1. 毎日新聞押し紙訴訟の報告、毎日新聞社、押し紙解消に向けて方針転換か?-モラル崩壊の元凶 押し紙-

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2025年11月24日 (月曜日)

毎日新聞押し紙訴訟の報告、毎日新聞社、押し紙解消に向けて方針転換か?-モラル崩壊の元凶 押し紙-

福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士 江上武幸(文責)2025年11月25日

「毎日新聞社は押し紙解消に向けて方針転換か?」

毎日新聞社は去る8月21日、「準備書面(3)」を提出しましたが、そこには兵庫県で9年間にわたり販売店を経営してきた原告(K氏)の経営状況を示す数値を記載した一覧表が添付されていました。

押し紙とは廃棄される運命の新聞ですから、その仕入れ代金は販売店が負担せざるを得ません。しかし、最初から売れないと分かっている商品を仕入れる者はいませんので、新聞社は販売店が押し紙を仕入れ続けられるよう、あらかじめ折込広告収入と補助金で仕入れ代金を補填する仕組みを設けています。いわゆる「新聞のビジネスモデル」と呼ばれている方策です。

押し紙販売政策のからくりは外部には絶対知られてはならない新聞業界最大のタブーですから、補助金と折込広告収入の金額を記載した一覧表を毎日新聞社が提出したことは驚きでした。

新型コロナによる経済活動の低迷により折込広告収入は激減しました。折込広告収入が減れば新聞社がその分補助金を増やさなければ、販売店の押し紙の仕入れ代金の赤字は補填できません。

熊本日日新聞社や新潟日報社のように古くから押し紙を排除している新聞社は別として、新聞社本体の経営が押し紙を前提に成り立っている新聞社は、急に押し紙をなくすことはできません。さりとて、新聞購読部数の減少が進んでいる新聞業界にあっては新聞社本体の経営も苦しくなっており、補助金を増やすことができません。

毎日新聞社は「押し紙」をなくすことでこの問題を解決するのではなく、補助金で補填できなかった販売店の仕入れ代金を未納金として計上し、一定金額に達したとき、会社の財政状況をみて未納金額に見合う補助金を支出したように処理して累積した赤字を解消する方策を講じていました。そのような事実が、この一覧表の数字から判明したのです。これまでの押し紙裁判ではありえなかったことで、驚きを通り越して「驚愕」と言った方が正確です。

原告の販売店廃業時点で帳簿上に残っていた8,525万円の数字も、販売店が負担すべき経営に必要な新聞の仕入れ代金の未納金額ではなく、毎月、毎日新聞社が補填すべき補助金の未支給金の累計であることが一目瞭然でした。しかし毎日新聞社は、Kさんの異議申立にもかかわらず、仕入れ代金の未納であると強弁し、Kさんが販売店経営開始時点に予納していた保証金623万円と、販売店譲渡代金1,033万円の支払いを拒否しました。

本件裁判は、毎日新聞社が保証金と販売店譲渡代金をKさんに支払っておけば提訴に至らなかった事案です。無一文の状態で販売店経営を辞めざるを得なかったKさんは、生活のためにも裁判に踏み切らざるを得なかったのです。

毎日新聞社は、そのような裏事情が裁判で明らかになることを覚悟した上で一覧表を作成し、裁判所に提出したことになります。内部告発で表沙汰になることはあり得ても、新聞社が自ら裁判資料として提出することは前代未聞の出来事と言ってよいかと思います。

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その後、9月1日には、毎日新聞社は大阪本社ビル内にある毎日新聞大阪開発株式会社に、原告販売店の9年間分の確定申告書および青色申告書、並びに内訳書その他付属書類一切を裁判所に送付する文書送付申立てをしました。

大阪開発は毎日新聞社の関連会社であり、毎日新聞青色申告会を通じて毎日新聞販売店を経営する所長に対する記帳指導や税務申告をサポートしています。従って、毎日新聞社は販売店の経営状況を正確に把握できます。

他方、販売店主は会計資料をほとんど手元に持っていないのが現実ですから、私どもは裁判所に対し、押し紙の仕入れ代金が販売店経営を悪化させているとの一般的・抽象的主張はできても、具体的数値で経営の実情を示すことはできません。

ところが今回、毎日新聞社は原告の経営状況が分かる会計資料の提出を関連会社の大阪開発に求めました。しかも不思議なことに、毎日新聞社は自ら申請した原告販売店の経営状況を示す確定申告書・青色申告書の証拠提出を行いませんでした。そのため、私ども原告側から証拠に提出することにしました。裁判所も私どもも、原告販売店の経営が押し紙の仕入れ代金の負担のため、いかに苦しい状態だったかを具体的に知ることができました。

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毎日新聞社の本件裁判におけるこのような訴訟方針をどのように理解すべきか。

以下は、あくまでも私の個人的願望に基づく想像です。間違っているかもしれません。

戦後民主主義教育を受けて育った私は、毎日新聞に対しては、同じ中央紙である朝日・読売とはどこか違う好印象を持っていました。おそらく戦後民主主義を育てた著名な学者・文化人らと、優秀かつ著名な記者たちを毎日新聞が大勢抱えていたからだと思います。

(注:読売新聞社はその誕生のいきさつから権力監視の役割は期待できず、朝日新聞社も兵庫県明石支局の赤報隊による白昼テロ事件の恐怖から立ち直ることができなかったように思います。)

押し紙問題に関しては、黒藪さん主宰のこのブログのほかに「広告代理店の未来を考えるブログ」というブログでも知ることができます。その中に「毎日新聞の現状と未来予測!」という毎日新聞をテーマにしたシリーズ記事があります。最近、「毎日新聞は今、何が起きているのか?」という記事を見つけました。一部を紹介します。

「毎日新聞は、2024年下半期からわずか8か月で20万部の読者を失いました。発行部数は150万部を割り込み、2025年2月には130万部台へ。

年間換算20万部ペースの読者離れが、全国紙としての地位を揺るがしています。」

これまで経験したことのない毎日新聞社の本件訴訟の対応をみていると、ひょっとしたら、毎日新聞はこの裁判で「押し紙」の手法をすべて明らかにして、同様の手法をとっている他の新聞社に対しても押し紙をなくすよう働きかけようとしているのではないかという勝手な思いに捕らわれるようになってきています。

 報道の自由度ランキングが世界70位という惨憺たる新聞の状態を生んだ押し紙をなくし、ジャーナリズム精神の復活により日本の危機的現状を打開しようという経営陣の決意が固められたのでないかという希望的推測です。

毎日新聞の亡内藤国夫記者も、押し紙は経営陣の覚悟があればいつでもの辞めることができると著書に残しています。熊本日日新聞社と新潟新報社が押し紙をなくしたのも経営陣の決断があったからです。

輝かしい実績を残してきた多くの毎日新聞社の先輩記者達も現役の記者たちも、経営陣に対し、全国紙からの転落を目前にしたいまこそ、毎日新聞社が押し紙をなくす先陣を切ってほしいと念じているのではないでしょうか。

 *参考のために、毎日新聞社の準備書面(3)添付の一覧表と、原告の第8・9準備書面を掲載します。

  今後、毎日新聞社との裁判がどのように展開していくのか、皆様に見守っていただければ幸いです。

️記事関連の資料

原告準備書面(8)

原告準備書面(9)

⬇️⬇️取引の詳細(PDFによる全資料の公開は準備中)