1. 和歌山県の基地局問題、楽天との一問一答、契約書と基地局の位置情報、住民には非開示

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2021年11月13日 (土曜日)

和歌山県の基地局問題、楽天との一問一答、契約書と基地局の位置情報、住民には非開示

10月27日に本ウエブサイトで報じた和歌山県で起きている基地局問題の続報である。既報したように紛争の当事者は、楽天モバイルと鈴木(仮名・女性)さんである。

楽天は、鈴木さん宅の直近に基地局設置を計画している。「電磁波からいのちを守る全国ネット」の介入で、一旦工事は延期になったが、楽天は11月13日に着手すると告知している。

【参考記事】楽天の基地局設置をめぐるトラブル相談が年間で約70件、楽天、「弊社としては総務省の電波防護指針に従って法令遵守で設置しております」

鈴木さんは、楽天に質問状を提出した。以下、鈴木さんの質問、楽天(楽天モバイル株式会社関西営業部)の回答(11月12日付け)、筆者のコメントである。

【質問①】○○の屋上に携帯電話基地局を設置するにあたり作成された契約書には 本当に「基地局設置後に健康被害が発生した場合、直ちに基地局を撤去します」との記載はありますか?

【楽天の回答】契約書に関しましては、個別の契約行為となりますので、その内容の開示につきましては控えさせて頂きます。

【コメント】鈴木さんは、楽天と地権者の間で交わされた契約書に、第3者に健康被害が発生した場合の救済に関する条項が契約書に盛り込まれているかどうかを問い合わせた。鈴木さんによると、地権者は救済についての条項を加えるように楽天に要請している。しかし、楽天はこれについて鈴木さんに回答しなかった。

【質問②】「健康被害」とは、どのような身体症状についてでしょうか?現在のところ明確な診断基準のない「電磁波過敏症」と言われている症状も 含まれますか?また、明確な診断基準のある「化学物質過敏症」の症状が悪化した場合も、健康被害と認識していただけますか?(一般的には、化学物質過敏症を発症している患者は、電磁波による影響の感受性が強い方が多くおられます。勿論、私は 医師による診断を戴くようにするつもりでおります。)

【楽天の回答】「健康被害」とは、ある物事が原因で健康がそこなわれる事と理解しております。どのような身体症状を意味するのかについては、弊社は医学が専門ではありませんので専門の方にお問合せ戴きたく存じます。

 なお、その健康被害がどの原因により引き起こされたかを科学的、医学的に立証する必要があることは、どの症状においても共通した対応であると考えます。上記の立証プロセスを経て、電波法で定める電波防護基準値以内の電波と健康被害との因果関係が証明された場合は、その時点での監督官庁の方針等にもとづき、弊社も対応することになるかと存じます。

【コメント】楽天の見解は、健康被害を認定するためには科学的・医学的な立証が必要だというものである。「電波法で定める電波防護基準値以内の電波と健康被害との因果関係が証明された場合」にのみ、社として対応することになる」と述べている。

ちなみに日本の電波防護指針は実質的には規制にはなっていない。たとえば欧州評議会の勧告値に比べて、1万倍もゆるく設定されている。念のために、数値を表示しておこう。

日本:1000 μW/c㎡ (マイクロワット・パー・ 平方センチメートル)

欧州評議会:0.1μW/c㎡、(勧告値)

楽天は電磁波密度が1000 μW/c㎡以内であれば、たとえ鈴木さんが体調を崩しても、救済しないと言っているのだ。

【質問③】 〇〇町の近隣地域に設置済みの携帯電話基地局の所在地を教えて下さい。

【楽天の回答】基地局の所在地は、運営管理上の観点からも開示はしておりません。

【コメント】鈴木さんが楽天に対して同社の別の基地局の位置を聞き出そうとした背景には次のような事情がある。地権者が鈴木さんに対して、実際に基地局のそばに立って電磁波を浴び、本当に電磁波による人体影響があるかどうかを自分の人体で確認するように勧められたからである。

【質問④】(黒薮注:楽天が安全の根拠としているWHOファクトシート296は)科学的・医学的根拠は 現時点では解明されていないと言っているだけで、基地局周辺で健康被害が出ていることは認めています。

【楽天の回答】先般お渡ししましたWHOファクトシート296において、そのような記載はされていないと存じます。『電磁過敏症(EHS)の症状を電磁界ばく露(あびること)と結びつける科学的根拠はありません』と明記されております。 基地局周辺で健康被害が出ていることを認めているなどの記載もありません。電磁過敏症については、むしろ、電磁界以外のいくつかの要因を示唆する記述となっております。

【コメント】筆者は楽天に対して、WHOファクトシート296の原文(英文)を提示するように求めたが、同社は提示しなかった。15年以上前の資料なので、インターネットで検索しても見当たらなかった。そこで手元にある日本語訳をもとにして、楽天の見解の問題点を指摘する。

次に示すものが、WHOファクトシート296の「結論」の全文である。

「 EHS(黒薮注:電磁波過敏症)は、人によって異なる多様な非特異的症状が特徴です。それぞれの症状は確かに現実のものですが、それらの重症度はまちまちです。EHS は、その原因が何であれ、影響を受けている人にとっては日常生活に支障をきたす問題となり得ます。EHS には明確な診断基準がなく、EHSの症状を電磁界ばく露と結び付ける科学的根拠はありません。その上、EHS は医学的診断でもなければ、単一の医学的問題を表しているかどうかも不明です」

この結論を普通に解釈すれば、科学的・医学的な因果関係は解明されていないが、「EHS は、その原因が何であれ、影響を受けている人にとっては日常生活に支障をきたす問題となり得ます」と健康被害そのものは認めている。ところが楽天は、我田引水に「科学的根拠はありません」という部分だけを引用している。「科学的根拠」がないの意味は、現時点では発病のメカニズムが解明されていないということであって、客観的に症状が存在しないということではない。

【質問⑤】2011年には、WHOの外郭団体である 国際がん研究機構(IARC)が、マイクロ波に発がんの可能性があることを指摘しています。

【楽天の回答】2011年5月にIARC(国際がん研究機関)が電波(無線周波数電磁界)に対する発がん性評価をおこない、携帯電話の使用について限定的な証拠があったとして、「発がん性があるかもしれない」(グループ2B)に分類したことは存じております。
   
この件について、電磁波に関するセミナーでの説明の概要は以下のとおりです。

 この分類は、携帯電話端末を頭部の近くで使用した場合の発がん性(神経膠腫。「しんけいこうしゅ」と呼び、脳腫瘍の一種)に限定的な証拠があるとして分類されたものです。この件について、WHOファクトシート193「電磁界と公衆衛生携帯電話」2ページ2014年10月)において、「研究者らは、バイアス(かたより)と誤差があるために、これらの結論の強固さは限定的であり、因果的な解釈はできないと結論しています」との記載があり、WHOは、この評価に対しては継続的な検証をおこなうとしております。

 このグループ2Bの分類は、13か国の研究グループで行われ、ひとつのグループからの報告を採用したとのことです。一方、携帯電話の普及と神経膠腫(脳腫瘍)の増加に関するアメリカ、イギリス、スウェーデン3か国の統計資料(携帯電話利用者数の増加と神経膠腫増加に相関関係があるかを示したグラフ)では、携帯電話の利用増加が神経膠腫の増加につながっているという結果になっておりません。
 この相関関係の調査結果からも、携帯電話利用者の増加と神経膠腫の増加に因果関係はなさそうであるとの見解が示されております。

なお、このグループ2Bの分類は頭部に近いところで使用される携帯電話からの電波についての研究による分類であり、携帯電話基地局からの電波については、「非常に低いばく露レベル、および今日までに集められた研究結果を考慮した結果、基地局および無線ネットワークからの弱いRF信号(電波)が健康への有害な影響を起こすという説得力のある科学的根拠はありません」(WHOファクトシート304「電磁界と公衆衛生 基地局及び無線技術」3ページ 2006年5月)と、健康への悪影響はないとの報告がなされており、現在もこの報告書の内容に変更はないとのことです。

【コメント】楽天の見解は、科学の基本である弁証法の論理を欠いている。複合汚染という視点がまったくない。 生活環境は、常に変化している。一刻も静止の状態にはならない。

マイクロ波が同じ基地局から同じ方向へ放射されても、外的な条件によって電磁波密度はめまぐるしく変化するうえに、5Gの導入が進むにつれて、周波数そのものも変更される。被曝する人間の体質もまた、化学物質による複合汚染などで常に変化する。静止の状態にはならない。

米国のケミカル・アブストラクト・サービス(CAS)が登録する新しい化学物質は、1日で1万件を超えると言われている。無論、そのすべてが有害というわけではないが、当然、日常的に複合汚染を起こしている可能性が極めて高い。しかも、その汚染に電磁波の被曝が加わる。複合汚染の形は一層複雑になる。

従ってこうした環境下における人体影響も、静止の状態にはならない。常に変化する。

5Gの導入でどのような形の複合汚染が起きるかまだほとんど解明されていない。

2011年のIARCのデータを以て、基地局から放射されるマイクロ波が安全などとは言えないのである。ましてIARCは、マイクロ波の発がん性そのものは認める方向性だ。2022年から24年にかけて、評価の見直しを検討している。

従って電磁波による人体影響の評価は、科学的・医学的根拠よりも、疫学調査の結果を優先させる必要があるのだ。被害の事実の方が重い。

その疫学調査では、今世紀に入ってから、基地局周辺で癌による死亡率が高いという結果(イスラエル・ドイツ・ブラジルなど)が出ている。

と、なれば「予防原則」を優先して、基地局設置に反対している住民がいる場合は、基地局は設置すべきではない。政治の力で厳しく規制する必要がある。