90.7% vs 10.1%――「香害」アンケート結果の異常な乖離、横浜副流煙裁判が突き付けた“香害論”の盲点
「香害」は、横浜副流煙裁判を通じてクローズアップされた。それ以前にも『週刊金曜日』など一部メディアがこの問題を取り上げてきたが、横浜副流煙裁判の中で、「香害を訴える人々のなかに、かなりの割合で精神疾患の人が含まれている」という新しい視点が浮上したのである。
さらに、「香害」が誘発するとされる化学物質過敏症については、従来「不治の病で治療法がない」との説が定着していたが、平久美子医師や舩越典子医師が完治例を報告した。こうして「香害」について再考する必要性が浮上したのである。
◆結果がかけ離れた2つのアンケート結果
「香害」は、市民運動体が主に問題を指摘し、メディアを通じて広く認識されるようになった。その際にひとつの根拠として用いられたのが、アンケート調査である。もちろん学術研究も存在するが、その多くもアンケートに依拠する傾向がある。
たとえば、環境ジャーナリスト・加藤やすこ氏による調査がある。『週刊金曜日』(2024年2月9日)の特集記事「その香り、移しているかもしれません」では、加藤氏が実施したアンケートの結果が紹介されている。
それによれば、回答者600人のうち「家の中に入る人や近隣からの移香・残留によって家の中が汚染される」と答えた人が90.7%に上った。
しかし、このアンケートは「香害」を問題視している人々に配布されたもので、筆者自身もその対象者の一人であった。
調査を主催したのが「香害」に抗議する市民団体であったため、必然的に回答者も「香害」に悩む人が多数を占める。その結果、このような高い数値が示された可能性が高い。ファクトチェックが欠落しており、常識的に考えて妥当とは言い難い数字である。
一方で、「香害をなくす連絡会」(日本消費者連盟)と、超党派の地方議員による「香害をなくす議員の会」も独自に調査を行っている。共同通信(8月20日付)は、その結果を次のように紹介している。
衣料品の洗剤や柔軟剤に含まれる香料の人工化学物質によって小中学生の10.1%が、学校で頭痛や吐き気などの症状に陥った経験があることが20日、学術団体や消費者団体などの調査で分かった。
◆体調不良の原因をすべて「香害」に結び付けた可能性
加藤氏の調査では90.7%、一方「香害をなくす連絡会」の調査では10.1%と、類似したテーマでありながら結果に大きな隔たりがあるのである。
われわれは、その原因を考える必要があるのではないか。筆者の推測だが、回答者が「公害」についてのアンケートだと意識していたため、体調不良の原因をすべて「香害」に結び付けた可能性が高い。しかし、頭痛、吐き気、目まいなどは、化学物質を吸い込まなくても現れることが多い。「香害」が原因と断定する根拠はない。
「香害」が存在すること自体は紛れもない事実である。しかし、その客観的な被害の程度については、より慎重な検証が求められる。まして医師が「香害」を診断する際、患者の自己申告のみに依存する状況は避けなければならない。この点が横浜副流煙裁判を通じて浮き彫りになったのである。そうした意味でも、同裁判は重要な意義を持っていた。
客観的な事実を把握しない限り、問題の解決はありえない。