1. 新聞販売店が米を配達、新聞拡販のターゲットが高齢者に、背景に部数至上主義

新聞・公序良俗違反に関連する記事

新聞販売店が米を配達、新聞拡販のターゲットが高齢者に、背景に部数至上主義

新聞拡販時のトラブルが絶えない。東京都はウエブサイトに、高齢者に対して注意を喚起する記事を掲載している。トラブルの具体例をいくつか紹介している。そのうちのひとつは、次のように拡販の実態を報告している。

2か月前、新聞の勧誘員が来訪し、購読契約を勧められたが、目が悪いので断った。しかし、景品の洗剤8個入り2箱、米(10kg)2袋を次々と差し出し、帰ろうとしない。早く帰って欲しかったので、契約書にサインしてしまった。翌日、契約書を確認すると、半年後から1年間の購読期間となっていた。半年も先の契約を強引にさせられたので解約したい。景品を受け取ってしまったので解約できないだろうか。 (契約者 90歳代 女性)■出典

新聞紙面の質が低下したことに加えてインターネットが普及したことが重なって新聞購読者が激減する状況下で、新聞拡販のターゲットが高齢者になっている。視力や認知機能の低下などに向き合う弱者を狙った悪質な新聞拡販が後を絶たない。

しかも、勧誘の際に使う景品が、伝統的な洗剤やビール券に加えて、米まで登場しているようだ。新聞販売店が米を仕入れて配達する状況が生まれている。

拡販時のトラブルに対して、東京都は次のようにアドバイスしている。

 景品を受け取っていても、解約したい場合は、まずは事業者(販売店)に申し出てみましょう。事業者が、定められた上限額(※)を超える景品類の提供を行ったり、消費者の判断力が不足している状態(認知症など)で契約したときなどは、消費者の解約申し出に直ちに応じなければならないと、「新聞購読契約に関するガイドライン」に定められています。また、景品を消費していても解約できる場合があります。

※「新聞業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」に基づき、景品の上限額は、購読料(最大6か月)の8%です。

◆◆
2007年(平成19年)に国会で、悪質な訪問販売を防止する対策として特定商取引法の改正が議題にあがった。その際、新聞協会は、新聞が「公共性の高い商品」などとして、規制の強化に反対する見解を表明した。「自分たちには身に覚えがない」と言わんばかりの開き直った記述である。

1.法改正の趣旨は、悪質事業者から高齢者などを保護することであるはずだが、勧誘を拒絶する消費者に対する勧誘の禁止および勧誘意思の確認義務が、すべての訪問販売に導入されることになれば、営業活動の自由が侵害される恐れがある。規制強化は本来の趣旨に限定し、悪質事業者の違法な行為自体を取り締まれば足りるものであり、通常の営業行為は規制すべきでない。入り口の段階で、幅広く営業行為に規制の網をかけることは、過剰な規制につながる。

 2.新聞は、極めて公共性の高い商品であり、広く読まれ普及することによってその公共的役割を果たすことができる。その普及の方法については、これまで訪問販売を主体にし、94%という世界的にみても最高水準の戸別配達率を達成してきた。こうした新聞の公共的役割を妨げるような過度な規制はすべきではない。一方、消費者からの苦情については、各社ごとに苦情・相談窓口を設置し、解決している。また、特定商取引法の指定商品として、新聞セールス近代化センターを設立し、悪質セールスの排除に努めるなど、自主的な改善努力を積み重ねてきた経緯があることも、ぜひご理解いただきたい。■出典

これらの記述から、「ナベ・釜合戦」と批判された過去の新聞拡販に対する反省は読み取れない。あたかも正常販売を持続してきたように描いている。かつてのような恫喝めいた拡販が激減したことは事実だが、高価な景品を使って新聞購読を締結する戦略には変わりがない。

景品と引き換えに新聞購読契約を結ぶ発想は、筆者の知る限り、南北アメリカにはない。新聞はジャーナリズムの質で販売するというのが当たり前の理念として住民の間に定着しているからだ。もっとも日本と同様に公権力の意向に配慮しながら、記事を制作する新聞社はあるが、それは社の方針であり、読者もそれを承知の上で講読している。権力構造の歯車にはなっていない。