東京高裁が作田学医師の医師法20条違反などを認定、控訴人の控訴は棄却、横浜副流煙裁判「反訴」
東京高裁は20日、横浜副流煙裁判控訴審の「反訴」で、控訴人の控訴を棄却する判決を言い渡した。ただし、被控訴人である医師の医療行為については「医師法20条の規律に反すると言い得る」と認定した。さらに、この医師による診断書作成方法についても「被控訴人・藤井将登氏に喫煙をやめさせる目的で作成されたことは、診断書作成の経過や内容の妥当性とも関連し、診断書の趣旨・目的を逸脱する余地がある」と指摘した。
控訴人の請求自体は退けられた。
◆事件の発端
この事件は2017年11月にさかのぼる。ミュージシャンの藤井将登さんが吸う煙草の煙によって健康被害を受けたとして、隣人家族(A家、夫・妻・娘)が将登さんを相手取り、4518万円の損害賠償を請求したのが始まりである。
しかし審理が進むにつれて、作田学医師がA家の3人に交付した診断書に数々の疑問点があることが明らかになった。たとえば、
•娘については作田医師が実際には診察していなかった。
•夫の診断書には「受動喫煙症」との病名が記載されていたが、本人には約25年の喫煙歴があった。
•妻の診断書では、根拠もなく将登さんを煙の発生源と断定していた。
このように診断書作成の過程そのものが裁判の大きな争点となった。横浜地裁は、A家の請求を棄却し、さらに作田医師の医師法20条違反を認定した。
控訴審においても将登さんの勝訴は維持されたが、東京高裁は作田医師の医師法20条違反については、判決で言及しなかった。
◆その後の訴訟
将登さんは勝訴確定後、A家の訴訟は「訴権の濫用」に当たるとして、妻・敦子さんと共に「反スラップ訴訟」を提起した。A家が起こした裁判は、根拠に乏しい不当訴訟であると主張したのである。被告は、A家の3人と、診断書を交付した作田医師である。訴訟で「悪用」されることを予測しながら、根拠のない診断書を交付したというのが、作田医師を被告に加えた理由である。
第一審の横浜地裁は藤井夫妻の請求を棄却した。続く東京高裁も控訴を棄却したが、既に述べたように作田医師の診断書作成に重大な問題があったことについては事実認定したのである。
◆作田医師の診断書の問題点
作田医師の最大の問題は、患者の自己申告を重視して、十分な裏付けを取らずに診断書を交付した点である。実際、所見の中には「1年前から団地1階に住むミュージシャンが、デンマーク産のコルトやインド産のカラムなど甘く強い香りのタバコを四六時中吸うようになった」
といった、患者の訴えそのままの記述が含まれていた。
しかし、専門家によれば、「香害」を訴える人の中には思い込みが強いケースも少なくなく、医師は慎重な判断を求められる。作田医師はその点を考慮せず、患者の訴えを鵜呑みにして診断書を交付していたのである。
東京高裁がこの問題に踏み込んだことで、今後の「香害」問題の取り扱いに影響を及ぼす可能性が高い。また、労災認定を得るために患者の要望どおりに診断書の所見を作成するといった行為にも、歯止めがかかる可能性がある。診断書の所見の客観性が問い直されることになる。