2人の元裁判官に尋ねてみた――「報告事件(ペテン裁判)は本当に存在するのか」
(写真:今崎幸彦・最高裁長官)
「報告事件」と呼ばれるペテン裁判は、果たして実在するのだろうか。そうした疑問を胸に、7月24日、東京・千代田区の連合会館で開かれたシンポジウムに参加した。この企画は、『司法が原発を止める』(旬報社)の出版に合わせて行われたものである。
「報告事件」とは、最高裁事務総局が裁判の行方を水面下でコントロールする仕組みを指す。たとえば、公権力にとって不都合なテーマが裁判の争点となった場合、最高裁事務総局は当該裁判所の書記官に審理内容を報告させる。そして、国家の意に沿わない判決が下される可能性が浮上すると、人事異動を口実に裁判官を交代させ、判決を誘導するというのだ。こうした「報告事件」の噂は、かねてから裁判所関係者の間で絶えない。
この日の登壇者は、現在は弁護士として活動する井戸謙一氏と、同じく元裁判官で原発訴訟を支援している樋口英明氏。聞き手はジャーナリストの後藤秀典氏と、反原発運動家の武藤類子氏であり、司会は本書の企画・編集を担った鹿野健一氏が務めた。
シンポジウム後半の質疑応答で、私は挙手して次のように質問した。
「最高裁事務総局による『報告事件』は本当に存在するのか。私はこの20年ほど新聞販売店と新聞社の裁判を取材してきたが、判決直前に裁判官が交代し、その結果、販売店が敗訴するケースが相次いでいる。たとえば、日経新聞の販売店が『押し紙』問題で日経新聞社を訴えた裁判では、販売店が10数回にわたり内容証明で『押し紙』を断ったにもかかわらず敗訴した。判決理由は、日経社が内容証明を受け取った後に両者が話し合いを行ったため、押し売り行為には当たらない、というものだった」
この問いに対し、井戸氏も樋口氏も明確に「報告事件は存在する」と答えた。不自然な裁判官の人事異動も少なくないと指摘した。
以前、元裁判官で現在は弁護士の生田暉雄氏にお会いした際にも、「報告事件」について意見を交わしたことがある。生田氏は著書『最高裁に「安保法」違憲判決を出させる方法』(三五館)の中で、「報告事件」の具体例を紹介している。
《参考記事》
司法官関係者のあいだで「報告事件」と呼ばれる不正裁判の存在を暴露、裁判所の裏金にも言及、生田暉雄・元大阪高裁判事が新刊『最高裁に「安保法」違憲判決を出させる方法』を出版
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「報告事件」の客観的裏付けを取るのは至難の業だが、私は情報公開請求によって一例を把握している。以下の記事である。
≪参考記事≫
最高裁事務総局による「報告事件」の存在が判明、対象は国が被告か原告の裁判
裁判を起こす際には、多額の弁護士費用や印紙代を原告が負担するのが通常である。とすれば「報告事件」とは、原告に対するペテンに等しい。厳しく罰せられるべきであるが、残念ながら最高裁を断罪でする制度は存在しない。「報告事件は」国民を欺く、悪質な権力の濫用と言わざるを得ない。
■写真:今崎幸彦・最高裁長官(出典:裁判所ウエブサイト)