箝口令が出ているので、本当は言えないが・・」
(21日付け記事の続き)
新聞関係者からの内部告発-「先日、販売店主が自殺に追い込まれた」という内容-を受けて、わたしは事実関係を確認するために、自殺者を出したとされる東京都内の新聞販売店に電話してみた。
最初に電話に出たのは、従業員と思われる女性だった。以下、録音の反訳である。

新聞社の経営難
(21日付け記事の続き)
新聞関係者からの内部告発-「先日、販売店主が自殺に追い込まれた」という内容-を受けて、わたしは事実関係を確認するために、自殺者を出したとされる東京都内の新聞販売店に電話してみた。
最初に電話に出たのは、従業員と思われる女性だった。以下、録音の反訳である。
新聞社の衰退が指摘されるようになって久しいが、読売の渡邉恒雄会長は、今年4月の入社式に行った挨拶で、読売の経営が依然として安定していることを強調してみせた。多角経営の優位性を次のように述べている。新聞人の言葉というよりも、むしろ財界人の言葉である。
「各新聞社とも今、活字不況時代ということもあって、経営は相当苦しいですが、読売新聞は全く安泰です。しかも新聞だけではなく、全ての分野の経営において成功しています。
野球では巨人軍があるし、出版部門では、一番古い総合雑誌としての歴史を持つ「中央公論」を中心とした中央公論新社があるし、1部上場会社で、最近視聴率も上げている日本テレビも読売新聞が筆頭株主で姉妹関係にあります。
また、非常に大きな不動産や土地を持ったよみうりランドも1部上場会社ですが、読売新聞から会長、社長等を出し、筆頭株主も読売新聞です。
ただいま皆さんに名演奏を聴かせてくれた読売日本交響楽団もグループの一員です。
そのほか読売理工医療福祉専門学校や読売自動車大学校、読売・日本テレビ文化センターなどがあります。
読売が持っている不動産では、プランタン銀座や、ビックカメラ(有楽町店)、マロニエゲートのほか、札幌駅前にはワシントンホテルグループのホテルがあります。非常に多角的に経営し、すべて万全の財務基盤を持って、文化的な貢献をしています」
渡邉氏が具体的にあげた業種で出版やジャーナリズムとはまったく関係がない分野としては、次のようなものがある。
※読売ジャイアンツ(プロ野球)
※よみうりランド(レジャー)
※読売日本交響楽団(音楽)
※読売理工医療福祉専門学校(学校)
※読売自動車大学校(学校)
※プランタン銀座(不動産)
※ビックカメラ・有楽町店(不動産)
※マロニエゲート(不動産)
※ワシントンホテルグループ(旅行)
読売はさまざまな分野へ進出している。読売新聞社はもはや新聞社単体というよりも、多種多様な事業を展開する巨大グループの一企業と言ったほうが適切だ。
4月6日から12日までの一週間は、日本新聞協会が設けている「春の新聞週間」である。この間、新聞や新聞社系のウエブサイトに新聞をPRする記事が掲載されるようだ。
たとえば茂木健一郎氏は、「ネット時代こそ、新聞で脳を鍛える」と題する記事(朝日新聞デジタル 4月8日)で、「時代の記録において新聞紙面に勝る物はない」と述べている。
新聞週間に関連する記事の一部は、日本新聞協会から新聞各社に配信されているようだ。3月21日付けの業界紙『新聞情報』によると、新聞協会の「新聞メディアの強化に関する委員会は、春の新聞週間用記事として、インタビュー記事と軽減税率に関する解説記事を配信する」という。このうちインタビュー記事に登場するのは次の方々。
※AKB48の内山奈月
※茂木健一郎
※鎌田實
また、新聞協会は「米プリンストン大のポール・スター教授に『新聞の公共性と知識課税』をテーマに寄稿を依頼した」という。

1980年代の時効済み内部資料の一部を紹介しよう。新聞社の裏金づくりの手口と使い道を内部調査した結果を記した報告書である。当時の関係者が生存している可能性があるので、社名と個人名は匿名(B社)にした。
新聞社による裏金づくりが慣行化していた--。にわかに信じがたい話だが、わたしが入手した資料によると、裏金づくりの原理は極めて原始的で単純だ。だれでも理解できる。
結論を先に言えば、新聞販売店に対して支給する補助金の一部をカットして、裏金にする手口である。補助金は通常、新聞一部につき○○円というかたちで支給されるのだが、B社の場合、一部につき20円をカットして、販売局社員の個人名で、「本社周辺の約10の銀行に預金」していたという。
裏口座に預金された金は、「S55年5月の値上げの時まででも約30ヶ月となり、5億7000万円(1900万円×30ヶ月)。これを自由に使っていたが、月額1000万円×30ヶ月=3億円位は浮いていた筈である。」
1部に対して20円のカットでも、部数が多いので、総額は膨大になる。(100部で2000円、1000部で2万円、1万部で20万円、10万部で200万円、100万部で2000万円。いずれも月額)
ただしこの「5億7000万円」という数字については、約2億円という証言や記述もある。数字を確定するためにはさらなる検証が必要だ。
新聞の偽装部数(「押し紙」)や「折り込め詐欺」(折込チラシの水増し、あるいは「中抜き」)の何が問われるべきなのだろうか?新聞の商取引に不正な金銭がからんでいることは、誰にでもわかる。
しかし、商取引の諸問題とは別次元で、見過ごされがちな、もう一つの問題がある。結論を先に言えば、新聞の「闇」が、政府、警察、公取委といった権力の中枢にいる人々によるメディア・コントロールの恰好の道具になっている可能性である。
仮に次のような状況を想定してほしい。現在、憲法改正が国民的な関心を集めている。改憲に踏み切りたい政府に対して、(実際にはあり得ないが)中央紙が護憲のキャンペーンを展開しはじめたとする。
これに対して政府は警察庁に働きかけて、「押し紙」問題と「折り込め詐欺」を刑事事件として扱うように指示した。この点が新聞社の最大の泣き所であるからだ。
かりに日本全国の新聞社がかかえる「押し紙」が3割と仮定する。この場合、 公権力が「押し紙」を摘発すれば、単純に計算して、新聞社の販売収入は3割減る。さらに紙面広告の媒体価値を決めるさいに考慮される新聞の公称部数も、「押し紙」の排除に伴って減数されるわけだから、広告収入も激減する。
そうなるとバブル崩壊のような現象が起こりかねない。「押し紙」の存在を前提とした予算規模で行ってきた新聞社経営が不可能のなる。
このような構図を逆説的に考えると、公権力は、新聞ジャーナリズムをコントロールするために、「押し紙」や「折り込め詐欺」を故意に放置しているともいえる。ここに日本の新聞ジャーナリズムが徹底した権力批判ができない本当の原因があるのだ。
東京都内の新聞販売店(専売店)の数が、ここ10年余で平均17%減少していることが分かった。
1999年版の『新聞販売便覧』に掲載されている販売店名簿をもとに、東京23区と多摩地区の系統別の専売店数を割り出し、2011年版の『新聞販売便覧』に基づきた販売店数を比較したところ、専売店の大幅な減数が確認された。
たとえば渋谷区と荒川区の毎日店は、2011年の段階ですべて消えている。
次に示すのは、朝日、読売、毎日の店数の変化である。左の数字は、1999年のデータ。()内は、2011年のデータ。