1. 新聞に対する軽減税率の適用問題 新聞人の戦略は10%への引き上げ時に8%から5%への引き下げ

新聞に対する軽減税率に関連する記事

2014年02月10日 (月曜日)

新聞に対する軽減税率の適用問題 新聞人の戦略は10%への引き上げ時に8%から5%への引き下げ

新聞に対する軽減税率の適用を求めている新聞業界であるが、具体的な陳情の中味は新聞関係者を除いてありま知られていない。消費税が8%から10%に引き上げられる際に、軽減税率を適用して8%に据え置く案が検討されるものと思っている人が多いようだが、事実は異なる。新聞関係者が求めているのは、一旦、引き上げられた8%から5%への引き戻しである。

新年に業界紙各紙に掲載された日本新聞協会の白石興二郎会長(読売) の念頭書簡は、軽減税率の問題で次のように述べている。

今後、10%に引き上げられる際には、軽減税率を導入し、新聞には現行の5%の税率を適用するよう政府・与党に強く求めていく所存です。併せて、新聞は日本の知的・文化水準を維持し民主主義を支える公共財であることを、国民に理解していただく活動を継続することも必要です。

新聞が「日本の知的・文化水準を維持し民主主義を支える公共財」であるから、軽減税率の適用は当然の措置だと言わんばかりの思い上がりも甚だしい主張だが、かりに新聞がそのような性質の文化商品であるならば、国民に対して業界をあげて新聞の公称部数を偽ってきた問題を、白石会長はどのように説明するのだろうか。説明責任がある。

新聞の「公称部数を偽り」とは、俗にいう「押し紙」問題である。が、配達されずに多量に破棄されているのは、実は「押し紙」だけではない。「押し紙」とセットになっている折込チラシも破棄されているのだ。

冒頭の動画は、破棄する折込チラシをトラックに積み込む場面である。ダンボールの中には、折込チラシが入っている。これらのダンボールを提供していたのは、新聞社直属の販売会社だった。この事実は、山陽新聞の元販売店主が起こした「押し紙」による損害を求める裁判の中で、次のように認定されている。

「同社は各販売センター(販売店)に段ボール及び荷紐の提供をしており(認定事実(2)カ)、これらが販売センターに残存している新聞の処理等に用いられた可能性は高い上、山陽新聞販売の営業部長等は各販売センターへの訪問に際し、同センターに残存している新聞を目にしていたはずであるから、押し紙の可能性を認識していたことは推認される。」

ちなみに裁判で裁判所は、「押し紙」の存在を認定して、元店主に約300万円の支払いを命じている。

◇膨大な「押し紙」にも消費税が

わたしはこれまで新聞協会に対して、「押し紙」問題についての見解を繰り返し質問してきた。しかし、新聞協会は「押し紙」が存在する事実そのものを認めようとはしない。「押し紙」は販売店の問題で、新聞発行本社は、関知しないとして放置してきたのである。

販売店の問題に関知しないのであれば、なぜ、新聞購読料に対する軽減税率を適用させるために業界を上げて取り組んでいるのだろうか。答えは簡単で、購読料を集金できない「押し紙」に対しても消費税がかかり、経営破綻をきたし、新聞販売網が崩壊する高い可能性があるからだ。

消費税が5%から8%に上がった場合、新聞社はどの程度の追加負担を強いられるのかを試算したデータがある。毎日新聞社の元常務取締役の河内孝氏が、2007年に刊行した『新聞社?破綻したビジネスモデル』に収録したものである。

読売新聞社:108億6400万円

朝日新聞社:90億3400万円

毎日新聞社:42億6400万円

日経新聞社:38億7100万円

産経新聞社:22億1800万円

販売網を守りたいのであれば、まず、「押し紙」をやめるのが先だ。軽減税率の適用は、それから議論するのが筋だ。

◇メディアコントロール

昨年の末に特別秘密保護法が成立した。今後、憲法問題を皮切りに軍事大国化にむけた国会の動きが本格化するものと思われるが、こうした時期と新聞の軽減税率の問題を並行して進行させることで、安倍内閣はマスコミを完全にコントロールすることができる。新聞社を牛耳ることは、新聞社の系列のテレビ局をも牛耳ることをも意味する。

さらに軽減税率の問題で出版業界(書籍・雑誌)も、新聞人らの政治力に頼りたいという思惑があり、新聞・テレビに同調して、ジャーナリズムの役割を自粛する可能性が高い。こうした日本のメディアの弱点と政府によるメディアコントロールを克服する戦略を考えなければ、今後、日本は大変なことになる。

河内氏が試算した数字が安倍内閣にとって、メディアコントロールの有効性を裏付ける戦略的な根拠になる可能性が高い。