1. 東京高裁が和解を提案、作田医師の責任は免れない、横浜副流煙事件「反訴」

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2025年05月30日 (金曜日)

東京高裁が和解を提案、作田医師の責任は免れない、横浜副流煙事件「反訴」

横浜副流煙事件「反訴」の控訴審第1回口頭弁論が、26日、東京高裁で開かれた。裁判所は、結審を宣言すると同時に、裁判の当事者双方に和解の提案を行った。双方とも今後、裁判所を介して話し合うことで合意した。事件は和解へ向けて動きはじめた。第1審は、原告の敗訴だった。

■控訴理由書

この裁判は、副流煙により甚大な健康被害を受けたとして、横浜市青葉区の団地にあるマンション2階に住む家族(父・母・娘)が、1階に住むミュージシャン藤井将登さんに対し、4518万円の損害賠償を求めたものである。しかし、家族3人の訴えに根拠はなく、横浜地裁は請求を棄却した。しかも、判決の中で、提訴の重要な根拠となった3人の診断書(日本禁煙学会の作田学医師が作成)に、さまざまな疑問があることが指摘された。

たとえば作田医師が、医師法20条に違反して、娘を診察せずに診断書を交付していたことが認定された。医師法20条は無診察で診断書を交付する行為を禁じている。

第20条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せん を交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

敗訴した家族3人は控訴したが、控訴審でも訴えは棄却され、藤井将登さんの勝訴が確定した。これを受けて、藤井将登さんと妻の敦子さんは、家族3人の提訴行為は、訴権の濫用に該当するとして、3人を訴え返した。その際、医師法20条に抵触する診断書を交付した作田医師も被告に加えた。俗にいう反スラップ訴訟である。

訴権の濫用を理由とした訴訟で原告が勝訴した判例は、裁判史の中でも10件にも満たない。最近の例では、NHK党の立花孝党首に対して、裁判所が賠償命令を下した例がある。ただ、反スラップ裁判は、よほど悪質な行為が訴因でない限り、訴えが認められることはない。日本国憲法で提訴権が保障されているからだ。それでも藤井夫妻は、「戦後処理」という観点から、あえて提訴に踏み切ったのである。

■事件の概要

控訴人の藤井敦子さんは、閉廷後に次のように語った。

「和解交渉は進めるが、今後の再発抑止に繋がるような結果にならない限り、
中途半端な和解に応じるつもりはない。金銭に関する交渉はしない」

◆◆

この「反スラップ訴訟」における争点のひとつは、提訴の根拠となった診断書の信憑性である。家族3人は、それぞれ体調の不良を訴え、その原因が何であれ医師や弁護士に相談したわけだから、診断書の内容がどうであれ、一応提訴の根拠はあった。しかし、問題はその診断書を作成した作田医師である。作田医師が交付した診断書が、提訴の根拠になっているわけだから、それが作成されたプロセスと、記述した内容を検証しなければならない。

たとえば次の記述である。

「1年前から団地の1階にミュージシャンが家にいてデンマーク産のコルトとインドネシアのガラムなど甘く強い香りのタバコを四六時中吸うようになり、徐々にタバコの煙に敏感になっていった。煙を感じるたびに喉に低温やけどのようなひりひりする感じが出始めた。(略)」

裁判の中で、藤井さん側が提出したH医師の意見書は、この記述について、「これは患者が訴えた言葉をそのまま文章にしたものと思われる」と述べている。H医師によると、診断書は、「客観的、医学的、科学的に評価された診断書に基づくものでなければならない」。

■意見書の全文

引用した診断書の記述が「客観的」な事実であると記述するためには、現場に足を運んで、事実を確認しなければならないが、作田医師はこのプロセスを怠っている。

さらに家族3人のうち娘とは面識がない。もちろん診察したこともない。娘がたの医療機関で交付してもらった診断書と、両親からの聞き取りを根拠に、診断書の中で藤井将登さんと娘の「健康被害」を結び付けたのである。喫煙者を法廷に立たせて糾弾する目的があったから、藤井将登さんを「犯人」にでっちあげる診断書を作成した可能性が高い。みずからが作成した杜撰な診断書が高額訴訟の提訴に利用されることを想定していたとも言える。そのことは、日本禁煙学会のウエブサイトで、提訴を副流煙問題解決のひとつの手段として提案していることからも、否定しようがない。

しかし、化学物質過敏症を訴える人の中には、精神疾患を患っているひとが、かなり高い割合でいる。化学物質過敏症に詳しい坂部貢医師は、「平成27年度 環境中の微量な化学物質による健康影響に関する調査研究業務」で、この点に言及している。次のくだりである。

「9.治療
病態生理に不明な点が多いため、本症に特化した治療法は未だ確立されていない。その理由は、複数の病態が重なり合って存在することによる個人差要因が極めて大きいからである。現時点での対応としては、症状を誘発させると考えられる原因物質からの回避がもっとも有効な対処法である。また本症ではアレルギー疾患の合併率が高いため、アレルギー症状を十分コントロールすることもQOLを高めるために必要である。さらに、精神疾患の合併率が80%と高いため、心身医学・精神医学的アプローチも有効である。」

藤井将登さんが煙草を吸っていた場所は、防音設備を備えた部屋の中で、外気からは遮断されていた。しかも、将登さんはヘビースモーカーではない。また、家族3人の自宅の窓は、外気の侵入を防ぐために、ビニールシートで覆われていた。さらに気象庁の風向記録によると、家族3人の住居は、藤井将登さんの部屋よりも風上になることの方が多い。

これらの事実から、藤井将登さんと娘の体調不良を結び付けることは難しい。

が、作田医師は、娘が体調不良になったのは、藤井将登さんの副流煙が原因であると、診断書に中で事実摘示したのである。これは明らかに名誉を毀損している上に、事実にも反している。作田医師の主観であって、客観的な事実ではない。その非科学的な診断書が、4518万円を請求する高額訴訟の根拠になったわけだから、作田医師は責任を免れない。4518万円は、尋常な請求額ではなく、裁判を悪用した恫喝の色合いが濃厚だ。

東京高裁が和解を提案したのは、隣人同士のトラブルで判決を下すことが今後の人間関係に与える負の影響を考慮した結果である可能性が高い。ただ、作田医師については、明確に断罪すべきだろう。医師法20条違反の下で作成された嘘の診断書が高額訴訟の根拠になる事態を容認すれば、司法制度が恫喝に悪用されかねない。