鳥越俊太郎氏が文春を刑事告訴、都知事選で人選を誤った野党
「スラッパー」は日本で生まれた造語である。語源は、英語のslapp(Strategic Lawsuit Against Public Participation)、日本では広義に「恫喝訴訟」、あるいは「口封じ裁判」などというニュアンスで使われている。
スラッパーの代表格としては、たとえばサラ金の武富士がある。今世紀の初めに武富士は、同社に批判的な記事を書いたジャーナリストらに対して次々と高額訴訟を起こしている。が、武富士はことごとく敗訴する。
その後、一時的にslappは下火になったが、再び社会問題として浮上した。現在では、安易に個人をねらい打ちする高額訴訟の提起が続発している。
日本の名誉毀損裁判の法理では、記事を書いたライターの側に、その内容の真実性、あるいは真実相当性を立証させることを義務づけているために、訴えた側が圧倒的に優位になる。その結果、名誉毀損裁判を起こして相手の言論を封じるのが、もっとも手っ取りばやいメディア対策になっている。しかも、原告は勝訴して、高額な賠償金を獲得できる可能性がある。
訴訟ビジネスを展開する弁護士にとって、slappはビジネスの機会だ。
周知のように東京都知事選の野党統一候補になっている鳥越俊太郎氏が、21日、「『女子大生淫行』疑惑」と題する記事を掲載した『週刊文春』(7月28日)の編集人を刑事告訴した。容疑は、公選法違反と名誉毀損である。
民事訴訟ではなく、刑事訴訟によって、言論人が言論の封殺に走ったのだ。
◇代理人弁護士も武富士から鳥越へ
鳥越氏の代理人を務めるのは、かつて武富士の代理人を務めた弘中惇一郎弁護士(自由人権協会)らである。
問題になっている記事の中では、大学名やゼミが匿名になっているが、取り調べの中で、大学関係者は真実を語るだろう。
しかし、鳥越氏の「白黒」は別にして、最大の問題はジャーナリストが司法制度を利用して、メディアをつぶしにかかっている点である。鳥越氏のように著名で、しかも優れた筆力があれば、司法に解決を委ねるまでもなく、反論できると思うのだが。
鳥越氏は、過去にも同じように司法を利用した言論封じを試みている。ジャーナリストの寺澤有氏が『フライデー』に鳥越俊太郎氏のスキャンダルを書いた際、「肖像権侵害」などを理由に妨害にでたらしい。
◇人選を誤った野党
そもそもわたしは鳥越氏は東京都知事選に出馬すべきではなかったと思う。オーマイニュース(OhmyNews)の初代編集長として際だった実績もないまま、辞任しているし、すぐれた調査報道の実績もない。同じように新聞社の出身者といっても、たとえば本多勝一(朝日)氏、本田靖春(読売)氏、斉藤茂男氏(共同)らには実績がある。
テレビの人気者であったことは間違いないが、それが政治の手腕に長けていることにはならない。
出馬を取り下げた宇都宮健児氏の方が、はるかに職能が高い。宇都宮氏は弁護士であるから、都民のための条例制定も容易に制定することができる。知事にもっともふさわしい人だったが、なぜか野党は鳥越氏を担ぎ出した。
野党は人選の段階から誤っていたのである。