メディア黒書に相次ぐ内部告発②-「押し紙」など水面下に隠されてきた新聞販売問題、「箝口令が出ているので、本当は言えないが・・」
(21日付け記事の続き)
新聞関係者からの内部告発-「先日、販売店主が自殺に追い込まれた」という内容-を受けて、わたしは事実関係を確認するために、自殺者を出したとされる東京都内の新聞販売店に電話してみた。
最初に電話に出たのは、従業員と思われる女性だった。以下、録音の反訳である。
「まいどありがとうございます。○○新聞○○(店)、吉田(仮名)です。」
「森本(仮名)所長いらっしゃるでしょうか?」
「失礼ですが、どちらさまでしょう」
「黒薮と申します」
「はい?」
「黒薮と申します」
「黒薮様ですか?・・・ええっと、いまおりませんが」
「亡くなったということを聞いて、電話させていただいたのですが」(沈黙)
「ご用件は?」
「亡くなったと聞いたので、本当なのかと思いまして」
「ええ・・ちょっとお待ちください」(電話のオルゴール)
しばらくして受話器から別の女性の声が聞こえてきた。
「はい、お電話かわりました。森本ですが」
奥さんの可能性が高い。
「新聞関係の取材をしております黒薮というものです」
「取材?」
「はい・・」
「それで」
「わたしの所へ連絡がありまして・・」
「はい」
「所長が亡くなったということを聞いたもので・・」
「うん、はいはい」
「『箝口令が出ているので、本当は言えないが・・』」
「うん」
「『ずいぶんとひどい扱いを受けていたので、記事にしてほしい』と・・」
「いえ、そんなことはないですよ」
「ああ、そうですか」
「失礼します」
電話は一方的に切れた。
◆人命問題がからんだ内部告発の扱い
電話取材で確実に分かったのは、所長が死亡したということである。しかし、販売店サイドはそれについて詳細を語らなかった。(21日付け記事で言及した)群馬県の販売店主の自殺事件における対応と類似していた。新聞社は異なるが、同じような対応だった。
新聞業界に見られる情報を外部にもらさない体質は、昔から一貫している。それが「押し紙」問題を長いあいだ内部に閉じこめた要因でもあった。
人命の問題がからんだ一連の内部告発は、本来であれば、新聞社の社会部の仕事にほかならない。が、新聞社は自分の足下にある大問題は、絶対に取材しない。
「押し紙」や折込広告の水増し、それに店主の自殺・いじめといった問題を、ブラック企業という大きな視点から認識して、もれなくメスを入れようという姿勢があれば、一般企業の不祥事は暴くが、新聞販売の問題には踏み込まないという中途半端な態度は、記者としてのプライドが許さないはずだが、実際は一貫したジャーナリズムの理念よりも、自分たちの書く記事が、自社(新聞社)に不利益を及ぼさないか否かを計算しながら、新聞制作の方向性を決めているようだ。