1. 「押し紙」裁判の大誤判――裁判官が新聞特殊指定の定義を誤っていることを示す文書の存在、恐るべき職能の劣化

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2025年10月04日 (土曜日)

「押し紙」裁判の大誤判――裁判官が新聞特殊指定の定義を誤っていることを示す文書の存在、恐るべき職能の劣化

「押し紙」の正確な定義を説明しよう。「押し紙」は、広義には、新聞社が新聞販売店に対して「押し売り」した新聞という説明が定着している。したがって、「押し紙」の損害賠償を求める裁判で、新聞販売店の残紙が「押し紙」であることを立証するためには、その残紙が押し売りによって発生したことを証明しなくてはならない。当然、そのハードルは高い。

ハードルが高いのは、新聞販売店が新聞社に送付する新聞の発注書には、新聞社の指示により、実配部数(実際に配達している新聞)をはるかに超えた部数が記入されるからである。発注書は販売店が作成した書面であるため、「押し売り」ではなく、販売店が自主的に発注した部数ということになってしまう。新聞人が考え出した狡猾な論理と手口である。

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しかし、新聞特殊指定でいう「押し紙」とは、実配部数と予備紙(2%)をあわせた部数を「注文部数」と定義し、それを超える新聞のことである。新聞特殊指定の下では、「押し紙」の定義も特殊なものになっているのだ。公正取引委員会は「押し紙」を取り締まるために、1964年にこの定義を採用したのである。次に示すのが条文である。

【1964年】新聞の発行を業とする者が,新聞の販売を業とする者に対し,その注文部数をこえて,新聞を供給すること。

ここでいう「注文部数」とは、既に述べたように実配部数と予備紙(2%)のことである。したがって、新聞社が「注文部数」を超えた部数を販売店に搬入すれば、理由のいかんを問わず「押し紙」である。

このような「押し紙」の解釈は周知の事実となっている。新聞特殊指定を運用するための細則にもその旨が記され、裁判所もそれを認めている。つまり「押し紙」の正確な定義とは、「押し売り」された新聞ではなく、「実配部数+予備紙(2%)」を超えた部数のことなのである。

ところが1999年に、公正取引委員会は新聞特殊指定を次のように変更した。

【改定後1999年】販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む)。

大きな違いは「注文部数」「注文した部数」に変更された点である。

最近の「押し紙」裁判で大きな争点のひとつになっているのが、この「注文部数」「注文した部数」の定義の違いである。読売の代理人を務めてきた喜田村洋一・自由人権協会代表理事らは、「注文した部数」とは文字通り販売店が新聞の発注書に書き込んだ部数であると主張してきた。他の新聞社も同じ見解である。

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これに対して江上弁護士らは、1964年の新聞特殊指定の「注文部数」の定義がそのまま現在も継続されていると主張している。

「押し紙」裁判を担当した裁判官は、一人の例外もなく喜田村弁護士らの主張を支持してきた。それを根拠に「押し紙」による損害を認めてこなかったのである。

ところが最近になって、喜田村弁護士や裁判所の見解が誤っていることを示す文書の存在が明らかになった。当時、新聞特殊指定の改定に際して公正取引委員会と交渉していた読売新聞の滝鼻卓雄氏が、交渉の経緯を報告したレポート(『新聞経営』1999年3月、日本新聞協会刊)の中で、「押し紙」の解釈について、次のように述べているのだ。

❸押し紙禁止規定については、禁止行為を明確化するため、条文改正を行った。

「禁止行為を明確化するため、条文改正を行った」わけだから、「注文部数」から「注文した部数」へ言葉を変更することで内容を明確化しただけであり、定義そのものは従来と変わらないことになる。江上弁護士の主張の方が正しい。

最近、日本の裁判官の職能が恐ろしく劣化していると言われている。提出された書面を正確に理解しているのかも疑わしい。

 

添付資料:『新聞経営』(日本新聞協会)の12ページから25ページ

参考記事:読売の滝鼻広報部長からの抗議文に対する反論、真村訴訟の福岡高裁判決が「押し紙」を認定したと判例解釈した理由