1. 警視庁神田警察署が編集者を逮捕 警察「暴走」の背景に新自由主義の破綻

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2014年02月28日 (金曜日)

警視庁神田警察署が編集者を逮捕 警察「暴走」の背景に新自由主義の破綻

編集者の三角忠さんが、20日に逮捕された。三角さんは、三一書房を退職したあと、編集工房・朔を経営し、精力的に社会問題を世に問う本を出版してきた。

また、救援連絡センター運営委員やユニオン東京合同副委員長などを務め、 秘密保護法に反対する運動にも熱心に取り組んできた。

27日の午前中、わたしは出版関係の友人たちと、三角さんが拘留されている警視庁神田警察署を訪れた。三角さんへの面談を申し入れると、面談者を3人に、面談時間を20分に限定した上で許可が下りた。面談には、このような条件が付けられる。しかも、1日に1回の面談に限られている。

神田署の接見室は6畳ほどの無機質な空間だ。透明なガラス壁で中央部が仕切られ、ガラス隔の両サイドに、それぞれ椅子が3脚設置されている。接見室に窓はなく、冷たいLDEの光が壁に反射している。

三角さんは、中央の椅子に腰を下ろし、われわれを待っていた。後ろには、警官が椅子に腰掛け、長い脚をだらしなく前方に伸ばして「監視」している。

三角さんの顔には疲れが現れていたが、話してみると、言葉はごく普通だった。

刑事事件の取材は、かならず「被害者」と「被疑者」の双方から、事情を聞き取らなければならない。逮捕の経緯を知るために、わたしは三角さんが所属する救援連絡センターから資料をもらい、関係者から話を聞いた。

一方、「被害者」の取材については、「被害者」の勤務先であるJR東日本に取材を申し入れた。しかし、同社は、電話をたらいまわしにしたあげく、取材を断ってきた。唯一、社員が口にした主張は、「暴力に対しては毅然として対処します」というものだった。

◇「キセル乗車だ」  

救援連絡センターが公開した抗議声明によると、この逮捕事件は昨年の11月15日にさかのぼる。JR水道橋駅の改札口を出るとき、三角さんは、JRの駅員から「キセル乗車だ」と怒鳴られた。三角氏は、説明を行った。鉄道パスを使っているうえに、改札そのものがコンピュータ制御されているので「キセル」はありえなかった。抗議声明は、次のように述べている。

 三角さんは、常に公安警察から弾圧の対象にされているのであり、そんなことはあり得ないことだ。三角さんは、JR水道橋駅の改札で、説明を行ったが、職員は一人興奮し、三角さんを力ずくで、事務室にひきずり込もうとした。

 三角さんは、特に抗うこともせず「落ち着きなさい」といいながら、職員とともに事務室に入った。しかし、その後も職員の興奮は収まることなく、三角さんの胸を掴んだので、「止めなさい」と言いながら、職員の手を外そうとした。すると突然職員は自分から倒れ「突き飛ばされた。110番してくれ」と言いだした。

 その後、神田警察署の私服警察官や近くの交番の制服警察官が多数、JR水道橋駅の事務室に詰めかけた。三角さんは、職員を突き飛ばしていないことを告げるとともに、名刺を渡して勤務先、連絡先を明らかにした。

■抗議声明の全文

この時は、だれからも咎められることもなく、穏便に駅を後にしたのである。その後、神田署は三角さんに任意出頭を求めるようになった。神田署員が家族のもとにも押しかけてきたこともあるという。そしてトラブル発生から、3ヶ月が過ぎた2月20日、三角さんは逮捕されたのである。

◇背景に新自由自由主義の破綻

昨年の12月に秘密保護法が成立した後、不可解な逮捕劇が相次いでいる。これまではあり得なかった状況の下で、逮捕されるケースが報告されるようになったのだ。

マスコミ報道されているものは、ほんの一部であるが、ネット上では、不可解な逮捕の情報を検索できる。三角さんのケースも、マスコミは一切、報道しなかった。そのためにわたしが逮捕の事実を知ったのは、逮捕から5日後の25日の夜だった。

警察は何を基準に逮捕を断行するのか?たとえば、新聞に折り込む有料チラシを廃棄する「折込詐欺」は、昔から水面下の大問題になってきたが、警察は絶対に逮捕に踏み切らない。2008年9月11日に、船橋市で起こった新聞勧誘員による暴行事件でも、勧誘員は逮捕されなかった。その一方で、三角さんのケースに見るような逮捕劇がある。

結論を先にいえば、警察による「暴走」の背景には、安倍内閣の姿勢と政策が影響している可能性が高い。周知のように、小泉構造改革から本格化している構造改革=新自由主義の導入は、社会に大きなひずみをもたらしている。雇用形態の規制緩和を進めた結果、ブラック企業が登場し、非正規社員が4割を占めるようになった。

国際競争力の強化を口実に、法人税を下げて、消費税を上げる政策も、まもなく実施される。広義の構造改革である司法制度改革は、完全に失敗。弁護士が増えすぎて、弁護士の貧困が社会問題になっている。

当然、水面下では、政府に対する怒りが沸騰している。東京都知事選で舛添・田母神の保守票は、前回に比べて約160万票も減らしている。

小選挙区制のマジックにより、国会では自民党が議席を独占しているものの、長期的にみれば、得票率や得票数は低落傾向にある。実際、自民党だけでは、国会を運営できなくなり、維新の会など、自民党のサポーターが次々と林立している。

その一方で、反原発運動に象徴されるように、社会運動がもりあがりを見せている。民意が徐々に強くなっているのだ。これは世界的な傾向で、日本に限ったことではない。

こうした状況の下で、必ず浮上してくる「社会秩序」維持のための政策が3つある。メディアの支配、教育の支配、警察権力の強化である。

◇教育・メディア・警察の3点セット

メディア支配の実態については、安倍首相がNHKの会長にネオコンまがいの人物を抜擢した事実をあげれば十分だ。また、渡邉恒雄氏など、新聞人と安倍首相の会食も、内閣の「メディア対策」を露呈している。

さらに出版物に対する軽減税率の適用をちらつかせることで、新聞だけではなくて、雑誌や書籍の出版関係者にも、圧力をかけることが可能な状況が生まれている。

教育の支配につていは、たとえば道徳を教科として組み込む動きが現れている。その内容は、心がけを重視する「観念論」教育である。安倍首相は、第1次内閣の時代にも、「美しい国プロジェクト」と呼ばれる観念論教育の推進を狙った。

もともと新自由主義の教育政策は、石原都政が実施した校区の廃止による、学校の格差化に特徴的に現れている。エリートは、エリート校へ集めて、レベルの高い教育を受けさせ、将来の企業ブレーンを育成する。それが国際競争に勝ち残る道筋という考えである。

その一方、エリート以外は、「ゆとりの教育」により、知識の詰め込みよりも、心がけがよく、従順な人間に育てる。それにより「社会秩序」を維持する。こうした脈絡から、道徳教育が浮上しているのだ。

警察権力の強化については、秘密保護法の中心に座を占めるのが公安警察である事実を見れば一目瞭然だ。

ちなみに住民が住民を監視する体制は、すでに構築されている。たとえば読売防犯協力会という読売系の組織は、警察と覚書をかわして、新聞配達員に次のような行動を奨励している。

(1)配達・集金時に街の様子に目を配り、不審人物などを積極的に通報する

(2)警察署・交番と連携し、折り込みチラシやミニコミ紙などで防犯情報を発信する

(3)「こども110番の家」に登録、独居高齢者を見守るなど弱者の安全確保に努める

(4)警察、行政、自治会などとのつながりを深め、地域に防犯活動の輪を広げる

◇覚書を交わした警察

覚書を交わした警察と締結日は次の通りである。

高知県警 2005年11月2日

福井県警 2005年11月9日

香川県警 2005年12月9日

岡山県警 2005年12月14日

警視庁 2005年12月26日??

鳥取県警 2005年12月28日

愛媛県警 2006年1月16日

徳島県警 2006年1月31日

群馬県警 2006年2月14日

島根県警 2006年2月21日??

宮城県警 2006年2月27日

静岡県警 2006年3月3日

広島県警 2006年3月13日

兵庫県警 2006年3月15日

栃木県警 2006年3月23日??

和歌山県警 2006年5月1日

滋賀県警 2006年6月7日

福岡県警 2006年6月7日

山口県警 2006年6月12日

長崎県警 2006年6月13日??

茨城県警 2006年6月14日

宮崎県警 2006年6月19日

熊本県警 2006年6月29日

京都府警 2006年6月30日

鹿児島県警 2006年7月6日??

千葉県警 2006年7月12日

山梨県警 2006年7月12日

大分県警 2006年7月18日

長野県警 2006年7月31日

福島県警 2006年8月1日??

佐賀県警 2006年8月1日

大阪府警 2006年8月4日

青森県警 2006年8月11日

秋田県警 2006年8月31日??

神奈川県警 2006年9月1日

埼玉県警 2006年9月14日

山形県警 2006年9月27日

富山県警 2006年9月29日

岩手県警 2006年10月2日??

石川県警 2006年10月10日

三重県警 2006年10月10日

愛知県警 2006年10月16日

岐阜県警 2006年10月17日

奈良県警 2006年10月17日

北海道警 2006年10月19日

新潟県警2003年3月26日

沖縄県警 2008年6月12日??